白銀の獣と土の精霊王 1
夕暮れ。
街中を駆け回る一匹の白銀の巨大な狼と、それにまたがる少女の姿が目撃されていた。
その狼はとても巨大であり美しい毛並みをしていた。
そしてまたがる少女は、美しい容姿をしており、まるで物語から出てきた妖精のような雰囲気があった。
こんな目立つ一人と一匹の姿を見たら普通ならば騒ぎになり町中が混乱になるのだが、街はいたって普通であり、平和だ。
それはこの一人と一匹が邪悪な存在ではなく、むしろ善なる存在だとわかるのが大きいだろう。
狼は見るからに神々しく、明らかに神格だとわかる。
そして何よりここは色々な種族、魔獣、神霊など色々な者が住むムー大陸だというのもあるだろう。
いや、それが一番大きいかもしれない。
普段から異能が身近にあり、多種族が近くに居るからこんな異常な状況でも混乱には至らないのだと思う。
そもそも龍やその王である龍王、古の神や森の賢者エルフ、精霊、夜の支配者である吸血鬼などが居る大陸で、自分と同じ種族を見つけることの方が難しいかもしれない。
風の如く街を駆け抜ける神狼と精霊は一体どこに向かうのか。
時雨と帰り、俺はそのまま屋敷に出向いた。
普段は平日に屋敷に行くことはあまりないのだが、眠った白を屋敷に強制転移させてそのままにしてたので迎えにのだ。
「ごめん」
転移したらその場に白と龍那、凛那が居た。
そして白が俺に抱き着いてきたという状況だ。
「気にするな」
正直状況がつかめないけど、とりあえず俺は白にそう言っておく。
結局のところ、俺も身内には甘いところがあるのは自覚している。
俺がすべてをフォローすれば済むのならばすべて許す。
そうではないことは許せるように努力するし、解決に尽力すると心に誓っている。
だからこそ身内には甘く接してもいるし、相手が成長できるのなら厳しくもする。
「うん」
白は俺に顔をこすりつけてくる。
時々思うのだけど、白は虎ではなく猫じゃないのかと。
まあ、白自身が幼いのもあると思うけど、それにしても猫っぽいな。
「パパ今日帰ってくる日だっけ?」
凛那が俺にそう訊いてくる。
龍那と凛那は会うたびにしゃべり方が大人びてくるな。
「白を迎えに来ただけじゃない?」
俺が凛那に答える前に龍那が先に答えを言う。
それを聞いて凛那は少し寂しそうな表情になる、
こういうところを見るとやっぱりまだ子供だな。
「帰っちゃうの?」
凛那が白の後ろから涙目で俺にそう言ってくる。
ん~ まあ別にこだわって向こうに帰らなくてもいいか。
何なら時雨も呼ぶか。
「いや今日は時雨も呼んでこっちに居ることにするよ」
俺はそう凛那に言った。
「やったー」
目に見て凛那のテンションが上がったのがわかった。
俺がそう言ったのがよほどうれしかったのか、凛那も白と同じように俺に抱き着いてきた。
それとは対照的にただこちらをじっと見ているだけの龍那。
凛那には懐かれているのは見ていたらわかるのだが、龍那には嫌われてはいないが、好かれてはいないと思う。
ぶっちゃけ、週に二日にしか会わず、一緒に食事と寝るのくらいしか関りがなく、たまに出かけて遊ぶしかコミュニケーションをとっていないから好かれる要素は無いんだけど。
だけど、それでも好かれたいとも思うし、好きたいとも思う。
世の中の父親はどのように娘、息子とコミュニケーションをとっているのだろうか。
そもそも俺の好きなことが、寝ることと、戦うこと、料理くらいしかない。
対して龍那と凛那は、生まれて数か月。
見た目こそ小学生に近いが、まだ生まれたばかりの子供だ。
そんな子供に、戦闘を教えることも料理をさせることも、スポーツをやらせることも危なくてできない。
俺の血と陽月の血を受け継いでいるから、戦闘面においても知性の面でも平均以上の出来であるのは確定しているが、怪我とかしたら嫌だ。
安全面を考えて、シルフィーとディーネに暇なときは護衛をしてもらっている。
陽月は普段からどのようにして二人と接しているのか、後で相談しようかな。
とりあえず、時雨の元に行くか。
「龍那、こっちにおいで」
俺は龍那を手間に気で呼ぶ。
すると龍那は大人しくこっちに来る。
「何?」
俺はそのまま龍那の頭に手を乗っける。
「なんでも」
俺は龍那の頭に手を乗っけながら、学園近くの家に皆で転移する。
なぜ龍那の頭に手を乗っけたのかって?
俺だって可愛い娘にスキンシップぐらいしたいんだよ。
転移した瞬間、何者かに強制的に別の場所に移動させられて感覚があった。
その移動を拒むこともできたのだが、敵意や害意を感じなかったので身を任せることにした。
それに、これを実行したのが時雨ってのも、拒まなかった理由である。
時雨は時間と空間、そして雷を操れる能力を持っている。
そして今回は、空間を強制的に捻じ曲げ、俺がここに戻ってきたら自動で任意の場所に移動させるようにしたのだろう。
移動させられた場所は川辺。
川は緩やかに流れていて、大きくもないし深くもない。
周りには一切の人工物は無く、河原には小さい石が転がっており、周囲は森林になっている。
そして正面には時雨と東華。
その奥に大きな狼と少女が一人居た。
狼からは神の力を感じるし、少女からは上位の精霊の力を感じる。
少女は少し茶色の瞳に茶色い髪の毛、髪には小さな宝石を散りばめたような髪飾りをつけている。
その髪飾りはけして派手な訳ではないが、とても綺麗だ。
そして、巨大な神狼はなぜか好奇心を感じる瞳で見られている。
これはどういう状況だ。
今回も読んでいただきありがとうございました。