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白銀の獣と土の精霊王 3

 神狼と精霊、時雨と東華。

 何故か対峙している。


 そして何故か、時雨と東華は靴を履いていない。

 正直本当に状況が理解できない。


 最近似たようなことが多々あるけど、ありすぎだろ。

 この大陸ってこんなに頻繁に事件というか問題が起こるところだっけ? 


 「鬼龍、来るの早くない?」


 「先輩?」


 時雨と東華が俺にそう言ってきた。

 来るの早くないって、呼んだの時雨じゃないのか?


 とりあえず状況確認の前に、龍那と凛那の安全を確保するか。


 「白、二人を守れ」


 俺は龍那と凛那の前に立ち、白にそう指示する。

 白は四神の白虎、、二人を守るくらいは多分大丈夫だろう。


 「うん」


 俺の指示に頷き、二人を守ろうとする白。



 「お! 早速龍王も現れてくれて、好都合」


 俺を見た精霊の少女がそんなことを言う。


 よくよく見たらあの精霊、シルフィーやディーネと同格の力を感じる。

 そして狼もただならぬ気配を感じる。


 よりによってこの場には龍那と凛那が居る。

 あまり戦いに巻き込みたくないかったのに。


 それに二人の前で、あの一柱と一匹を殺すのもためらわれる。

 

 なのに、なのにだ。

 あいつらから闘気を感じるのは気のせいではないだろう。


 さすがに俺も本気で戦ったら勝てるし被害もない、ただ殺してしまうのは龍那と凛那の教育によくないと思う。

 それに、子供には平和に過ごしてほしいと思うのが親心だろう。


 ただ、それとこれは別の問題だ。


 殺さないで無力化をするには、「永久」を使うしかないが、それじゃあ面白くない。

 ならばたまには王らしく誰かを呼び出して、どうにかするか。


 「そう言えば名乗ってなかった。アタシは精霊神から最初に精霊王の座を授かった大地の精霊、大地の精霊王ノーミード。これからよろしく」


 精霊王ノーミードと名乗った少女が、今度は隣に居る神狼を見る。


 「名乗りも終わったし、そろそろ……」


 ノーミードがそう言うと、川辺に突如数千近くの土でできた人型の泥人形が姿を現す。

 その土の人形はいわゆるゴーレムと言われているもので、一般的な魔術師が十体出せるだけで凄いと評価されるのに対して、千のゴーレムを作成した彼女はさすがといえるだろう。


 ただ、一般的な魔術師が作れる程度のゴーレムではないのは明らかで、一体ずつ精密に作られ、精巧な魔剣がそれぞれに与えられている。

 ここまで精密なゴーレムを作るには、数十年のとてつもない鍛錬が必要で、そのうえ魔剣を作成するのも同じくらいの鍛錬が必要だ。

 

 そしてこの数と精度、人間の域に居る者には到底不可能。

 

 これが最上位精霊、大地の精霊王ノーミードの力か。


 「鬼龍、流石にこれは本気を出さないと勝てない」


 時雨が俺の方に来て耳元でそう言う。

 時雨が言う本気とは、人とは別の力。

 神の権能とでもいうべき力。


 だけど、その力を使わなくても今はいい。


 「大丈夫、俺に任せろ」


 俺は時雨にそう言う。

 

 そして命令する。 

 

 「敵を食い殺せ」


 俺がそう言うと、横にある川の水量が急激に増していく、そして川の水が一つの龍の姿に変わっていく。

 その水龍は精霊に近い性質を持っているが、精霊とは違う。完全なる龍であり、天災とも恐れられる中位龍の一角。

 大昔から、この川に住み守ってきた守護龍でもあり、時には領域を荒らすものを殺してきた災害龍でもある。


 『仰せのままに』


 水龍は頷くと、大きな口を開け、蛇のようにうねりながら巨大な体で、濁流の如く全ての飲み込み破壊していく。

 その光景はまさに天災。

 周辺の木々をなぎ倒し、地面はえぐれ、ゴーレムは土くれに戻っていった。

 

 「流石龍種って言ったところかな」


 ノーミードが腕を組みながら独り言を言う。 

 

 中位龍ぐらいでは戦意を削ぐことすらできないか。

 ならば次を呼ぶまで。


 「三獅子」


 俺がそう言うと、異空間から三体の巨大で強大な獅子が姿を見せる。

 爆炎の獅子、水氷の獅子、轟雷の獅子。

 それぞれ、最上位龍と同等な力を持つ神獣。


 普通の神々ならば手も足も出ずに負けるほどの強さを各自持っている。


 そしてまだ終わらない。


 「シルフィー、ディーネ」


 続いて俺は二柱の精霊王を呼び出す。

 風の精霊王シルフィード、そして新たに水の精霊王の座に就いたウンディーネ。

 

 二柱とも相手の土の精霊王ノーミードと同等の力を持つ。


 「これはさすがに無理だわ」


 ノーミードがそう言った。


 そして最後に俺は「龍皇刀 烏兎龍 永久」を呼び寄せる。

 

 「久しぶりだねノ〜ミ〜ド~」


 呼び出したシルフィーが穏やかな口調でノーミードに話しかける。 

 

 シルフィーはあれと知り合いなのか?


 「だねシルフィード」


 ノーミードがシルフィーにそう言う。


 「ま~あれだよ。早く負けて軍門に下りなよ」


 シルフィーがノーミードにそう言う。

 何とか話し合いで終わればいいけど。


 呼び出した巨大な獅子達がノーミードを見下ろしている。

 今百メートルくらいの大きさだけど、俺の意思に答えて大きさを変化させることが出来る。


 ただ、俺の魔力や諸々を持ってかれる。


 「ん~ そうだな~ そうだね、これで多少は私の力をわかってくれたと思うし、そうする」


 あっさりとノーミードはそう言った。

 マジで意味が分からん。


 後でゆっくり事情を聴くとするか。


 ノーミードがこちらに歩いてくる。

 

 水龍の攻撃で地面がえぐれて、泥だらけになっているのだが、ノーミードが歩んだ地面は乾いていく。

 とても不可思議だ。


 徐々に距離が近づく。


 そして俺の正面でノーミードが立ち止まる。


 「龍王ともあろう者が甘いね」


 その瞬間ノーミードは左手に輝く剣を生み出し、俺の首目掛けて切りかかってくる。

 

 その攻撃に殺気は無く、予備動作も無かった。

 そして速くて正確に俺の首を狙っていた。


 だた、速いと言ってもそれは、この大陸の一般的な攻撃速度からしたらだ。


 到底俺の速度のは敵わない一撃を前に、俺は「永久」を抜き、ノーミードの持っている輝く、ダイヤモンドの剣を両断し、次に腕を切り落とした。


 いくらシルフィーの知り合いだからって、さすがにここまで舐められたら、俺も手を出すよ。

 それに精霊王ならこれくらいならすぐに治ると思うから大丈夫だろう。


 「ん”っ」


 ノーミードが腕を切り落とされ苦い顔になる。

 そして間髪入れずに轟雷の獅子が、ノーミードに横から猫パンチをする。


 雷の身体を持つ獅子の一撃は、光以上の速度でノーミードを襲う。


 猫パンチと言っても獅子だし、雷だし、手も十メートル近くあるのでただでは済まない。


 現にノーミードは近くにある山まで吹っ飛んで行った。


 だが、それだけでは済まないのが世の中。

 主を傷つけられそうになった獣がやることは一つ。

 傷つけた者を殺すこと。


 轟雷の獅子に続いて、水氷の獅子がノーミードの飛んで行った山を凍らせる。

 山は白くなり、巨大な氷山みたいになった。


 そして続いて、爆炎の獅子が山を消し飛ばす。


 距離があるのに爆風がここまで届く。


 もちろんこの三獅子達も手加減はしている。

 いや、手加減させている方が近いかもしれない。


 こいつらの感情と力を制御するのも主人である俺の役目だ。


 もしもこいつらの力をそのまま使えば大陸諸共消え去るだろう。


 ただ、そんなことはだれも望んでないから、俺がコントロールしてるのだ。


 「流石に死んだかな?」


 時雨が俺の横に来てそう言った。


 おそらく時雨は今の一瞬の出来事をすべて見ていたのだろう。

 後方に居る東華は、ただ目を見開いて固まっているだけで、何も反応がない。


 「いや、精霊王がこれで死ぬわけはないと思うけど」


 俺はこういう言い方をしたが、これは確信に近かった。

 大地の精霊王がこれくらいで死ぬとするのならば、この大地はとっくの昔に死の大地になって、生物など存在しないと思う。

 それに気配はなくなってない。


 「いやいや、流石龍王。今回こそ本当に降参」


 突如数メートル前方の地面から姿を現すノーミード。

 彼女は無傷であり、更に俺が切り落としたはずの腕まで治っている。


 この生命力は流石精霊といったところだろう。


 「精霊王が一柱、大地のノーミード、これからは貴方に使えます。どうぞこれからはミードとお呼びしてください」


 ノーミードはそう言うと俺の前で優雅に跪く。

 先ほど不意に切りかかられて信用をするほど俺も馬鹿ではない、ただ、こいつからは敵対する感情も意志も感じない。

 もしも次に攻撃して来ようとしたら、一度殺してわからせればいいだけだ。

今回も読んでいただきありがとうございました。

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