狂った歯車
私には妻と二人の娘がいる。
妻とは大学で出会った。私の一目惚れだった。
私は不器用だったが妻はそんな私に優しく接してくれていた。辛いときには話を聞いてくれたりもした。
大学を卒業し次の年には娘を二人授かり私たちは幸せな日々を送っていた。
正直なところなぜ妻が私と結婚したのか不思議だった。
妻は大学卒業後軍に入隊していた。軍には寮があるのにも関わらず毎日家から通っていた。
私は大学を卒業したあと医者になり、それと同時に魔法の研究。特に生命の研究をしていた。
そんな互いに忙しくとも楽しい日々を送っていたある日のこと。妻が突然行方不明になった。
毎日同じ時間に帰ってくる妻だったが、時間になっても帰ってこない、娘達も妻が心配なようで夜中まで起きていた。
しかし朝になっても連絡がなかった。
そして数日後。
妻は冷たくなって帰って来た。
外傷はなくまだ生きてるような錯覚を覚える程に血色もよかった。
だが、私にはわかった。生命の研究をしている私には。
妻の肉体は空っぽになっていたのだ。
妻の体にあるはずの魂がないのだ。
軍に訊いても一切教えてくれなかった。
そんな出来事が三年前。
そして三年前から私は少しずつ狂っていたのだろう。
私は妻を生き返らせる研究に没頭した。そして大昔には死者を蘇らせる魔術があることを見つけた。
そこには生死を司る龍の力を使えば死者を蘇らせれると書いてあった。
この生死を司る龍とは冥界や黄泉の世界に生息する腐敗龍と言う龍の事だと私は思った。
昔、千年前に大きな都市を滅亡させたと大学の図書館で読んだことがある。
そして調べるうちに腐敗龍は実在することがわかった。
そして呼び出す方法も。
この国には龍を呼び出すことができる者達が居ることを知る。だが、そのものたちは下級龍しか呼び出せないようで、それより上の腐敗龍を呼び出せないのがわかった。
だが、私は知っていた召喚の方法を。龍は生け贄を使えば呼び出せる事を、これは昔召喚の研究をしていた教授から教えてもらったものだ。
私は思った。
腐敗龍を呼び出すには生け贄が必要だ。それも上物の生け贄が。
ならば龍を呼び出す事ができるもの達を生け贄にすれば十分だろう。
彼らは龍に認められたもの達なのだから。
そして私は次に魔術書が保管されている国立の図書館へと足を運んだ。ここには貴重な魔術書が保管されている。
その中には龍を殺すことができる魔術書すらあるのだ。
私はこの国でも一応名の知られた学者で、本を持ち出す許可を得ている。
無くしたりすれば当然罰はあるが、そんなのは関係ない。
もしも腐敗龍を召喚することが出来ても腐敗龍の力を借りられなければ意味がないのだ。
もしも失敗して私が死んでも別にいい。妻が居ない世界で生きる意味などないのだから。
龍殺しの魔術書は思ったより簡単に手に入った。
理由は簡単だ。そんなものはほとんど無いからだ。
ついにこのときが来た。
満月の夜。この大陸のとある場所にある神殿は冥界と繋がるという。
冥界と繋がる神殿は昔から知られており、国が立ち入り禁止としている場所の一つだ。
神殿に行く前に私はある場所に行った。
そのある場所とは、龍神を奉る神社である。
ここから近い神社には十七人の巫女が居るそうだ。その巫女達は全員龍達と話ができるらしい。
私は相手を精神支配する魔術が得意で数十人ぐらいなら簡単に支配下に置くことができる。
神社に侵入するのは簡単だった。
今は巫女が十五人しか居ないがこの人数なら問題ないだろう。
そして私は満月の夜に神殿で十五人の巫女を生け贄に腐敗龍を召喚した。
周りに黒い霧が立ち込める。
四十メートル以上の大きさのドラゴンが霧の中から姿を現す。
これが腐敗龍なのだろう。いやこれが腐敗龍だ。
巫女達の姿が変わっていく。体は解けていき、周りには腐敗臭が立ち込める。
唯一彼女達にとって救いなのは精神支配されているため溶かされているのにも関わらず痛みを感じないことだろう。
正直吐きそうになるが今はどうでもいい。私のやることは変わらないのだから。
神社に帰ったら人の気配が無いことに気が付く。
いつもならまだ人が居るはずなのに、やっぱり何かあったんだ。
私が辺りを見渡していると後ろから人がやってくる気配があった。
一応警戒はしておこう。
だが、そのものたちはその心配はいらなかったみたいだ。
「陽月様!」
夜闇から姿を現したのは私のよく知る人物だった。
赤と白の巫女服に身を包み、セミロングの黒髪の少女。名前は柊寧々。
そう、龍神家の屋敷に式神を送ったのはこの子だ。
「寧々何があったの?」
寧々が私の目の前まで駆け寄ってくる。
よくみると肩が少し上下に動いていて、呼吸が荒い。少し息が切れているみたい。
「実は境内に誰も居ないみたいなんです」
それは私も気がついていた、いつもなら神官や巫女達の姿があるはずなのに全く姿を見ない。
「えぇ。私は今来たとこだけど人の気配が無いことにはすぐに気づいた」
私はそう言いながら感覚を研ぎ澄ます。
この神社の周りには町はおろか民家すらないため、周りに人がいればすぐに気づく。
だが、やっぱり人の気配がない。
皆寮で寝てるのかしら?
「わたし式神を使って皆を探したんですけど、誰も何処にも居ないみたいなんです」
寧々は式神を使って皆を探していたみたいだ。
「少し周りを歩いて探してみましょう。何か分かるかもしれないし」
私は寧々に周りを散策することを提案してみた。
正直嫌な予感がする。情報を集めるためにも少し周りを歩こうと思う。
「わかりました」
寧々が小さく返事をする。
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