表裏一体
少し長いです。
日が沈み月が昇る頃。
俺は友人である結城朱里と泉雫を家に送り届けた。
本当はもっとゆっくりしていってほしかったのだが、そうも言えないだろう。
屋敷に式神が来て陽月がどこかに行ったのだから。
そんな微妙な空気のなか楽しくできるわけはないので二人を帰したというわけだ。
自分勝手なのはわかっている。
だが、ほぼ一日前にクトゥルフの件に巻き込む形になってしまったのだ。
もし今回も厄介な事だったら流石にまずいだろう。
陽月は俺に手伝ってほしくないのか一人で行ってしまった。
まあ、陽月が俺に助けを求めるまで何もできないが。
普段は龍の特性なのか一回起きたらしばらく眠らなくても活動できるため起きていたが久しぶりに寝るか。
俺は暗い場所にいた。真っ暗な場所だ。前にも来たことがあるがだいぶ前だったな。
『久しいなこうして会うのは』
声じゃない声が聞こえてくる。
「いや、数ヵ月前にもあってるだろ」
俺と会話している者こそ俺の中の龍王。
龍王の人格。つまりもう一人の俺だ。
『まあそういうな、人の子よ。我は貴様に頼みがあって会いに来たのだ』
龍王はたまにこうして夢の中に現れては俺と話をする。
正直ただの夢だと思いたいがそうではない。龍王は確かに存在する俺の中に。
そして時を待っている、最強になる時を。
「なんだ頼みって。俺の夢の中に現れてまで頼みたいことかよ」
俺は少し機嫌が悪そうに答えた。
正直機嫌が悪い。なぜなら俺は寝るのが好きだ、それなのに邪魔をするのだから機嫌がいいわけはない。
『まあ、そんなに機嫌を悪くするな鬼龍よ」
龍王が少し下手に出始めた。
よっぽど俺に頼み事を聞いてほしいのだろう。
しょうがないか。
「わかったよ。で、頼み事ってなんだよ」
『我を本気で戦わせろ』
龍王がそんな事をいった。
は? こいつはなにいってるんだ?
龍種とは食物連鎖の頂点に位置する存在。その龍種の王、つまり生物最強が本気で戦える相手がそこら辺に居る訳がない。
その証拠に弱体化していたとはいえクトゥルフを簡単に消滅させたのだから。
まあ、やったのは四割程龍神化していた俺なのだが。
「無理だ。この世界には相手が居ないうえに、お前が本気を出したらこの世界が終わる」
俺はキッパリ無理と龍王にいった。
『わかった、ならしょうがないな』
龍王が今度は大人しく諦めた。
なぜだろう、嫌な予感しかない。
龍王は簡単に言えば俺の龍としての本能だ。戦いを好み大切な物を守る。
そんな戦い好きがここで引くはずがない。
しかも最近全力で戦ったことがない。たまには全力を出したいのは人間も龍も変わらない。
つまりこいつは何かをたくらんでいる。
「しょうがない。俺が戦うからそれで我慢してくれ」
俺は龍王にそんな提案をしてみた。
正直普通なら別の自分と戦うことは無理だろう。
だが、俺らなら可能だ。
ここは夢と言っても夢ではない。言わば1つの世界だ。この世界でなら周りに影響は出ない。
『まあ、居ないよりはいいか』
龍王はしぶしぶ同意してくれた。
真っ暗な空間が変わっていく。
その世界はまるでムー大陸の都市を思い出すような光景だった。当たり前だろう、そこが一番最近見た光景なのだから。
都市には高層ビルが建ち並び、街には民家がある。だが、一つ現実世界とは違うところがある。
それは、植物は存在するが動物が存在しないというところだ。
これで思う存分戦えるな。
「さて始めるか」
俺は目の前の誰も居ない場所にそう言った。
『あぁ、人の子よ』
何も無い場所からそんな声が聞こえた。
このちゃんとした声の主は龍王である。
龍王の正体は完全なる龍。高次元の怪物である。
この龍は姿を持たない、だが形はあり、実体もある。すなわち姿が見えないと考えれば近くなくとも遠くない答えだと思う。
まあ、俺には龍王がどこに居るかわかるが。結局は俺自身な訳だし。
先手必勝。
俺はこの山より大きくて透明な龍の頭を今の本気でぶん殴る。
俺の拳は龍王の脳天に直撃した。
俺の攻撃の威力で街や山は消し飛び、広範囲を砂埃が包む。
だが、その砂埃が一瞬にして消え去る。
おそらく龍王の仕業だろう。
砂埃りが晴れ地面が姿を現す。そこには直径数百キロメートルに及ぶ大きなクレーターができた。
だが、龍王には今の俺の攻撃は通じてないようだ。
この龍にはこの星の生物が絶滅するほどの威力の攻撃すらダメージを与えられなかったらしい。
しかもガードすらしていない。
『この程度か鬼龍よ。がっかりさせるな』
龍王にはやっぱり攻撃は効いていなかったようだ。
やっぱり人間では限界があるな。
しょうがない。神化するか。
体内から神の力を呼び覚ます。
全身が薄く光輝く。
神化は己の基礎能力を何段階もあげてくれる。
なぜ龍神化ではなく神化かというと、俺の龍神化の力は俺のもう一人の人格である龍王が持っている力が必要だ。俺は神の力を、龍王は龍の力を持っている。
その龍王が実体化したため俺は龍神化ができないのだ。
『そうこなくてはな!』
龍王が動く。
その巨大な体からは想像もできないほどの速さで俺の頭上に移動する。
『お返しだ』
龍王の拳が俺の頭に直撃する。
体が地面にめり込む。
龍王の拳が俺の体と共に地面を砕いた。いや、地面という規模ではすまない。
その威力は凄まじくこの星すら崩壊するほどだった。
『いくら別の世界だからって少しは手加減しろよ』
崩れ行く世界で俺は龍王にそう言った。
ダメージが無かったわけではない、当然頭蓋骨を含む数ヵ所を骨折した。
だが、俺の回復力はその程度の傷はすぐに回復してみせる。ましてや神化しているのだ回復力はさらに上がっている。
『戦いはこれくらいじゃないと面白くないだろう』
龍王は楽しそうな声でそう言った。
崩壊していた地球が姿を消す。また、龍王が消したんだ。
「まあ、お前はそうかもな」
宇宙空間で会話をしながら俺は龍王に神速で近づき蹴りを入れる。
なぜ空気の無い宇宙空間で会話ができるかと言うと、俺と龍王は表裏一体の存在。つまりテレパシーみたいなものだ。
俺の蹴りは龍王には当たらなかった。龍王は俺の背後に回り込んでいた。
龍王の爪が俺を切り裂く。
俺は龍王の爪を回避しようとするが、龍王の一撃を肩に受けてしまった。
俺の右肩からしたの腕は切り飛ばされた。
だが、瞬時に再生する。
『まるで化け物だな』
龍王が呆れた声で俺にそう言った。
「お互い様だろ。神格を持たないただの龍が、神格を持つ俺の腕を切り飛ばしたんだから」
俺は神速の動きで、龍王の腹を本気で殴る。
俺の一撃は龍王を太陽系の外まで出すほどだった。
だが、龍王はピンピンしている様子だ。
龍王と俺の戦いは基本的に素手だけでの戦いだ。
これは戦いを楽しむのが一番の理由だ。
だが、相手以外へは結構能力を使っている。これも戦いを楽しむためだ。
まあ、全部前に龍王と戦った時あいつが決めたことだ。
やっぱり長引きそうだな。
俺は心の中でそう確信した。
今回も読んでいただきありがとうございました。
次回の投稿は来週の日曜日に予定しています。