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第1話 貴方との生活を取り戻すために

「…本当にいいんだな?」


嘗て共に魔族討伐のために旅をしていた親友であり戦友の、そしてこの国の王子であるアキレウスが守に問いかける

その傍らにはこの国の姫でもあるアディリシアが不安そうな目で二人のやり取りを見ている


「ああ。色々と世話をかけたな」


「何言ってんだ、俺とお前の仲だろ?些細なことは気にすんなよ」


「お前が戦友で本当によかったよ。だが、明日からは俺はただの平民(・・・・・)。一国の王子とこうして話すのはこれが最後だな」


「何かと接する機会はあるだろうさ。それよりもだ、最後にもう一度聞くぞ?守がこの世界にしてくれたことは感謝しきれない。今望むのなら一生楽して生きていくこともできるんだぞ?」


「私も…守様のためならばこの身の全てを捧げます…」


「すまんな、アディリシア。以前までの俺なら喜んで飛びついたさ…。だけどな…」


「いや、それ以上は言わなくていい。お前の意思は充分に伝わった。こんなに美人な王女にこう言われても靡かないんだ、その選択は間違ってないんだろう。今日からお前が住むことになる学生寮に案内する。明日からの学園生活大いに楽しんでくれ」


「助かる」


明日から通うことになる学園を目にした後、守はアキレウスとアディリシアに今日から住むことになる学生寮へ案内される


「二人とも少しの別れだな。そのうち王宮には挨拶に向かうよ」


「そうしてくれ。父上も喜ぶだろうさ。たとえ身分を捨てたとしてもアストン皇国はお前をいつでも歓迎するよ」


学生寮に案内された守は、アキレウスとアディリシアと握手を交わし、別れの言葉を述べて寮へと足を進める


「(日本では実家暮らしだったから学生寮というものがとても新鮮だ。…当然男子寮だけどな。いや、この世界に召喚されていろんな人に良くしてもらったが、男で友と呼べる人間はアキレウスだけだったんだ。他に男の友人が作れるかもしれないこの環境に大いに感謝しよう)」


守は期待を胸に自身の部屋の扉の鍵を開け、ドアノブを捻るとそこにはいる筈のない少女が待ち構えている

その少女は、守が以前から見覚えのあるメイドであり、おかしな光景に素っ頓狂な声で尋ねてしまう


「えーと…何故いるのでしょうか…?ニースさん?」


「私がここにいてはいけませんか?守さん」


「(目の前にいるメイド服姿の少女はニースという。嘗て吹雪が酷い地域に遠征した時に魔族に襲われていたところを助けた少女だ。恩返しがしたいと言い出し、後にここアストン王国の王族御用達のメイドとして働いていた筈なんだが…)いや、ここ男子寮だし。それ以前にニースは王族御用達のメイドだろ?何故ここに?」


「守さんが学生生活をするのにあたり、守さんの身の回り(・・・・)のお世話をするようヴェルヘルム様に言われました。学園側にはヴェルヘルム様より直接許可をいただいていますので、この寮のこの部屋に私がいても何も問題はありません」


「どこの世界にメイドを自室に置いておく学生がいるんだよ…しかも男子寮に…」


「ここにおられるではありませんか」


「いやいや、ヴェルヘルムさん達から聞いてませんかね?俺は大魔法剣士としての肩書きも地位も捨てて、()()()()()として学園生活を送りたいんだよ。知り合いがいない新たな環境でな」


「その話は聞いております。しかし、生活レベルが低い守さんを支えてほしいということでしたので、私が派遣されました。…そうでなくても自ら志願していたでしょうが(ボソッ」


「ん?最後の方が聞き取れなかったんだが…」


「な、なんでもありません。守さんのサポートをするために私も肩書きを捨てて来たのです。守さんにいらないと言われますと、私は行く宛がありません。どうかお側にいることを許してください」


「はぁ〜…。ま、まぁメイドがいるくらいで"平穏な生活"が壊れるわけでもないし、その相手が勝手知ったるニースだったことを良しとするか」


「ありがとうございます。そして、これからよろしくお願いいたします」


「(同じ部屋に住むことを承諾したが、童貞の俺には色々と刺激が強いので空間を分けさせてもらった。ニースは『気にしていないからそんなことはしなくていいのに…』というが無理な話である)」


翌日、守と同じく学園の制服の姿を披露するニースに嫌な予感を抱きながらも、なんだそれはと問いただすと『身の回りのお世話をするといったじゃないですか』と言われてしまい、守はやられたと思いながらも諦め半分で共に学園へ向かう

意気込みの強さからニースのことはとりあえず諦め、新たな環境だと気合を入れ直す守だったが、校門に着くとそこにはつい昨日別れを告げ、しばらく会うことがない筈であった王子と王女がそれぞれ教師服と制服姿で待ち構えているのであった


「お、お前ら二人揃ってなんで…」


「私は今日から守様と同じクラスで学ばさせていただきます。よろしくお願いいたします」


「そして俺はお前らの担任というわけだ。ま、よろしくな、守」


「よろしくなじゃねぇよっ!!そんな親しく話をしていたら俺の平穏な生活がクラッシュするだろっ!!」


「はははっ!!守よ、こんな所で俺らに叫んでいる時点でアウトだろ?」


「私は王女としてではなく、ただのアディリシアとして守様と共に学園生活を送りますので、何も心配は要りません♪」


「いやいや、あなたの意識ではなくてですね…。旅の最中素性を隠していた俺ならまだしも、世に普段から顔出ししている王女様が一般人を語るのはどう考えても無理があるでしょ…」


「守さん、嘆いていてもしょうがないですよ。どうせ平穏なんて物はすぐに壊れるのです。現実を受け入れて、早く教室へ行きましょう」


「これに無反応ということは、ニースもグルだな。よくよく考えればニースが来た時点で察せれる範囲だったか。ちくしょう!!完全に謀られたか」


「じゃあな守!!楽しいスクールライフってやつを()()送ろうな♪」


悪態ついた笑顔のアキレウスに苦虫をかみしめたような表情の守は、どんよりした気分のまま教室へ向かう

その側にはアディリシアやニースが侍っていたため、教室に入るや否やを他の男子たちが怪訝そうに守を見つめる


「(そりゃあそうだよなぁ…どこの世界に王女様が嬉しそうに腕組みをする一般人がいるんだって話だよな。はぁ〜俺の平穏な学園生活が…。いつか殺すアキレウス!!)」


なんて嘆いている守とアディリシアの前に一人の煌びやかな女性が話しかけてくる


「アディリシア様、ご機嫌麗しゅう。オリビア家次期当主のエリカと申しますわ。本日より級友として、よろしくお願い致しますわ」


「オリビア家の方ですか、こちらこそよろしくお願い致します」


「ところで王女様ともあろうお方がそのような男に侍っているなんて、お顔を拝見したことがありませんが、その男は高貴な身分か何かでしょうか?」


「いや、俺は()()()()()だ。聖守っていう。こっちは身の回りの世話をしてくれてる侍女のニースという。同じクラスになったのも何かの縁だ。共によろしく頼む」


「まぁ!!ただの平民が私に話しかけるなんて烏滸がましい。アディリシア様もなんでただの平民なんかによしなにされていらっしゃいますか」


「彼の親族が王族に仕えていたのです。幼い頃より彼とは懇意にさせて貰っています。私にとって彼はとても大切な方なのです」


「そ、そうなのですか。ま、まぁ?王女様繋がりでとりあえずよろしくしてやりますわ」


「そいつはどーも」


「よろしくお願い致します」


「(オリビア家といえば、長男のランス=オリビア隊長が先の大戦の際に俺らの最大級攻撃の時間稼ぎを買って出て亡くなっている。魔王討伐後の今の世界では長女であるエリカが支えているのだろうが、三大貴族の中でオリビア家は随分落ちぶれてしまっていると聞いたが…。あんなキツめの性格だが、裏ではきっと苦労しているに違いないだろうな)」


その場から去るエリカの後ろ姿を見ながら考えている守を不思議そうにアディリシアは尋ねる


「どうかされましたか?守様」


「…いや、オリビア家ときいたから、ランス隊長のことを少し思い出しただけだ。それよりも新入生代表挨拶があるんだろ?周りの目が厳しいから早く行こうか」


「場所は大講堂ですね。こちらです守さん、姫様」


三人は自身たちが所属するクラスを一通り確認すると、代表挨拶が行われる大講堂へ向かい、指定された位置で待機する


「(そういえば、王女様が入学するのに新入生代表挨拶がアディリシアじゃない?いくら身分を操作していると言っても学園側は把握しているよな?王女以上の適役なんて誰が務めるんだ?)」


「今年の新入生代表は彼女にお願いいたします。ではジャンヌ様よろしくお願い致します」


「はい!!」


アナウンスでジャンヌと呼ばれた小さな女の子は壇上に上がり皆に向かって代表挨拶を行う


「って、ジャンヌぅ!?」


そのジャンヌと呼ばれた少女は守が見慣れていた少女であり、今一番会いたくなかった人物なために状況が理解できないまま素の声で叫んでしまう


「皆さん、初めまして!!聖騎士団団長、勇者をやっていました、ジャンヌ=ピュセルです。肩書きなんて気にせずに仲良くしてくれればと思います!!…ですが少しだけ勇者として語らせてください。魔王討伐という厳しくもあり、辛くもあった苦難を乗り越え、こうして平和な世を作れたことを私はとても誇りに思っています。ただ、この平和を作ったために私は一番失いたくない"者"を失ってしましました。失ってしまったのは私自身のせいもあり、後悔し、色々考えたのですが、やはり貴方を失うのは辛いです。はぁ〜…聖守様!!勝手なことは承知ですが言わせてください!!私は貴方との生活を取り戻すためにこの学園にきました!!」


事情を一切知らない学生たちがざわざわし始める中でジャンヌは壇上から守にめがけて言葉を話した後、混乱している守の目の前にきてそのまま唇を合わせる


「お、おい…お前…」


「今更と言われても構いません!!もう貴方の心に私がいなくても、もう一度だけ私にチャンスをください!!」


「「「え〜〜〜〜〜っ!!」」」


守とジャンヌのキスで会場が騒然とする中で守は平穏な学生生活を送りたいと願い出てから一日も持たずに元恋人によりそれが崩れ、なくなろうとするのであった

妄想の果てにあるものとは全く違うジャンルでの新連載になります。基本的には妄想の果てにあるものを優先的に書くため、箸休めでこっちを進めていこうと思います。元ネタはあるのですが、それとは違うような展開に持っていきたいと思います。それではこちらの作品もよろしくお願いいたします。

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