君は今日から厨二病!!
「・・・・・・・・・さ・・・・・・・・・おこ・・・・・・い」
誰かが僕を呼ぶ声をする。
「こっ・・・り・・・・・・ん・・・く・・・さん・・・ください」
僕を呼ぶのは誰?
「こっくりさん、こっくりさん、お越しください」
呼び出されたのは薄暗い部屋。部屋の暗さに目を慣らさせ、声の出所を探す。
一番奥の勉強机、そこに一枚の紙と向かい合って僕を呼ぶ一人の少年がいた。
ああ、君か。
その子の手の中にある10円玉に意識を集中させる。
『ボクヲヨンダノハキミ?』
10円玉を、紙の上でぐるぐる回しながらそう尋ねた。
「ああ、来てくれたんだ。初めまして。俺は中田春樹」
驚く事に少年は紙から目を離し僕を真っ直ぐ見ながらそう言った。
「へぇ、君には僕が見えるのか」
今度は口に出す。
「うん、はっきりくっきり見えてる」
「・・・驚いた。言葉も通じるんだ」
これほど霊感の強い人間にはそうそう出会えない。
「僕は瀬尾慧。十六歳の時に病気で死んでそのままさ」
「成仏はしてないの?」
「そうだよ。向こう側に行く途中で道に迷ってそのまま浮遊霊になった」
「そう、ならやり残した事は沢山あるよね」
「うん、いっぱいある」
「成仏・・・したい?」
「そりゃあ勿論」
「一番何がしたかった?」
「子供らしいこと…かな?僕、ずっと病院に居たから」
「そっか」
「ねぇ、君は何で僕を呼んだの?」
「ちょっと君を使って友達に悪戯がしたくってね」
そんな理由で君は僕を呼んだの?
「今回は僕でよかったけど下手したら悪霊とか呼ぶからやめた方がいいよ」
「大丈夫。悪霊が来たら除霊するつもりだったし、実際、君を呼ぶ前に二回悪霊が来て退治したからね」
除霊、そう聞いてゾッとした。除霊とは浄霊のように成仏させるのとは違い、成仏してない霊を強制的に世界から消す事だ。除霊された霊は輪廻転生の輪から外され、生まれ変わる事なく存在そのものを消される。
そんな事が春樹にできるなんて。
下手を打ったら、僕は春樹に消されてしまうかもしれない。ここは従順になるべきか。
「僕は何をすればいい?」
「本当は友達を君で驚かすつもりだったけど、君がやり残した事も同時にしてあげたいな」
「え?」
「・・・結論から言うと君も一緒に楽しめる活気的な悪戯をしない?」
春樹はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
悪戯。その言葉に少し惹かれる。ずっとベットで横になって居た僕に悪戯なんて事がしたことがなかったから。
「・・・楽しそうだね。何をするの?」
「俺、ちょっと変わった友達が居てね、今から俺が言う通りにその子に話しかけて欲しい。決行するのは明日だ」
「うーん、ちょっとなら手伝ってあげてもいいよ」
こうして、この日は日が昇るまで僕達の話し合いは続いた。
in校門前
僕こと瀬尾慧は朝から校門の側に立っていた。勿論幽霊の誰も僕には気が付かない。
しばらくフヨフヨと浮いていると春樹に連れられて二人の少年が近付いてくる。
二人とも春樹と同じサッカー部の二年生らしい。一人はサッカーの天才佐藤樹、もう一人は今回のターゲットの篠原梓。梓は無自覚霊感持ちらしい。だが彼の周りは幽霊が近ずけない聖域になっていて、彼自身は幽霊を一度も見たことが無いのだとか。そこで今回の作戦は《ドキドキ!?幽霊との遭遇!!》だ。因みに梓の聖域は僕だけが入れるように梓がちょちょいといじったらしい。
三人が校門に踏み入れる。すかさず僕は春樹とアイコンタクトをとった。
彼はコクリと一つ頷く。
よし‼︎僕は静かに口を開く。
「おい、そこの」
いつもとは違う威圧的な口調。その方がきっと彼を驚かせられる。
「・・・?」
彼は辺りを見回すが、上空にいる俺には気が付かない。
「お前だよ、お前。上見ろ上」
目が合った瞬間彼が目を見開く。
きっとこれで彼は驚くだろう。
「だ、誰だ!?」
ほら、驚いた・・・けど、怯えてはいない?
梓の背後にいる春樹に視線を送ると、綺麗なサムズアップが返ってくる。続けろってことかな?
「俺が誰かって?俺は瀬尾慧。お前は篠原梓だな?」
彼が眉をピクリと動かす。
「何故・・・俺の名前を知っている?」
ちょっ本当にこの反応でいいの!?
「梓?誰と話してるの?」
空を見て話す梓の姿に疑問を持ったのか、横にいた樹が話しかける。
「え?お前、あいつが見えないのか?」
「アイツ?ねぇ、梓、大丈夫?風邪?」
・・・ん?
取り敢えずさっきの質問に答える。
「俺はお前に会うためにここに来たんだから、知らない方がおかしいだろう?」
「俺に会うために?」
「そうお前に会うためさ」
チラリと春樹を見る。
・・・ねぇ、なんか肩震えてない?ひょっとして笑ってる?一体何に?
俺はこの状況を客観的に見ることにした。
周りには見えない幽霊と、一介の高校生が会話をしている。つまり周りから見ると全て梓が空を見ながらブツブツ独り言を言っているようにしか見えないんじゃ・・・。
・・・春樹、これが狙いか!!
そもそも朝から何の演出もなく標的の前に姿を現わすなんて可笑しいと思ったんだよ!
よし、要するに君の友達を空を見て話す変人に仕立てあげようってことだね。
そうならそうと最初に言ってくれればいいのに!
こんな楽しそうなこと初めて!全力で手伝わせてもらうよ!
ここに至るまで約O.五秒。
俺は作戦を少し変更した。
「お前の手はは秘められた力を持っている」
「俺の手に力・・・」
梓は緩々と手を持ち上げて太陽に翳した。
おい、周りの目をもっと気にしろよ!
「そう、魔力だ。そして俺は異界の魔王だ。お前に魔術を教えに来た」
うわーデタラメもいいとこだな、信じるか?
「俺の手の力を使って何がしたい?世界征服か?」
信じたよコイツ!
「本当頭大丈夫?病院にいく?」
樹が梓の頭の心配をしている。
すると、先程まで黙っていた春樹が口を開く。
「そうだぞ?お前今日なんかおかしい」
君のせいでね!!
「えっちょっ俺正気!なんでお前らアレ見えてないの!?」
「だっからお前には何が見えてんだよ!?取り敢えずここじゃ目立つから教室行くぞ!」
そう言って三人は立ち去っていく。俺はそのままついては行かず、あらかじめ春樹に教えられていた教室に空を飛んで入った。
「これは期待以上」BY春樹
in教室
春樹たちが来る前に梓の机の上に腰掛け、足を組む。彼らは同じクラスだそうだ。
ガラリと開く扉。最初は樹が入って次に春樹。おい、口元ニヤニヤしてるぞ。そして最後に梓・・・バチッて音がしそうなくらいに視線が交差する。
「・・・おい、それは俺の(机)だ」
うっわーすっごい勢いで睨んでくる。
「え?梓?」
春樹がまた慌てる。うん、芸が細かいね。
次は何を言おうか・・・よし、
「お前の持つその生徒手帳」
梓が左胸のポケットから生徒手帳を取り出す。
「これがどうした?」
「それは魔道書だ」
彼はポカンと口を開ける。
・・・流石に信じないか?
「この生徒手帳が・・・魔道書・・・だと?本当か?」
「ああ、そうだ」
「そうか、生徒手帳は魔道書だったのか!」
「はぁ?本当大丈夫か?」
はぁ?って言いつつ春樹さん、口がニヤニヤしてますよー。
すると隣に立っていた樹もポケットから生徒手帳を出した。
「これ、魔道書なの?」
んん!?
「「違うから!?」」
僕と春樹の声が重なった。
ちょっと待って樹!?信じかけたの!?
天然か!?天然なのか!?
in中庭
流石に授業中は邪魔できないから僕は一人、学校探検に出ていた。病気だった僕は学校に来るのが初めてだから隅々まで探検した。初めて見るものばかりで楽しかった。
そして十二時四十分に鐘が鳴る。この鐘が鳴ったら春樹が中庭に来いと言っていた。そこで昼食を取るらしい。僕は中庭へと向かう。
僕が中庭に着くのと彼らが中庭に着くのはほぼ同時だった。
梓と視線が合う。
「あっ!お前・・・まだ居たのか」
「梓、またかよ!」
春樹が梓に突っ込む。樹は樹で僕を探すように、キョロキョロと辺りを見回している。
さて、次はどんなことをさせようか。
ふと視界に花壇が映る。
中庭の端の方にある様々な種類の花が植えられた花壇。・・・よし、これにしよう。
「梓」
「なんだよ?」
「その花壇、一つだけ成長が遅れて、まだ芽のままのがあるだろう?いにしえに封印されし神の力よ、その力を持って生命の業火を解放させよ、と言ってみろ。そうしたら花は一瞬で咲く」
「それは本当か!?わかった言ってみる」
これも信じるのか・・・ひょっとしなくてもアホの子?
「おい!今度は何がわかったんだよ!?」
いや、お前俺の言葉聞こえてたよね!
「いにしえに封印されし神の力よ・・・その力を持って生命の業火を解放させよ!!」
いきなり叫び出した梓に中庭で昼を楽しんでいた人たちもこちらを向く。
「本当お前、マジどうした!?」
どうしたもこうしたもお前の・・・もういいや。
「春樹、止めるな。俺には(花を再び咲かせるという)やらなければいけない使命があるんだ」
それ、本格的にあっちな人のセリフ!
「なにそれ、呪文?面白そう。いにしえに封印されし神の力よ・・・その力を持って生命の業火を解放させよ!!」
「「お前もか!?」」
なんなのこっちの天然君も!
もう春樹の口元が緩々だ。
「おい、なんで咲かないんだ!」
そりゃ咲かないだろ!とか思いつつ、俺も誤魔化しにかかる。
「どうやら、お前の生命エネルギーが足りなかったようだな」
「そのエネルギーが、あったらできるのか?」
「あ、ああ」
彼はギュッと拳を握りしめ、声高らかに訴える、
「俺は、俺は!(芽を一瞬で咲かせる)力が欲しい!!」
と。
「俺は、俺は!!こいつの暴走止めて欲しい!!」
いや、主犯は君だろうに!
「僕はサッカーさせて欲しい」
あぁ、コイツサッカーの天才だったっけか。
あーもーどうにでもなれ!よし!
「ならば、お前には厳しい修行が必要になるな」
彼は熱い眼差しで俺を見上げる。
「俺はどんな試練にだってやりきってみせる!!」
「何?サッカーの話?梓だけやるとかズルい。その試練俺にも受けさせてよ」
「いいぜ、俺の強さにに腰抜かすなよ?」
「フォアードに、強い俺がいる所為で君は万年ベンチメンバーだけどね」
「うるせぇ!」
・・・これ、どうやって収拾しよう。
inグラウンド〜部活終了後〜
放課後、彼らが部活のサッカーをするのをジッと眺めていた、僕は出来ないけど見ているだけで楽しかった。
ここでも何か悪戯をしようかと思ったけどうっかり怪我をさせたら嫌だし、邪魔したくないからやめておいた。
そして部室に戻って行く彼らを眺め、彼らの消えたドアに耳を押し当てる。
「あっ俺、グラウンドにタオル忘れて来た」
「何やってるんだよ樹ー」
「まあまあ梓、帰りに三人で取りに行こう」
三人が部室から出る。春樹と一瞬視線が合う。この間に何かしろと?
外に出てきた梓が懐中電灯を付け・・・カチッカチカチッカチカチカチカチ。
「あれっ?つかない?」
それを春樹が楽しそうに眺めている。・・・ああ、成る程。
「ねぇ、梓。それ、君の魔力でつけられるよ」
彼の背後から驚かせるように登場するが効果はなかった。
「ホントか?」
「ああ、大した力は使わないからな。その懐中電灯をOFFに合わせろ」
梓は手元の懐中電灯のスイッチをOFFにする。
「付けと願いながらそれを思いっ切り振れ!」
彼は目を閉じて全エネルギーをそに集中させるように力込める。
カシャッカシャカシャカシャカシャ・・・
それを暫くやり続ける。
「慧、付かないぞ?」
「スイッチをONにしてみろ」
カチッ
すると辺りが明るくなる
「ついた!ついたよ!」
そりゃ自家発電式の懐中電灯だからな。
「凄い、本当に魔法が使えたんだね」
そのまま樹のタオルを回収し、四人は仲良く帰路についた。
***
僕と春樹は二人と別れた後、春樹の家へと帰った。
「今日は楽しかった。慧ありがとうな」
「いや、僕の方こそありがとうだよ!」
春樹が今日一日首から掛けていたロケットペンダントを外した。
そしてカチリとペンダントを開けるそこから出てきたのは昨日使った十円玉。・・・いつの間にそこに。確かにコックリさんで使った十円玉は霊を呼び寄せている間に手離しては駄目だ。だからか。
そして、春樹はそれを昨日のままにしてあった紙の上に置く。
「もう、未練はないか?」
「未練?」
「そう、未練」
「うん、無いかな」
「よし、じゃあさよならだ」
「え?もう、僕帰らなきゃダメ?」
「そう、これ以上の長居は危険だ」
幽霊が人に姿を見せるのは本来ならご法度だ。
「そっか。楽しかったよ、ありがとう春樹」
「こちらこそ」
紙の上に乗せた十円玉。その上に春樹は指を置く
「コックリさんコックリさんおかえりください」
すると慧の体が少しずつ光の粒となって天に昇っていく。
「え?何コレ?」
ココに来た時は吸い寄せられるままに来た。だけどその時とは違う、熱を感じない筈の体が暖かい何かに包まれている。
「コレが浄霊だよ。これで君はもう彷徨うことなく新しい姿に転生できる」
きっと今日の悪戯は春樹の娯楽のための意味合いが強かった。だけどその隅っこに僕の未練を取り除いて浄霊させるって意味合いもちゃんとあったんだ。
「春樹、ありがとう」
エラーになって一回全部消えたよ(笑)泣くよ?てか泣いたよ?
皆さま閲覧ありがとうございました!