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第26話 心、ここに在らず。

 都子に暴言を吐いてから数日が経った。

 あの日以来、都子に対してどう接して良いのか? 自分の中で『物の怪』に対する気持ちが処理できず、ギクシャクしたものとなっていた。


「……ごちそうさま」


 夕飯を食べ終わり、食器を手に席を立つ。

 都子がこちらを窺っているのが視界の端に映るが、どういう態度をとればいいのかわからない。

 だから俺は無視する、という選択しか出来なかった。


 食器を台所のシンクに置き、リビングの扉まで歩いていく。その時、背中から声が掛かった。


「祐。何があったのか、お母さんにはわからないけどね? 雰囲気を悪くするのは止めなさい。男らしくないわよ」

「っ!」


 返す言葉も無く、俺は逃げるように無言でリビングを出て行った。



 ◇ ◇ ◇


 祐が出て行った扉をジッと見つめる都子に、祐の母親――笠間かさま 佐久さくが気遣わしげに声を掛ける。


「都子ちゃん……気にすることないわよ?」

「……はい、お義母さん」


 不安に揺れる瞳が扉から佐久へと視線を移す。

 その表情を見て、佐久は更に言葉を重ねた。


「そんな暗い顔してると、せっかくの美人さんが台無しよ? ホント、うちの息子はこんな可愛い子に暗い表情をさせるなんて親の顔が見てみたい」

「ぷっ! す、すみません」


 佐久の軽口を聞いた都子が不意打ちをくらったように噴出す。佐久は、してやったりと言った表情で都子に笑いかける。


「やっと笑ってくれた。やっぱり、都子ちゃんは笑ってる顔が一番よ?」

「ありがとうございます……」


 少し恥ずかしそうに、頬を赤く染める都子。


「……バカ息子め。男としてシャンとしなさいよね」


 先ほどまで都子が見つめていた扉に向かって佐久はポツりと呟いた。



 ◇ ◇ ◇



 眠くなると生徒たちの間で定評のある古典の授業が終わった直後の休み時間。祐は席を立った。


「あれ? 祐くんどこか行くの?」

「……ん、ちょっとトイレに」


 話しかけた冬花を一瞥して、用件だけを話し教室を出て行く。

 そんな祐の様子を観ながら、最上千代もがみちよが呟いた。


「笠間っちの様子も変だけどさー……」

「うん……」


 冬花と千代の視線の先には、祐の出て行った扉をボーっと見ている都子。


「都子の方がもっと変ね」


 二人が思っていたことを松山茜まつやまあかねが言葉にした。


「福島くんのお見舞いに行った次の日から、あんな感じだったよね」

「冬花は何か笠間から聞いてないの?」

「うん……ただ、なんか祐くんが都子ちゃんを避けてる感じかなぁ」

「えぇっ! 無視とかそんな感じ? 笠間っちってそういうことするイメージなかったんだけどな」


 冬花の言葉に大げさなリアクションをとる最上。

 その最上の意見に追従するように、うんうんと神妙に頷く松山。


「ほんと、祐くんと都子ちゃんどうしたんだろ……」


 未だにボーっとしている都子を心配そうに冬花が見つめ呟く。


「んーこういう時はとりあえず話をきいてみるといいんじゃない? ボク、ちょっと聞いてみる!」


 言うが早いか、都子の席に向かう最上とそれを慌てて追いかける二人。


「ねー都子っち? なんかあったの?」


 直接的に聞いているようであっても、祐の名前を出さなかっただけで胸を撫で下ろす冬花と松山。


「あ、千代。……ううん、なんでもないよ」

「えぇ? なんでもないって――痛っ!」


 いつものテンションで追及を始めようとした最上を松山がチョップで止める。


「痛いなぁ、茜っちぃ……」


 チョップが直撃した側頭部を押さえ涙目で抗議するが、相手にされず。

 そんな二人と入れ替わるようにおずおずと都子の前に出る冬花。


「冬花? どうかしたの?」

「……ううん。でも、なにかあったら相談して、ね?」

「うん……ありがと……」


 都子の浮かべた弱弱しい笑顔に三人は言葉に詰まるのであった。

次話の投稿は、6月6日(月)のお昼頃を予定しています。

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