第3話 適齢期ってなんなんだろうな
ゼロから始める筈だった平穏な学園生活を初日で王女、王子、メイド、勇者、恩師(姉)、吸血王女と顔見知りに悉く壊された守は休日にアストン皇国の現王様こと、ヴェルヘルムの元に学園編入の挨拶と身内の件で一言文句を言ってやろうと王宮に訪れる
「ここだと学園と違って正体を隠す必要ないから気が楽だぜ〜♪あ、門番さんですか?ヴェルヘルム様に用件があるので取り次ぎをお願いしてもいいですか?」
「だ、大魔法剣士の聖守様ではありませんかっ!!す、すぐに取り次がせていただきます!!」
「そんなに畏まらないでください…。そして、今は正体隠しているので、大声は勘弁してください…切実に願います」
「も、申し訳ございません!!」
門番の大声に異変を感じ取ったのか、中から一人の女性が現れる
「どうかしたかっ!?」
「(そんなに騒ぐから他の人が来ちゃったじゃないか…ってロベルタさんじゃないか)…お久しぶりです、ロベルタさん」
「誰かと思ったら守じゃないか!!元気にしていたか?」
「お陰様で。ちょうど顔馴染みの人が来てよかったよ」
「私もお前に会いたかったぞ」
「(この女性はロベルタ=カナンと言って、アストン皇国の女騎士団の団長を勤めている。アナト姉さんが魔法の師匠だとすれば、ロベルタさんが剣の師匠にあたる。修行の際は常に真剣に俺の剣を見てくれて、剣技の基礎を教えてくれた。その反面オフの時は気さくで部下思いでこの世界に召喚された俺のことも常に気遣ってくれるとてもいい師匠だ。だが、数々の戦いにより体についた数多くの傷跡や自身の年齢のせいで婚期を逃し、それ系統の話題が出るとすごく凹んだり、ポンコツになるから恋愛がらみの話は基本的にNGだ)」
「聞いたぞ、守。地位も名誉も振って平民として学園に入学することを希望したそうじゃないか!!この地に留まる選択肢を取ったのならなぜ真っ先に私に言わないのだ!!私はお前の剣の師だろう?」
「色々ありましたからね…。勿論落ち着いたら挨拶に来るつもりだったんですが、何分ここまでしてやられたりなことが多かったので…そんな余裕もなくてですね…」
「ああ、その件ならアナトのやつから色々聞いたぞ。なんでも大聖堂でジャンヌに公開告白をされ、皆の前で唇を奪われたそうじゃないか」
「げげっ!?アナト姉広めるの早すぎだろ…」
「微笑ましくていいことじゃないかっ!!…ハハハ…ワタシナンテキスナンテシタコトナイノニ…ハハハ」
誰から振られることもなく自分で話しておいて凹んでいくロベルタに守は冷や汗ながらもなんとかフォローを試みようとする
「へ、平和な世界になったんです。ロベルタさんは美人なんですから、そのうちいい人が現れますって!!何より憧れの騎士団団長様じゃないですかっ!!男たちが放っておきませんって」
「ハハハ…そんなお世辞はいいんだよ…。はぁ〜…なぁ守よ。結婚適齢期ってなんなんだろうな…。皇国に捧げるために剣に生き、努力した結果、騎士団長という肩書きを得たが、筋肉や名はつくが男は寄り付かない…。気づけば身体中癒えぬ傷だらけ。女としての私は死んだも同然だ。だが、それでも私は女だ。私にだって恋愛の一つや二つできたってよくないか?」
「(ヴェルヘルム様に文句をいう前にロベルタさんを元気つかせるのに疲れそうだ…。だが、このまま放っておくわけにもいかないし、何か、何かいい方法は無いのか…)ま、まぁもしですよ?ロベルタさんの思う、いい人が誰も現れなかったら、その…一緒に暮らしましょうか?」
「ま、守?…聞いたぞ!!その言葉、私は忘れないからなぁ〜!!忘れたとは言わせんからな!!」
「(や、やってしまったぁ〜。ない頭で励まそうととっさに言ってしまったが、これは踏んではいけない地雷を踏んだのではないか?)いや、あの…ですね…。あくまで誰もいい人が現れなかった時の話ですよ?それに俺はロベルタさんの弟子ですよ?一緒に暮らすっていうのはあれですよ…」
「フフフ〜♪とうとう私も〜♪弟子からの言葉〜♪きょ、う、は〜記念日だ〜」
「ってき、聞いていない…。こ、これは詰んだか。起死回生の一手が浮かばない。そして、重い」
この時守が言った言葉を後にロベルタが誇張して言いふらしたことで、守を慕う女性陣から総攻めにあおうとはこの時はまだ考える余裕すらなかったのだ
「お、おっと、あまりの嬉しさに少々トリップしてしまっていたか。それで本日は何用で来たんだ?」
「おかえりなさい…。いろいろな用件でヴェルヘルムさんに会いに来たんですが、取り次ぎをお願いしてもいいですか?」
「しょうがないなぁ〜。今は最高に気分がいいからなっ!!すぐに行ってくるから少し待っておれ!!」
「ははは…お願いします」
上機嫌のロベルタの迅速な取り次ぎにより守はすぐにヴェルヘルムの元まで到達する
奇妙なテンションのロベルタを怪訝そうに思うも、守との久々の再会にヴェルヘルムは嬉しそうに守を迎える
「おぉ守君じゃないかっ!!直接会うのは久しぶりじゃのう。学園生活は満足いきそうか?」
「学園生活を送れるように手配してくださいましてありがとうございます。ですが、アキレウスやアディリシアはまだしもジャンヌやニース、ジルまで入学させるのはやりすぎではありませんか?何も聞いてなくて初日からたじたじですよ…」
「バカ息子から初日の話は聞いておるよ。儂もお主のことを考え、断りを入れようとしたのじゃが…。アナトくんに脅は…懸命にお願いされるは、何より娘がっ!!娘がどうしてもというのでじゃな…。父親というのは娘のお願いには弱いのじゃよ…。察してくれぬか、守君よ」
「あまり自分を表現しないですもんね、アディリシアは(アナト姉の脅迫とアディリシアの珍しいわがままに屈してしまったのか…ヴェルヘルムさん。まぁ前者はおぞましいものだからしょうがないか…)」
「だいたい守君も悪いのじゃぞ?学園なんぞに入ると言わずに、さっさとアディリシアを娶ってくれれば儂も安心したものを…」
「いやぁ〜、アディリシアが王女としての使命でも俺をここに召喚した責任感でもなく、一女性として慕ってくれるのでしたらこちらとしても嬉しいのですがね…。イマイチ感情がつかめないんですよ、アディリシアは」
「娘はちゃんと女として守君に惚れておるから、何も心配しなくて良いんじゃがのう…。だいたいのう、そなたは英雄の一味なんだから少しでも好意を寄せる女性は全員娶ってしまえばいいのじゃ。何がそんなに気に入らんのじゃ」
「元の世界では英雄でもなんでもなく、ただの人間だったんですよ?ハーレムというのも悪くはないのかもしれませんが、日本には一夫多妻の制度なんてなかったんですから。それに世間に俺の姿を出していないのですから、そんな人間が王女や勇者といった有名人を娶るなんて滅相も無い。暴動が起きますよ?」
「いっそ世間に公表してしまえばよいものを…。しかし、惜しいのう〜。じゃが、せっかくの希望した学園生活じゃ。大いに学園生活を楽しんでくれ。アストン皇国の大半は守君の味方じゃ。以前のような失態は二度と繰り返させん。何かあればすぐに儂かアキレウスに言ってくれたまえ」
「ありがとうございます。それでは失礼いたします」
ヴェルヘルムとの会談を終えた守は王座を後にするも、先に会った門番兵が守が訪れたこと、先のロベルタとの一件を他の兵士に広めたため、それに絡まれることとなる
「…やれやれ…。守君も大変な性分をしておるわ。アディシア!!隠れて話を聞いておるとは悪い娘め」
「バレていたのですか、お父様。守様がいらっしゃったと宮中で騒ぎになっておりましたので、気になりまして」
「じゃが、聞いた通り一国の王女としてではなく、一個人として守君を恋慕しているのなら機会はあるぞ」
「お父様のご支援、誠にありがたいです。私はお父様もご存知の通り、守様を召喚したときより守様をお慕いしております。共に送る学園生活で守様に気に入っていただけるように私も頑張ります」
「それでこそ、我が娘。パパは応援している。そう遠くない未来で孫の顔も見たいのう」
「きゃっ。孫だなんて、まだ早いですよお父様。いつかはお見せしたいですが」
「うむ。…ところであの見たこともないような浮かれ具合のロベルタはどうしたのじゃ?正直言って気持ち悪いぞ」
「…後で本人に聞いてみましょう」
前回に登場したアナトと今回に登場したロベルタの二人が魔法、剣術の師匠です。二人から基礎を学び身につけた技術を応用した結果、主人公は大魔法剣士という名誉な名前で世に広がっています(姿は公にされていない)。現状登場人物について触れる話が多いのですが、もう一人触れたい人物がいますので、次回からはそのパートに触れていきます。