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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

トラックチーレムかと思ったら俺の方が原始人並で見世物にされた話

作者: 平朝臣


 何の捻りもないありきたりな言葉を言おうと思う。俺は死んだ。……うん。俺は死んだなんて言うことはありきたりじゃないよな。でも俺は死んだ。


 別に何てことはない。ただちょっと交差点で信号待ちをしていた時に後ろにいたDQNがふざけてて俺を突き飛ばす形になった。もちろん向こうだって最初から俺を車道に突き飛ばそうと思ってたわけじゃないのはわかってる。


 だけど突き飛ばされた俺がトラックに撥ねられて体中滅茶苦茶になってるのに特に慌てた様子もなく知らん顔でそのままどっか行きやがった。で、誰もそいつらのことに何も言わない。警察と消防が来たけど現場検証しているだけでDQNのことを捜査もしていない。


 あいつらは俺を殺した犯人だ。それなのに誰一人そのことに何も言わない。交差点で信号待ちしてた他の人の中には俺があいつらに突き飛ばされたことを見ていた者がいたはずだ。


 そして死んだはずの俺はぐちゃぐちゃになった自分の体を見下ろしてる。これは所謂幽霊とかそういう状態か?でもそんなことはどうでもいい。俺のことなんてどうでもいい。そんなことより重要なことがある。


 何なんだ?何なんだこれは?あいつらは俺を殺しておきながらこれから先ものうのうと生きていくのか?そんなことが許されるのか?何で誰もあの人殺し共のことを一言も言わない?俺は殺されたってのにあいつらは裁かれることすらないのか?こんな理不尽があっていいのか?


「残念ながら許されるんだなぁ。君にとっては理不尽だよねぇ。だけどこれが普通なんだよ」


 俺が自分の死体を見下ろしながら佇んでいると後ろから声をかけられた。俺の肉体はそこにひき肉になって転がってる。見るからに即死のためかまだ片付けられていない。


 こんな状況なのに俺に声をかける奴なんているわけがない。そもそも俺の考えてたことに正確に反応してる。つまりこの相手は幽霊の方の俺に話しかけてるってことになる。だから俺はそっと振り返った。


「やぁ。神様で~す」


 あぁ……。何か真っ白でのっぺりした人型が右手を上げてこっちを見てるっぽい。顔ものっぺりしてて何のパーツもないから前か後ろかわかりにくいけど辛うじて足先がこっちを向いてるからこっちが前だろうと思える。


「白くてのっぺりで悪かったね。それは君がイメージ出来てないからそうなってるだけで神様の本当の姿はそんな姿じゃありませ~ん」


 そして何かやたら軽い。何なんだ?人が死んだとこだってのにこの軽さはかなりイラッとする。


「まぁまぁそう言いなさんな。君にとってとっても良い話を持ってきてあげたんだぞ?」


 あぁ?良い話だぁ?もう滅茶苦茶なひき肉になってる俺がこれから何の良いことがあるってんだ?俺を殺したDQN共が捕まって死刑にでもなるのか?


「なるわけないじゃん。彼らはこのまま罪が発覚することすらなく君が勝手に車道に飛び出して自殺したってことでこの件は片付けられる。彼らは君が言う所ののうのうと生きていくことになるよ。この後就職して結婚してそれぞれそれなりの人生を送って死んでいく。この場で君だけが全ての理不尽を背負っていなくなれば全て綺麗に片付くんだよ」


 何だよそりゃ!ふざけんなよ!何で俺だけがそんな目に遭わなきゃならないんだよ!本当に神がいるならせめて罪には罰を与えろよ!


「だけどねぇ……。君は学校でもいじめられっ子で友達もいない。家では引き篭もったまま学校以外では外にも出ない。そしてこのまま生きていても将来ニートになって親の財産を食いつぶして親に苦労をかけるだけ。親が死んでからは自分の生活もままならなくなってホームレスになってひっそり死んでいく。そんな君と将来普通に生きていく彼ら。どちらが選ばれ守られるのかわかってるでしょ?」


 くそっ!ふざけるなよ!くそっ!この世には神も仏もない!悪人がのさばって俺みたいな何の罪も犯してない者が馬鹿を見る!ふざけるな!!!


「そうだねぇ。彼らは確かに人が決めた罪を犯した。君は人が決めた罪は犯してない。だけど世界は彼らを祝福して君を排除する。それは君が現時点で罪は犯してないけどこれまでもこれからも何の役にも立たないからだよ」


 何だそりゃ!そんなこと知るか!将来なんてわからないだろうが!そもそも将来があるってことはここで死ななかった俺もいるってことだろう。だったら将来ニート以外の道に進む俺だっているかもしれない。それが俺だったかもしれない。それなのに他の可能性でニートだったからって俺はここで殺されて泣き寝入りしろっていうのかよ!!!


 俺はもう感情がごちゃ混ぜになっていてどうしていいかわからなくなっていた。とにかくこの神とか名乗ったふざけた奴にこの怒りをぶつけたかった。


「うんうん。わかるよ。君の言いたいこともよ~くわかる。だからそんな君に良い話を持ってきたって言ったじゃん。何と君には転生の権利が与えられました」


 えっ!?転生?これってまさかトラックチーレム?


 トラックチーレムってのはテンプレ通りトラックに轢かれて死んで、神様に会ってチート能力を貰って異世界に転生して、そこでチート能力を使って俺TUEEEして無双してハーレムを築くという王道パターンだ。


 俺は今トラックに轢かれて神様にあって転生させてくれると言われてる。まさに王道トラックチーレム!ktkr!!!


「王道トラックチーレムかどうかは知らないけど君にとってはとっても素晴らしい条件だよ。君はこれから全て思いのままだ。一切働かなくても一日中好き勝手に過ごせる。お金も食料の心配もない。仕事だってしなくていい。衣食住は全て完璧に保証されて飢えも病気もない。天寿を全うするまでのんびり生きていける。素晴らしいだろう?」


 ああ素晴らしい。俺は基本的に怠け者だ。将来ニートだって言われてもそうだろうなって俺だって思ってた。そんな俺が働かなくても全て安泰な世界に転生なんて確かに素晴らしい。それは何だ?王族に転生か?豪商に転生か?


 まぁ何でもいい。俺はこれから一生働かなくても好き勝手に生きられる人生に生まれ変われるんだ。


「ああ。一つ忘れてた。転生って言ってるけど異世界転移に近いから。君の姿も体も今のままだよ。この世界での肉体が死んでるからこの肉体を持って行くわけじゃないから転生って言ったけど実質転移だと思っておいて。それじゃ精々異世界を満喫してね」


 え?姿が前のまま?どういうことだよ。そんな異世界転生なんてあるのか?俺は思いっきり日本人の顔をしてる。そんな子供が生まれてもおかしくないような世界だってのか?


 自称神は俺の疑問に答えることもなく光って消えた。その光に飲み込まれた俺は意識が遠のいていったのだった。



  =======



 光が消えて目が覚めた俺は体を起こした。そして周囲を見回して異変に気付いた。


「何?この人?」


「何でこんなとこで寝てるの?」


「それにあの格好は何?」


 周囲がガヤガヤとうるさい。回りにいるのは日本人っぽい顔立ちの人間達。でも顎も細いし体も細い。そして何か変な全身タイツみたいなスーツを着てる。そしてさらに空に浮いてる変な椅子みたいなのに皆乗ってた。そいつらが倒れていた俺を覗き込んでいる。


 おかしい。色々おかしい。何だこれは?異世界チーレムじゃなかったのか?これじゃまるで未来のSFみたいだ。


「あの……、ここはどこですか?」


 俺は思い切って周囲の人間に日本語で問いかけてみた。さっきこいつらがしゃべってる言葉が日本語として俺に認識されてたんだから日本語で話しかけても通じるだろうと思ってのことだ。


「え?港区ですけど?」


 港区?日本の?東京の?俺があの時死んだのと同じ港区?


 待て……。待て待て待て。俺は異世界転生したんじゃなかったのか?何だこれは?全然意味がわからない。


「今日は何日でしたっけ?」


「えぇ?今日は地球連合暦3566年12月22日だけど?」


 ……はい?地球連合暦って何だ?意味がわからん。


「西暦で言うと何年ですかね?」


「はぁ?西暦?そんなもん知るわけないでしょう!あなたふざけてるんですか?そんな古い暦に直して言えなんて言われて答えられるわけないでしょ!」


 俺の問いに答えてくれていた人は去って行った。空飛ぶ変な椅子に乗ったまま……。何の操作もしていないのに椅子は勝手に空を飛び俺から離れて行った。何なんだこれは?まったくついていけない。俺のチーレムはどこへ行ったんだ?


 いや……。本当はわかりかけてる。恐らくだけど確かに俺は転生したんだろう。ある意味異世界とも言えるような異次元の場所に。


 そうだ。ここは未来の世界だ。俺が死んだ時より遥かに先の未来の世界だと思う。確かにここまで世界が進歩してたら異世界レベルだよ?でも俺が期待してた剣と魔法のファンタジー異世界じゃないんだよ!


 そんなことを考えているとどこからともなく空飛ぶ車がやってきた。もちろん俺のよく知る車とは全然形が違う。ただ人を乗せて動く乗り物だから車って言っただけだ。


 その空飛ぶ車が音もなく俺の前に着陸するとこれまた音もなく扉が開いて中から人が一人といかにもロボットみたいなのが一体出て来た。


「君が通報にあった道端で倒れている人物かい?君の名前は?」


 どうやらこれがこの世界の警官らしい。俺に職質してるんだろう。誰かが俺が倒れているのを発見して通報したんだろうな。


 普通なら救急車が先じゃねぇの?と思うけどこの世界じゃそんなことは必要ないんだろう。そもそもこの警官が俺に何か光を当ててきている。何かスキャンみたいなのされてるのは間違いない。だって警官がその光が出てる機械を見て顔色が変わったからな。


「おい君。本当に君は誰だ?何で生体認証されてない?生まれた子供全員に生体認証を埋め込むことは地球連合で決められている。それがないのは身を明かせない者だけ。君もそういう者だと認識して良いね?」


 警官は何かくの字型に曲がった物を握って俺の方に向けてる。恐らく何らかの武器なんだろう。


 俺はこの世界にいきなり出て来たイレギュラーだ。だからその生体認証とやらなんてしてるわけがない。体そのものは死んだ時の体そのままだって自称神も言ってたからな。


「いや、待ってくれ。俺は何も悪いことなんてしてない。調べてもらえばわかる。あっ……」


 いやいや、待て待て。もし本当にここが俺の生きていた世界よりずっと未来の地球の日本だったとして前の俺のことなんて調べられるとは思えない。


 どれくらいの時間が経っていてどう世界が変化したのかは俺にはわからない。もしかしたら俺がいた時代は一度滅びかけて今この世界はまた新たに興った文明じゃないとは言い切れない。


 あるいは歴史は続いていて連続しているのかもしれない。それならば俺の時代の有名人なら多少は情報も残ってるかもしれない。それでも俺みたいなただの一般人のデータまで残ってるとは思えない。つまり俺はいくら調べられてもこの世界に存在しないはずの人間ってことになる。


 ……なんてこった。これじゃ俺はこの世界にいないのも同然じゃないか?何が平穏に暮らせるだ。そもそも俺は暮らすために家を借りることも出来ないし職にも就けない。ここに存在する時点でもう俺は詰んでる。


 そう……。何のチートもなければな!でもこれは俺のためのチーレムだ!だから俺にも何かすごいチートがあるに違いない。


「わかったわかった。それじゃ話は署で聞くから。ポリスロイド、その青年を逮捕しろ。」


 ピピッ!って何か機械の音がしたと思ったら警官の隣に控えてたロボットが俺を捕まえた。かなり未来な感じがするけどロボットの進化はこの程度か、と少しがっかりもした。


 俺はロボットに両手両足を拘束されてパトカーに乗せられた。そのままパトカーは空に飛び上がって高速で移動していったのだった。



  =======



 前言を撤回する。このロボットすげぇ……。見た目はチェスの駒みたいなただの円柱型に色々ついてるだけみたいな感じだけど機能が桁外れにすごい。


 俺はこんなに時代が進んでるんだからもっと人間と見間違うほどのアンドロイドみたいなものがうじゃうじゃしてるのかと思った。だからいかにもロボットと言わんばかりのこの円柱型を馬鹿にした。でもそうじゃない。これは非常に合理的な理由でこんな形になってるんだ。


 そもそもロボットアニメものなんかでよく言われるロボットが人型である必要性は?という話がある。性能や汎用性を考えた場合に人型にしているメリットは何もないというやつだ。


 それはそうだよな。人間は手足が二本ずつで直立歩行出来る。そういう体に生まれたからその範囲内で行動するしかない。だけどロボットのように自由に設計出来るならそれは人型にして何のメリットがあるというのか?


 こういう議論で出てくる結論は『まったくない』だ。そう。まったくないんだよ。ただアニメなら見た目が格好良くて子供にウケて玩具が売れればいい。だからロボットアニメはわかりやすいように人型っぽいものが主流になってる。


 だけど実際にロボットを利用しようと思った時に二足歩行じゃ安定性に欠ける。人間なら自分の感覚で制御している姿勢をロボットなら様々なセンサーで感知して重心を移動させるギミックを組み込み動かさなければならない。


 それに腕の可動域も狭くて二本しかない。何でそんな風に制限をつける必要がある?関節がいくつもあって全周囲に自由自在に曲がるアームをつければいいだろう?武器を装備する用や武器の中でも用途の違う物を装備する腕、あるいは何かを動かしたりするように工作用アーム、それぞれ用途を設けてそれに見合う腕をいくつもつければいい。わざわざ二本の腕に全ての機能を持たせようと無理をする必要はない。


 つまり足元は多脚、もしくは無限軌道で安定性と走破性を確保し用途別にいくつものロボットアームをつけて様々な状況に対応出来るようにする方がいい。だからアニメでよく出てくるような二足歩行型の人型ロボットなんて無駄以外の何者でもない。


 このチェスの駒みたいなロボットもそれだ。変なアームが出てきて俺の両手両足を掴んでる。これだけで俺は何の抵抗も出来ない。それなのにさらに別の箇所から出た武器のようなものが俺に向けられていた。俺が逃げようとしたり暴れたら恐らくあれで攻撃されて鎮圧されるんだろう。


 機動力も問題ない。俺を掴んで持ち上げたまままるで音も無くスイスイ移動している。たぶんこいつはほんの僅かに浮いているんだと思う。だから移動しても地面とすれる音がしないんだ。逆にじゃあ浮くためにしている何らかの方法による音は?って話になるけどジェット噴射の音もホバー用の空気の噴射の音もしない。まったくの無音でスイスイ移動していた。


 もちろん抵抗する気なんてない俺は大人しく警察署に連行されてきた。そして取り調べを受けてるけど当然まったく話がかみ合わない。


 だって俺この世界のこと何も知らないもん。適当に嘘をつこうと思っても嘘のつきようもない。それにたぶん嘘発見器みたいなもので調べられてる。どの程度の精度があるのか知らないけど俺が適当に嘘をついて誤魔化そうとしてもすぐに突っ込みを入れられる。


「だから俺は何も知らないんですよ。この世界のこともよくわからない」


「はぁ……。君ねぇ?記憶喪失の振りをするにしてももうちょっとマシな言い訳があるだろう?」


 俺の取調べをしている警官はまったく信じてない。俺も異世界転生してきましたとは言ってないけど気付いたらあの交差点で倒れてて何も知らないって言っても信じてもらえてない。


「引受人もいないんじゃ帰せないからね。誰も家族を呼ばないつもりだったら今日はここに泊まってもらうから。それでもいいんだね?」


 異世界レベルの未来に来たはずなのに何かほとんど俺がいた現代日本と変わらないような気がしてきた。俺は留置所にお世話になんてなったことはないけど現代日本でイメージしてたようなことになってる。


「俺は家族とかいません。身元引受人を呼べと言われて誰もいません」


 だから素直に本当のことを言うしかない。


「はぁ……。わかったわかった。それじゃ今晩はここに泊まってもらうから」


 こうして俺は留置所のような場所に連れて行かれて身柄を拘束されることになったのだった。



  =======



 留置所(仮称)はかなり快適だった。恐らく『被疑者や被拘束者の人権が~!』とか言う団体が留置所を綺麗にしろとか環境を良くしろとか頑張ったんだろう。


 巡回が来ることもないし一目見てわかるほど露骨な監視カメラのような装置もない。だけど絶対全て監視されているんだろうなっていうのが何となく肌でわかる。


 俺以外にも他の房に入れられてる人がいるけど全員大人しい。誰も巡回に来ないからって妙なことをすれば碌なことにはならないからだろう。俺もそれがわかるから大人しくしておく。


 別に臭くも汚くもないし快適な空間だ。ただ俺にとって辛いのは食事だ。ここで出てくる食事は必要な栄養が全て含まれているゼリー状のあれみたいなものしか出てこない。


 味はまぁおいしい。だけど量が圧倒的に足りない。胃がぐぅぐぅ鳴ってる。栄養素としてはそれで足りてるのかもしれないけど噛むこともないから歯ごたえもないし腹も膨れない。非常に淡白な食事で現代日本人の俺には滅茶苦茶辛い。


 だけど他の房に入れられてる人達はありがたがって飲んでるみたいだから結構良いものなんだろう。俺は腹を空かせたまま中々寝付けない夜を過ごしたのだった。



  =======



 翌朝からも俺の取調べが続いたけど結果は何も変わらない。俺だって別に嘘をついているわけじゃない。本当に俺はここでは戸籍もない存在しない男だ。


 それは嘘発見器でわかっているのか警官達も俺が嘘をついているとは突っ込んでこない。ただ本当にその生体認証とやらや戸籍を持たない者と思われてるわけじゃなくて記憶喪失の一種みたいに思われてる節はある。


 だからいつまで経っても話が進まず終わらない。そんなことを数日繰り返しているうちにとうとう俺は検査のためにどこかの施設へと送られることになったのだった。


 そこは俺がよく知る病院とはまた違う奇妙な施設だった。護送中も外の景色を少しだけ見れたけど現代日本から見ても病院っぽいなと思える施設は町中にもあった。


 でも俺が連れてこられたのはどう見ても病院には見えない。何かの実験施設のように見えて恐ろしい。俺はこれから何をされるというのだろうか。


 そもそも俺のチート能力はどうなったんだ?これだけピンチの連続になっていればもういい加減現状を打破できる能力に目覚めていてもいいんじゃないのか?


 そう願って待ってるのに一向に事態は好転しない。俺はこの研究施設のようなものに収容されることになったのだった。



  =======



 まず一つ言っておくとこの施設でも何の問題もなかった。衛生管理の行き届いた施設内。ゼリー状の栄養剤のようなもので相変わらず腹は膨れないけど飢えることも栄養失調にもならない。快適な睡眠が約束されており夜はきちんと眠れる。


 検査も別に解剖されるだとか採血されるだとかもない。ただ変な機械に指を翳すと青い光が一瞬ピッ!と当てられるだけとかそんなもんだ。それで何を調べられているのかは俺にはさっぱりわからない。


 こんな検査が何日か繰り返されている日の夜、ついに俺はあのトラック事故以来二度目の自称神との邂逅を果たした。


「なんだよ~。あまり呼ばないでくれる?神様も忙しいんだよ。君にばかりかまってられないんだ。もう君は新天地でよろしくやってるんだからいいだろう?」


 毎日毎日神にここに来い!って呪い続けていたら思いが通じたのか今日ようやくやってきた。こいつには聞きたいことが山ほどある。


「おい。これはどういうことだよ」


 前回会った時は俺は幽霊だったから声も出せなかったけど今回は肉体があるから口でしゃべれる。


「どうとは?君の望み通り異世界転生したでしょ?」


 このくそ神は……。ここが異世界かどうかは置いておこう。遥か遠い未来の地球なのか非常に地球に良く似た異世界なのかは俺にはわからないからな。この自称神がここを異世界だと呼ぶのならそれはそれでいい。けど問題はそこじゃない。


「おい。俺はトラックチーレムでウハウハじゃなかったのかよ?この世界が異世界かどうかとかもういいけど俺は何のチートもないし好き勝手にも生きられてないぞ!」


「はぁ……。君ねぇ。君はもうチート能力を持ってるよ?それにまだ転生して数日だろう?いきなり全て落ち着くわけないだろう?それくらはわかってると思ってたけどね」


 うっ……。そりゃトラックチーレムの主人公達だって最初は異世界に翻弄されたりして徐々に成り上がったりしてるのはわかってる。けどその兆しもチート能力も見えなければ焦るのもわかるだろう。


「じゃあそのチート能力って何だよ?どうやったら使えるんだ?」


 ここはもうストレートに聞こう。もったいぶるタイプの神もいるけどこいつは面倒臭がりなのかかなり何でもあっさり答える。チート能力の種類と使い方くらいなら教えてくれそうだ。


「何言ってるんだい?君はもう使ってるじゃないか。この世界の人間達は君の居た世界に比べて衛生が徹底されている。医療も発達していて病気の治療は簡単だ。だから免疫力が君に比べてすごく低い。それに君の世界じゃ固形物を食べるから胃腸が発達してるよね。この世界ではほとんど流動食だから胃腸が弱いんだ。君はそこらの人と比べて物凄い免疫力と強靭な胃腸を持ってるんだよ?すごいチートでしょ?」


「……は?」


 おい……。おいおいおい!待てよ!俺のチート能力ってそれだけ?馬鹿か?舐めてんのか?それでどうやってチーレムするんだよ!?


「心配しなくてもこれから君は安全で快適で自由な生活を送れるようになるよ。もういいでしょ?それじゃね」


「あっ!おいっ!」


 まだ言いたいことも聞きたいこともあったのに自称神の野郎はまた光って消えた。後に残ったのはただ独房で佇む俺だけだった。



  =======



 二度目に神に会って話を聞いてから俺は俺なりに色々と考えた。そしてようやく思い至った。俺のチーレムへの道が見えてきた。


 まず俺はこの全て滅菌、殺菌されているこの世界の人間より免疫力が高いと言っていた。そう。つまりパンデミックが発生しても俺だけは生き残り俺の抗体だけが人類を救う可能性のある唯一の薬になる!なんてイベントが発生するに違いない。


 よくドラマや映画なんかでも宇宙人や未来人は医療や衛生観念が発達しすぎていて突然の未知のウィルスとかに弱くて皆大量に感染して自滅するなんて話はよくある。


 そうなった時に過去の人間である俺だけは強い免疫力があり生き延びる。そして俺の体から抗体を作り出し人類を救い英雄となる。ふふふっ!完璧だ。


 さらに自称神はこうも言っていた。流動食しか食わないこの世界の人間と違って俺は胃腸が発達していて固形物を食えると。


 それはつまりパンデミックでこの世界の機能の大部分が麻痺して今のゼリー状の食料が生産されなくなるんだろう。


 そして俺は固形物でも食える。俺だけが生き延びれる。もちろん俺だけが生き延びても意味はないけど俺が固形物を食って生き延びることで生き残っている人々を助けてハーレムを築き上げる。


 そうだ!きっとそうに違いない!それならば俺が持ってるって言われた二つのチート能力を活かすことが出来る。剣と魔法の異世界でチーレムとか想像してた俺の予想とは大分違うことになったけどまぁいい。


 荒廃した未来世界で唯一の希望である俺が生き延びてチーレムを築き上げる。そういうシナリオも悪くない。


 そしてこの世界を破滅させるこの世界では未知のウィルスも俺と一緒にこの世界にやってきたはずだ。くっくっくっ!後は俺を拘束していた留置所関係やこの施設から俺が持ってきたウィルスが拡散して世界に広まるのを待てばいい!



  =======



 おかしい……。もう俺がここに連れてこられてから結構経ってるはずなのに未だに未知のウィルスによるパンデミックが起こらない。あまりに平和すぎて俺は俺の検査をしている人に話しかけてみた。


「なぁ……。何か未知のウィルスとか見つからなかった?」


「え?あぁ……。話してもいいのかな?まぁ大した話じゃないからいいか。ええ。確かに原始的な一本鎖RNAウイルスが発見されましたよ。」


 お?おお?何のことを言ってるのかはわからないけどきっとそれが広がって大変なことになるはずだ。


「それってもしかしてインフルエンザウィルスってやつですか?」


「えっ!ええ。よく御存知ですね?そんな古い呼び方を知っている人なんて医療関係者でも滅多にいませんよ。もしかして考古学とかされてた方なんですかね?」


 はぁ?俺が考古学とかしてるわけねぇだろ!とは言え俺が生きていた時代のことを言うだけでもこの世界じゃ考古学なんだろう。まぁいい。それはこの際どうでもいい。それよりもやっぱり出たぞ!これで俺はこの世界の希望となる!


「それは拡散したら大変なんじゃないですか?」


 俺はにやけそうになる顔を必死に抑えてこれからどう広がっていくのかヒントになるかと思って話を続ける。


「は?いえいえ。今は生まれた時に施される各種予防接種などでまったく害がなくなっていますから安心してください。それに万が一何らかの病気が発症しても即座に治療可能ですので何の心配もいりませんよ。」


 この研究員だか検査員だかは余裕でそう答えた。くくくっ!でもそうはいかないんだよ!これから俺のターンだ!はっはっはっ!!!



  =======



 それからかなり経ったのにまったくパンデミックが発生している様子はない。他の何人かにも話しかけて聞いてみたけどやっぱりインフルエンザウィルスはこの世界ではまったく危険のないものに成り果てているらしい。


 精々過去の文献を調べていると出てくる当時としては大変な病気だったという程度の認識のようだ。そう。俺達が居た頃だってそんな病気はいっぱいあった。


 例えば梅毒とか麻疹とかだ。あるいは天然痘とかもか?天然痘のように撲滅宣言されたりペストのように表立って言われなくなった病気でも万が一また感染が広がったら大変な病気もまだ多くあった。


 だけど当時なら同レベルと言えるほどに危険だった麻疹なんかは俺がいた現代では普通にしていればまず死ぬことなんてないくらいの病気になっていた。


 この世界でもそうだ。俺が知ってる当時の大変な病気はここではほとんど害のない病気となっている。まるで盲腸を切るように簡単にガンが治る。HIVもエボラ出血熱も糖尿も難病や根治不可だった病気も皆治る病気になっている。


 この世界が俺が持ってきた未知のウィルスで壊滅するなんてことはなかった。そして検査を終えた俺はまた別の施設へと送られることになった。残りの一生を過ごす俺の終の棲み家へと……。



  =======



「皆様、こちらが一万年以上前に絶滅したと見られていたホモ・サピエンスの最後の生き残り。現代に生きる最後の一体と思われる個体でございます」


「ほ~……」


 見物人達が厳重に隔離された透明な檻の中を覗き込む。そこには自分達とあまり変わらない一人の男が生活していた。


「あの着てる変なものはなに~?」


 子供が無邪気に見世物になっている男を指差して疑問を口にする。


「ホモ・サピエンスは植物や動物から採った繊維を編み衣類を作って着ていました。やがてそれは化学繊維も混ぜられるようになり発展していきます。彼が着ているのは綿やポリエステルと言われる繊維で編まれた衣類です」


「「「へぇ~~!」」」


 子供の疑問にも的確に答えが返って来て聞いていた大人達も感心したように頷く。


 檻に入れられて見世物にされている男はもう特に反応はしめさなかった。十分に与えられる食料。清潔な環境。病気になれば即座に治療される進んだ医療。


 働く必要もない。ただ固形物を食べるというだけで珍しがられて人に見られる。綿やポリエステルの衣類を着ているだけで驚かれる。


 最初は男も『ここから出せ!』とか『俺の人権を保障しろ!』とか騒いでいた時期もあった。しかし次第にその元気もなくなり一時衰弱が激しかった。


 そこで研究者達の発案により男と同じ檻に最もホモ・サピエンスに近い現存する生物であるチンパンジーの雌を入れてみることにした。


 すると二匹は次第に打ち解けて番になったようで男の方にも元気が出て来たように見受けられた。それ以来定期的に若い雌のチンパンジーを一緒に入れることでホモ・サピエンスを落ち着けることが出来ると結論付けた。


 今も檻の中でチンパンジーの雌が最後のホモ・サピエンスに寄り添ってグルーミングしている。ホモ・サピエンスは体育座りのような姿勢になり顔を膝につけて休んでいるようだった。


 見物人にも監視員の耳にも聞こえていないが高性能のマイクがある音声を拾っていた。ブツブツと呟くホモ・サピエンスの鳴き声だ。


「何でこんなことに……。もう帰してくれ。頼むよ神様。もう帰りたい」


『何を言ってるんだい?君が望んだ通り異世界トラックチーレムだろう?君はチート能力を持ち、異世界に転生して、何の苦労もすることなく一生安全で安泰な生活が保証されている。元居た世界じゃ助からなかった病気でも簡単に治る。元居た世界で働きたくないと思ってた君にはぴったりな環境だろう?』


「もういやだ……。もう帰りたい……。もう帰してくr」


 最後のホモ・サピエンスの鳴き声が小さく聞こえていた。



 賛否両論どちらでも良いのでよろしければ感想等ください。

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