第28話 地の果てまで追いかけますけど
借り物競争の達成者はゴールが無効になった守を除き、二人という結果に終わり、MVPを獲得できるのがジャンヌかジルかという二択になった
こうなるとどちらのこなしてきたお題が愉快だったかというアキレウスの発言により、選考結果はジルがMVP獲得という方向で結論つく
発表された際に、初めての単体でのMVP獲得にジルはとても喜ぶのだった
そして、体育祭のすべての種目が終わり、残りは閉会式のみとなるのであった
「ここまでお送りしてきました体育際も最後のヴェルヘルム様の挨拶のみとなりました。初めての試みでしたが、良くも悪くも色々知ることができて、実況としてとてもいい経験をしたと思います。もし次回がありましたら、是非にもこの役割をこなしたいと思います。それでは実況のカアル=カスターでお送りいたしました。ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました」
「…最後は綺麗に締めたなあの実況」
「っていうか、名乗ったの初だよね?」
「最初ですら名乗らなかったのにのぅ。それにしても、実況をやるためにつけられたような名前の気がするのじゃ…」
「そこは多分触れちゃだめなんだと思いますよ、ジルさん」
「次やるとしたらということは次の年にということになると思いますが、それまでこのお話が続いているのでしょうか?」
「アディリシア、メタい発言はやめてくれ…」
壇上にあがるヴェルヘルムは閉会の挨拶と共にMVP獲得者に向け、言う
「皆、初めての試みで戸惑う部分も多かったじゃろうが、楽しんで参加できていたのならばこの催しを許可した儂としても満足じゃ。前まではこんなに平和なことができる未来を想像することすらできなかったのでのぅ…。若者達が戦地へ赴く為でなく、笑いながら切磋琢磨できる今の世を今後も維持できるよう我々は努力を惜しまない。学生諸君、今日は愉快な物を見せたもらった。感謝するぞ。最後に、MVPを獲得した者達はこの後、王宮にくるように」
ヴェルヘルムの挨拶とともに体育祭は終わりとなる
そして、MVP獲得者に該当する守、ジャンヌ、アディリシア、ジル、エリカの五名は閉幕とともに王宮へ向かおうとする
五人と別れる前にメイはそれぞれが何を望むのかが気になり、該当者達に問うのだった
「結果的にここにいるメンバーでMVP全て獲っていますけど、皆さん何を望みやがるのですか?」
「私はジルと二人で一つだからね〜。ジルと相談してからかな」
「我は最後に獲ったものがあるからの。本命は吸血族の領土に守を招待させてもらうのじゃ。ジャンヌとの方は二人で守にエスコートでもしてもらうのじゃ」
「そこが妥協点だよね〜。ジルは邪魔だけど、他からの介入がないのが救いだと思うことにするよ」
「そっくりそのまま返すのじゃ」
「私も守様とデ、デートがしたいです。どこかに行きたいとかではなくてただただ隣にいるだけでいいのですが、一日中守様といることを望みたいです」
「私もオリビア領に守様を招待して一日過ごすことを願おうと思っています」
「…全部俺が絡んでるじゃねぇか…。これ近辺の休日が全て消えるんじゃね?」
「女の子がこんなに求めているのですからもう少し喜んでもいいのではないでしょうか?守さん」
「どっちかというと部屋でゆっくり過ごしている方がいいかな〜って」
「えらく余裕ですねニース」
「私は守さんのメイドですからねっ!!遠征していてもお供いたしますから」
「ニース、聞いてなかったの?ヴェルヘルム様の権限で誰にも"邪魔"は一切させないんだよ?」
「ぐぬぬ…。勢いで行けるかなと思っていたのですが、やはり無理ですか…」
「みなさんの使い方が予想通りすぎる答えで面白みのかけらもありません。守様は先ほど行きたい場所があると言っていましたが、どこですか?私、気になります」
「「!?」」
ジャンヌとアディリシアは守が元の世界に帰ることを望んでいるのだと思っているためにメイの投げかけに緊張が走る
「ああ。まぁ大したところってわけでもないんだが…」
「守…言いにくいんだったら無理しなくていいんだよ?」
「みなさんを悲しませないために言いよどんでいるんですよね?」
「うん?なんのことだ?言いにくい?」
「守様は元の世界に帰りたいと願うんですよね?」
「「「!?」」」
「いや、そんなことは願わないけど…」
「「「「「え?」」」」」
「なんだよ?俺に帰って欲しいのか?」
「そんなわけないもんっ!守ほどの人間が"行きたい場所がある"なんて言うから、元の世界に帰りたいって思っちゃったんだよ」
「ああ、そういうことか。実は二箇所行きたい場所があってな。一つは戦死者たちが眠っているあの墓に挨拶に行きたいだよ」
「確かにあの場所はあの事件以降守様は出入りできない状態になっていますからね…。お父様の力を借りたいということですね」
「そういうこと。戦が終わってから戦争に関わり散っていった皆に挨拶できてなかったからな…。だいぶ時間が経ってしまったが、これを機に共に戦った友たちに語りかけたかったのさ」
「管理側が管理側なだけにある意味では敵地になってしまいましたからね…。もう一つの場所はどこに行きたいのでしょうか?」
「今話題に出た帰りたいとは違うんだけど、俺が召喚されたあの大聖堂にな。あそこはあれ以来立ち入り禁止だろ?」
「確かに守様を召喚してから誰もが出入り禁止になっていますが、なぜあそこに行きたいのでしょうか?」
「この世界に来て色々な魔法を極めたけど、世界を跨ぐほどの移動魔法は習得できなかったからな。曲がりなりにも魔法使いとしては探究心であの魔法陣を見ておきたくてな」
「それはやはりいつかは逆召喚魔法を習得して元の世界に戻りたいということでしょうか?」
「いや、今更向こうに帰ろうとは思わないさ。さっきも言ったが、あくまで探究心だよ。心配するな」
「ホッといたしました…」
「ねぇ。安心したよ…」
「仮に守様が元の世界に帰るなんて言い出しても、地の果てまで追いかけますけど」
「本当にブレませんね、メイさんは…」
ニース、メイと別れた一行は王宮のヴェルヘルムの元へゆき、先ほど個々が話していた願いを話す
守の件以外はそこまでの難易度ではないために、すぐに承諾される
「守くんの願いはすぐに承諾したいが、色々問題があってのぅ。少し時間をくれないか?必ずいいようにするから」
「問題があるのは俺も心得ていますから。いつもご迷惑をおかけいたします」
「いやいや、何もかもこの世界の者がいけなかったのじゃ。王である儂くらいは君のために無茶も通そう。おそらく墓参りの方はアナトを監督として付ければ向こうも許可を出すじゃろう。ところで女性陣はみんな君を熱望しておるのじゃが、誰の願いからやるのじゃ?」
「俺に拒否権はないようなので誰からでもいいんですけど…」
「私は守様と過ごせれば充分ですのでいつでも構いません」
「我は仲間に一度断りを入れなければならぬのでな。少し時間が欲しいのじゃ」
「私もオリビア領の方で準備をさせたいので、少しだけ時間を頂きたいですわ」
「となるとまずは私とジルのデートからだねっ!」
「一番疲れそうなやつが最初ってわけか…」
「むっ!失礼なやつなのじゃ」
「可愛い女の子を一度に二人も堪能できるんだから、ありがたく思わないと罰当たりなんだよ!」
「はいはい。楽しみにしてますよー」
エリカやジルは自身の庭に守を招待するために準備を要するため、アディリシアはいつ、どのタイミングでも大丈夫だということで、ジャンヌ&ジルの組み合わせが次の休みに守と過ごすことになるのであった
長かった体育祭編がこれで完結となります。次回より日常パート、MVP権利行使パート、ニースとの出会い編を入れながら話を進めていきます。