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宙
宙を見上げよ。
少女は宙を見上げていた。
少しばかり小高い丘、田舎だったそこには街頭なんてなく、少女の目に入る光源は宙に煌めく無数の点だけだ。何も変哲のない景色、少女が見上げているのは極普通の宙だろう。新月の晩に田舎から見上げる幾度でも訪れる平凡なものだ。田舎に暮らしていれば見る機会などいくらでもあって、希少価値なんてないものだった。しかし、その時の少女にとっては違った。夜を覆う暗闇の帳から漏れる無数の光は少女の全身を震い立たせるほどの強い感情を抱かせたのだ。彼女の抱いた感情が具体的に何だったのかは覚えていない。しかし、少なくとも、この景色を忘れてはならないと少女は物置きにしまってあった思い出の品を入れた箱の中に書き残したのだろう。
宙を見上げよ。
私は宙を見上げよ。私は宙を見上げた。宙に少女が見上げた宙と全く違わない。あの時と同じ一筋の流星が駆けた。