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第25話 ささくれ立った心とすれ違い。

 気が付けば、辺りは真っ暗になっていた。


「あぁ……。疲れた……とにかく疲れた」


 あの後、救急車とともに警察も来た。そして、当時の様子についてあれこれと聞かれた。俗に言う事情聴取という奴だろうか?

 正直、担任があの道を通りかかってくれて凄く助かった。俺と都子の二人だけだったら、もっと時間が掛かったのではないかと思う。


 その担任も俺の横で、頭を掻きながらため息をついていた。


「先生、助かりました。俺たちだけだったら、って思うとゾッとしますよ」

「ん、まぁ……俺としても後から聞かされるより面倒がなくて良かったからな」


 そう言って肩をすくめる。それから俺と都子を交互に見ながら言葉を続ける。


「まぁ、なんにせよお疲れさん。けが人を見つけて、救急車を呼んだんだ。お前らのやったことは良い事だよ」

「……それにしては、随分としつこく聞かれた気がしますっ」


 都子も疲れているのか、形の良い眉をひそめて不満を口にする。

 俺が都子と出会ってからまだ一ヶ月と少ししか経っていないとはいえ、こうも都子が不機嫌そうにするのは初めてみた。

 天真爛漫で、いつも暖かな笑顔を浮かべているイメージが俺の中で定着していたから、その表情を見て驚いた。


 そんなことがフッと頭を過ぎったが……。でも、そうだな……俺も疲れたし、都子だって疲れれば不快をあらわにすることも当然あるだろう。


 そんな俺たちを見て、担任がボソッと呟いた。


「まぁ、あれだ。今回の件、警察は福島の件と同一犯だと思っているんだろう。だから、些細な事でも情報が欲しいんだろうな」


 その一言を聞いて、自分の体温がスッと下がるのを感じる。総司の怪我と関係してるって……。


「最近、なにかと物騒だ。お前ら、気をつけて帰れよ。俺はまだ、仕事が残っているからな」


 俺と都子を一瞥して担任は俺たちとは別方向――学校の方へと消えていった。



 まさか、と思いつつも恐る恐る都子に向き直る。


「なぁ、都子……」


 自分の発した声が震えていることに気付く。

 目の前の都子は俯いていて表情が窺えなかった。


 しばしの沈黙の後、都子は口を開いた。


「……さっき、お見舞いに行った時に福島君、凄くダルそうにしてたでしょ? あれって、負の塊に触れたからじゃないか、って思うんだ……」

「なっ!?」

「福島君を見た感じ、時間が経てば抜けるような程度だと思うんだけど……」


 都子の言葉を聞いた瞬間、頭を鈍器で殴られたみたいな衝撃を受けた。

 その次に湧いてきた感情は、怒りや悲しみが入り混じった言ったひどくどす黒いものであった。


「祐……?」


 都子に掛けられたその声がキッカケだったのだろうか?

 自分の中で激しく渦巻く感情が思わず口から溢れ出た。


「俺は……! 俺は『物の怪』なんて大っ嫌いだっ!」


 叫んだ言葉は空に消え、辺りを静寂が包み込む。

 その静寂を破るように都子が声を絞り出した。


「ぜ、全部の『物の怪』がああいうのじゃないよっ!」

「でも、総司は『物の怪』にやられたんだぞ!? さっきの奴らだってそうだろ! あの黒い影が『物の怪』だったんだろ!?」

「それはそうだけど……でもっ……!」


 都子の声は震えていることには気付いたが、そのことを気遣う余裕が残念ながら俺には無かった。

 だから――俺は自分の感情に流されるままに言葉を都子に浴びせた。


「『物の怪』はっ! 『物の怪』は所詮、人間とは違うじゃないかっ!」


 俺の言葉を聞いた都子は、ビクッと肩を震わせた。そして、小刻みに震えている手でスカートをギュッと握る。

 形の良い眉をしかめて、真っ白になるくらい下唇をかみ何かに耐えていた。赤茶色の綺麗な瞳は水気を帯びていて、形の良い目尻には今にも溢れそうな涙が浮かんでいた。

次話の投稿は6月3日(金)のお昼頃を予定しています。

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