創世説話『魔獣の暴走』
長いお話になるかと思いますが、お付き合いよろしくお願いします!
――――始まりの地。
草花が咲き乱れ、鳥は歌い、恵みの雨と長閑な陽光が絶えず降り注がれる、そんな世界。
神は、その星を “ウホマトンケ” と命名し、「人間」と「魔獣」と「精霊」とを創り、その世界へと下しました。
そして、神は調えられたその地に「7人の魔導師」を遣い、地上を治めるよう命じました。
神に祝福されたその星で、人は魔獣を慕い、魔獣は精霊を敬い、精霊は自然を愛し、自然は人に寄り添い――平和に暮らしておりました。
人は精霊を認め、魔獣は人の言を解することができました。
ある日、とある魔獣と人が世の理を外れ、その間に子を成しました。
禁忌を映したその悍ましい存在に、人々は恐怖し、誰しもがその子の存在を認めず、罪人もろとも排斥しようと刃を取りました。
秩序は乱れ、海が荒れ、大地は枯れ、天の慟哭が鳴り止まぬ混沌の時代が訪れました。
日は昇らず、月は姿を消し、暗闇の中を彷徨う日々が続きました。
理を外れた魔獣と人に神は怒り、魔獣から理性を、人から光を奪ってしまいました。
そうして「魔物」と成り果てた魔獣は、やがて人を喰らい始めました。
見るも無残な、荒れ果てた地――。
いよいよ世界が滅亡するかと言うその時、神の下に微かな嘆声が届きました。
何よりも自然を愛し、調和を愛した者の悲痛な嘆き。
精霊が、神に慈悲を乞うたのです。
そして、さらにもう一人。
神の使いである「7人の魔導師」の内、果敢にも神の前に面を上げた「天真の魔導師」が、己の身と引き換えに世界の再興を祈りました。
果たして、その願いは叶えられ、「天真の魔導師」の命を代償に、魔物の群れは異界へと封じられ、神は人の子の献身と精霊の涙に慈悲を与え、世界を草花で満たし、海と天とを治め、その星を清められました。
さらに、人と魔獣の間に生まれた異形の子を認め、その命を祝福されました。
しかし、禁忌を犯した代償は大きく、魔獣はウホマトンケから姿を消し、人は精霊を解する力を失いました。
人々は神の怒りを忘れないため、そして繰り返さないために、この悪しき歴史を「魔獣の暴走」と称し、魔獣が異界へ封じられた時を境として新たな暦を作りました。
そうして、再び時を紡ぎ始めた世界で、今も人々は語り継ぐのです。
二度と過去の過ちを繰り返さないように。
人と魔獣が犯した罪の、その証を――……。