幻龍姉妹 1
幻龍姉妹が仕掛けた大きな魔法陣。
赤と緑で構成された魔法陣は少し幻想的にも思えるほど精密で見事なほどだった。
これほどの魔法陣ならば魔術師としては相当な技量をもつだろう。
ただ、一つだけ問題点を挙げるとするのならば魔法陣を隠さずに俺に見せたことかな。
魔法陣を見るだけでも色々な情報がわかる。
この魔法陣は四大元素魔法に属している陣で。火と風の二つの属性を使う魔法陣ってこともわかるし、規模も効果もすべてわかる。
「永久」で「全知」を使えばその先の発展や最奥、術者の全てすらわかる。
魔法陣一つでもここまでわかるのだから本来は魔法陣は隠すべきだと俺は思う。
まあ俺以外にそこまで出来るとしたら、陽月と魔神や邪神といった異界の者達だけだろうか。
とりあえず相手の思う通りに行くのも少し嫌なので、「永久」の「全知全能」で魔法陣と、その発動する術を消し去る。
まるで弾けるかのように光の塵になる魔法陣。
そして静寂が広がる。
その静寂を最初に破ったのは白だった。
「あれって龍?」
白が俺にそう問いかけてきた。
白が指さす方には一見誰もいないように見えるが、模擬戦でテンションが上がり感覚が研ぎ澄まされている俺にはわかる。
あそこには幻龍姉妹の二人が居る。
そして四神の白虎である白も俺と同じように二人の場所がわかっても不思議ではない。
きっと白のことだから、あの二人が俺と同じ龍種であることも何となく理解しているのだろう。
「そうだよ」
俺の答えを聞いた白は一瞬で俺達の元からあの二人のもとに一瞬で移動した。
「何?」
そして遅れて雫が一言。
恐らく早く流れる状況に理解が追い付かないのだろう。
だけど、このくらいの状況変化についていけないと戦場では簡単に死ぬし、神々とも渡り合えない。
多分だけど雫はそもそも、戦う速度が違いすぎるせいで状況判断や動体視力諸々が追い付いてきていないと思う。
「きゃっ!」
白の蹴りに幻龍姉妹の妹、幻龍言華がかわいらしい悲鳴を上げているのが聞こえた。
ただ、白の蹴りを食らってそんな可愛らしい声を上げれる余裕があるなんて少し驚きだ。
朱音のサラマンダーですら一発で倒すのに気絶しないなんてすごいな。
「言華!? このっ!!」
夢華が言華を守るようにして薙刀を白に振るう。
薙刀のスピードは凄まじく、普通ならば回避をできないような角度からの攻撃を白に繰り出した。
だけどその鋭い攻撃を白は難なくかわし、大きく後ろに後退した。
「さすが獣人、速い」
攻撃をかわされた夢華がそう口にする。
隣に居る言華は白に蹴られた部位を押さえて、痛みをこらえながら白を睨みつけている。
「しょうがない。龍化するよ」
「うん」
夢華が言華にそう言い、言華も意を決するように返事をする。
龍化。龍人の奥の手とも呼べる代物であり、戦闘本能が表に出る分すこし性格が攻撃的になる代わりに、身体能力が上昇し、圧倒的な攻撃力と強力な能力、鉄壁な防御力を得ることが出来る。
ただし、未熟なものが龍化すると周りにも迷惑をかけることになるが、己を律することさえできれば強大な戦闘能力を得ることが出来る。
そのうえ、思考速度も上がるために戦闘面、頭脳面で龍族に敵う者は生物において居ないといわれている。
「私達は龍王に仕える者として、龍以外に負けるわけにはいかないの」
「絶対に勝って見せる」
二人の雰囲気が変わる。
そして変化も始まる。
夢華の四肢が紫の鱗に覆われ龍のそれに変化し、目には強い意志を持った鋭い瞳になり、頭部には二つの角が生え、腰からは長い尻尾が生えてきた。
対して、言華は四肢のみ龍化しており、夢華と比べたら龍化の割合は低いが、全身を纏う紫のオーラの量は言華の方が多い気がする。
「行く」
相手の変化に感化されて白が二人に突っ込んでいく。
普通ならば距離をとって様子を見るべきなのかもしれないが、最近満足に運動をしていない白にとっては、いい遊び相手と思っているのか突っ込んでいった。
白のスピードならば攻撃をすべて回避できるくらいのことは出来るから心配はしていないが。
ただ、俺の考えとは裏腹に突っ込んでいった白が夢華の前蹴りを食らってこっちに飛んできた。
二回ほど地面にバウンドして白が地面に転がる。
今の場面は俺が夢華を思い出す光景だった。
「白大丈夫か?」
「白ちゃん!?」
俺と雫が白を心配する。
俺は多少心配していたが、雫は本気で心配しているようだ。
先ほどまで状況を理解できていなかった雫だが見方がやられたと思ったことで、やっと行動が出来たのだと思う。
ただ、白は白虎であり、あの程度の攻撃では無傷のはずだ。
しかし、白虎の白がただの蹴りを回避できないで攻撃を受けるのは少しおかしい気がする。
やはり幻龍家だから、幻を使って何かをやったのか。
二人とも龍化した今、多少は厄介かもしれない。
地面に倒れた白が何事もなかったかのように立ち上がる。
やっぱり無傷の様だ。
「大丈夫!」
起き上がった白の表情はとても明るく。テンションが高くなったのが見てわかる。
やっぱり遊び相手を見つけてうれしいのだろう。
ここは白の好きにさせるかな。
「白、ここからは三人で別々に戦うから、自由に楽しんでおいで」
俺は白にそう指示を出した。
「うん!」
白は頷きまた幻龍姉妹のもとに突っ込んでいった。
そのスピードは先ほどの倍近くなっていて、おそらく常人の動体視力では追うことは無理な速度になっていた。
白がやる気を出しちゃったから、この模擬戦も長くは続かないかな。
今回も読んでいただきありがとうございました。