表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/138

風と水

 昼休みが終わり俺と優は演習場に来ていた。

 俺は昼にディーネと戦闘をしていて昼は食べていないが、優は食べたみたいだ。

 食べたら眠たくなる。そのせいか優は少し眠そうだ。


 「大丈夫か?」


 数分後には戦闘というのに緊張感が無かったので俺は優が少し心配で訊いてみた。

 数分後には戦闘。実は次は俺たちからはじまるのだ。


 「ん? あぁ、大丈夫だよ鬼龍がどうにかしてくれるらしいから」


 優は目を擦りながらそう言った。

 人任せかよ! 確かに言ったけど少しはやる気を出して欲しいな。

 確かに満腹になったら眠くなるけど。


 そうこうしているうちに対戦相手が姿を表した。

 一人は深紅の瞳に異様な雰囲気の男子だ。俺が知る限りあの気配は吸血鬼だろう。

 だが、ただの吸血鬼だ。問題はない。

 この大陸の吸血鬼は伝承の吸血鬼とは少し違う。太陽の光を浴びても灰にはならないし、水も大丈夫だ。

 ただ日中は少し弱体化するくらいだろう。



 もう一人は黒髪の男子だ。見た限り運動神経は良さそうではない。それほどに弱く見える。

 だけど実際は召喚獣で戦うため身体能力はあまり関係ないことが多いのが召喚科だといえる。


 合図は授業の始まりを示す鐘の音。


 そして今大きな鐘の音が構内に響きわたる。

 それは戦闘開始の合図だった。





 「我が眷属達よ姿を表せ」


 吸血鬼の少年が自分の影から複数の狼を呼び出す。 

 吸血鬼の眷属だ。

 見た目は墨で塗りつぶしたような黒い体に目だけが薄く赤い光を放っている。

 次々と狼が姿を表す、合計二十五体もの漆黒の狼が召喚された。


 「どうする鬼龍、やっぱり俺も手伝うか?」


 優が狼を見ながら俺に小さい声で訊いてきた。

 二十五体はさすがに数が多いと心配したのか。

 まだもう一人の方は何も召喚していないが俺一人でも大丈夫だろう。

 まあ、正確にはシルフィーとディーネを召喚するが。


 「あいつの名前は長いからいまだに覚えられていないが、実力は結城や泉に続いて高い。あいつは吸血鬼だ、生半可な攻撃は通用しないぞ」


 優が苦い顔をしながら俺にいってきた。

 結城や泉とは、朱里と雫のことだろう。やっぱり予想はしていたが二人とも実力はこの学年の学科ではトップらしい。


 それにしてももう一人の情報が欲しいな。


 「やっぱり吸血鬼だったか。もう一人はなんだ?」


 俺は優にもう一人について訊いてみた。

 実際訊かないでも相手の能力を看破する事ができるが実際に見たことがある優に訊いた方がコミュニケーションがとれるから訊くことにした。


 「すまん。俺もよくわからないんだ」


 優から予想外な答えが返ってきた。

 今俺達は二年生。普通なら一年生の時にクラスメイトの能力は嫌でも見るはず。

 優が忘れている可能性もあるが、優はよくわからないと言った、知らないではなくわからないと。

 つまり大体はわかるが詳細はわからないと言うことだろうか。


 「最初に見たときは白いタコの足かと思ったんだが、大きさと数が違った。それに地面からうねうねと出てきたんだ」


 優が話し始めた瞬間だった。突然地面からうねうねと巨大なタコの足らしきものが無数に姿を現した。


 「あ、あれだよ。あんなの見たことないだろ?」


 優からはあの触手にたいしての恐怖は感じない。

 普通は得たいの知れないものは恐いと思うのだけどな。まあ、俺は少し心当たりがあるけど。


 相手の準備が終了したっぽいし俺もシルフィーとディーネを呼ぶか。


 「いや、似たようなのを見たことあるぞ。 ……シルフィー、ディーネ」


 俺は召喚の詠唱をせずに二体の高位精霊を呼び出す。

 本来は詠唱省略を身に付けるには数ヶ月かかるがそこまで待ってられないのでなんとなく無詠唱でやってみた。


 「あ、キリュウーさっきぶりだね~」


 「そいつらはなによ?」


 突然暴雨が発生した。室内なのにだ。

 もちろん自然現象などではなく俺の呼び出した二人の仕業だ。

 ぶっつけ本番だったが召喚は成功したみたいだ。


 「おいおい。現れてすぐに暴れるなよ二人とも」


 俺がそう言うとすぐに暴雨はおさまった。

 おさまったあとには触手は何故か消えていた。

 二人とも言うことを聞いてくれてよかった。


 「キリュウーあれは敵じゃないの?」


 「そうよ、あんなに殺気を向けてるのに」


 シルフィーとディーネは仲良く狼達を指差しながら俺にそう言ってきた。

 そう言えば狼達はなんで襲って来ないんだろう?


 「どうした眷属達。早く攻撃しろ」


 吸血鬼の少年が狼達に命令しているが狼達は一匹も襲ってこない。

いや、襲えないのだ。


 「その子達はもう襲ってこれないよ」


 ディーネが吸血鬼の少年に向かってしゃべりかけている。


 「ワタシは水の精霊。その子達の体の中にある水分を支配しましたから」


 ディーネが言っている水分とは血液のことだ。

 神格を得て水の最上位精霊に成ったディーネは液体のほとんどを支配できるようになっていた。実は鬼龍との戦いの時にも鬼龍の体内にある血液を支配しようとしたが、何故か支配できなかったのだ。


 「俺の眷属を押さえれると言うことは、お前ただの精霊じゃ…」


 吸血鬼の少年はいきなり気を失ってしまった。

 よくみたら隣の少年も気を失っていた。

 二人とも立ったまま気を失っていた。


 「シルフィーがやったのか?」


 鬼龍がシルフィーに訊いた。

 訊いたのはただの直感。


 「そ~だよ~。少し空気の流れを止めたんだよ」


 シルフィーがいたずらっ子みたいに答えてくれる。


 つまりディーネが相手の血液を支配して動きを止めている時に、シルフィーが空気を操って相手の肺に酸素を送り込まないようにして、酸欠で気を失わせたのか。

 しかも、ディーネが血液を支配しているから倒れないで立ったまま気を失ったということか。


 吸血鬼の眷属が消えていく。

 術者が意識を失ったためなのか吸血鬼の眷属だからかはわからないが、狼達は影に溶け込むかのように姿を消した。


 えげつないコンボだな。


 だが勝負はこんな簡単には終わらなかった。


「なあ鬼龍、触手はどこに行ったんだろうな」


 優が俺にそう訊いてきた時だった。急に視界をおおうほどの巨大なタコが姿を現したのだ。


 「クラーケンなのか……」


 優はその大きさに驚いているようだ。


 クラーケンは大陸の北側の海に住んでいるとされている怪物。

 大人になれば全長一キロ以上になるとさせれている。


 「子供だな」


 優は大きさに驚いていたが、この演習場より小さいと言うことはまだ子供なのだろう。


 「僕の友をよくもやってく…」


 もう一人の少年は気を失っていたはずなのに何故か意識が戻っていた。

 そして少年の意思に従うようにクラーケンの腕が俺達を潰すような動きをした。

 したが、結論から言うと失敗に終わった。

 実はシルフィーがクラーケンの頭を風の刃で切り飛ばしていたのだ。しかもクラーケンが潰そうとしていたのはディーネが作り出した水の分身で俺たちではなかったのだ。


 倒されたクラーケンが霧のように消えていく。

 召喚獣には死の概念が存在しない。ただ復活には少し時間がかかるだけだ。


 こうして俺達は勝ち上がった。

次回の投稿は来週の日曜日です。

また9時くらいに投稿するので時間があったときにでも読んでくれたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ