其の18
とりあえず近づかれないように私はハンドガンで応戦を開始する。
ダウンダウンダウン!
でもこのままじゃジリ貧よね……! なんとかしなきゃ……!
しかし意外なところから援軍は来た。
パラララララ!
ストレンジャーたちがついにこの研究室にやってきたのだ。
私に構っていたせいか警備員たちはストレンジャーに背後から襲われてあっという間に瓦解する。
「研究データを探しだせ!」
『おう!』
私は今のうちとばかりにデータチップを足で引き寄せようとした。だが、
「誰だそこに隠れているのは!」
バレた。さすが私の生足。どうも男の視線をキャッチするのに長けているようだ。
私は即座にデータチップを踏んで、こちらに引き寄せ立ち上がる。
「あははは! 私でーす! 撃たないで! ここの警備員じゃないから!」
私は両手をあげて敵意がないことを知らせた。
するとストレンジャーの連中はあの一夜の件で私に見覚えがあったのか『なんだ』という顔をする。
「お前はたしか……ガーディアンの……たち――」
「エ・リ・よ」
私の物言わさぬ強い口調に、少しストレンジャーが沈黙する。
「そ、そうだったな。お前たちも“コード:A計画”を追っていたんだったな。今回に関して我々は直接的な敵じゃない」
この部隊のリーダー格らしい男がニヒルに笑ってみせる。
「そういうこと。理解が早くて助かるわ」
と言っても競争相手ということは変わらない。
ああ! 早く足の下でぺしゃんこにされてるデータを転送しなきゃいけないのに!
「隊長! “コード:A計画”のデータはここにありません!」と機器を調べていたストレンジャーの一人がニヒルマンに報告する。
「なんだと? そんなバカな。ちゃんと探したのか!」
「は、はい。ですがここにあるのは表向きの遺伝子操作研究の資料ばかりで……」
「ちっ。一体、どこに……!」
ニヒルな笑みが消え男はイライラとした様子で考え始める。
「あ、あのー」
「なんだ!?」
私が声をかけるとイライラマンは声を荒げて振り返った。
「えっと、そこの床から地下研究室に行けますよ」
「なんだと!?」
「あ、発見しました、隊長! 本当です! 地下への扉があります!」
その報告を受けにこにことした笑みになる隊長さん。表情豊かな人だなぁ。
「感謝する、橘! よし、いくぞ!」
『おう!』
「うん違うからねエリだからね」と私は眉をぴくぴくさせながら一応言っておいた。
ダッダッダと階段を下っていくストレンジャーたち。
はあ。良かったぁ。
私はほっと胸を撫で下ろすと、データチップを拾ってPCに指し込む。
「待たせたわね」
『六分一三秒待ったわ』
ぐっ。シズルの奴、数えてやがんの……。そんな細かいこと気にするから彼氏ができ――
『エリ。余計なこと考えてると脱出経路教えないわよ』
エスパー!?
『オーケー。データがこっちにきてるわ。後は任せて。長官に報告します。
お疲れ様。貴女の任務は完了よ』
任務完了という言葉を聞いてふぅと息を吐いたその時だった。
パララララララララ……!
地下研究室へと続く扉から銃撃音がした。
『なんだおまえぎゃろぶ……!』
『ひっ! ば、ばけぎゃああああああああ!』
ストレンジャーが誰かと交戦している!?
「た、助けてくれ……!」
「殺される……!」
命からがら逃げ出すように階段を登ってきた男たちの頭が私の目の前で弾け跳んだ!
ぶしゅうううううううう!
派手に血飛沫をあげて頭をなくした男たちは階段の半ばで折り重なって倒れた。
そして静かになる。
どくん……どくん……。
緊張からか心拍数が上がっている。
いる……。
“何か”が……いる……!
“キング”は『解放する』と言って地下研究室の更に奥へと行った。
ということは……まさか……!
ズゥオオオオオォォォォオ……!
階段の奥に引き込まれそうなほど禍々しいオーラ。まるで今はその階段が冥界への入り口へのようにさえ感じられる。
私は本能的に悟った。
逃げるべきだと。
すぐそこにいる何かは――穴から出てこようとしてる何かは私の敵うような相手ではない。
いけ……! 走れ……! 逃げるのよ……!
床に開いた四角の穴からすっと何者かの……女性の白い手が伸びて穴の淵に手をかけた。
刹那!
私は脱兎の如く走り出していた!
やばい! 絶対にあれはやばい!
研究室を駆け抜ける!
おそらく……あいつが……!
研究室を出る瞬間、私は穴の方を振り返った。
穴から上半身を既に出している彼女と眼が合う。
刹那――!
時が止まる。
いや、動きだす。
私にとって実に三年振りの顔合わせ。
脳裏に浮かぶのはあの時の光景。
黒いコートをまとったその女性はあの時と同じく。
とても綺麗な緑の瞳をしていた。
“クイーン”……!
カツ……カツ……。
動いている。
階段を登り、私を見据える二つの瞳。
“スラスト”は確かに強い。それも私なんかでは足元にも及ばないほど化け物染みた強さだ。それ以上に、樹や“キング”は強いのかもしれない。
樹――“エース”に関してはNK史上最強の殺し屋として名高かった。
だが――!
違う……!
それは間違い!
おそらくNK最強は――!
“クイーン”……!
彼女を見た瞬間、再戦なんて想いは四散していた。
三年前会った時はその実力の片鱗も出していなかったんだ……!
借りを返すですって!? 無理に決まってるじゃない……! 命が幾つあっても足りないわよ……!
しかも出てきたのは彼女だけでなかった。
彼女の横を通り抜け地下研究の穴から次々に“キメラ”たちが飛び出してくる……!
蜘蛛の足が生えた蛇、翼の生えたライオン、サソリの尻尾を持った馬……!
わらわらとそれはまるで化け物の行進。百鬼夜行……!
“キメラ”に囲まれる“クイーン”はまるで化け物の“女王”であるかのようにゆっくりと歩いてくる。
「ぎゃああああああああああ! 何よこのB級ホラー映画みたいな展開はあぁあ!」
私は思わず叫び声をあげながら廊下を走り去った。




