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AnsweRer ~アンサラー~  作者: 著者不明
Answer-3 『アガスターシェ』
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其の23



 研究所内は混沌の極みだった。


 溢れ返る“キメラ”、占拠せんと攻めるストレンジャー、防衛せんと立て篭もるテトラポッド社のエージェントたち。


 三者入り乱れての攻防は激化していくばかりであった。


 そんな中、俺は一人廊下を走っていた。


 どこだ!? “アポカリプス”はどこにいやがる……!


 と、その時だ。


 数体の“キメラ”が前から駆けてくる。


「グルォオオオオオ!」


 俺は走りながら“キメラ”たちに銃口を向ける。


「良い子だ……! 座ってろ……!」


ダゴゥウン!


銃声一発。飛び出した七つの弾丸が“キメラ”たちの足を掠める。


足に傷を負った“キメラ”たちはその場でずりこけたり、倒れたりして床から立ち上がれなくなった。


しかし、今度は後ろから“キメラ”が俺をエサにせんと駆けてくる!


「ギャォォオン!」


くそ! これじゃあきりがない! 敵は増える一方じゃないかよ!


ダウゥゥン!


「きゃいん!」


俺は背後の敵を銃で迎撃していく。


とそこで前方の右に曲がる角からマシンガンを持った人間が飛び出してきた。


暗がりで顔は見えないがどうやら男のようである。


男も後方からの敵を相手にしているようで、曲がった右側へ弾丸を放っている。


つまりここは“キメラ”たちに挟み撃ちにされたようである。


男が俺に気づいた。そして俺の背後へと目線をやってチィと舌打ちする。


どうやら男も挟み打ちにされているという状況を理解したようだ。


「おい、アンタ! えらく厄介なもんを連れてきてくれたな! おかげで逃げ道がなくなった!」


 男はマシンガンで“キメラ”を撃退しながら叫んだ。


俺は男と背中を合わせながら自分を追ってきた“キメラ”たちの相手をする。


「そりゃこっちの台詞だぜ!」


「くそ……! こいつらどっから沸いてきやがるんだ! さっさと倒さないとメシにされちまうぞ!?」


「言われなくても分かってるっての!」


パララララ!


ダウゥンッ! ダウゥンッ!


「ったくよ! よくもこんなひでぇ真似ができたもんだぜ、テトラポッド社の奴らはよ……!」


 男が数種の動物が掛け合わされた“キメラ”たちの禍々しい風貌を見て毒づく。


「同感だな……! それだけじゃない。テトラポッド社は人間にまで遺伝子操作を行っていたみたいだぜ……!」


「ちっ! 胸糞悪いったらないな……!」


 俺と男はそんな話をしながら“キメラ”たちを無効化していく。


 どれほどの時間曲がり角で“キメラ”たちの相手をしていただろうか。しばらくすると俺と男の周りには何十にも及ぶ“キメラ”たちが倒れ伏せていた。


「……なんとかなったか」


 俺は腕の袖で額の汗を拭った。


「みたいだな」と男もマシンガンを降ろす。


次の瞬間。


ドォオオオンッ!


爆発が中庭でおこり、俺と男は同時に振り返って相手の額に銃口を突きつけた。


互いに考えることは同じだったようだ。


共同戦線を張っていたのは自分の命が危ないからであって、別に仲間意識を持ったわけでもなんでもない。


そして、俺がいるこの場所にはエリ以外に仲間と呼べる人間はいない。


つまり背中を預けていた男は敵なのだ。


ドゴォオオン!


再び中庭で爆発が起こり、暗闇の中を赤い光が照らしだす。


俺は男の顔を見て眼を見開いた。


「おまえ……!」


銃口を突きつけた相手は俺にとってイレギュラーな人物だった。


「なんでここにいる……!? 廉人……!」


廉人は俺の額にマシンガンを向けたままニヤリと笑った。


「よお、樹」


ドドーン!


パララララ……!


爆発の炎が窓の外で彩る。


空間を爆音と銃撃音だけが支配する。


その沈黙を破って俺は廉人にもう一度問う。


「なんでお前がこんなところにいる……!?」


廉人はくいっと首だけで自分の肩を指し示した。


視線だけ動かして見てみると彼の服にはストレンジャーのエンブレムが張り付けてあるではないか。


「ストレンジャー!? 廉人……! どういうことだよ……!」


 俺は汗で滑る銃のグリップを握りなおした。


「そのまんまの意味だ。俺はストレンジャーなんだよ、樹」


 普段、学校では見ることのなかった鋭い眼。


 マシンガンを持つその構え、身のこなし、気迫からしてどうやら素人ではない。この分だと人を殺したこともありそうだ。


 ギリッと俺の奥歯が鳴る。


「どうしてだよっ……!」


 しばし沈黙した廉人だったが、不意に話し始めた。


「ある時、俺は貧民街のある少女と出会った。彼女は貧民街に住んでいるというだけで言われもない迫害を受けていた。


 彼女は泣いていたよ……!


 どうして自分たちがこんな仕打ちを受けなきゃいけないのかってな……!」


 廉人は憎むべき対象がまるで俺であるかのように睨み付けてくる。


「その日、彼女を貧民街まで送り届けて自分の街に戻ったら何もかもが違って見えたさ……! 何事もなく笑って行きかう人々、飽和して捨てられる食物と溢れ返る雑音と笑い声……! なぜ笑っていられる……! 思わず俺はその場で吐いちまったよ……!」


 廉人の怒りは本物だった。


 これほどまでに廉人が激昂している姿を俺は見た事が無い。


「俺たちのようにのうのうと平和に生きる人間がいる一方で、なぜ苦しむ人々が存在するんだ……! 政府はその事実から眼を背け、ただただ私腹をこやすだけの劇場型政治を展開するだけ……!


 反吐が出る……!!


今の国家政府は腐りきっちまったんだ……! ここまできたら潰して再建するしかない……!


それが分からないお前でもないだろ、アンサラー新谷樹ッ!!」


口角から唾を飛ばして叫ぶ廉人。


「知ってたのか……俺がアンサラーだって……!」


「ああ……! 俺が知ったのはお前が橘さんと一緒に俺たちの基地に乗り込んだ時だ……! といってもあの時、俺は基地にはいなかったがな……」


 言ってから廉人はハッと笑った。


「アンサラー新谷樹、ガーディアン、エリ・F・橘の名前を聞いた時は驚いたぜ……! まさかお前がアンサラーだとは思っていなかったしな……!」


「俺も今驚いてるよ。まさかお前がストレンジャーだとは思ってなかった」


「樹。俺は失望したぞ……! お前、ここに侵入するのにナビゲーターを犠牲にしただろう……!」


「な……に?」


 犠牲? 何を言ってるんだ?


「その様子じゃ気づいてなかったようだな……! よく考えてもみろよ。そもそもテトラポッド社のシステムに侵入して無事に生きていけると思ってるのか……!?


お前のナビゲーターがどうしてわざわざ離れたところからシステムに介入したと思ってる……!」


「そんな……」


 ツバキ……!


 俺は拳をぎゅっと握った。


「ナビゲーターだけじゃない……! みちる先輩に潜入捜査なんて真似させやがって……! 結果彼女はどうなった!? 言ってみろ、樹!!」


 報告を既に受けたのかどうやら先輩が瀕死の状態であることを知っているようだ。


「自分のナビゲーターを犠牲にし、関係の無い先輩にまで危険なことをさせたお前を俺は許せない……!」


「どうするつもりだ廉人……!


 お前の気持ちを変えれるほどの言葉を俺は持ち合わせていない。政府が衰退しているのは事実だしな……!


 かと言ってここで俺は立ち止まるわけにもいかない……!


このまま俺と撃ち合うつもりか……!」


沈黙が訪れ俺たちは睨み合い続ける。


額から汗が流れ、頬を伝って床に落ちる。


 廉人は俺の真意を探るように、真っ向から俺の眼を見据えている。


 その眼差しを俺を貫く意志を感じる。


 廉人の指がマシンガンのトリガーを押し込み始める。


 やめろ、廉人……! 俺に撃たせるな……!


 俺は心の中でそう叫び続けていた。


 それは廉人とて同じはずだ。


 同じはずだ……!


 廉人の額からも脂汗が流れていた。


 何秒間、そうしていただろうか。


 不意に廉人はため息を吐いた。


「ったくよ……」


廉人がマシンガンを降ろす。


「そんな眼されたら撃てるわけねーだろ……」


 言って廉人は学校での彼のように朗らかに笑った。


「廉人……」と俺もほっとして銃を降ろす。


「お前のナビゲーター……生きてるぜ」


「本当か!? 廉人!」


「ああ、本当だ。何でもリーダーはお前に生かされた借りがあるらしいじゃないか。だからお前のナビゲーターがシステムをダウンさせたら保護するように俺たちに言ってたのさ。


 ま、時間的にギリギリだったけどな。テトラポッド社と戦闘にはならずに脱出できた」


「そう……だったのか……。ありがとう廉人……! ほんとにありがとう……!」


「これでリーダーへの借りはなしだぜ?」


 廉人はニヤリと笑った。


「ああ」と俺も笑う。


 その刹那。


 ドブシュ。


 廉人の腹から何かが突き出た。


 俺は見た。


 “キメラ”だ。


 廉人の背後に人型をした“キメラ”が立っている。まるで理科室の人体模型のように筋肉が見えた皮を被っていない“キメラ”。


 廉人の腹からその“キメラ”のご本の指が突き出ているのだった。


「か……はっ……!」


 廉人が驚きに眼を見開いたまま血を吐く。


 俺も廉人も互いに集中していたせいで、こんな脅威が近づいていることに気づかなかったのだ。


「なに……しやがるぅうッ!!」


 俺はその“人型キメラ”の顔面に向かって右拳を打ちだした。


 ドグンッ!


 柔らかい肉の感覚と衝撃。


 殴られた衝撃で廉人の腹から“人型キメラ”の手が抜ける。


 “人型キメラ”はゆらゆらと揺れながら数歩退くと、ひたひたと態勢を整える。


 刹那。ぼぐんっと音をたてて“人型キメラ”の肉体が肥大化する。


 俺たちと同じような身長だったのが、みるみるうちにニメートルを軽く超える筋肉むきむきの肉の塊へと変貌してしまう。


 廉人は傷口を押さえながらマシンガンを片手で構えた。


「なあ……樹よ……」


 ふらふらとした足取りで“人型キメラ”と対峙する廉人。


「色々と楽しかったよなぁ、経研部はよ」


「おいおい……なに回想入ってんだ、廉人! 死ぬにはまだ早いぞ……!」


 俺は廉人の背中に叫んだ。


「これでもよ……。お前たちのことは気に入ってたんだ……」


 と、その時だ。


 肥大化した“人型キメラ”が吼える!


『ウォオオオオオオオオオオッ!!』


「いけ、樹ッ!! ここは俺に任せろ!」


 廉人が血を吐きながら叫んだ。


 思わず俺も叫ぶ。


「廉人っ! それっ……! 死亡フラグっ……!」


 だが俺の声が聞こえているのかいないのか廉人は続ける。


「俺さ……これが片づいたら貧民街の子と結婚する約束してんだよ……!」


「いやだからそれも死亡フラグだって!」


 びしっと俺は廉人にツッコミを入れた。


 俺が廉人にツッコミを入れるなんてもしかしたら初めてかもしれない。


 なんだかフラグ立ちまくりの廉人の言葉は止まらない。


「それにな……! アンサラーのお前となんか一緒にいれるかよ……! 俺は一人で充分だ……!」


すげーコイツ。雪山の館で殺人事件が起きた時の死亡フラグまで……。


これはもう呆れを通り越して賞賛を送りたくなってくる。


「何ぼさっと突っ立ってる樹! やらなきゃいけないことがあるんだろッ……!


行けェッ!! 行ってさっさと片付けてこいッ!!」


廉人に叱咤され、俺はこくりと頷く。


「ああ……ああっ!!」


 俺は対峙して睨みあう廉人と“人型キメラ”を横切って走りだす。


「さあ、始めようぜ!」


『グルゥオオオォオオオオオオォオ!!』


 背後からするマシンガンの音と“人型キメラ”の咆哮を聞きながら俺は走りだす。


 だが走り出してすぐに前方から血まみれの人々が逃げてくるではないか。


「た、助けてくれえええ!」


五体満足だがその全身は血に濡れているのだ。“キメラ”の集団に遭遇したのだろうか、おそらく仲間の返り血を浴びたのだろう。


俺は横を通り過ぎて行く中の一人の腕を掴んだ。


「おい、あんた……! 何があった!? この先で何があったんだ!?」


「は、離せ! ばけもんだ! あいつはばけもんだ!」


「……あいつ……?」


 と、俺が訊き返そうとした時である。


 ズゴォオオオオオン!


 前方の壁が粉砕されて土煙が立ち込める。


「ひぃいぃい! きたああ……!」


 怯えたようにそう叫ぶと俺の手を無理やり振りほどいてそいつは逃げ去って行った。


 どうやらついにご対面できそうだな……。


 俺は背広をバッと靡かせて両の腰につけた銃を抜く。


と、そこで土煙の中から人影が吹っ飛んできた。


その人影は俺の前でバウンドすると俺の横をごろごろと転がっていった。


それを目線で追って俺はその人影が誰であるか気づいた。


「こぉんのっ……!」


 と悪態をついて立ち上がったのは誰であろうかなエリ・F・橘さんだった。

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