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蒸発のサイクリングロード  作者: 滝 陽水
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第七章

第七章




朝八時前。

藍の自宅から数百メートル離れたところにある小さな一軒家。とはいえ、新興住宅地なので、周囲を見回すと同じような光景ばかりで、一軒家のありがたみも薄れてしまう。

晃と藍は、登校中の優に話を聞くために優の自宅付近で彼女が通りかかるのを待っていた。

「でも、藍ちゃん。こんな時間でいいの?普通ならとっくに出かけてる時間じゃない?」

晃の疑問も最もで、藍ちゃんの話ている高校までこの場所からだと電車で数十分かかる。駅まで走っても十分はかかるだろうから、この時間ではもうギリギリである。

「ふふ。大丈夫ですよ。優のことだからそろそろ…」

そう藍が言いかけたとき、玄関が『バタン!』と勢いよく開くと一人の女の子が飛び出してきた。

「い、いってきまーーーす!」

その女の子はそのまま晃たちの乗る車のほうへ猛ダッシュしてきた。

藍はすぐに車外へ出て、その行く手に立つ。すると少女は急ブレーキをかけ、倒れこむように藍に抱き着いた。

「ちょっちょっ、危ないじゃん!藍!何やってんの、こんなところで」

藍はゆっくりと優の肩を起こすと、

「ふふ。相変わらずね、優。よかったら乗って行く?」

と、晃の車を指さす。優は晃の顔を訝し気に覗いていたが、

「せっかくだから送って行ってもらおうかな!」

そう言うと藍と共に後部座席に乗り込んだ。


走り出すと藍は早速優に一部始終を話した。

優は涙を堪えながら、

「藍…あんたがそんな目に遭ってたなんて、なんでもっと早く相談してくれなかったんだよ!」

『ごめん』と謝る藍を抱き、頭を撫でる優。笑顔の藍を見て、晃はルームミラー越しにちょっと羨ましく感じていた。

「その継母もだけど、おじさんもおじさんだ!藍のお母さん、ものずごく優しかったのに…」

相変わらず藍の手を離さない優。藍はそんな優の手を再び握ると、

「お父さんのことはいいの。それより、今は」

藍の言葉を遮って優は、

「うん。分かってる。その藍の居場所を占領してるやつだね。私に任せておきな!」

快い承諾に藍はホッと胸を撫でおろした。ルームミラーで見ていた晃は、まだ出会って幾日も過ぎていないものの、藍のいろんな顔を見てきたつもりだった。しかし、優の前で見せる藍の表情は安心しきっており、見るものを癒すような柔らかな微笑みがあった。晃が見とれていると、後続車から青信号を知らせるクラクションが響いてきた。

しばらくして駅に到着したものの、優は降りようとしなかった。

「優?学校行かないの?」

藍は心配そうに優を促すと、

「藍…あんたが大変なときに、学校なんて行けるわけないでしょ!運ちゃん!藍の自宅まで行って!」

優の高らかな宣言に晃は思わず、

「は、はい」

と、お抱え運転手のように、素直に応じるのであった。

「優…ありがと」

晃は二人の様子を見ていて、いろいろ聞きはするが、女同士の友情ってのも悪くないのかなと思うのであった。



車が藍の自宅に到着すると、ちょうど藍のお父さんが出勤するところだった。

車に乗るところで藍が声をかけるより先に優が声をかける。

「おっじさん!久しぶり!」

お父さんは振り返ると、

「お、優ちゃん!久しぶり。元気にしてたみたいだね。藍ならもう行ったけど…」

するとお父さんは優の後ろにいる藍を見て、

「おや…君は昨日の…なんだ。優ちゃんの知り合いだったのか」

その言葉を聞いて藍は優の後ろで小さくなってしまう。しかし優は真剣なトーンで、

「おじさん…この子のこと、分からないの?」

いつになく真剣な優の表情と声に、お父さんは空気を察して藍をよく観察する。しかし、

「…?分からないってどういう意味だい?昨日、藍と話してた子だよね?」

ここまで内心、半信半疑だった優。しかし、このお父さんの言葉を聞くと、

「藍じゃん!この子が藍じゃない!なんで、自分の娘の顔を忘れるのよ!そんなの酷すぎる!」

そう言うとお父さんに掴みかかった。晃はいきなりの直球勝負に面食らった。今までの優の行動から容易に想像できてはいたが、まさかここまでとは予想外だった。しかし、その真剣な訴えにお父さんは、

「藍…そんなバ…イタッ…」

そう言うと頭を押さえて俯いてしまった。なおも訴えようとする優に藍は、

「優!もういいよ!…もう」

半泣きの藍に戦意を削がれた優はお父さんを離すと後ろに下がった。一部始終を見ていた晃は、

「今は時間が悪い。一旦帰ろう」

そういうと、優と共に車に戻った。しかし藍は、お父さんの様子を見ると、

「…いつもの薬、お母さんのところの右に入ってるから…」

そう言い残すと、顔を上げたお父さんを確認する事なく、優に続いて車に乗り込んだ。



三人は近所のバーガーショップに来ていた。

優がお腹が空いたというので、仕方なくである。とはいえ、モーニングを食べた二人はポテトフライとコーヒーなのに対して優は普通にセットメニューに食らいついていた。

「優…朝食べなかったの?」

藍は心配そうに聞くと、優は口の中の物を一気に飲み込んで、

「食べたよ!」

とだけ言うと、再びバーガーに食らいつく。成長期とは恐ろしいものである。そして晃と藍がポテトを半分ほど食べたところで、優のセットメニューは跡形もなくなっていた。

そして、優は晃のポテトを啄むと、

「でもさ、肝心の偽物ってのがいなかったね。もう学校か。となると、夕方か夜に帰ってきたころを見計らってもう一回行くかだね!」

藍に言わせると一人でどんどん話を進めていくあたりが『優らしい』という。しかし、優の言うことも最もで、今はそれしか無さそうだ。さらに優は、

「でさ。今日はもう藍に付き合うって決めたから、そのサイクリングロードってのを見てみたい。噂は知ってたんだけど、実際に見たことないんだよねー」

すると藍は、

「いいけど、自転車ないから走れないよ?」

しかし、優は全く意に介さず自宅の方向を指さすと、

「問題なし!うちに折り畳み二台あるから。晃さんはその終着点で待ってて!」

晃も藍も優のハイテンションに押されてしまい、晃は優の自宅前で車を止めた。優はものの数分で折り畳み自転車を二台持ち出して、無理矢理車に詰め込むと自分は助手席に収まった。

サイクリングロード始点へと走っている最中、優は晃をジロジロと眺め、『仕事は?』『趣味は?』など、矢継ぎ早に質問をして道中を賑わした。晃は品定めされているようで多少居心地が悪かったが、ここまで賑やかな車内も久々であり、言い知れぬ高揚感を感じていた。これも優のなせる業なのかも知れない。

数十分後、晃はそろってサイクリングロードへと消えていく二人の後ろ姿を見送ると、サイクリングロードの終点へと車を走らせるのだった。



数時間後、サイクリングロードの終点には晃の姿があった。

相変わらずボロボロの車両基地(?)やプラットフォーム跡などが立ち並び、かつての賑わいを想起させる。地域の足としての存在感は、廃線となった今でも忘れさせないものがあった。

(ここももっと整備すればマニア受けするだろうに…)

晃は余計なお世話であろう妄想をしながら藍と優の到着を待った。あまり早く着くと待ち時間が長くなると思い、これでもコンビニエンスストアなどで暇を潰してから到着していた。

しかし、晃は改めて自動車の有用性を実感するくらいに早くついたようで、もう終点についてから小一時間は経っている。晃は仕方なく付近をブラブラとしている。

ウミネコの合唱に誘われて歩いていくと、海が近いようで目の前には漁港があった。香ばしい潮の香に誘われるように岸壁に腰掛けて黄昏ていると、サイクリングロード終点の方から騒がしい声が聞こえてきた。

(どうやら着いたか…)

晃が散策に終わりを告げ、車へと戻るとそこには藍と優が自転車を畳んでいるところだった。

藍の話では久しぶりにまともに話したとのことだったが、優の人懐っこい性格もあってか、はたまた幼馴染の記憶か、すっかり打ち解けて藍の表情にも自然な笑顔が宿っていた。

その微笑ましい光景に、見ている晃まで笑顔になってしまう。もし、道行く他人に『彼女はついこの前まで自殺を考えてました』と説明しても、まず信用されないだろう。

「なーにー見ーてーる?」

優は訝し気な、また悪戯っぽい表情を作ると晃に詰め寄った。

「な、なんでもねーよ」

晃は慌てて運転席に乗り込む。完全に女子高生に手玉に取られるおじさんである。晃は自分の老いを感じずにはいられなかった。

「で、どうだった?」

晃は車を発進させると優に尋ねる。とりあえず話題を変えないと居心地が悪かったこともある。

優は背伸びをすると、

「いい道だねー景色もいいし。最後の方がちゃんと舗装されてればなおグッド!」

晃が『ハハハ』と笑うと優は続けて、

「まぁ、普通の昼間だとこんなもんでしょ。普通に観光してきたよ」

地元で観光っていうのもおかしなものであるが、実際、近所の観光スポットにはなかなか足が向かないというのは万人共通なのかもしれない。藍もよほど楽しかったのか、後部座席で嬉しそうに相槌を打っている。しかし、ルームミラー越しに晃と目が合うと、少し俯いて目を逸らしてしまった。



とりあえず晃たちは優の自宅に自転車を戻すと、近所のカフェで時間を潰すことにした。

晃がいつも立ち寄るカフェに入ると、いつもならマスターが『お、晃くん!』と出迎えてくれるはずだが、今は『いつも』ではない。通常の見知らぬ一見客となった晃は寂しい反面、少し新鮮でもあった。

晃は普通にホットコーヒーのみだが、藍は優に促されてイチゴパフェをオーダー。その優の前にはカフェ特製のビッグフルーツミックスパフェが鎮座していた。一メートルないくらいの高さに数々のフルーツが生クリームの中にあしらわれており、中腹にはシリアルやアイスクリームの姿も見える。これがこの小柄な少女のお腹に収まるというのだから、食というのは奥が深い。

この大きなパフェに目を輝かせてかぶりつく優に唖然としていた晃。これを見た優は、

「ん?一口食べる?」

と、スプーンにフルーツを乗せて晃に差し出した。

「あ、いや。いいよ」

優は『そう?』とそのまま食べ進める。コーヒーを一口啜った晃は、

「とりあえず、だ。この分なら藍ちゃんの方は大丈夫かな」

そう言って藍を見ると横から優が、

「任せなさい!藍のことなら何でも知ってるんだから!」

すると藍は優の口をハンカチで拭うと、

「もう、優。食べるか喋るかどっちかにして」

どうやら、晃にも二人の関係がよく見えてきたようである。

「でもさ、二人はそんなに仲がいいのに、何で疎遠になってたんだ?」

晃は二人の姿を見ていてどうもこの点が腑に落ちなかった。どう見ても仲のいい幼馴染なのに、疎遠にならなければ藍ちゃんはサイクリングロードに行くこともなかっただろう。すると珍しく優を制止して藍が、

「私がいけないんです。お母さんが亡くなって、お父さんの世話や家の家事に忙しくって」

優もこれに続いて、

「藍は責任感が強くて面倒見も良すぎるんだ。だから、こっちも邪魔しちゃ悪いかなーって、段々遊ばなくなってさ。だから、今回のことでまたこうして話ができて、めっちゃ嬉しい!」

優はパフェを頬張りながらも藍の肩を抱き寄せる。優の腕の中ではにかむ藍がまたかわいいなと思う晃であった。

そうして、他愛もない時間は過ぎ、夕方となった。いよいよ藍の決戦である。



日も傾きかけた夕方、晃たちは藍の自宅前にいた。

三人は頷き合うと藍がインターホンを押す。その斜め後ろには晃、優は一歩離れて様子を伺っている。

すぐに『はーい』と声がしてドアがゆっくりと開く。自らを藍の代わりと宣言した『あの』少女だ。

藍の背中には一筋の汗が流れる。平常時ならくすぐったく感じるものだが、今はそんなことを感じている余裕などない。晃も同様で、額から冷や汗が流れ落ちる。藍はできるだけ平静を装いながら少女と対峙した。

目の前の顔ぶれを一瞥すると少女は、

「…またあなたたちなの」

そう言って後ろ手にドアを閉める。そして勝ち誇ったような眼差しを向けると、

「何度も言わせないでよね。もうあなたの居場所はここにはないの。さっさと消えてくれる?」

そう冷たく言い放った。決別宣言のような生易しいものではない。その言葉は侮蔑と嘲りに満ちていた。

藍はその言葉に貫かれたように動きを失っていたが、後ろから優に突っつかれて我に返った。

「そ、そんなことできません。ここは私の家です。あなたは自分のいるべき場所に帰ってください」

ほとんど聞こえないような細い声ではあるが、何とか言い切った藍。しかし、少女は面倒臭そうに、

「…うるさいわね。もうあなたの居場所はないって分ってるでしょ?いい加減聞き分けて頂戴。それとも私が消してあげようか?」

少女が一歩前に出ると、藍が『ひっ』と小さく悲鳴を上げる。晃はさすがに我慢できずに声を上げようとするが、それは優によって制止されてしまった。その代わりに優が藍の横に立ち、藍の手をしっかりと握った。

「あの…さ。さっきから聞いてたんだけど」

優はそう切り出すと、それまで見せたことのない鋭く、激しい眼差しを少女に向ける。しかし、少女は意に介さず、

「…なに?あなたは。関係ない人は引っ込んでいてくれない?これは私のその子の問題なの」

優は『フフッ』と笑うと、

「関係大ありなんだけど。あんたが『藍』だって言うなら、なんで私のことが分からないの?」

そう言うと、二人はポケットから小さなお守りを取り出した。色違いではあるが、全く同じ小さな巾着タイプのお守り袋で、お互いの名前が刺繍されている。

それを凝視した少女は、

「は?それが何だっていうの?そんな汚いものを後生大事に持って…」

するとその言葉を聞いた藍は、

「汚くなんてない!!これは…これは、優と私の大事なお母さんの思い出なんだから!!」

突然の大声に晃は少し後ずさりしてしまった。優は藍に続いて、

「私たちは幼馴染。少し事情があって疎遠になってたけど、お互いの気持ちは変わってなかった。だから、私には分かる。この子が『都築藍』よ。あんたは誰?」

その言葉を聞いた少女は、

「う…うう…」

と、頭を抱えて苦しみ始めた。その様子を三人はジッと見守っている。

「私は…私…は…」

消え始めているのか、少女の輪郭がぼやけていく。しかし、次の瞬間、少女の後ろのドアが開き、藍のお父さんが姿を現した。

「藍、お客さんか?大事な話があるんだから、いい加減に…」

すると、消えかかっていた少女の輪郭は元に戻り、

「…あ、お父さん。ごめん。すぐ済むから」

と、元に戻ってしまった。しかし、少女の表情には以前のような余裕はなく、すぐにでも消えそうな笑みを浮かべている。

優は『ああんもう!』と藍のお父さんに食って掛かる。お父さんは、

「おお、優ちゃんじゃないか。久しぶりだね、たまには藍と仲良くしてやってくれよ」

と、少女の肩を抱く。優はその様子を見て、

「お・じ・さ・ん!その子は藍じゃないでしょ!こっちが藍!」

するとお父さんは、

「優ちゃん、しばらく会ってないからって幼馴染の顔を忘れちゃだめじゃないか」

とすっかり忘れているようだった。そして少女はお父さんの腕の中で薄ら笑みを浮かべている。お父さんは更に続けて、

「そういえば君、今朝何でいつもの薬の場所知ってたんだ?藍から聞いてたのかな?」

「おじさん!そんなのこの子が藍だからに決まってんじゃん!今まで全てを犠牲にしておじさんたちの世話をしてきた藍をそんな風に忘れるなんて…」

優がお父さんに食って掛かっていると藍は優の手を引き、

「も…もういいよ。優…」

すると優は藍の両肩を掴み、

「よ・く・な・い!あきらめちゃだめ!そんなの許さな…」

そう言いかけたとき、藍の持っていたバッグが光り輝いた。

その場にいた一同の視線がバッグに集中する。周囲は日が落ちている最中でかなり暗くなっていたので、否応なしに目立ってしまう。藍はアタフタとバッグを押さえるが、光はどんどん強さを増していったと思うと、一筋の光線となって優へと降り注いだ。

光線の直撃を受けた優は一瞬項垂れるが、すぐに顔をあげる。その姿は後光とでもいうべきか、光り輝いていた。しかし、その柔らかな笑みに藍は覚えがあった。

「…お、お母さん…お母さん!」

藍は優と繋いでいた手を振りほどくと、優の胸に飛び込んだ。優はそれまでとはまるで人格が入れ替わったかのように優しい笑みを浮かべて藍の頭を撫でている。

「藍ちゃん…よく頑張ったわね…もう大丈夫よ」

優は藍を抱いたまま、お父さんに目を向けた。

お父さんは何が起こっているのかさっぱり分からない様子で見守っていたが、優の表情と語り口にかつての愛妻を感じた。

「君は…裕子…なのか?」

優はまた優しい笑みを浮かべると、

「はい…あなた。久しぶり…というべきでしょうか」

そこまで言うと優は険しい表情を作り、

「久しぶりではあるのですが、あなた。自分の娘が分からないとはどういうことでしょう?」

穏やかながらもその言葉は有無を言わせぬ迫力に満ちていた。お父さんが返答に困っていると、

「異界の力によって騙されていた…とは言え、藍がこのような行動に走った原因はあなたにあるんですよ?お分かりですか?」

お父さんはまるでいたずらをして母親に叱られる子供のように項垂れて、

「はい…」

と答えるのがやっとのようであった。するとお母さんは続けて、

「ほら。今からでも遅くはありません。あなたのするべきことをしてください。親として…」

その瞬間、優から放たれた光はお父さんに刺さった。お父さんは頭を抱えて苦しそうにうめき声を上げた。時間にして数秒、声にならない悲鳴を上げたかと思うとその場にうずくまる。そしてお父さんはまるで憑き物から解放されたように、

「…ああ、僕はなんという勘違いを…藍許してくれ」

優の腕のなかの藍に語り掛けた。そして、

「じゃあ、君は一体何者なんだ?」

少女に向かって問いかけた。不意を突かれた少女は再びうめき声をあげると、

「せ、せっかく…この世に居場所を与えられたのに…ちくしょうううぅぅぅぅ!!」

そう叫ぶと輪郭はぼやけていき、その姿はやがて四散してしまった。

その直後、優を囲んでいた光は優から離れ、藍のバッグへと戻って消えてしまった。

「お…お母さん、お母さん!」

藍は慌てて位牌を取り出したが、すでに光は失われていた。

優は光を失うと力が抜けたように倒れそうになったので、すぐ後ろにいた晃は慌てて抱きかかえた。

一方でお父さんは藍を抱き寄せて、

「藍…すまなかった…お前をそこまで追い詰めていたなんて…」

藍もすべて終わった安堵感からか、嗚咽を漏らしてお父さんの腕の中で泣いていた。

ここからは家族の世界。晃は気を失っている優を抱えると車に戻っていった。

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