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短編集  作者: 翳の使者
2/5

私が貴方のことが好きな理由を話してあげましょう

カク読むでカク読む甲子園ショート部門に応募してます。

 「唐突ですが、小話をしましょう。」


彼女がそう口にしたのは生徒会の仕事を終えて校門を出た時、辺り既に薄暗くて寒さに季節を感じて、寒いついでにかっこつけて上着でも貸そうかとか考えていた時だった。

少し前の方を歩いていた彼女は振り返って少しだけ僕を見つめた。


「は、はぁ……?」


僕は咄嗟だったから反応できなくて疑問符に近い返しをすると彼女はすぐにまた前を向いて歩き出した。そして口を開いた。


「私はあなたの後輩です。そして幼なじみであり彼女です、付き合ってる間柄です。」


「まぁ、そうだね?」


また僕は疑問符で返した。確かに僕と彼女はそういった間柄である。付き合いは小学生低学年の頃に彼女が隣に引っ越して時からで、ご近所付き合いで親同士が仲が良かったため引っ越してきてから1ヶ月も経たずに僕らは毎朝一緒に登校したり放課後に遊ぶ仲になった。それからもなんだかんだ付き合いは続いて今に至る。男女交際というのも確かに事実かもしれない。かもしれないというのは確かに彼女が高校に入学してきたときに告白らしきものは受けたのだけれど、この子はなんというかクールというか淡泊な性格だから告白も実に淡々としてて朝一緒に登校してる最中の会話の中で突然ポツりと「好きです。付き合って下さい。」とだけ言われて戸惑ってたら彼女はどんどん前を歩いて行っちゃって何がなんだかわからないうちにその話はおわっちゃって今でも自分がこの子と付き合っているという自覚はあまりない。……特にキスとか恋人らしいこともしてないし……。


「でも、あなたの中では今でも私は幼なじみの後輩でしかないと思うのです。」


「まぁ……ね?」


なんだか心の中を当てられたようでなんだか悔しい。


「なので、ここで私があなたのことを好きな理由を小話として話してあげよう思ったわけです。」


「う、うん?」


どうにも状況がまだ掴めなくて疑問詞になってしまう。


「いいから黙って聞いてればいいのです。」


敬語は使ってるんだけど、なんか付き合ってる(?)とはいえ仮にも先輩である僕の扱いは結構酷い気がする。まぁ、そんなことはともかく、彼女は小話を始めた。


「あるところに少女が居ました。少女はとても寂しがり屋で人見知りな少女でした。周りには友達は居ましたが喋るのが苦手だった少女はとりわけ仲のいい友達というものが居ませんでした。そんなある日、父親の転勤が決まって引っ越すことになりました。引っ越した先は前住んでいた場所から遠く離れた他県です。なので勿論友達なんていません。でも、その時、声をかけてくれた少年が居ました。一緒に遊ぼう?それはきっと気を遣ってかけた言葉だったと思います。みんなで公園で遊んでる時に私だけベンチで休んでいたのでたぶんそうだったのでしょう。私は勿論声をかけて貰えたことは嬉しかったのですが、心のどこかでもうないだろうとか、思ってたわけです。でも、それからも公園で同じようなことが何度かあってお互いの名前を覚えて、積極的に話すことはありませんがクラスメイトのようなまあ知人と呼べる程度の間柄になりました。そんな頃に実は少年は自分の隣の家に住んでいることを親から聞いて知りました。最初はふーん程度にしか思わなかったわけですが、近所付き合いというもので遊ぶ機会とか顔を合わせる機会が増えて、なんだかいつのまにかいつも一緒にいる【幼なじみ】という関係になっていたわけです。それからの日々は中々長くて何年も続いて中学に入るとか男女別々に遊ぶといったような一般的【幼なじみ】の関係が崩れるようなところも何故か自然と越えてきてしまいました。でも、その関係が続くほど少女は怖くなりました。少年少女の関係は【幼なじみ】というレッテルだけで不確かで誰かに触られたら崩れちゃいそうなそんな関係です。だからいつか、どこかのタイミングで崩れてしまうんじゃないかという不安がいつもあったのです。ですが、少女は困りました。少女には少年といつも一緒にいる理由がないのです。だから中学生の頃はずっと一緒に居られる理由を探していましたが見つかりませんでした。でも、少年が中学を卒業した時、少女はさらに焦りを感じました。幸いなことに少年の通う高校と中学の方向は一緒だったので登校は問題なかったのですが、放課後はどうしても時間が合わなくて一緒に帰れなくなりました。少女はより一層【幼なじみ】という関係が崩れる危機感を抱きました。そうしてモヤモヤとした日々を過ごしていたある日、クラスメイトの女子の会話中でこんなフレーズを聞いてしまったのです。


 最近Marumaru君のこと考えてるとモヤモヤしてるんだけどこれって恋かな? 


その時、少女は決めました。【幼なじみ】という関係を維持するために少年のことを好きになると。」


そして彼女はまた振り返って僕を見つめた。その無表情の眼差しは普段と変わらないけれどなんだか真剣味を帯びているようにも感じてしまった。また同時、笑いがこみ上げてきた。


「何笑ってるんですか……」


彼女の顔が悲しそうになった。いつでもどこでも無表情な彼女がここまで感情を顕わにしたのを見たのは初めてかもしれない。


「だって、そんなくだらないことで悩んでたなんて聞いたらおかしくってさ」


僕はそう言って立ち止まったままの彼女を後から抱きしめた。


「大丈夫。そんな無理しなくても別に僕に彼女なんてできないし、今の関係も終わらないよ。」


「……なんで言い切れるんですか。」


俯いた彼女の声は微かに震えていた。


「だって僕は君のことを大切に思ってるし、僕らの長い関係がそんなすぐに

断ち切れるようなことはない。よく腐れ縁なんていうじゃん。悪い意味の言葉かも知れないけどそれと同じで僕らの関係には別に恋なんていらないよ。本当に僕のことが異性として好きになったらでいいから。もう一回言うけど君は無理する必要はない。おーけー?」


僕が俯いた顔を除きながら笑いかけると彼女もまた僅かに微笑んだ。好きにならなくていいとかいっときながら僕の方がドキリとしたのは秘密にしておこう。


―――end


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