6 ードレスとお買い物ー
お待たせしましたm(__)m
書き上がるまでに、何かと問題の多かった 第6話です(;´∀`)
朝起きて。シャリテは少し待っていたけれど、なかなか起きない師匠を ゆさゆさと揺さぶる。寝る前は 早めに買い物に行くと言っていたのに、既に太陽が顔を出してからだいぶ経っている。シャリテは 人や物、そしてゴミが多く出る朝市が終わってしまう事を懸念し 必死な様子だ。
「ししょー。ししょー!!」
「……あと、1刻……や、半刻でいい…か・ら……。……ぅん? 師匠……?」
「ししょー! かいものー!」
「……ぁあ。おはよう、シャリテ……早起きだね」
まだ、半分 目が開いていないものの、ようやく起きてくれた師匠に シャリテはたどたどしくも 朝市の終わりが近い事を話し、完全に目を開けてもらう。
「あ~、シャリテ? もう拾った物を食べなくても大丈夫なんだよ? ……まぁ、でも 確かに朝の市場も見てみたいな。よし、では 身支度をしようか。おいで」
「みじたく?」
首を傾げたまま師匠に連れられて、シャワーの部屋の手前の洗面所にて言われるまま……というより見本と一緒に 顔を洗って口を漱ぐ。
それから師匠に髪を梳かされて、今度はシャリテの髪と瞳と同じ 黒いシャツに着替えさせられた。
ところが、今度は袖を折らずに そのまま立ち上がり、片手に白い布を取る師匠。袖を垂らしたまま見上げるシャリテに少し微笑んで、懐から また小さな煌めく欠片を取り出した。
「【コール・エスピリトゥ・プゥティヒ
アンフィット・エスヴァプ・アングメッセン】
聞きたまえ 昼の精霊たちよ、不適の衣を相応しき姿にしておくれ」
師匠の言葉と共に欠片は形を失い、また どこからか沢山の光が集まってきた。
光はシャリテの周りに集まり、弾むように飛び回る。光が触れるとシャツが端から するすると糸が解けて余った部分が分解され、解けた糸たちが シャリテの肩から先へ再び織り重なって布になり、肘ほどのヒラヒラした袖になった。
胴は脇が解けて動きを阻害しない程度にピタリとした形になり、逆に腰から下はふわりと広がるようにたっぷりとした形になった。フレアワンピース寄りのAラインワンピースという風情が近いだろうか。
その後、師匠が手に持っていた布が細く割けて 襟や袖で小さくヒラヒラした飾りになり、少し太めに割けた布は 腰に巻き付き後ろで蝶々となった。残りの布は裾に襞を寄せながらぐるりとくっついて、シャツの半端な長さを補うように 脛丈ほどの長さになる。
魔術が終われば、そこには シャツの面影を残した黒と白のドレスを身に纏うシャリテがポカンと目も口も 真ん丸にして佇んでいた。
「うん、こんなものかな。仕上げにこれを……」
シャリテの様子に頓着せず、師匠はポケットからチーフを取り出して シャリテの襟に巻き、濃い青色の石が付いた幅広の指環をひとつ外して チーフに通して留める。
「これでよし。小さなレディの出来上がり」
満足げな師匠が立ち上がり 1歩横に避ければ、壁に取り付けられた大きなガラス……姿見には不揃いながら肩より少し長いまっすぐな黒髪。ギョロリとした黒い目は変わらないけれど、汚れの下から発掘された肌は乳白色で、興奮のためか頬を染めて熱心に姿見を見つめ くるくると回りだす。
「こらこら、下穿きが見えてしまうよ」
何回転かを回り終え、矯めつ眇めつ 姿見に映る見慣れない自分を観察する。挙げ句 スカートを掴んで中を覗くシャリテを、自分の身支度を終えて戻って来た師匠が苦笑しながら窘めて、丸見えな下穿きを隠すようにスカートを下ろさせた。
ちなみに。昨夜 シャワーから出て、シャリテをバスタオルで包む前に魔術でささっと作った腰と太股を紐で絞るだけの簡易なドロワーズっぽい下穿きである。ノーパンにぶかぶかシャツの幼女を期待した変態は、後で警邏隊へ自首するように。
「では、行こうか」
「かいもの いこう」
いざ 買い物へ……の前に。
「いや、まずは1階の食堂だよ」
「え?」
昨日の夜もお腹一杯に食べる事ができたのに、朝もまた 美味しい焼きたてパンとお肉の入ったスープ、味のついた野菜を食べたシャリテは、ふわふわとした気分で宿屋を後にする。
出入り口付近に、ドレス姿のシャリテを見て 目玉が落っこちそうなほど目を見開き、段差に躓いて 持っていた水桶を豪快にひっくり返す宿屋の子供がいた。シャリテもそれを見て目を瞬いたけれど、スタスタと歩く師匠に抱き上げられていたので さっさと町の中心部へ運ばれてゆくのだった。
朝の眩しい光の中、師匠のキラキラな髪の毛が 頭から被った外套で隠されている事が、なんだか残念なシャリテである。
シャリテよりも だいぶ脚の長い師匠が少し歩けば、ガヤガヤと騒がしい町の中央広場にやって来る。
「まあまあ 賑わっているな。シャリテ、何か食べたい物や気になる物があったら言ってごらん」
師匠にそう言われて頷いてみるものの。露店に並ぶ品々は、シャリテにとって 眺めているだけで大人達に邪険に追い払われてしまう物なので、師匠の服をぎゅっと掴んで そっと盗み見る。
「良い香りだね。この焼いたベーコンと魚のフライを、これで買えるだけ包んでくれるかい」
「お客さん、豪気だね。ちょいと待っててくんな」
その場で調理した物を提供する露店で。湯気と共に香ばしい香りを放つ分厚い肉と四角い何かを、銀貨を差し出しながら師匠が注文すれば、お腹の出っ張った大人が ヘラヘラと笑って品物を包んでゆく。
「へい、お待ちどおさん。……おおっと、時空袋とは、お大尽様だね!! また来とくれや、まいどあり!」
師匠が受け取った包みを腰の袋に仕舞えば、大人は驚きで大きな声を上げ、それを聞いた外の露店の大人達から次々に声がかかる。
「お大尽さま! うちの店でも買ってっておくれよ。あら、男前じゃないかい! うんとサービスするよ!! 」
「うちの果物はとびっきり甘いよ!! どうだい?」
「食べ物だけじゃなく、土産物も買ってってくれ! この国の銅鉱山で採れた マラカイトを飾った……」
「う~ん、その石だけは止めておくよ。さ、シャリテ、次は彼方に行ってみよう」
勢いよく 大きな声で喋る大人たちに、シャリテは少しびくびくしながら 師匠にくっついていれば、師匠はあちこちで色々な食べ物を買ってゆく。
シャリテにとって初めての買い物は、師匠にくっついているうちに どんどん進んでゆくのであった。
マラカイトの石言葉は“危険な愛”だそうです。土産物屋さん、知っていて勧めていたのなら なかなかのツワモノです。
創作宝石を出そうと思い、考えた名前を念のために検索したら、音楽のアーティストさんが出てきて諦めました(´;ω;`)
そして、投稿してから気づく「シャリテ、まだ靴履いてないじゃん!」という事実 Σ(>д<;)
ドレスは“ゴスロリもどき”をイメージしていたので、裸足で歩かせるなんて断固として許しません。私が!
師匠の腕 頑張れ。靴を買うまで シャリテを抱っこだっ(* ̄∇ ̄)b