幻龍姉妹 2
「うん!」そう言い勢いよく飛び出した白は常人の目には止まらない速度で幻龍姉妹に突っ込んでいったが、その直後に突如として丸くなり眠ってしまった。
何事かと思い龍皇刀「永久」の「全知」を使った結果、幻龍夢華の龍の惑わす能力と眠りに誘う魔法の合わせ技による幻覚作用作用による睡眠らしい。
別段白には悪影響はないらしいからいいが、四神の白にすら効果がある技とは凄い。
まあ一番驚いたのは、その魔法は子猫を眠らせる魔法だったということだ。
なんてピンポイントで戦闘向きではない魔法なのかと思った。
しかも子猫ってどういうことだ。
もしかしてこの魔法で眠ってしまった白って実は白虎じゃなくて猫だったりして。
「白ちゃん!?」
突然眠りについた白を見て雫も驚いている。
これじゃあ雫が戦闘に集中できないな。
俺は眠っている白を屋敷に転移させた。
俺の転移は離れた物や動物にも使えるので便利だ。
「!?」
突如消えた白に、次は声も出さすに驚いている雫が見える。
今日雫は驚きすぎじゃないか?
さすがに幻龍姉妹相手に集中力を欠きすぎていると思う。
「とりあえず白は離脱させたから、ここからは二人で気合を入れていくぞ」
横に居る雫にそう言った。
俺に言われた雫の表情はたちまち変わり、先ほどとは違った真剣な面になっていた。
「うん」
雫はこれで大丈夫だろう。
ん。そう言えば幻龍姉妹はどこに行ったんだ。
俺は辺りを見渡す。
だけど二人の姿が見えない。
それどころか数秒、幻龍姉妹のことを意識から外していた。
本気の戦闘ではないにしろこんなことは初めてだ。
いくら格下だからって、敵を意識外にして認識しないなんてことはない。
これは幻龍の力か。
白虎である白を戦闘不能に追い込み、龍王である俺から意識を外すなんて、侮れないな。
突如、腹に衝撃が走る。
痛みは感じないが、これは間違いない殴られた感覚と同じだ。
俺はすかさず「永久」で俺を殴った奴が居ると思われる場所を切り裂く。
だけど何にも手ごたえはなかった。
更に背中に何かでなぞるような感覚。
これはおそらく薙刀による攻撃。
体中に様々な攻撃をされたような感覚が俺に襲い掛かる。
だけど傷は一切なく、気のせいかなとも思う。
いや、これも相手の幻だとしたら厄介だな。
正直疑心暗鬼になりそうだ。
しょうがないか。
俺は周りをよく見て、耳をすます。
もう開き直って自分の身体能力を信じることにする。
もしもこれでもダメだったら、その時は「永久」の「全知全能」をフルに使うか、正体がバレるのを覚悟して龍神化するしかないかな。
「…… なって…… の?」
耳を澄ますとかすかに声が聞こえた。
そして薄っすらと右側二十メートルに二つの影をとらえた。
やっと見つけた。
ここまで何秒経ったかは数えてはいないし、そこまで時間もたっていないのかもしれないけど、それでも一撃もらってからすぐに反撃できなかったから悔しかったのだ。
ここは魔法の中でも速い分類の魔法で反撃してやる。
俺は無詠唱で魔法を発動させる。
その魔法の名前は「神雷」
一瞬光がここら一帯を包み込む、そして轟音が響き渡る。
神速の雷の一撃が幻龍姉妹を襲う。
そして二人は焼け焦げてその場に倒れた。
俺が魔法を発動してから発動するまでのラグはゼロ。
そして雷の速度も光の速度と同等なので、常人では回避不可能だ。
焦げて倒れている二人、一応魔法は手加減したし、二人は生きてはいるけど戦闘は続行できないだろうな。
俺がそんなことを思っていた時だった、雫がこちらを向く。
「油断しないで鬼龍さん。幻龍姉妹はまだやられてない」
雫がそう言った直後だった。
謎の紫の霧が二人を覆いかぶさっていく。
そう言えば一つ思い出したことがあった。
龍家にはそれぞれ秘儀と呼ばれるような技がある。
そして幻龍家の秘儀の一つにとても厄介なものがあった。
それは一日に一回だけ全てのダメージを無かったことにするというものがある。
この技は龍神幻龍の「現実と幻を入れ替える」という能力の実現化の過程に生まれた秘儀である。
「まさか一撃で私達を倒す威力の魔法を無詠唱で発動させ、そのうえ姿をわからせないようにしていたのに命中させるとか化け物だと思うよ私」
そしてだんだんと幻龍姉妹の姿が薄くなっていく。
と思いきや、元に戻った。
もしかして慣れてきたのかな。
全知全能以外で俺が持っている能力の中に「一度受けた攻撃や能力を無効にする」という能力があるのできっとそのせいだろう。
この能力は自分で切ることもできるがする必要もないからしない。
「また居なくなった」
雫がぼそりとつぶやく。
そうか雫は見えないままか。
ならここは手助けをするか。
俺は「永久」の「全能」で幻龍姉妹の能力を全無効する。
これは幻覚だけではなく、龍化すら無効化する。
もちろん魔法やそのほかの異能も例外じゃない。
「これで見えるようになっただろ?」
俺は幻龍姉妹から視線を外さずに雫に確認する。
「なんでもありだね鬼龍さん」
少し呆れたような声で雫がそう言う。
雫の視線も幻龍姉妹をとらえているので見えているのだろう。
そりゃあ全知全能なのだから何でもアリだろう、そこに呆れられても困るんだよな。
俺はただ、戦いを楽しむために能力を封印しただけで、負けるつもりは一切ないし、めんどくさくなったら能力も使うつもりだ。
「いくら何でもめちゃくちゃすぎる!」
「どうなってるの!?」
幻龍姉妹が驚いていろいろ言っているのが聞こえる。
龍から能力を授かった一族なんだから、これくらいで驚くなよ。
異界での戦いではこれくらいは驚くうちには入んないぞ。
俺は心の中で二人の姉妹にそう言った。
そして、動揺している二人に雫が妖刀に水を纏わせて切りかかる。
正直今の二人戦闘中の動揺で冷めてしまった。
終わらせるか。
俺は雫が攻撃するタイミングで二人に拘束魔法をかける。
魔法名は影縛り。
闇属性の魔法で、名の通り影で縛る魔法だ。
影で拘束された二人は声を出す暇すらもらえずに、雫に切り捨てられた。
龍化していなかったら二人はただの少女みたいだ。
「それまで!」
紗那のその言葉で決着が付いた。
今回も読んでいただきありがとうございました。