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薄幸少女と英雄騎士  作者: 小林あきら
第四章 亜人の国
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宝探し



「皆さん、今宵はご乗船いただきありがとうございます。ここで会ったのも何かの縁。忘れられないひと時をお楽しみください」


 大仰な素振りで恭しく頭を下げる司会。


 それを合図に、集った人々がザワザワと動き出した。






 クウマが参加したいと言ったゲームは、この船全体を巻き込んで行われる宝探しゲームだった。


 船内に隠された魔法石を見つけるゲームで、その数をチームで競うようだ。


 何だか小説で読んだことのある「文化祭」のようでワクワクする。


「それじゃ、僕たちも向かおうか」


「勝ったら何か貰えるの?」


「ああ。稀少な魔道具が手に入るんだ。だけどそれが何かは、勝ってからのお楽しみなんだ」


 キラキラと目を輝かせるクウマは、玩具を楽しみにする無邪気な子供のようだった。


 どうやらクウマはその魔道具とやらが欲しいらしい。


 何がもらえるか分からないのに、欲しいと思うなんて不思議だと思いながらも、やれるだけのことはしようと気を引き締める。


 早速甲板へ出たアキヨ達は、キョロキョロと辺りを見回す。この船はかなり大きいため、散策しがいがありそうだ。


「甲板には隠されていないかもしれないね」


「どうして?」


「何かの拍子に海に落ちてしまう可能性が高いだろう?」


 肩を竦めるクウマに、確かにと頷きかけた時、視界の端で何かが光った。



「?」


「アキヨ?どうかしましたか?」


 ローアルがこちらの様子に気付き、アキヨの目線を辿る。


 しかし、首を捻ってまたアキヨへ視線を戻す。


「甲板の床が、どうかしましたか?」


「ここ、光ってる」


 近くまで歩いて行き、まるでスポットライトが当たっているかのようにぼんやりとした光に照らされた床の一部を指さす。


 しかし、やはりローアルもその後に続いたクウマも困惑した表情を浮かべるだけだ。どうやら、自分にしか見えていないらしい。



 ローアルがしゃがみ込み、アキヨが指差した箇所を手でなぞる。


「特に何もないようですが……」


「ちょっと待って」


 クウマがはっとした表情で、急にしゃがみ込む。


 そしてアキヨの指差すソコに掌を向けて、何やら呟いた。


 すると、光るように魔陣が浮かび上がり、その眩い光が消えたと思ったら、そこには魔陣の代わりに魔石が落ちていた。


「これは――……」


 クウマが難しい顔で魔石を拾い上げ、その様子をローアルが無表情に眺める。


 アキヨは膝に手を当てて、クウマの横から魔石を覗き込んだ。


 爪の先くらいの小さな赤い宝石だ。少し角ばった形をしていて、ルビーに似ている。


「今の、なに?」


「ん?ああ、僕はこう見えて絡繰り魔道具の職人でね。こういった仕掛けには詳しいんだ。今のは物隠しの魔陣だろうね。特定の一点にこうやって魔力を流し込まないと発動しない仕掛けになってたんだろう。魔術を使えない者には探しようが無いし、魔陣が見えても読めなければ、何が起こるのか分からないのにむやみやたらに発動させる奴なんていない。結構難易度高い隠し場所だったのかも。お手柄だよ、アキヨちゃん」


 ニコニコとこちらにグーサインを向けるクウマに首を傾げる。


「絡繰り、魔道具?」


「あ!詐欺師だと思ってるだろ。僕をそこら辺のポンコツイカサマ師と一緒にしないでくれよ。これでもホマーノでは名の知れた職人なんだから」


 何やら勘違いしたらしいクウマが唇を突き出してむくれる。


 アキヨは「え?」とクウマを見上げた。


「クウマさんは、ホマーノから来たんですか?」


「ああ、そうだよ。そういう君たちはどこから?」


 不思議そうにこちらを見遣るクウマに、ルテニボンから船に乗ったと答えようとした時だった。


「ケダトイナから来ました」


 ローアルがアキヨより先に答えた。


 確かにケダトイナが出発地点だが、それから色んな国を経由している。


 わざわざケダトイナと言った意図が分からず、ローアルを見上げれば、彼は無表情にクウマを見ていた。


 対するクウマは、ローアルの言葉に大した反応を示すことも無く、うんうんと頷いている。


「ケダトイナかぁ。仕事で行ったことがあるけど、大きな国だよね。そっか~、じゃあ大陸を一つ横断してきたわけだ。すごいね」


 クウマに言われて、確かに遠くまで来たなと道中を思い返す。


 昔の自分では考えられない移動距離だ。自分の足でここまで来たのだと思うと、感慨深いものがあった。


「まあ、今は遊戯(ゲーム)に集中しないとね。それにしても、よく気付いたなぁ。君は魔陣が見える能力でもあるの?」


 こちらを面白そうに見つめるクウマに首を横に振りかけるが、ふと、ルテニボンで道がキラキラと光り、それに導かれ歩いた先で魔陣に巻き込まれたことを思い出した。


 あれは、不屈の魔導師曰く、精霊の仕業だったようだが、もしかして今回も精霊がアキヨを助けようとしてくれているのだろうか。



 そうと分かれば……。キョロキョロと辺りを見回す。しかし、甲板には他に光っている場所は見つからないため、船内に戻る。


 そうして探すこと暫く。アキヨだけに見えているらしい光を辿れば、必ずそこに魔石があった。


 たまに、普通に物陰に隠されている魔石もあったが、三人で見つけた魔石の多くは魔陣に仕組まれたものだった。




『船内の皆様にお知らせいたします』


「お、ゲーム終了みたいだね」


 伸びをしたクウマが満足げにほくそ笑む。


「これだけあれば、十分だろ」




 クウマの言った通り、船内のカジノコーナーのフロアに集まった人たちの中で、アキヨ達のチームが圧倒的に魔石の数が多かった。


 他のチームが多くて3個だったのに対し、アキヨ達は8個も見つけていたのだから、周りからの視線が突き刺さるのも無理はない。




「おめでとうございます!素晴らしい運をお持ちのようだ」


 壇上に上がったアキヨ達に、司会が大袈裟な仕草で恭しく景品を差し出す。


「今回の賞品はコレ!マハリジ砂漠から掘り出された『精霊の指輪』だ!」


「おお!」


 クウマは感動したように声を上げ、司会者同様、恭しい仕草でそれを受け取る。


 チラリと見えたソレは鈍く光る銀色の指輪で、真ん中に青銅色の石が嵌められていて、輪っかの部分には何かの文字なのか、グルリと一周するように細かい模様が彫られていた。


 景品として、指輪の他にホマーノ王国のサーカス観覧券を受け取り、多くの視線を感じながらアキヨ達はその場を後にした。






「君のおかげだよ。まさに幸運の女神だ」


 嬉しそうにそう言うクウマに、首を傾げる。


「それが欲しかったの?」


「ああ」


 ご機嫌で頷くクウマに内心不思議に思う。


 賞品はゲームが終わるまで分からないと言っていたのに、まるで今回の賞品がその指輪であることが分かっていたかのような反応だったからだ。



「それって、どんな指輪なの?」


質問を重ねるアキヨに、ゆっくりとクウマがこちらを見た。




 アキヨは、はくっと空気を飲みこむ。その表情に、本能的に恐怖を覚えたからだ。



 ゆらりと頭を傾けてアキヨを見下ろすクウマ。その口元は笑っているのに、目は暗闇を映したように虚ろで――。


 人間ではない、まるで得体の知れない生き物と対峙しているような、そんな寒気を催す“何か”を感じて、アキヨは思わず立ち止まる。



「これはね、『精霊の指輪』。“魔獣の暴走”で滅んだとされる『精霊士』の仕事道具さ」


 不気味さを感じさせる、酷く静かな声でそう説明したクウマは、一度目を閉じる。


 そして次に目を開いた時には、独特な得体の知れない雰囲気は霧散しており、元の柔和な笑顔に戻っていた。



「ホマーノの妙技劇(サーカスショー)、ぜひ行ってみてくれ。各国にファンがいるほど有名なんだ。僕も見たことがあるけど、圧巻だったよ」


「……」


「じゃあ、本当にありがとう。また機会があれば、どこかで会おう」


 演技がかった仕草で胸に手を当て軽くお辞儀して見せたクウマは、くるりとこちらに背を向けて去って行ってしまった。




 なんだったのだろう。あの雰囲気は。何だか胸がざわざわとする。


 ギュッと胸元を握り締めるアキヨの肩に、ローアルがそっと手を置く。


「……勘ですが、あまり彼とは関わらない方が良い気がします」


 ローアルが曖昧な表現を使うのは珍しいが、アキヨも同感だった。



 最後に見せたクウマの笑顔は何だか人形のように生気を感じられず、ひどくぞっとしたのだ。


 アキヨは消えない胸騒ぎから逃れるように、クウマの去って行った方角に背を向けた。













 気分転換に、ひとまずご飯を食べることにしたアキヨ達は、船内のレストランに来ていた。


 メニュー表には当然写真なんてものは無かったため、文字だけで料理が分からないアキヨの代わりに、ローアルが適当に頼んでくれた。




「さっき言ってた、魔道具職人って――詐欺師が多いの?」


 料理を待つまでの間、先程の会話で気になったことをローアルに聞く。


「魔道具って言うのは魔力量が少ない者でも使える物なのですが、その分、性能が良いものと悪いものがハッキリしています。偏に、作者の魔力によって」


「魔力」


 そう言えば、この世界に来て随分旅をしてきたが、そこら辺の話しをしっかり聞いたことはなかった。


「ローアルは、どのくらい魔力があるの?」


「そうですね、多い方だと思いますよ。枯渇状態になったことはないですから」


「枯渇状態?」


「魔力があまりない者は、初級魔術を一回使っただけでも魔力が足りなくなってしまいますが、魔力が多い者は同じ初級魔術を数発放つことができます。しかし、魔力にも底はあるので、無限に使い続けるのは厳しいでしょうね」


 ……つまり、ローアルは魔術を使い続けて枯渇したことは、まだないと。


「魔道具を作るのは、魔力が多い人?」


「はい。魔道具は作者の魔力を込めて作ります。そして、その込められた量によって“もち”が変わるので、魔力量の少ない者の作った魔道具は、必然的に粗悪品になってしまうのです」


 なるほど、魔道具はどうやら作者の魔力を電池として作動する使い捨ての道具のようだ。


 電池が切れたらもう使えない、と言うことなのだろう。


「それで、粗悪品だということは作った当人がよく分かっているものですから、それを悟らせないように過大評価で売る手法が横行しているんです。元々、魔術が使えるほどの魔力量を有している者自体少ないうえに、その者の中で魔道具職人になる者も限られています。魔術云々以前に、物作りの仕事ですから、向き不向きもありますしね」


「ヘルは、魔道具職人?」


 目を輝かせながら様々な道具を生み出していたヘルを思い返す。しかし、ローアルは首を横に振りながら苦笑した。


「彼は趣味でやっているだけですよ。まあ、それが主な収入源であることは間違いないですが、別に職人のつもりでやってはないでしょうね。才能があることは確かですが……。実を言うと、この世に出回っている魔道具のほとんどがヘルの作ったものなんです」


「え」


 驚きの声をあげるアキヨに、肩を竦めてみせるローアル。


 魔導師である彼が作る魔道具は、もちろんそこら辺の粗悪品とは比べ物にならないクオリティらしく、それをケダトイナに売り、国はその商品を外交に用いる。


 そうして彼の作品が全世界に広まったらしい。


「この世界に客船を作ったのも彼なんですよ」


「船も!?」


 それは、かなりすごいことなのでは、と唖然とするアキヨにクスクスと笑ったローアルは、丸い窓から見える海を眺めた。


「そういう所は、素直に尊敬できます」


 彼がそんな風に誰かを褒めるのは珍しく、アキヨもケダトイナにいる優しい友人を想って、頬を緩ませた。




 ローアルと同じように海を眺めながら、ふと先程のクウマの言葉を思い出す。


 そうすると、彼はそれなりに魔力があると言うことだろうか。


 自信満々に、そこら辺の職人とは違うと豪語していたが、彼はどんな魔道具を作るのだろう。


 別れ際に見せた、只者じゃない雰囲気。彼は本当に、ただの魔道具職人なのだろうか……?



 再びじわじわと湧いて来た不安に、アキヨは慌てて首を横に振り、運ばれてきた料理に集中した。













 ――船の旅は想像以上に快適だった。


 20日間と言う長い船旅は、なにもずっと海の上と言うわけではない。


 途中で幾つかの国に寄港しながら、船はゆったりと航路を進んでいた。


 そのスケジュールには決して無理が無く、寄港先に降りて、その国を観光する余裕さえあったほどだ。その穏やか過ぎる進度は、ホマーノ王国までの道中を満喫するのにとても丁度良かった。






「明日には着きますね」


 楽しい船旅はあっと言う間に過ぎていき、残すところ後1日となった。




 泊っている客室の一室。


 ローアルが淹れてくれた紅茶を飲みながら、窓の外で揺れる波を見つめる。


「ローアルは行ったことある?ホマーノ」


「ええ、ヘルの付き合いで何度か。あそこは魔法大国ですから、良い意味でも悪い意味でも刺激的な場所ですよ。観光都市としても有名ですしね」


「楽しみ」


 微笑みながらそう呟けば、ローアルの瞳が一層優しくなる。


「そうですね」


 同意を示すローアルに、コップをカチャリと机に置いたアキヨは、ずっと考えていたことを告げる。


「ホマーノを一通り回ったら、一回ケダトイナに帰ろうと思う」


「それはいいですが、理由を聞いても?」


 不思議そうに首を傾げるローアルに、ルドルフとの約束について話す。


「精霊が見えなくなる魔道具を、ヘルに作ってもらいたいから」


「精霊が見えなくなる?元々見えない……、ああ、もしかして」


 たったそれだけの情報で全てを悟った様子のローアルが、何かを考えこむように言葉を区切る。


 そして、一つ頷いた。


「なるほど。だいたい分かりました」


「……」


 本当はもう一つ理由があったが、それは喉まで出かかって、しかし結局言葉にすることなく飲みこむ。


 そんなアキヨの様子に気付くことなく、ローアルは思案するように視線を空中に走らせる。


「しかし、それならわざわざケダトイナに戻らなくても大丈夫かもしれません」


「え?」


「この首飾りには通信機能がありますから」


 ポカンと口を開けるアキヨにクスクスと笑いながら、とんとんと自身のチョーカーを叩いて見せるローアル。


 確か、チョーカーを貰った時に色々と機能があるとは言っていたが、透明になる機能に加えて、まさか通信機能まであるとは……。


 そう言えば、亜人の国で()()()()を受けた時、ローアルが『声を聞かせる手段はある』などと言っていたが、それはチョーカーの通信機能のことだったのか。



「他にどんな機能があるの?」


 純粋な興味で聞いたアキヨに、なぜかローアルが一瞬視線を泳がせた。


「……あ、その」


「うん?」


「……が」


「え?」


 身を乗り出したアキヨに、なぜかうっと言葉に詰まってから、ローアルは観念したように白状した。


「追跡機能が、あります」


「ついせき」


「お互いの位置が分かります」


「……どうやって?」


「魔力を、流せば――」


 じっとローアルを見つめる。すっと反らされる視線。


 つまり、ローアルしかその追跡機能が使えないと言うわけだ。


「そっか」


「あ、あの。嫌、でしたか?」


 恐る恐ると言う風にこちらを窺うローアルに、キョトンと首を傾げる。


「――ううん。迷子になったりしたら大変だよね」


 事も無げに、納得したように頷くアキヨを見て何を思ったのか、随分複雑そうな表情を浮かべたローアルだったが、すぐに神妙な表情でうんうんと頷く。



「だから、ウユジで離れた時もすぐに見つけてくれたんだね」


「う、あ、はい……」


 なぜか項垂れてしまったローアルに首を傾げつつ、今になって分かった新事実にすっきりした気分で、アキヨはコップの中の残りのお茶を飲み干したのだった。



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