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7 ー宝物と旅立ちー




 拙作へお立ち寄りいただきまして、ありがとうございますm(_ _)m お待たせしてすみません。



 間が開いてしまいましたので、軽くあらすじを↓↓


・黒い孤児と青銀の行き倒れが出会う

・何故か師弟になる

・食べ物がないと帰れないので買った


 さて、次は何を買いに行こう?







 食べ物を大量に買い込んで。その全てを腰の小さな袋に入れてしまった師匠が 次に向かった先は、広場の露店ではなく 大きな店舗を構えて衣類や布製小物などを売る店だった。



「いらっしゃいませ。お客様、紳士服はあちらでございます」



 真っ先に子供服の区画へ向かう師匠に、あからさまな態度は取らないものの シャリテを一瞥もしない髪を結い上げたほっそりした大人……店員が声を掛ける。



「そう。とりあえず、これとこれとこれ。あとはこの子の下着を数枚と彼方(あちら)の靴下を貰おうか」



 そんな店員をチラリと見遣った師匠は、手に取った服を次々に渡して注文してゆく。早く買い物を済ませてしまいたいと言わんばかりの様子だ。



「あの、お客様。こちらは当店でも指折りの御品でございまして……本当に忌み…その お嬢様がお召しになるのでしょうか?」



「何か問題かい? まぁ、この国では仕方が無いのか。代金の心配は無いから、下着もそれなりの品質の物を用意してくれ。……さぁ シャリテ、靴下を見に行こう」



 店員には 少し冷やかな様子だったけれど、シャリテに話しかける師匠は優しく微笑んでくれる。今度は、素直に頷くシャリテと微笑する師匠を凝視している店員をサラリと無視し、師匠は靴下や布製小物の並ぶ棚へと歩み寄る。



「うん。今の服にはこんな感じか。あとは……此処では予備だけにして、彼方に帰ってから買い揃えようか」



 後半の小さな呟きは シャリテにしか聞こえなかったけれど、お店で こういった(他所で買おう的な) 事を言うと 店員さんに睨まれる可能性があるので注意が必要である。



「こんなものかな。……シャリテは さっきから何を見てるんだい?」



「ししょう……」



 シャリテの指は、遠慮がちに あるものを指し示していた。






 あっという間に衣類を買い終えて、次にやって来たのはズラリと靴ばかりが並ぶ靴屋である。オーダーメイドも受けるらしく、店の片隅には巻尺や木型の並ぶ採寸用のスペースもある。



「くつ……」



 くっ、こr……ではなく“くつ()”である。シャリテは もちろんの事、この町の貧民層は靴を履いていない者が大半で、辛うじて 木や革のサンダルだったり、植物の茎や蔦で編んだ草履のようなものが精々だ。


 段々になった棚に並ぶ、色とりどりの布靴や艶々の革靴などという、ごく一部の人間が履くような物を「どれが良い?」と言われても シャリテは困惑するばかりであった。



「少し此処で座っておいで。どんな靴が履いてみたいか、考えてごらん」



 師匠に言われるまま、棚の隣に置いてある背もたれの無い木製の丸椅子で待機するシャリテ。綺麗に並べられた靴を見てみるものの、いずれも足に履くなんて畏れ多い気がする靴ばかりで 落ち着かない。


 きょろきょろと店内を見回したり、カウンター内の扉から入れる工房で 黙々と靴を作っている店主……と言うよりは職人という風情の気難しそうな大人と何事かを話している師匠の様子を窺って、それから そっと頭に手を遣る。



「きらきら……ししょうといっしょ」



 先ほどから シャリテの頭上両サイドで揺れているのは、白地に銀糸で縁取りと蔦模様の刺繍が施されたリボンだ。衣類店の小物コーナーで、シャリテの目を惹き付けた品である。


 真っ黒なシャリテの髪の毛は、師匠のようにキラキラではないけれど。このリボンを結んで貰ってから、視界の端に チラチラと銀色の煌めきが映る度に 少しだけ“きれい”に……師匠に近づけた気がして心までキラキラとしているような気分になるシャリテだった。このリボンが、シャリテの宝物 第1号 となる。



「お待たせ。服の調整は私の魔術でもできるけれど、靴は 少し難しいからね。採寸してもらってから、足に合うものを買おう」



 そう言う師匠に 採寸コーナーへ運ばれて、気難しそうな大人の目の前に置かれた椅子へと降ろされてしまった。


 師匠よりは小さいけれど、シャリテからすれば大きな大人は、眉間に深い皺を寄せてシャリテを見下ろしている。



「足を出せ」



 蛇に睨まれた蛙や、猫の前へと放り出されてしまった鼠の如く緊張するシャリテだけれど、靴屋は特に何かしらの反応を示すことも無く 巻尺を片手に淡々と採寸を始めた。



「元浮浪児か」



「おや。そう思うかい?」



 ぽつりと落とされた靴屋の呟きに、師匠は口の端を少し吊り上げて聞き返す。シャリテは怖そうな大人を前に ガチガチに緊張していて、それどころでは無かった。



「この足は、靴とも草履とも無縁だった足だ。……人の趣味にどうこう言うつもりはないが、アンタならもっと良いのを買えただろうに」



「お生憎だったね、この子は買った訳でも、奴隷にする訳でも無いんだ。……どうにも そんな誤解ばかりされるのだが、私がこの子を引き取って育てるのは、そんなに可笑しいかい?」



 そんな言葉が師匠の口から発せられた瞬間。靴屋は目を見開き、そんな靴屋の正面にいたシャリテはびくっとした。すぐに靴屋が背後の師匠へと振り返った事で肩を下ろすシャリテだったが、続く大きな笑い声に再び竦み上がった。



「なんてこった! 忌み人の浮浪児を引き取るとはとんだ酔狂だなっ! 面白い、ちょっと待ってろ」



 シャリテと師匠が、急にドタドタと店の奥に引っ込んでしまった靴屋を 呆気に取られた顔で見送ってから暫し。幾つか重なった箱を持った靴屋が戻って来た。



「よっ……と。おう、兄さん。この辺りのなら、丁度いいだろう」



 そう言って、箱から出した女の子用の靴を カウンターへ並べてゆく靴屋。師匠はシャリテを再び抱え、カウンターへと向かう。



「これは……随分と良いものばかりのようだが、特注品ではないのかい?」



「ああ。この町の領主様のわがまま娘が、色や細かい飾りが気に入らないってんで作り直した物だ。この辺には他に買えそうな貴族も金持ちも居ないから 持て余してたんだが……銀貨1枚、まとめて銀貨3枚でどうだ?」



「なっ……それでは、ほとんど材料費だけだろうに。良いのかい?」



 今度は、師匠が目を見開く番だった。シャリテは話の内容はよく分からなかったので、近くで見る師匠の青い目も“きれい”だな と思ったりしながら、ぽやっと二人のやり取りを傍観していた。



「ああ。どうせ 上に埃が積もっていくだけなんだ、構やしないさ。おぅ、銀貨3枚、確かにいただくぜ。……あとは、これだな」



 最後の箱から取り出されたのは、艶めく黒革も美しい靴だった。爪先は丸みを帯びて、広い履き口と足首のストラップ。そして、ほんの少し高い踵。



 ……しかし、いかんせん。今の シャリテにはかなり大きな女性用の靴であった。



 靴に見とれたシャリテが 何かを言うよりも、苦笑いの師匠が 断りの言葉を言うよりも早く、靴屋は続ける。



「これは、外の国で修行をしていた時に作った渾身の一品だ。……だがな、どれだけいい素材でも、どれだけいい出来でも、色のせいで この国では誰も買わない。これからも売れることは無いだろう。だから、これも持ってってくれ。忌み人を引き取るって言うなら、金持ちの道楽や気まぐれとしてではなく、この靴に見合う娘に育ててみやがれ」



「言ってくれるね。では、この靴を作った貴方が“もっと良いものを作れば良かった”と 後悔するようなレディに育ててみようじゃないか」



「そりゃ 楽しみだ」



 そう言って笑い合う 大人が2人。シャリテの靴を買っているはずなのだが、彼女は最後まで蚊帳の外であった。




 3足の靴(黒い靴は除く)の中から、首もとでチーフを留める指環の石の色に近い色合いに染められた 淡い青色の革靴を履かされ、シャリテはやっと自由に動けるようになった。


 ……と言っても、慣れない靴下と靴、しかも ピカピカの新品が足を包み込んでいるため、知らず シャリテの両掌は 地面に水平(ペンギンスタイル)で中空に固定され、足運びは とてもぎこちなかった。



「……先は長そうだな」



「ぷふっ…あははっ」






 靴屋の落とした呟きを皮切りに思いっきり笑ってしまった師匠に、やや頬を膨らませて そっぽを向きながらも抱き上げられて運ばれるシャリテは、ほんのり呆れ笑いで さっさと工房に戻ってしまった靴屋の背中を見ながら店を出た。



「いたぞ!! 忌み人を連れ歩く不審者とは お前だな!! 何者だ?! フードを上げて顔を見せろ!!」



 すると、師匠が幾ばくも歩かぬうちに 大声を挙げながら、険しい顔をした警邏隊が駆け寄って来る。



「ちっ、面倒な事になりそうだ。 シャリテ、しっかり掴まっているんだよ」



 軽い舌打ちと共に言うやいなや、師匠は 小袋から出した板へ 飛び乗り、長い髪を一本 引き抜いて短く叫ぶ。



「【シエロ・トレケイン!】」



 力強い呼び掛けに、慌てたように光の粒が集まり、風が木の葉を巻き上げるが如く 板とその上の二人を一気に空へと押し上げた。



「なっ?! 銀髪の魔術師だと?!! 面妖な!!」



「待て!! 逃がすな、捕らえろ!!」



「無茶言うな! 空飛ぶ相手をどうやって捕まえるんだよぉ!!!」



 騒がし過ぎる怒号(一部 泣き言)に送られて。“シャリテ”と名付けられた 元・孤児と、“師匠”と呼ばれる 元・行き倒れは 蒼穹の彼方(かなた)、新しい日々へと旅立つのであった。











 慌ただしい旅立ちでした(; ´∀`)

 ちょっぴり 長編の序章っぽい感じじゃないですか? 長編と呼べるほど書き続けられる自信はこれっぽっちもありませんけどね(;=_=)c



 本当は、旅立ちをもっと ごたごたさせる予定でしたが……思いの外に靴屋さんの自己主張(文字数)強く(多く)なってしまい、割とあっさりな出発となりました。

 黒を忌み嫌う国ですが、シャリテにとって嫌な事だけで無ければ良いな と思ったら、靴屋さんが頑張ってくれたのです。




 次は、師匠寄りの視点から お送りいたしますm(__)m

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冬童話2018に提出予定の新作も よろしければ(*´∀`)r【美女と魔獣ー星月夜に彷徨う異形ー】
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