結局は戦い。
島が消えてから約五分後。
いまだに海はグツグツと煮え立ち、空も灰色に染まっていた。
もうそろかな。
俺は空中に立って龍鬼を待っている。
すると空中に亀裂が入る。
亀裂の向こう側はこことは別の世界。
今この状況でこれが現れるということは龍鬼が戻ってきたのと同じ事。
「すまない鬼龍。頭が冷えたよ」
亀裂の中から鬼神、龍鬼が出てきた。
龍鬼が謝ってくれているが、正直なところ、これは俺のわがままだ。
友人が友人を殺すところなど見たくないし、させたくない。
自分が殺すのはいいが、他人は駄目。
これも俺のわがままだ。
だが俺は最強の龍王だ、わがままくらい言わせろ。
「ただな、少しだけお願いがある」
謝った龍鬼が、俺にお願いがあるといった。
謝ってすぐにお願いするってやっぱり龍鬼も図太いな。
だけど、朱里を殺すとか以外の願いなら聞いてやらない事もない。
まあ聞いてみないと答えは返せんが。
「なんだ?」
俺は先程の事が無かったかのような態度で龍鬼に聞いた。
さっきまで龍鬼に対して多少の苛立ちは有ったものの、今の龍鬼を見れば冷静に考え直してくれたみたいだとわかる。
だからこそのお願いを聞いてみようという、選択だ。
「この大陸だとな、全力で闘うことが無いからストレスが溜まっててな。オレと全力で闘える奴も鬼龍以外にはここに居ないし。だからなお前と少しだけ闘いたいなって思ったんだけど、どうだ?」
どうだって。
切り替え凄いな!
まあストレスも溜まってたんだろし、そもそも鬼族は闘争の種族で、争いを好む。
しかし、龍鬼ほどの強さになれば、闘いを楽しめる相手も居ないに違いない。
しょうがない付き合ってやるか。
とか思いつつも、正直俺自身も乗り気だったりする。
龍族も鬼族と同じく闘いが好きな種族であることにはかわりないのだから。
「戦いの申し出を断る理由はないな」
俺は異空間から『烏兎龍 永久』と『神霊龍 終始』を取り出す。
もちろん鞘から抜き出した状態でだ。
夕日が沈んでしまったのか二つの姿を持つ『永久』が夜の姿になっていた。
夜空のような刀身に刃紋は薄く青く、うっすらと月光のような冷たい煌めきがある。
そして冷気を纏っている。
一方で「終始」は元々どんな姿にもなれるので、今回は炎の刀の形状にした。
「結局のお前もやる気満々だよな!」
そう言いながら良い笑顔で俺に龍鬼は斬りかかってくる。
気が付けば龍鬼の手には漆黒の両刃剣が二つ握られていた。
その漆黒の剣には破壊と守護に力が込められている。
俺が消滅の剣を作り出せるように、権能を具現化した武器を産み出したのだろう。
破壊と守護から作り出した剣は、全てを破壊し、全ての攻撃から所持者及び剣は自身を守る。
そんな剣の攻撃をどう対処するか。
回避するのもいいけど、ここはやっぱり。
「あんまり慌てるなよ」
俺も龍鬼にあわせて龍神化をする。
今回の龍神化はクトゥルフ戦での姿に近いが、力はその倍以上には上げている。
そしてその状態で漆黒の剣を『永久』で受け止める。
『永久』は俺の全知全能を象徴する武器であり、その能力で、ありとあらゆる事を無効化することもできる。
よって漆黒の剣の能力は発揮されない。
ついでにいえば能力だけではなく、鬼神化した龍鬼の攻撃の威力すら無効化するので、あたった感触すら無い。
「その刀、やはり普通の武器ではなかったか」
空中で刀と剣を打ち合わせていながら話をする俺らは他者からすれば異様に見えるだろう。
しかし俺らにとって足場は関係ない。
「良い刀だろ? 陽月からのプレゼントなんだ」
俺は刀を自慢して、そのまんま別の世界へと転移する。
その世界は知的生物が存在しない世界。
文明の痕跡はあるが、誰も居ない世界。
現代の世界を模して作り出した異世界。
「また転移かよ。余裕だな!」
龍鬼はそういうと俺に蹴りを仕掛けてくる。
その蹴りを尻尾でガードする。
そして左手に持っていた「終始」で龍鬼を切りつける。
体勢の悪い龍鬼にはこの一撃は止められないだろう。
そう思ってたが、見事に体をひねり、真上に飛び上がり、俺の炎の攻撃を回避しやがった。
「余裕なわけないだろ」
空中に逃げた龍鬼にそう言った。
「正直な、空中戦は得意じゃないんだよ」
そういうと龍鬼は無人の大陸へと向かっていった。
今回も読んでいただきありがとうございました。
現在コロナが広まっていますが、皆さん頑張って乗り切りましょう!