私が無愛想になったのは
まだ開きたくない瞼に朝日が突き刺さる。
毎朝憂鬱の知らせを健気に届ける目指し時計のアラーム音に叩き起こされ、ふらふらと洗面台へ向かう。
月曜日、それは一週間において一番面倒な曜日だ。
これから1週間が始まるということに対し、気怠さを感じない者などいないだろう。
因みに火曜日は月曜日の疲れが取れ切れず一番やる気の出ない曜日で、水曜日は日曜日から三日後でありながら土曜日まで三日間という一番憂鬱な日、木曜日は「あれ、まだ木曜?金曜な気がしてたわ」的な現象に陥る一番虚しい曜日、金曜日は溜まりに溜まった疲労に心身ともにボロボロになるため一番元気の無い曜日だ。
要は、平日に愉快な日など無いのである。
永遠と続くサイクルにゴールは無く、それは形こそ変わりつつも死ぬまで私達を縛り続けるのだ。
故に面倒。
いつまでも同じことの繰り返しならば、続けるために努力することに意味など無いのかもしれない。
私は口にメロンパンを牛乳で流し込みパジャマから制服に着替えながら、まあ別にどうでもいいことであると思う。
いつもの階段を降り、いつもの通学路を歩く。
目はまだ冴えきっておらず、電柱にぶつかりそうになるのもいつものことだ。
校門をくぐり廊下を歩く頃には目が覚めていることも、至っていつもどおり。
そんなこんなで私はいつもどおりを今日も実行する。
そのことに意味など無い。
ただこの私、佐香みのりがとりあえず今固執することができること。
それは…
「…なにジロジロ見てんの?」
それは、今隣でそっけなく机に肘を付いている幼馴染みの糸井花燐を振り向かせてみたいということだ。
振り向かせたいと言っても、恋愛的な意味ではない。
ただ、少し変わってしまった幼馴染みともう一度仲良くなりたいだけである。
「いやあ、ごめんごめん。」
私はやる気の無い笑みを浮かべる。
彼女は随分とぶっきらぼうになってしまった。
昔は私がどこへ行こうとしても後ろをちょこまかと着いてきたというとに。
今では不良とまでは行かないが限り無くそれに近く、周りからは近寄り難い存在になってしまった。
花憐は軽く舌打ちを噛まし、また机に突っ伏しだした。
彼女には、小学生の頃から気力が無くなると机に伏せて視界をシャットアウトする癖がある。
こうなってしまうと彼女は、その顔が木製の表面から離れるのを待つ以外どうしようもない。
色々変わってしまった彼女だが、その癖と真っ黒な髪だけは安定のようだ。
髪の方は、小学生の頃は肩下にかかるほどの長さだったのが今では腰まで伸びたのだが。
私は諦めて、カバンの中から教科書やノートの他に頭がおかしいのではないかというほどの量の学校指定のワークや資料集を机の中にがさつに押し込んだ。
私は机に顔をうずめながら、うーうーと小さく唸る。
まただ、また失敗してしまった。
まず、ずっと視線を向けられていている理由を聞こうとすれば恥ずかしくなって喧嘩調になってしまった。
そして失敗したなと、思わず舌打ちをしてしまったが、あれも絶対誤解されただろう。
ああ、どうして上手くいかないんだろうか。
みのりはあくびをしながら背伸びをしている。
口に空気が吸い込まれる度に、彼女の肩に届かないほど短い髪が日光を乱反射しながらさらさらと揺れる。
常に眠たそうな雰囲気とは裏腹に、みのりの目は真っ直ぐで透き通っていた。
机に突っ伏しているとき、私の瞼の裏にはいつもこの目が写る。
その瞳には、なぜか素直だった頃の私の姿が写っている気がするのだ。
「あの… えっと、なに?」
みのりが不審そうにそう声をかけてきてはじめて私がみのりに視線を固定していたことに気付く。
何かを言いたい。
言い訳でも、弁解でも、謝罪でも、なんでもいい。
せっかく彼女に話しかけられたのなら、何かを言って起きたいのだ。
「…知らない」
何を言うか迷う前に反射的に出たのは、よりにもよってそんな言葉だった。
みのりは「じゃあいいや」みたいな相づちをすると、そっぽを向いてしまった。
やっぱり、私が無愛想になったのはみのりのせいだ。
私は花憐に嫌われてしまったのだろうか。
思い返せば中1の頃ぐらいから、私は花憐から意図的に避けられるようになっていた気がする。
話しかけてもそっぽを向かれるのもちろん、最近はたまに横目で鋭く睨まれることもある。
私は彼女に何かしたのだろうか。
考えてみようと思ったが、途中で面倒なのでやめておくことにした。
花憐は朝会が始まっても机に顔を密着させながらうつむいている。
よく先生に怒られないものだなと少し感心してしまった。
HRが終わり間もなく授業が始まった。
こっそり花燐のノートを見ると、版書が途中で途切れている。
眠そうな訳でもなさそうだが、いつもと比べ上の空のようだ。
授業中こんなでもテストはそこそこ良い点数を取るものだから不思議である。
花燐が溜め息をつくと、彼女の腰まで伸びた髪が微かに揺れた。
雪のように白い肌と対照的に、どんなに濃い色でも打ち消してしまいそうなほど真っ黒でドライヤーをかけた直後のようにさらさらだ。
触わり心地はきっと柔らかいのだろう。
触れてみたい、と手が申し訳程度に彼女の方へ向いた。
幼い頃、届かないとわかって雲に手を伸ばしたように。
震えながら、ゆっくり、少しずつ、ほんの少し、私の左手が彼女に近付いていく…
退屈な授業は終わり、時計は三時半過ぎを指していた。
直ちに下校する生徒や友人とたむろする生徒、掃除へ行く生徒などがいつもどうり見受けられる。
いつもと違うところは、激しく水滴が打ち付けられる窓の外側だけである。
大粒で激しいため土砂降りと言える雨だが、今朝の天気予報では散々注意を呼び掛けて居たからか傘や迎えなどほとんどの生徒が対策をとっているらしい。
私は折り畳み傘を鞄に常備しているため心配は無い。
少々小さいが、一人ならば十分に雨は防げる。
私は急ぐことも躊躇う事もなく玄関へ向かった。
靴を履き換え、傘を開き、溜め息を1つついてから外へ出た。
傘に雨粒が当たる衝撃は想像よりも少し強く、肌寒さを感じるにも関わらず空気は閉じ込められたように重い。
他の生徒はほとんど数人で集まって帰っている。
一方私は独り、身を震わせていた。
別に今更悲しいことでも無いし、恥ずかしく思う必要も無い。
しかし、気分は中の下から下の上辺りに下降している気がする。
私は曇った溜め息を吐く。
「あのさ…」
誰かの声が聞こえた。
これが私に向けられたものだったらな、と思ってしまう私は相当なものだ。
「あの、花燐…!」
私は脳が理解する前に声の方向へ振り向いた。
熱いフライパンに触れた指をすぐ引っ込めるように何も考えずに。
「傘、入れてもらえたり… しないよね… は… はは…」
そこに居たのがが私の瞼の裏に引っ付いて離れない人だと気づく前に。
「ごめんごめん… じゃあ私帰るから!」
みのりは作り笑いを浮かべながらそう言うと、返答を待つ前にそそくさと走って行ってしまった。
「ちょっと待っ…」
私はしゃくり上がった声で呼び止めたが、みのりは既に目の前に居なかった。
帰宅し部屋に入ると私は鞄をその場に投げやりに置き、ベッドに顔から飛び込む。
絶対変に思われた。
いきなり傘に入れて欲しいなどいくら何でも唐突過ぎるだろう。
私は焦っているのだろうか。
別に私には気軽に話せる友達は居るし、花燐だって1人で居ることが嫌いではないのだろう。
むしろ私が一方的に無視されるようになったのだから、嫌がられている可能性だってある。
だから別に、また仲良くなることに理由や意味などは無いのだ。
なのに、なぜ私は話しかけたいと思ったのだろうか。
それどころか、私は花燐に触れたいとすら思った。
私は妙にしけた溜め息を吐いた。
まだ雨粒が振り切れていない折り畳み傘が視界に入る。
どう考えても、私が嘘つきになったのは花燐のせいだ。
目を覚ますと、カーテンの隙間から覗くまだ初々しい日を浴びていることに気付く。
今日は開校記念日というやつで学校は休みなのだが、習慣というものには逆らえないようだ。
もう少し眠りたい脳の命令に背き、身体は軽く瞼ははっきりと開いている。
私は仕方なく起きることにした。
顔を洗い、着替え、味の無いパンをかじる。
平日とほぼ変わらない朝の準備を済ませると、私はポツンとソファに座る。
早く起きたからといって何かすることが有るわけではない。
もちろん世は平日なので番組はいつもの朝ニュース番組だし、通学通勤によって窓の外は静かとは言えない。
そして何よりも私に友達は居ない。
よってメッセージのやりとりや遊ぶ約束はしていない、というかできない。
濁った溜め息を付き、私はなんとなく自分の右手を見つめる。
そこにあるのは当然私の右手。
五本の指と爪が付いた暖色の手である。
太陽の光がてのひらを照らす。
私はそれを掴むように拳を握る。
開いてもそれは光源になることはなく、ただただ太陽に照らされていた。
グー、パー、グーと握り開くを繰り返す。
鈍った関節が小さく音を発てた。
「書店でも行くか…」
私はまた溜め息をつく。
数分後、私は最寄りの書店で本棚を眺めていた。
私はたまにここに来る。
どんなときとか、どれぐらいの頻度か、などと聞かれると返答に困る。
決まった時間に行う通学や定期的に行う飲食などと違い、私はここに「来よう」と思ったときに来るのだ。愛読しているライトノベルの新刊や適当な文庫本を手に取り、特に二の足を踏む事無くレジへ持っていく。
会計を済ませ店を出ると、私は自販機で缶コーラを買う。
ゴトンと落下音がしてからコーラを取り出す。
昨日の雨が嘘のように感じる日光を缶の表面が乱反射する。
ただそれだけのことを私はなぜかうざったく感じ、こぼれ落ちるような溜息をついた。
「なあそこの女子」
知らない声だ。多分私の事ではないだろう。
「おい聞いてます?」
私はリングプルの先端を上に押し上げた瞬間、炭酸が逃げる音が小さくした。
「そうやって、自分は他人から見えていないと思い込むから想い人とうまくいかないんだぞ。」
見知らぬ人に痛い所を突かれた気がした。
私は、まさかとは思いながらも振り向いてみる。
そこには、おかめの仮面を被り白い和服を纏って首から大量のお守りをぶら下げた男性が、占いの道具のようなものを机の上に広げて座っていた。
ちゃんと許可とか取っているのだろうか。
「振り返ったということは、思い当たる節があるわけだな?」
占い師が仮面の奥でニヤリと笑った。
「え、いや」
「ああ、いい、いい。占い代は盗らんさ。そこに座れ。」
理解かいがよく追いつかないまま、私は流れで支持された椅子に座ってしまった。
「そう怖がるな、俺は怪しい者じゃねえ。俺は料理試食占い師の佐藤だ。よろしく。」
その料理試食占い師の佐藤が手を差し伸べてきた。
料理試食占いという肩書の時点で怪しさの権化であるが、「ど、どうも」と握手を交わす。
「これはお前が来るだろうと思って作っておいた玉子焼きだ。まだ温かいから安心しろ。」
来るだろうっていうか強引に座らされたのだが、つっこむのは面倒なのでやめておく。
「いえ、大丈夫です。お腹すいてないので。」
「いやこれ占い道具だから。人の話聞いてた?料理試食占いだぞ。」
そう言うと佐藤は再び玉子焼きを食べるよう促した。
これ以上グダグダ言っても長引くだけな気がしたので、躊躇いながらも私はその黄色い食べ物を口に運んだ。
第一に柔らかい感触と加減の良い熱さが舌に触れた。
噛むと中から甘味がほろほろとこぼれだし、真冬の暖房のように口内を内側から優しく温め出す。
これは美味しい。
それも今まで食べてきた玉子焼きが生ゴミかと錯覚するほどにである。
「ほうほう、なるほど。占えたぞ。」
佐藤は自信ありげな口調でそう言いながら肘をついた。
「・・・えっと、今の占いだったんですか?」
「人の話を聞けよ、何回も言ったろ?これは料理試食占いだろ?試食した人の表情で占うんだろ?」
「最後の初耳なんですが」
佐藤はハハハと短く笑うと、今度は私の目を真っすぐ見つめて口を開く。
「お前は負けてるな。それも、存在のしない人間に。」
何を言っているんだこいつはと私は眉を潜めるが、仮面の穴から除く彼の目はいたって真面目であった。
「想い人でも無いし、家族でも友人でも、お前自身でも無い。存在しないし無視してもなんら影響がない者に、お前は怯えている。」
言葉の意味は理解できないのに、なんとなく痛い所を突かれている気がしてならないのはなぜだろうか。
私は気怠さの籠った溜息をつく。
「そうやってお前はいつも溜息をついて自分の気持ちを誤魔化しているな?誤魔化す必要なんてねえし、本当の気持ちを叫んだって失うモノもねえ。なのに、お前は躊躇って溜息をつくんだ。」
佐藤は一度話すのを止め、口で大きく息を吸う。
「はっきり言ってお前バカだわ。意味のない躊躇いがお前をそういう性格にしたんだよ。言いたいことがあるなら言葉にしろ。捕まえたいモノがあるなら手を伸ばせ。それをしないで溜息をつく権利なんてねえ。」
彼が言い終えると、私は口が開いていたことに気づく。
通り雨のようにいっぺんに降りかかったその言葉一つ一つが、私が見ないように避けてきたことだったからである。
私は既に失うものなど無く変化を恐れているわけでもないのに、行動を恐れ停滞してきた。
「で、どうなんだ?お前はどうしたい。」
シンプルな質問が私の言い訳を粉々にする。
「…勝ちたい、です」
佐藤は手を組んで顎を乗せる。
「もっとはっきり」
「勝ちたい!わけわかんないストッパーに勝ちたい!!面倒くさい思考を捨て去りたい!!!停滞するのはもううんざりだ!!!!」
まばたきもせずに目を開きながら、私は大声で叫んだ。
通行人たちがざわつき、こちらをチラチラと見るが、もうどうだっていい。
「そうかそうか。じゃあこいつを持ってけ。」
佐藤が首からぶら下げているお守りのうち一つをほどき、私に差し出してきた。
そのお守りは、よくある形状で白い生地の表面に麦色の字で「勝守」と大きく記され、その下に黄・青・赤・黒の三角形が集合して形成された長方形が描かれているものであった。
「それは札幌諏訪神社って勝負事の神様が祭られてる神社で買った勝守っていうお守りだ。俺が知ってる中で最強のお守りだからポッケにでも忍ばしとけ。」
私は勝守を受け取り、軽く握る。
血液が流れる鼓動を右手が感じる。
滝のように激しく、川のように複雑に、海のように力強く。
紅蓮の如く真っ赤な血は、ちゃんと私の全身を流れている。
光の速さで水曜日はやってきた。
時の流れは残酷である。
毎週楽しみにしているアニメの放送日はカタツムリの横断のように遠く感じるのに、恐れる日はすぐにやってきてしまうからだ。
憂鬱な足を無理矢理上げ、玄関を出ると土砂降りが降りつけてきた。
私は傘を開く。いや、開こうとした。
傘は途中まで開くと骨が折れたような鈍い音を立て、無残に骨組みがとれてしまった。
「はー…。」
私は傘をその辺に投げ捨て、豪雨に晒されながら学校へ向かった。
数十分後、私が教室へ着いたときには全身雨水だらけになっていた。
替えの制服など持っているわけもなく、ただただ乾くのを待つしかないようだ。
微かな冷たさに耐えながら、私は恐る恐る隣を見る。
一昨日はあんな風にわけのわからない言動をしてしまった。
多分相当引かれているだろう。
自分でも軽く引いている。
はっきり言って一昨日の私は相当気持ち悪い。
私は苦笑いをし、教科書類を机に詰め込んだ。
授業の内容がいつにも増して馬耳東風のまま、気づけば帰りのHRが終わるチャイムが鳴った。
とっとと帰ろう。
私に今できる最大限のことはそれであった。
私は授業道具を雑にしまい、教室を後にした。
階段を早足で降り、そそくさと靴を履き替えて外に出る。
そこで待っていたのは今朝以上の土砂降りであった。
私は何か悪い事でもしたのだろうか。
私は自分に愛想笑いをし、家の方向へ歩き出した。
30歩ほど歩くと、雨が当たらなくなった。
しかし目の前の水溜りは小刻みに波紋が広がり、雨音はとどまっていない。
次にようやく私は後ろを振り向く。
そこに居たのは、口をひくひくと震わせている花燐の姿であった。
私は気が付かないうちに逃げようとする。
しかしそれを食い止めるが如く、花燐が私の唇を奪った。
「ぅえっしょってんきゃむみょぇええぇえ!!??」
私は意味不明な声を上げ、目を白黒させる。
花燐は左手で何かをぎゅっと握りしめると、目を大きく開いた。
「ごめん!」
そして、想像もしていなかった言葉に私はさらに混乱する。
なにがどうなって今何が起こっているのか、説明できる人がいるならば今すぐ問いただしたい。
「ごめんね!私... 私、逃げてた。ずっとずっと怖がってた。中学上がった頃さ、みのり色んな人と仲良くなって、私は特別な存在じゃなくて、友人DとかEとかなのかなって思ったら怖くて!それで気づいたら避けてた。逃げても逃げても遠ざかるだけなのに、ずっと逃げてた。でもさ、もう負けないからさ、だからさ、そのさ、えっと…」
花燐は再び左手で何かをぎゅっと握る。
「ずっと前から好きでしたああああっっ!!」
違う。
どうしてそうなった。どうしてそうなった私。
私はもう一度親友になって下さいと言いに来たのだ。
愛の告白をしに来たわけではない。
しかし、焦りに焦って挙句の果てに出てきた言葉は「好きです」だ。
もう駄目だ、おわった。
そもそもあんな胡散臭い占い師の言うことを真に受け止めるのが馬鹿だった。
私はきっと冷静さを失っていたのだろう。
もうこれじゃあ明日から学校行けないじゃないか。
私は後悔の溜息を小さく吐いた。
私が無愛想になったのはみのりのせいだ。
私はいつもあなたのことを思っているのに。
あなたはいつもぶっきらぼうだ。
ほら。
私の手は怯えていつも届かない。
あなたに近付きたいのに。
「私が嘘つきになったのは花燐のせいだよ…。」
そう言うと、みのりが突然抱きついてきた。
私はわけがわからず呆然と口を開ける。
左手から何かがするりと抜け落ちた。
「嫌いになったのかと思った。でも、聞いて本当にそうだったらって想像したら、黙って見つめることしかできなかった。もう、心配させないでよ…!」
こもった声でそう言ったみのりの両目から、透明な液体が滴る。
その涙は、零れ落ちながらわずかに光を反射し、やがて雨と同化していった。
私が嘘つきになったのは花燐のせいだ。
あなたに近付きたいのに。
私の手は怯えていつも届かない。
ほら。
あなたはいつもぶっきらぼうだ。
私はいつもあなたのことを思っているのに。
「私が無愛想になったのは、みのりのせいだよ。」
「不器用な女の子同士の百合短編書きたい」
そう思ったのは腰が痛くて寝付けない寒い夜でした。
地の文に色々隠し味を入れてるので、見つけてくれたら嬉しいです。