屋敷の三姉妹
戦闘中に眠ってしまった白。
白は鬼龍により屋敷に転移させられていた。
そうとは知らずに白は日当たりのいい場所でぐっすり眠っていた。
白にとって睡眠とは鬼龍の次に大切な物。
そんな大事な睡眠を脅かそうとするものが居た。
「お姉ちゃん、白が居るよ」
「ほんとだ」
龍那と凛那が白を見つけたのだ。
龍那と凛那にとって白はもう一人の姉妹のような存在であり、白も似たような感情を抱いている。
白がこの屋敷に来るたびに一緒にお風呂に入り、ご飯を食べ、一緒に寝、一緒に遊んできた。本当の姉妹以上に仲のいい関係を築いてきた。
「ん~」
白が二人の声で目を覚まし、唸る。
目を覚ました白は周りを見渡しここがどこだか確認をする。
そして一つ気が付いたことがあった。
鬼龍は?
白が思ったことはそれだった。
さっきまで戦闘中で、自分は途中で眠ってしまったことに気が付いた。
そして鬼龍の手によってここに移動させられたことを悟った。
白は子供だ、だが頭が悪い訳でも鈍い訳でもない。
白は自分が鬼龍の役に立たなかったこと、それを鬼龍が怒ってはいないことを理解していた。
だからこそ白も思うところはあった。
自分は甘やかされている。まだ子供だと思われている。
そう白は確信した。
白は鬼龍にとても懐いている、だから鬼龍に甘えるし、いたずらもする。役に立ちたいとも思っている。
だから今回の戦闘離脱は白にとってとても悲しいことだった。
しかしこれでめげる白ではない。
四神の一柱、西の白虎の白はこれしきでは折れないのだ。
今度は頑張る。 鬼龍に謝って頑張る。
白はそう心に誓った。
屋敷に飛ばされた白は鬼龍の場所を知るすべはない。
いや、本来の姿になれば可能だが、そんなことをする必要はない、鬼龍は必ず自分を迎えに来ると白は確信していた。
ならば迎えに来るまでここでやることは一つ、楽しむことだ。
楽しむ、そう教えたのは鬼龍だった。
どんな時も楽しむことが大切と当時幼かった白に鬼龍は教えていた。
「白そっちに行ったよ」
凛那が遠くから白にそう言う。
森の中でのその声を白は聞き逃さなかった。
「うん」
茂みの向こうから足音がこちらに向かってくるのがわかった。
楽しむ、そう今楽しんでいるのは狩り。
茂みから物凄い速度で白に突進してきたのは、巨大な猛牛だった。
体長約二メートルの猛牛。
もしも普通の子供がこれに出会えば、その巨大な角で突かれるか、巨体で潰されるかだ。
だが普通な子供などこの森には存在しない。
白は突っ込んできた猛牛の動きを巧みに読み、方向転換をさせた。
まるで誘い込むように。
そう、猛牛が誘導させられた先には龍那が居た。
「龍那~ 行った~」
白は走る猛牛のケツを軽く蹴っ飛ばす。
蹴っ飛ばされた猛牛はさらに勢いを増し、また茂みの向こうへ突っ込んでいった。
その茂みの向こうで待ち構える龍那は、すでに見えないはずの猛牛の姿をとらえていた。
鬼龍と陽月の娘である、龍那と凛那はすでに陽月から未来視と千里眼を会得していた。そして鬼龍譲りの戦闘センスも受け継いでいる。
茂みを踏み倒し、猛牛が姿を龍那の前にさらす。
そして猛牛は姿勢を低くして、龍那に突進をする。
猛牛の本気の攻撃。
それを龍那は張り手で打ち返す。
猛牛が宙を舞う。
それはあり得ない光景だった。物理的におかしな光景だった。
だが何も不思議ではない、なぜなら龍那は鬼龍の娘なのだから。
猛牛が地面に落ちる。
地面に落ちた、猛牛は動くことはなかった。
すでに猛牛の首は龍那の張り手により折られていたからだ。
「さすが龍那」
気が付けば白は龍那の背後に居た。
思わず龍那が振り向く。
気配もなく転移と間違えるほどの速さを誇る白に龍那はいつもながら驚かされた。
「びっくりするからいきなり後ろに居ないでよ」
龍那が白に向かっていつものように文句を言う。
だが、白はまた同じことをするだろう。
何故なら白は龍那が驚くのが面白くて、いつもこうやって驚かしているのだから。
基本冷静な龍那を驚かせるのが楽しい白、そしてその嬉しそうに笑う白を見ていると龍那も同じように楽しいから嫌いになあれないのだろう。
「お姉ちゃん! 白!」
凛那が茂みから姿を現し、こっちに近づいて来る。
「今回もおっきいね」
凛那ももちろん龍那と白のことが大好きだ。
一緒に居ると幸せなのだ。
「早く家に帰って食べよ。シルフィーさん、ディーネさんお願いします」
凛那は空に向かって二柱の精霊王にそう言った。
いくら龍那と凛那が普通の子供ではないといっても心配するのが親というものだ。
シルフィーとディーネは暇なときはこうして二人の姉妹を見守っている。
それが主である鬼龍の命令だからだ。
そしてそれを知ってか、凛那も二人に頼ろうとする節がある。
たまにこうして狩りをして捕まえた獲物を運ばせようとするのだ。
だけどシルフィーとディーネは嫌な顔を一切しない。
それどころか小さい子を見守る大人のような顔である。
「まかせて~」
「立派な牛ね」
そして主の娘である二人の言うことを聞くくらいにはシルフィーとディーネも龍那と凛那のことを可愛がっていた。
ぶっちゃけ鬼龍に命令されなくても二柱の精霊王はおそらく二人を守っていただろう。
こうして猛牛は今晩の晩御飯になるのだった。
今回も読んでいただきありがとうございました。