入学試験1
三月下旬のとある日のこと、俺はこっちに戻ったばかりで疲れていたので、自宅の部屋で寝ていると。
「鬼龍ちょっと話したいことがある」
着物姿の妹が障子を勢いよく開け部屋に入ってきた。
今日はゆっくりしたいのに、なんだよ。
俺は枕元にあった腕時計に目をやる。
「なんだよ、まだ十時だぞ時雨」
時雨とは俺の妹だ。俺には妹が4人居る時雨は次女にあたる。
俺は時雨に目でもう少し寝かせてと訴える。
「いい加減布団から出たら?」
だがその訴えは伝わらず時雨が俺を布団から追い出し布団を奪い取る。
「もう少し寝てたいんだよー てか、話ってなんだよ?」
布団を奪い取られた俺は渋々座布団の上に腰を下ろし、ぶっきらぼうに訊いた。
「私、学校に行きたい」
時雨は俺の寝ていた布団を押し入れにしまいながら俺に話した。
「それはいきなりだな、どうしたんだ?」
いきなり、時雨は何の前ぶりもなく俺に学校に行きたいと話してきた。
「昨日命ちゃんが学校のことをとても楽しそうに話してくれてね」
時雨の歳は十五歳、普通なら学校に通っている歳だが、とある事情により俺と時雨は学校に通ってはいなかった。
布団を押し入れにしまい終わった時雨は、押し入れから座布団を取り出し俺の前に座った。
時雨が命ちゃんと呼んでいるのは俺の一番下の妹のことだ。時雨と命は凄く仲がいい。
「私も学校に行きたいと思って」
いきなり学校に行きたいと言ってもそう簡単に学校に通える訳ではない、そう時雨も思っていた。
「別にいいんじゃないかな、こっちのことも学べるし。実は俺も四月から学校に行こうかなって思っていたんだ」
だが鬼龍は通えないとは言わなかった。それどころか自分も学校に通うつもりだと言ったのだ、これは何の偶然だろうか、と時雨は思っただろう。
時雨は目を見開いて驚いていた、まさか鬼龍が学校に行くとは思っていなかったのだ。
それもそのはずだ、鬼龍も学校に通うなんて誰にも話していなかったのだ。
「よかったら同じ学校に行くか? 俺の行こうとしている学校は小中高一貫校だから」
しかも鬼龍の方から同じ学校に通ってみないかと言われて、時雨は嬉しそうに顔を上下に振っている。
「いいの! やったー!」
「でも、まだ入学試験があるからな」
鬼龍は立ち上がり障子に手を伸ばした。
「入学試験?」
時雨は鬼龍が立ったのを見て立ち上がり、首をかしげて鬼龍に聞き返した。
「ああ、明後日の午後から試験があるから、それに合格しないと入学できないぞ」
明後日にいきなり入学試験があるなんて言われたら普通の人なら焦るが、時雨は違った。
「私頑張る!」
時雨は焦るどころか目の中に闘志が燃えていた。
まあ、時雨が落とされるわけがないけどな。それより、時雨を試験に出させてくれるようにあいつに頼んでみるか。