第5話 唇頂きましたわ
オリビア領でエリカと別れた守はその足で急ぎ王宮のアキレウスを訪ね、その目で見てきた事をアキレウスに話す
守の頼みでオリビア家について調べあげたアキレウスの情報は噂通りのもので守はハワード家への復讐とランス隊長への恩返しを含めオリビア家を救うことを決意する
「アキレウス、ランス隊長への恩返しも兼ねて、今回に限り俺は力を使うぞ」
「今回に限り、ねぇ〜。守がやりたいのならば好きにすればいいさ。父上には俺から話をつけておくから後のことは何も気にするな」
「すまんな。唐突ではあるが、善は急げだ。明日の終礼後に動く。エリカとラーズをあの森に集めるように仕向けてくれ」
「りょーかい」
戦争時代の力を使う時の顔になっているとアキレウスは嬉しそうに返事をする
その一方で、二人の話を端から聞いていたアディリシアが心配そうな目で守を見つめ言う
「守様…本当にいいのですか?」
「ランス隊長はこの平和を勝ち取るために命をかけて俺らの攻撃に繋げたんだ。その妹を救うために、俺の意地で俺らが力を出さないでどうする?」
「ですが…守様の望む平穏な生活からまた遠ざかってしまうのではないでしょうか」
「確かにそうかもしれないが、この件から目を背けて自分の正体を隠し続けることと正体がバレてしまうかもしれないが恩返しのために力を使うことの二択なら俺は迷わず後者を選ぶ」
「私の好きな大魔法剣士様はそういうお方でしたね、守様」
「心配してくれてありがとうな、アディリシア」
「私は守様のものですから」
「お、おう…自分は大切にしろよな?」
「はぁ〜…さっさとアディリシアを貰ってくれないもんかな(ボソッ」
アキレウス、アディリシアと別れた後に寮へ戻り、久々に力を使うためニースに伝え、早々と就寝する
ニースもアディリシアと同様に話を聞いた際には心配そうな顔つきになるが、守の本気の顔を見て、安心するのだった
そして、次の日の終礼後、アキレウスに例の森に来るように言われたエリカやラーズは守たちよりも一足先に現地に姿を現わす
「こんな森に私を呼びつけてどうゆうつもりだ、エリカ?まさか婚姻の返事をこんな風情も何もあったもんではないここでしてくれるのではあるまいな?」
「この大切な場所であなたなんかに答えることは何もありませんわ。それに呼んだのは私ではありませんわ。私もここに来るように言われたのですから」
二人が口論じみたやり取りをしているとその前にアキレウスとアディリシアが現れ二人に告げる
「待たせたなエリカにラーズ。二人をここに呼んだのは俺だが、呼ぶよう指示したのは別の人物だ」
「これはこれはアキレウス様にアディリシア様。王子様や王女様を使って我々貴族を呼びよせるなんてどんな身分の者なんだか…」
「そこのアキレウス王子を使ってお前らをここに呼んだのはこの俺だ」
「守さん?」
「お前は、昨日の平民じゃないか?平民風情が王子様を使うなどどういうつもりだ?」
守とは別の場所から、また一人国の重鎮であるアナトが現れ、そのまま言葉を紡ぐ
「まぁ〜アキレウスは勇者パーティの中でもパシリ…じゃなかった、え〜と…う〜んと…」
「もういいですよアナトさん…主にあなたからパーティ内で一番下の扱い受けてたことは知ってますからっ!?」
「よっ!!さすがは聖騎士団の特攻隊長!変わらずの打たれ強さだね」
「いや、ジャンヌ。これは諦めってやつなんですが…」
「というかなんでアナト姉とジャンヌがいるんですかねぇ…」
「我もいるぞっ!」
「すみません守さん、私もいます」
「ジルにニースまで…わざわざ集まるなんて…」
「あら、そんなの決まっているわよね〜♪」
「「「「守(さん)の良いところを見るため(よ)(です)(じゃ)」」」」
「ど、どうなっているのだ!!」
「ど、どういうことですの?元勇者パーティの皆様まで殆ど全員お揃いになられていらして…守さんのいいところ?私混乱していますわ」
「これが殆どじゃなくて全員なんだよな〜」
「えっ?それってどういうい…」
「はぁ〜…まぁいいか。おい、そこのアホ貴族ハワード家の跡取り、ラーズ!!」
「貴様、平民のくせに呼び捨てだけではなく、私にアホと言ったなっ!?」
「お前はというよりハワード家は喧嘩を売ってはいけない相手に喧嘩を売った。それを今おまえの目の前で見せてやるよ!!」
「きゃっ!?」「な、なんだっ!?」「じ、地面が揺れていますわ!!」
言い放った守は大規模な魔法を同時に発動させる
守が魔法を発動させた事により、大地は揺れ、それに驚いたエリカ、ラーズ、ニースといった大規模な魔法に慣れていない面々は地面に転がりこんでしまう
暫く続く大きな揺れが治ると目の前には昨日までの廃れた森の姿ではなく、神々しく緑あふれる森の姿になるのであった
「いたた…。も、森がっ!!以前の姿に復活していますわ!!」
「ふぅ〜…啖呵切ったのはいいが、久々に力を使ったからさすがに疲れたぜ」
「守さん…やりすぎです。びっくりしました…」
「な、何が起きたというのだっ!!き、貴様、いったい何をしたというのだっ!?」
「簡単なことさ。土系の魔法を使ってこの森の地盤を豊かに改変して、空間系の魔法を使ってこの辺のとある場所の水源をこの森の地下に移動させた。そして水系の魔法を使って水源とこの森を直結させただけだ。そしたらあら不思議。こんなに神々しい森の完成ってな」
「そんな…この短時間で、改変、転移、直結とさらに属性の異なる最上級な魔法をほぼ同時発動なんてできますの?」
「それができるんだよな。この異世界より召喚されし大魔法剣士・聖守様ならな」
「だ、大魔法剣士様ですってっ!?」
「魔王討伐時代には地形を変形させるレベルの魔法を使いこなして魔族を葬り、誰も近寄らせないほどの剣の腕を持つローブで姿を隠した謎の男と呼ばれていた。世間ではそのローブの中身は超イケメンの貴公子だのダンディな紳士だなんて言われもしたが、後者はともかく実力の方はそれ以上の持ち主なんだよな」
「イケメンでも紳士でもなくて悪かったなっ!!」
「それにしても相変わらず、すごい魔法をポンポン使うわよね〜♪」
「アナトがいっちゃダメでしょ、それ。でも平和な世になって守の魔法を再び見るとは思ってなかったけどね」
「うむ。守のあの姿は当時を思い出して、こう胸がゾクッてするのじゃ」
「あちらとこちらの温度差すごいですね…」
「そ、そんな…この辺りの水源なんて…我がハワード家の水源以外存在しないではないか!!」
「ラーズ、帰ってパパに『僕のせいでハワード家の水源が枯渇しちゃいまちた〜ごめんなちゃい』って泣きつくんだな」
「そ、そんな…バカな…ハハハ…」
守が言い放つとラーズは立つ気力すら失い、そのまま地面に崩れ落ちる
「エリカ=オリビア!!」
「は、はいっ!!」
「今回の件は先の大戦でお世話になったランス=オリビア隊長への恩返しだ。お前は何も気にせずにこの結果を受け取れば良い。そして、今回はこの森を取り戻すために手を貸したが、これからはお前が跡取りとして、この地をしっかり管理するんだぞ」
「は、はいっ!!私の力でしっかりと管理致しますわ。…大魔法剣士聖守様、今までの非礼、大変申し訳ございませんでした」
「俺自身が正体を隠していたんだ。そんなことは気にしなくていい」
「いいえ。それでは私の気がすみません。…失礼致しますわ」
エリカはそう言うと守の至近距離まで迫り、自身の唇と俺の唇を合わせてくる
「!?」「あぁーっ!!」「むっ!?」「なっ!?」「えっ!?」「あらま〜♪」「おいおい…」
「大魔法剣士様に非能な私めから返せるものがございません。せめてものお礼にございます。…その唇頂きましたわっ!!」
勇者パーティ全員がアストン皇国に揃っていた事実
ハワード家の霊脈を枯渇させ、オリビア家の重要地を復活させたこと
それらのことよりもエリカが守の唇を奪ったその行動でその場は混沌と化すのであった
エリカの問題篇はこれで終わりになります。次回からのエリカの態度に乞うご期待ください。
残りの三大貴族はいつ出そうか少し悩み中です。