不死の加護 2
俺達は学園から近い自宅から三人で大陸の中央にある屋敷の門に転移した。
その屋敷は今でも懐かしく思うことがある。まるで自分の家では無いような感覚すら覚える。
まあ、それはしょうがないだろう。何故なら俺はしばらくここには帰って来ることがなかったからだ。
だが、ここ最近はここに来ることが多くなっている。自分の家だし。
「転移魔法ってやっぱり凄いね」
俺の後ろからそんな声が聞こえてきた。
声の主は俺のクラスメイトである結城朱里だ。
「凄いかどうかはさておき便利ではあるな」
俺は転移魔法を凄いとは思ったことがないが、この大陸ではよく利用している。
俺は魔力は無限にあるので何回でも使用できて距離も無制限なのでよく利用している。
昔は転移魔法、魔術が一般的に成っていたらしいが、一時期文明が進化するに連れて異能が衰退した時期があったらしい。そのときに転移魔法、魔術が忘れ去られたそうだ。
しかも、今の時代ではだいぶ難しいらしいので再現できる人は滅多にいないみたいだ。
「鬼龍もどって来たんだ」
屋敷の門を潜ると屋敷からそんな声が聞こえてきた。
その声の方を見ると明るい赤毛の少女が立っていた。
彼女は白と同じ四神の一柱で南を守る朱雀。名前は朱音。
「あぁ。今戻ったところだ」
俺はそのまま屋敷の玄関へと向かった。
異世界。
龍神の巫女である龍神代陽月が鬼龍の力の一部を使い造り出した草原の広がる世界で二人は寝ていた。
異世界と言ってもこの世界にも時間の概念は存在する。太陽が沈みはじめ、世界は橙色に染まっていた。
最初に目を覚ましたのは白虎の少女と言うよりは幼女だろうか。白と名付けられた女の子だった。
「ん?」
目を覚ました白は耳をすました。
まるで聞こえないはずの誰かの声が聞こえたかのようだった。
その気配に気が付いたのか隣で寝ていた陽月も目を覚ます。
「白ちゃん?」
陽月は目を擦りながら白に問いかける。
「………」
白からの返事はない。
だが、陽月は気にしていない。気にする必要もない。
何故なら白はまだ子供でしかも昨日今日知り合ったばかりなのだ。
しかも白がここまで集中しているのだ何か大事なことだろうと陽月は思っただろう。
ここで陽月はあることに気がつく。
「って夕方じゃん!? 早く戻らないと鬼龍が帰ってきちゃう」
陽月はようやく今が夕暮れであることに気が付いた。
その陽月の鬼龍という単語に白が反応する。
「やっぱり帰って来た?」
白が陽月に近寄る。
白は別の世界に居るはずの鬼龍の存在に気が付いた。
世界が違うと言っても鬼龍の部屋とこの草原は近い位置に存在する。
造った場所が鬼龍の部屋だから近いのだ。
だが、世界が違う。空間が違うのにも関わらず鬼龍の存在に気が付いた白の察知能力は驚くほどだ。
「やっぱりって白ちゃん鬼龍が帰って来てるってこと?」
陽月が白にそう訊いた。
「そんな気がする」
白はそう答えた。
もしかしたら勘に近いのかもしれない。
だが、白は心の中では確信していた。
「じゃあ戻ろうか。鬼龍が帰ってるかもしれないから」
陽月はとても優しい口調で白に手を差し伸ばした。
「うん!」
白は陽月の手をとった。
二人は会ってまもないのだが確実に距離を近づけていっていた。
そこには嫌な臭いが立ち込めていた。その臭いの正体は腐敗臭。
それも人間の死体が腐った臭いだ。
そんな異様な場所に一つの人影があった。
「はははは! これで私は研究を、夢を叶えることができるぞ」
男は狂喜じみた表情で笑っていた。
胸には多きな紫の玉を抱えていた。
そのたまは水晶だまのように綺麗な形をしているが、明らかに人工物ではない。
しかも紫の玉には血痕らしきあとがついている。
「腐敗龍の宝玉を手にいれるのにまさか十五人の巫女を生け贄にしなくてはならないとは」
男は周りにある死体を見ながらそう言った。
もう、跡形もないが男の言葉から察するに生前は巫女だったのだろう。
だが、腐敗龍により今では無惨な姿に変わっていた。
腐敗龍とはその名通り生物を腐らせる能力を持つ龍の事だ。
普段腐敗龍は冥界や黄泉の国の亡者等を喰らって生きている龍だ。時には戦場跡など死者が多く出た場所に姿を現す事が多い龍だ。滅多に人前には姿を見せない。
だが、この国の巫女は龍を呼ぶ事ができる。その力を利用すれば呼び寄せることもできるだろう。
「しかも一度きりの龍殺しの魔術が封じられていた魔術書を手に入れるのも苦労したものだ」
魔術書には魔術を使用する術が記載されている事が多いが今回は違う。
今回の魔術書には魔法陣が記載されていた。遥か昔の龍殺しの魔術師が記載した、誰でも龍を殺すことができる魔術が記載されていたのだ。
その魔術の効果は本物だったらしく男は魔術書を利用して腐敗龍を殺していた。
腐敗龍は龍種の中では中位に位置する龍だ。中位と言ったら大したことないと思うかもしれないが、神話などで国を滅ぼす龍は大体がこの位置に存在する。
つまり普通の人間では倒すことなど出来ない怪物ということだ。
ちなみに最上位龍になると文明をを滅ぼす程の強さがある。
「だがこれで私の長年の努力は報われる」
十五人の巫女を生け贄にして天災にも匹敵する中位龍を呼び出したことなど男にとっては自分の夢を叶える過程でしかなかったのだ。
屋敷に戻った俺達は客間に集まっていた。
もちろん俺の妹達や四神、陽月もこの場に居る。ついでに転移魔法で龍鬼もここに呼び出した。
ここに集まった時点で皆には不死の加護の話をあいてある。
「では今回の件の報酬は不死の加護ということでいいかな?」
龍鬼が朱里達に確認をとる。
「はい」
「はい」
二人は短く返事をした。
「じゃあ加護は今与えよう」
俺は二人に加護を与える。自分が望まないと死ねない加護を。
二人の体が一瞬だけ光った。だがすぐに元に戻った。
「終わったぞ」
俺は二人に加護を与えたことを伝えた。
「もう終わったの?」
「なにも変わった気がしない」
二人は自分の体を見ている。
加護は神が人間に与える力のことなので目に見える変化はあまりないだろう。
「後で証明するよ。それより二人ともお腹すいてないか? 今回のお礼と授業でのお詫びをかねて二人に晩飯をご馳走するよ」
今日は俺が久しぶりに台所に立つか。
次回もぜひ読んでみてください❗
次回の投稿を諸事情により変更して1月の6日にします。
誠にすみません。