悪夢の日
うわぁーーーー!!!
俺は足を折られ堪え難い痛みに発狂した。そして悪夢でも見ているのか?と思った。目の前で俺の大切な人がドクロの黒い仮面の男に殺された。その人は捨てられていた俺を拾って育ててくれた恩人だ。
「じいちゃんを!!......お前......クッ............くそぉーーーー!!!」
俺は脳がはち切れそうなほどの怒りに襲われた。同時に足を折られ何もできない自分にも怒りが込み上げた。
「こいつは、罪を犯した。こいつの犯した罪は許されるものではない......あさとリュウ......」
あさとリュウ!何で俺の名前を?
じいちゃんは昔、魔導士だった。そして俺によく修業をつけてくれた。じいちゃんは森の主の巨大グマをデコピンで倒すくらい強かった。そんなじいちゃんをこいつは......
「お前......誰なんだ!?」
仮面の男は倒れている俺を見つめ、バカにするかの様に少し笑って言った。
「フッ、言っては仮面をしている意味がないだろ?......俺は無駄な殺しはしない主義だ。お前は生かしておいてやろう」
こいつ!なめやがって!リュウは仮面の男をにらみつける。
「おぉ、いい目をするんだな?お前は......俺を殺したいか?」
昔、じいちゃんが言っていた。ワシは仕事上、悪い事をした奴を最悪殺してでも捕まえなければならなかった。そして、どんな悪人でもワシは殺したくはなかった。なぜなら命とはどんな悪人の物でも本来奪っていいものでは無いからだって。じいちゃんは動物だって食べる目的以外で殺さない優しい人だった。俺はじいちゃんを尊敬してた。でも......ごめん......俺は......
「ぶっ殺してやる!」
じいちゃんの教えには従えない。俺はこいつを許さない。今が駄目でもいつか必ず......
「ならまずは俺をこの広い世界から見つけてみるんだな......無理だろうが......俺はこの世界に変革をもたらす者だ」
すると仮面の男はぶつぶつと呪文を唱えると魔法陣が出現し仮面の男は姿を消した。
「くそーーーー!!!......絶対に見つけ出してやる!」
次の日、田舎のパヤックという村にある俺たちの家から、まだ1番近いテキル支部から魔導士が5人やってきた。俺は魔導士達を現場の森に連れていった。仮面の男が現れたのは俺とじいちゃんで森で修業をしている時だった。そういう事情を話し終えると現場の写真などを撮り始め、撮り終えると魔導士達は帰っていった。手掛かりは仮面をつけていた事ぐらいで何も無い。リュウは魔導士達に任せていてはいけないと思った。
「タクト!俺、この足が治ったら仮面の男を探しに行く!」
タクトとは俺の家族であり親友でもある男だ。俺と同じで捨てられていた所をじいちゃんに拾われたらしい。おれはこの森の中に捨てられていたらしいがタクトは貧民街のベランという場所で死にそうになっている所をじいちゃんに拾われたらしい。
「......行くってどこに?......闇雲に探しても、そのドクロの仮面の男は見つからないだろ?それに俺たちまだ14歳だぞ!?......もし見つけれたとしてもそれからどうするんだよ?じいちゃんが負ける相手だぞ!?」
タクトの言っている事は正しい。タクトは俺よりも頭が切れるしタクトの言ったことが間違っていた事はない。でも俺はこんな状況でじっとなんかしてられないんだ。
「お前がなんて言おうと俺は行く......止めても無駄だぞ」
「ダメだ......今よりもっと強くなって歳もせめて18になってからだ......あと俺も一緒にってのが条件だ」
「なんでお前にそこまで決められなくちゃいけないんだ!?」
「リュウの言う通りにしてたらお前が死んじまうだろ?」
「死なねぇーよ!!」
「死ぬって!」
「お前はじいちゃんが殺されて何でそんな冷静でいられんだよ!?悲しくねぇーのかよ!?」
「悲しいに決まってんだろ!!......でもこのまま行かしてお前が......お前が死んだら......もっと悲しい......俺には......もう......お前しかいないんだよ......家族......」
リュウは冷静を取り戻し言った。
「......ごめん......俺......なにも考えてなかった......今回もお前が正しいよ」
「フッ......強くならないとな......早く......」
「ああ、絶対俺達で捕まえようぜ!」
こうして俺たちは仮面の男探しの旅に出ることになったのだ。
俺たちは4年後の出発の朝をむかえた。
「じゃあ、いってくんぜ!みんな!」
俺たちを見送ろうと村のみんなが集まってくれていた。中には泣いてくれている人もいる。今までは思わなかったが赤ん坊の時から18年間ずっといたこの村を離れるんだ。やっぱり寂しいもんだな。
そんな事を思っているとハルが言った。
ハルとは俺やタクトと同い年の昔からよく遊んでいた女の子だ。
「2人が居なくなると私寂しい......でも、我慢する、私だっておじいさんの事大好きだったんだもん!だから絶対見つけてきてね。あと......絶対に帰ってきて」
言われなくても絶対見つけるし、絶対に帰ってくる。絶対に......
「おう!任せとけ!なあ、タクト!」
「......ああ、任せとけ」
すると、リュウ達の周りにできている人だかりがいきなり割れて、そこから村長がこちらに歩いてきた。そして言った。
「リュウ、タクト......わしは正直、お前達を行かすのは反対だ......4年待ったとはいえお前達はまだ若い、心配なんじゃ......でもお前達がじっとしておれん気持ちも分かる。それに何よりあの人の修業を受けていた2人じゃ。武はこの村で1番じゃろう......お前達に任せてよいな!?......よいなら受け取れ、これはあの人がもしも自分に何かあった時にとワシに預けていたもんじゃ」
そう言って差し出されたのはチャリチャリと音のする袋。おそらくお金だろう。じいちゃんは俺たちのためにこんな物を......
「サンキューな、受け取っとくぜ!」
俺達は仮面の男探しの旅に出発した。
俺達は村を出ると1時間ほど歩き、タクトの指示で天山バスというのに乗った。この天山バスで1番近い都市ラスティンに向かい、そこで俺達の住んでいるテキル地方のすべての都市と繋がっているドルフィーユ列車というのに乗るらしい。
でもタクト、何でこんなに村の外のことに詳しいんだ?
俺なんて天山バスって言葉は聞いたことあるけどそれ以外は何も......
「なあ、何でお前そんなに外の事に詳しいんだ?」
頭のいい奴だとは思ってたけど、こんなに外の事に詳しいとは思わなかった。
「まあ、外の事はなるべく知っておいた方が良いと思って、村長の家によく色々と教えてもらいに行ってたんだ」
「............あ、そうですか」
修業しかしてなかった自分が恥ずかしい......タクトがいなかったらヤバかった。
「あ、そうそう。このバスでラスティンに行くまで1時間ぐらいかかる。今のうちにこれからの事を話しておこう」
俺の家族は本当に頼りになるな。本当にいてくれてよかった。
「そうだな、今の内にどこに行くか決めとくか」
「乗る電車はテキル地方のどの都市でもいける。俺はやっぱり王都が1番情報が集まるからいいと思う。それ以外の所も一様情報がないか探ってみた方がいいけど、1番期待できるのは王都だな。力のある所に情報は集まる」
王都、確かに情報は集まってきてそうだな。
「だな、まず王都を目指すか!......あ、でも金大丈夫かな?......王都に行くってなると結構、金がかかるんじゃないか?じいちゃんにもらった金と俺達が元々持ってた金で足りるか?」
これは大事な問題だ。旅には金がかかる。王都に行くなら尚更だ。
「じいちゃんにもらった金、見た所50万メルスはある。それだけあればしばらくは金の心配はいらない。それに俺の貯めてた5万メルスも持ってきてる。リュウ、そういえばお前にも全財産持ってきてくれって頼んでたよな?いくらあるか確認しときたい。出してくれ」
チャリンチャリン
数枚のコインの音がバスの中に響く。
「10、20、30、130、230、330、430............430メルス............お前、何でこれだけしか無いんだよ!?」
「定食屋のおっちゃんに溜まってたツケ返したらこんだけしか......」
「だからツケ払いなんてやめとけっていつも言ってただろ!?......はぁーー、もういい、まあ金はあるんだし......それより気になってた事があるんだ」
タクトの顔つきが変わった。気になってたこと......なんだ?
「じいちゃんのお金をもらう時、村長が言ってた『これはあの人がもしも自分に何かあった時にとワシに預けていたもんじゃ』って」
「うん、それで?」
「わかんねえーか!?......その......なんか......自分がもうすぐ死ぬって分かってたみたいな言い方じゃないか?」
じいちゃんが自分が死ぬってわかってた?......それが本当ならじいちゃんは......仮面の男が誰だか......
「まあ、俺の考えすぎかもしれないけどさ、もう歳だからいつ死ぬかもわからないって方の可能性もあるし......」
確かにそうだが......ちょっと気になるな......
じいちゃんが仮面の男が誰だか知ってるなら、じいちゃんの昔の事を調べれば怪しい奴が出てくるかもしれない。まずは昔のじいちゃんの事を知っている奴を探さないとな。
「......タクト!このバスまだかよ!?」
「さっき乗ったばっかだろ!?......焦ってもいい事ねぇーぞ!」
「分かってるけどよ、早く王都に行きてぇーんだ!」
「まあ、分かるけどよ......今、俺達はすごく危険な所に向かってるんだ!気引き締めて慎重に行かないと駄目だ」
「......どういう事だ?」
俺たちが今向かってるのはラスティンっていうただの都市だろ?
「どういう事って、俺達は今どんどん都会に向かってるんだぞ。俺達の村は田舎だったから事件なんて今回の件ぐらいしか無かったけど都会はそうはいかない。犯罪の数に魔導士も追いついてないって話だ」
あぁ!確か、じいちゃんが読んでた新聞を見せてもらった時に、爆撃だとか強盗だとか殺人だとか物騒な事がいっぱい載ってたな。だから村のみんなもあんなに心配してたのか!
「なるほどな。なんだか大変そうだ」
それから40分後、俺達はラスティンに到着した。
バスを降りる時、タクトの前を歩くリュウが立ち止まり、タクトの方を振り返って言った。
「あ、そうだ!言っとくけど俺は仮面の男を見つけるまでは村に帰るつもりはないぜ?」
「フッ、お前がそういう奴なのは知ってるよ......あと......言っとくけど俺も帰る気ねぇーから」
「そうか......待ってろよ!仮面ヤロー!!タクトと俺ですぐお前んとこに行ってやる!」
そして、俺達はバスを降りラスティンに足を踏み入れたのだ。