監視するもの
鬼龍がディーネと契約を交わしているとき、日本では緊急会議が開かれていた。
開かれた理由は、クトゥルフを倒した鬼龍のことだ。
日本は邪神クトゥルフを消滅させた鬼龍に対して警戒していた。
実は鬼龍とクトゥルフの戦いは日本から。いや他のいくつかの国から見られていた。
千里眼。
それは遠くを見通す事ができる。その術者の技量によって距離は変わるが、別の世界であるムー大陸まで見れるものは世界で五人くらいだろう。そのうちの一人が日本にいるのだ。
「凄まじいな」
魔法で作り出した映像を見せられながら男は苦い顔をしながらそんなことを言った。
当然だろう。旧支配者である邪神クトゥルフを数秒で消滅させたのだから。
魔法で作り出した映像。
それは千里眼で見た物を写し出したものだ。
「これは早急に対処しなくては」
男は頭を抱えながらそう言った。
今日本ではあまり人を割けない理由があった。そのためこの対処をどうするか困っているわけだ。
「でしたら私の教え子に、あの怪物の監視をさせましょう。何人か適任が居るので。それに実力も」
老婆は頭を抱えていた男にそう言った。
「………あぁ、すまないが頼む」
男は少し悩むが彼女を信じ、頭を下げた。
百戦錬磨の老婆は不適な笑みを浮かべた。
神々が住む神界。
白と金色を使った古代ギリシャ風の衣装に身を包んだ、白い髭をはやし大きな水甕をのぞきこむ老人がいた。いや、老人と言うには若々しすぎる。肌には艶があり、その目からは老いは感じられない。
「はっはっはっはっはっは!。 やはり強いな龍王は」
水甕。それは大理石でできており直径二メートルはあるだろう。
水甕には当然水が入っておりその水面には別の場所の景色が写っていた。
老人は豪快に笑い、よこで同じ水甕を覗きこんでいる金の髪の美女に語りかけた。
「なあ、我が娘アテナよ。あの者。龍王のもとに行き同盟を結んでこい。内容は任せる」
老人。いや、ギリシャ神話の最高神ゼウスが娘アテナに命じた。
「はい。お父様」
美女。アテナはそう言うとその場を去った。
「さて、これから世界はどうなるのやら」
ゼウスは水甕を見ながらそう言った。
そこに写っていたのは、鬼龍とクトゥルフの戦い。
時は戻り現在
場所はディーネと出会った海岸。
そこには俺とディーネ、白、陽月、龍鬼そしてシルフィーが居た。
なぜ最初はいなかったシルフィーが居るかと言うと、俺とディーネの戦いが気になって来たらしい。
シルフィーは風の最上位精霊だ。風、すなわち大気があるところなら見ていなくても様子がわかるらしい。だからこの場所もすぐにわかったみたいだ。
「なるほど、知らない間にそんなことになっていたんだ」
俺とディーネを見ながら陽月がそう言った。
実は陽月達は俺とディーネの契約とその会話を知らない。
理由はシルフィーだ。シルフィーが空気の音の流れを遮断して、さらに光を屈折させていたのだ。
なぜそんな事をしたのか理由は不明だ。
「あぁ、あ! そろそろ学園に戻らないと行けないからまた夜な」
俺は陽月達を屋敷にそして自分を学園に転移させた。
ちなみに俺は結構器用な事ができるので靴だけを転移させることができる。
そのため屋敷の中に転移させた陽月達は土足ではない。
「オレも転移してくれてもよかったんだぜ?」
一人海岸に取り残された龍鬼が鬼龍にたいしてそう言った。だが、伝わるはずはない。
学園に戻った俺は春田優に会いに行っていた。
俺はこの姿でも音だけで誰がどこに居るのかわかる。さすがにシルフィーほどではないけど。
昼休みが終わるまでには、あと十五分ほどある。
ちなみに急いで戻ってきたのは優に話があったからだ。
「ちょっといいか?」
俺は廊下を一人で歩いていた優に話しかけた。
「あ、鬼龍か。どうした?」
「いや、話があってな。実は午後の模擬戦で俺の精霊を使いたいんだけどいいか? って訊きたかったんだ」
俺は唐突にそう訊いた。
精霊とはシルフィーとディーネのことだ。この二人の実力は知っている。二人とも強すぎる力を持っている。
だが、俺は二人を従えている。
まあ、はっきり言うと俺は召喚士としてこの学園で戦ってみたくなったんだ。
「え? 白ちゃんは明日来るんじゃないのか?」
優は驚いたように俺に訊いてくる。
いや、そもそも白は精霊じゃないし。なに勘違いしてるんだ。
「いや、白とは別の精霊だ。そもそも白は精霊じゃないぞ」
俺は優にそう言った。
まあ、白は精霊よりさらに上の存在だ。神獣、白虎の一族なのだから。
「あぁ、そうだったのか。もちろんいいぞ! 鬼龍の契約している精霊なんだから強いんだよな?」
優は何故か少し機嫌がよさそうだ。
「あぁ。期待してくれていいぞ。もしかしたら優の出番が無くなるかもしれないが」
俺はそう優にいった。
実際この学園でシルフィーとディーネに勝てる奴は、現在学園最強の幻龍姉妹か今いないが時雨くらいだろう。
可能性があるとするのなら同じ最上位精霊のサラマンダーと契約している朱里くらいだろうか。
だが、朱里はサラマンダーの力を引き出せていないので恐らく無理だろう。
「そりゃあいい、模擬戦で楽ができるな。俺の戦いかたは体に負荷がかかるから嫌なんだよな」
優は肩を動かしながらそう言っている。
「だから少しくらい楽させてくれてもかまわないぜ、なんせこのままだと体が持たないからな」
優はそう言うが、自分の体に精霊を召喚するんじゃなくて普通に実体化させればいいんじゃないだろうか?
まあ、そこは優が決めることがだ。
次回の投稿は来週の日曜日です。
9時から投稿するのでぜひ読んでみてください。