新しい仲間
俺達はクトゥルフを消滅させた海域に一番近い陸にいた。
理由は龍鬼だ。あいつに会うためにここまで来たんだ。だが、龍鬼に会いに来たのに何故か海にいた水の精霊と戦った。 彼女は不思議なことに神性を持っていたのだ。
精霊が神性を持つと言う話は聞いたことがない。
いったい何者なのだろうか?
「ねえ、ワタシアナタに負けた訳なじゃない? ならアナタの側に居ていい?」
彼女。水の精霊がそう言った。
は?
「なんでだよ! 普通は勝った方が相手に要求するのはわかるが、負けた方が勝った方に要求するってどう言うことだよ」
戦闘が終わり龍神化を解いた俺は思わず彼女にそう言ってしまった。
この戦いでは何も賭けていないので本来は要求することすらしないはずなのだが彼女には常識は通用しないらしい。
「いやだって、さっきの戦いは負けたけどアナタはワタシの言うことを聞く義務があるんだよ」
彼女は俺に指を指しながらそう言った。
本当に無茶苦茶だな。
「どこに? 理由を言ってみろ」
俺は呆れてそう言うしかなかった。
「理由? そんなの簡単だよ。ワタシをこんな身体にした責任だよ」
本当に意味がわからない。
俺はまた記憶をさかのぼるが、彼女には会っていないし。もし、クトゥルフとの戦いで被害を受けたとしても俺の能力ですべての怪我人、死人、壊れた物、全てを元通りに戻したので何も問題はないはずだが?
「その顔はわかっていない顔だね。じゃあわかるように説明してあげるよ」
彼女は笑顔から真剣な顔つきに変わった。
「実はワタシは今日の朝まで最下級の水精霊だったんだ」
彼女は恐ろしいことを言った。なにが恐ろしいかと言うと。
本来最下級の水精霊はせいぜい一軒家を吹き飛ばすくらいの強さしかない。人間と比べたらだいぶ強いが人間より上位の存在なのだから当たり前だ。だが、最下級の精霊はせいぜいその程度。
だが、彼女は違う。
今では上位精霊よりはるかに強い。上位精霊は一国を滅ぼす力を持つものすら居るが、彼女は違う。
そう力の桁が違うのだ。国を滅ぼす力を持つ者すら小さく見える。彼女の力は大陸を地図から消すほどの力を持っているのだから。
しかもだ、彼女の言葉を信じるなら、今日の朝までが最下級の水精霊だったらしい。
すなわちたった数時間で大陸を消すほどの力を得たのだ。
もし仮に彼女以外にも居るとしたらそれはこの大陸の危機となるだろう。
俺がそう考えていたからなのかはわからないが彼女は言葉を続けていた。
「ワタシはここにすんでいるんだけど、今日の朝に大きな怪物が現れてね、次に水が大きく揺れたのよ。でも次の瞬間には全てが止まっていたわ、ワタシの身体の半分と一緒に」
彼女がここまで話して俺は察しがついた。
きっと彼女は冬姫の能力で凍らせた津波に巻き込まれて凍らされたんだ。そしてその氷は冬姫が砕いたが、砕いた氷のなかに彼女の半身がまだあったのだろう。
精霊はそれだけでは死なない。氷に囚われている半身が解放されれば半身は本体に戻る。
だが、その氷は俺が全て消滅させた。きっと半身も一緒に俺が消滅させたんだろう。
だから「半身を殺した」と彼女は言ったのだろう。
「あ、その顔は理解した顔だね」
彼女は穏やかな笑顔をこちらに向けた。
なんでそんな顔ができるのだろうか? 半身を殺した。そんな相手に向けれる顔ではない。
それにそのあとにおそらくなにかが起こっているに違いない。でなきゃ神性をもつ理由がわからない。
「いや、理解できないね。なんであんたが神性を持っているのか。それを聞かせてくれないか?」
俺は彼女にそう言った。
この問題だけは解決しなくてはならないからだ。なんとしても。
「あぁ、そこまではわかってくれてなかったんだ。簡単だよ。アナタがワタシに神性を宿してくれたんだよ。アナタが神の力で海水を生み出してくれたときに、ワタシの身体が元に戻ったんだよ。いや、これまで以上に強くなったかな。アナタおそらく無意識で神性を海水に混ぜ混んじゃったんだよ。そしてここにすんでいるワタシの身体はこの海の水。つまりワタシが神性を持っているのはアナタがワタシに新しい半身をくれたからだよ」
え? つまり。
海水を創造したときに一緒に彼女の身体を作ってしまって、ついでに神性を与えたってことか?
「他に神性を得た奴はいないのか?」
俺はそう言った。
実際問題、神性を持っていること事態は別にいいのだ。だが、神性を持っているやつが危険なら問題はある。
「ワタシが知る限りいないかな。それよりワタシの言うことを聞いてくれるかな?」
彼女は少しも考えずそう答えた。
一応俺自身でも探す。俺の探知能力は少し特殊で、この次元なら龍神化しなくても全てを探せる。頭の中で何を探したいか思うだけですぐにわかる。
いないな
能力で探知した結果見つからなかった。
次は彼女の言うことについてだ。確かに半身を殺した件については俺が悪いだろう。だが、すべを聞くつもりはない。
「一応俺が悪いからな。一つだけ聞いてやろう」
俺がそう言うと彼女の表情があからさまに良くなった。
俺は嫌な予感を覚える。
「十分十分。ワタシアナタに惚れちゃった。だから結婚して欲しいのよ」
彼女は予想通りとんでもないことを言った。
嫌な予感はしっかり当たってしまった。
「一応俺には婚約者が居るんだ。だから結婚は出来ない」
俺は彼女にそう言うしかなかった。
実際それ以外に言えなかった。事実陽月は俺と婚約をしている。少し離れたところでこちらの様子を見ているが、おそらくこちらの声は聞こえていないだろう。
「じゃあ、殺すって手もあるけど。それをやったらアナタがワタシを殺すわよね」
彼女は俺を見ながらそう言った。
当たり前だ。陽月を殺す前に、殺気を見せた瞬間に別次元に飛ばしてぶっ殺すだろう。
「あ、でも。確かこの国の王族は一夫多妻じゃなかったっけ?」
なんで知ってる。確かに王族は。龍神家と鬼神家はそれを認められている。理由は血を絶やさないためだ。
だが、龍神家はそれをしてこなかった。理由は簡単だ寿命が無いからだ。つまり不死のため子孫をいっぱい残さなくてもよかったのだ。
俺は龍神家の三代目当主だが、初代は一億年以上前の原初の龍神の一柱だ。
「なんで精霊のお前がこの国の古い法律を知ってるんだよ」
俺は彼女に思っていたことを訊いた。
「なんででしょうね。で、結婚してくれるんですよね?」
彼女は俺の質問を受け流し、結婚を迫ってきた。
「いや、悪いが断る」
俺はどうしても今は結婚したくない、だから陽月とも婚約のままなのだ。
俺は互いの妥協地点を考える。考える。
「俺はお前に戦いで勝った。だから俺とお前の妥協案を考えた」
彼女は黙って俺の方を見ている。
「俺の部下になれ、そして一緒に暮らせ。もしそれで俺がお前に惚れたら結婚をしてやる。これでどうだ?」
否は認めない。俺はそんな眼差しで彼女を見た。
「わかったわよ。それで」
半分脅しだったが彼女はしぶしぶこの案を受け入れてくれた。
「それで話は変わるが。俺の部下になるんだ名前を訊いてもいいだろ?」
そう、ここまで話していて彼女の名前を俺は知らない。
「え? 名前なんてあるわけないじゃん。数時間前まで最下級の水精霊だったんだから」
そうだった。
普通最下級の精霊は名前を持たない。彼女は数時間前まで最下級の精霊だったんだ。
普通に考えればわかったことじゃないか。
「だからワタシに名前をつけて」
彼女は可愛らしくこちらに笑いかけながらそう言った。
名前はシルフィーと似たようでいいかな?
「じゃあディーネで」
俺は安直な名前を彼女につけた。 次は契約だな。これで精霊はシルフィーに続いて二人目だ。
俺は指を切りディーネと名付けた精霊に血を与える。
最近パソコンの調子が悪いので次回の投稿は少し遅れるかもしれません。
一応次回は来週の日曜日です。