第81話 また改めてお祝いを出そう
ジャンヌが口にするあの事件とは、戦争が終結し、テスタオロスに平和が訪れた直後の話である
世間一般には、終戦後に大魔法剣士がグラント司祭を襲撃した事件として語り継がれており、守の正体が判明している現在までにおいての唯一の汚点として言われているものである
事件が起こる少し前である魔王討伐後からこの事件は動き出そうとする
聖騎士団の面々は、吉報を待ち続けているヴェルヘルムの元へ魔王討伐、戦争終結の報告を行うためにと急ぎ足で王宮へと向かっていた
最終決戦といっても過言ではない、それを終えたばかりの面々は疲れや傷で覆われこそあったが、勝利という結末とこれからの明るい未来に希望を乗せて宮殿へと赴く
王間には、ヴェルヘルム、アディリシアはもちろん、騎士団長のロベルタや司祭のグラントなどといった国の重鎮たちが吉報を聞くために集まっているのだった
各自の顔つきは様々でいずれにしても戦勝報告の一方を心待ちにしている
「父上、ただいま戻りました。聖騎士団及び皆の協力のもと、魔王を討伐できたため、急ぎ足で報告に参りました」
道中で報告は俺が勤めると決めていたアキレウスが代表で告げるとヴェルヘルムが戦勝という言葉に嬉しいそうに反応を示す
「お…おぉ!!皆、よくぞ無事で…というわけには流石にいかんか…。報告も気になるところじゃが、まずは皆の傷を癒してから…」
「その必要はありません。王間での無礼を申し訳ありませんが、守と二人で回復を同時並行で行いますので、アキレウスの報告を聞いてください」
「うむ…。しかし、戦後すぐに参ったのじゃろ?二人とも疲れや魔力は大丈夫なのか?」
「魔力は道中でだいぶ戻りましたので、心配無用です。だからアディリシアもそんな辛そうな顔を見せなくとも大丈夫だ」
「守様…。私もお手伝い致します!!」
心配や嬉しさなどの色々な感情が入り組んでいるアディリシアは今にも泣きそうな顔で守とアナトの手当ての補助を行う
その様子に姫様だけにやらすわけにはいかないと、その場にいるニース達給仕はみな困憊している兵達の手当てへと動くのであった
回復との同時並行でアキレウスの報告を受けている中、王間に集まっている重鎮たちは、誰もが魔王討伐の戦勝報告に喜ぶ
しかし、ただ一人、グラントは苦虫を噛み潰したような顔で魔法剣士を見つめるのだった
「(チッ…。異世界人と魔王が共倒れになるという最善のシナリオにはならなかったか…。せっかくの終戦なのに不純物が残ってしまった。何か…何か対処をしなければなるまい)ところで、戦地に赴いていた名ある重鎮たちの姿が見えないようだが?」
「総力戦といっても過言ではないほどに厳しい戦だったんだ。この場にいないことを見て察してくれ」
「…そうでしたか。この国の重鎮は勇敢に戦い、散ったようだが、異世界人はのこのこと生還してしまった、と」
「グラント司祭、何が言いたいんだ?守がいなければ、勝利を掴むことすら危うかったんだぞ?守を貶すようなら俺が黙っちゃいないが…」
「いえいえ…貶すだなんて恐れ多い。ただ、そこの異世界人と違い、この戦で散った重鎮達はこのあと、この国をよくしていただくお役目があったと考えると無念で無念で…」
「まるで守には死んで欲しかったような言い方ね、グラント司祭」
グラント司祭の発言に、アキレウスやジャンヌだけでなく、アナトまでもがグラントを睨みつけるのであった
グラントにとっては、アナトは最も敵に回したくない人物であるためにこれ以上の皮肉はよそうと早々にその場を後にするための準備に取り掛かる
「お〜怖い怖い。アナトくんにまで睨まれてしまってはかなわない。報告途中で申し訳ないが、私は教会へと帰らせていただこう。戦死者たちの遺体管理の方針も決めなければなりませんからね。あ、そうでした。戦勝ご苦労でしたよ、異世界人くん。また改めてお祝いを出そう」
皮肉交じりに述べるグラントは不敵な笑みを浮かべながら王間を後にするのであった
「気をつけろ、守。グラント司祭は特にお前の存在が気にいらないようだからな」
「ああ。わかっているとも…」
前々からグラントが守のことをよく思っていないことは守自身でも把握していることであったため、生き残った守に対して何かをしてくるだろうと想像するのは容易であった
しかし、アキレウスの忠告は虚しく、事件の発端となるそれは、終戦の報告の日からすぐに訪れることとなる
ことの発端となるそれは、ヴェルヘルムが国民に戦勝発表の場を正式に儲けようとするための打ち合わせをするために聖騎士団が王宮に再度呼ばれる日に起こる
招集を受けた段階では、裏でそれが実行されていることを知らない面々は、王間で戦勝式の打ち合わせをしているのであった
「国民もほぼ全てが知っている状況ではあるのじゃが、正式な発表は早いに越したことはないのじゃ。ここ二、三日で行いたいと思うのじゃが…」
「ええ。ヴェルヘルム様の判断でいいんじゃないかしら」
「ついでってわけではないが、俺たちに手を貸してくれた他種族の紹介もしたいところだな」
「各所でもダメージがでかいから正式な友好は後々になりそうだけどな」
「ジルたちも喜ぶだろうね♪」
「お会いするのが楽しみですね」
「うむ。いささか緊張するものじゃが、守くんたちと手を取り合えた者たちならば問題はなかろう。それでじゃな…そろそろ国民に守くんをちゃんと紹介したいと思うのじゃが、どうだろうか?」
未だ一部の者しか知らぬ守の素顔をこの際だから世界の英雄として紹介したいとヴェルヘルムは提案する
世界を救ったこと、他種族との交友への架け橋になること、そして、何より異世界より召喚されし、少年がテスタオロスのために努力を怠らなかったこと
国民から受け入れらない要素がもはやないことに守も安心できるのではないかというヴェルヘルムの配慮であった
「そうですね…。確かにいつまでも隠しておけるものでもないですし、何より戦後なのに聖騎士団に未だに顔が割れていない者がいることに国民が不審がる可能性もありますからね」
「数年前とはわけが違いますからね。皆様きっと守様を受け入れてくれるはずです」
「ま、イケメンじゃないのが唯一の欠点なんだけどな」
「彼女すらいないアキレウスにだけはいわれたかねぇよ」
「ぐっ…痛いことを…」
守も顔出しを承認し、場は冗談を交えた明るい雰囲気に包まれる中でそれはやってくる
街の警備を行なっている兵から急ぎの報告を受けたロベルタは、すぐ様このことを伝えなければと王間へ急ぐ
いつもであれば、王間までのルートを駆けることを叱咤する立場の人間が、血相を変え、力強く王間の扉を開ける
「ロベルタさん?」
「ハァ…ハァ…大変だ」
「そんなに急いでどうしたのじゃ。この場まで走るなと部下にきつく言っておるのはお主じゃろうに」
「す、すみません…。それより大変です!!これを見てください」
アナトが急いで見せるそれには、純潔の乙女、聖騎士団団長ジャンヌ=ピュセルをアストン皇国の守りの神"戦乙女"としてこの地の象徴として祀り、他から接触の一切を断つ旨が記載されているのだった
「な、なにこれ…?私こんなの許した覚えないよ!!」
「この場にいる人間は誰も疑っていないわよ。ほら、ここに犯人の名前が書いてあるでしょ」
アナトがそういいながら指すそこにはグラント司祭としっかり名前が書かれている
「先手を打たれたなこれは…」
「(新時代に内乱はつきものってところだが…)書かれていることは少ないのに深掘りしなきゃならない点が多い。アキレウス、こちらも動かないと」
「ああ。ロベルタ、疲れているところ悪いが動けるものをすぐに呼んでくれ」
「承知した!!」
この時はまだ小規模の内容で抑えることができるだろうと甘い考えでいた守はのちに自身にとって最大の痛手をおうことになろうとは考えてもいないのであった
例の事件のパート1です。重要な項目になるのですが、そんなに長くは書きませんので、早めに質問会に戻ります。




