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AnsweRer ~アンサラー~  作者: 著者不明
Answer-3 『アガスターシェ』
35/58

其の7



 やはり、関わりがあった!


 菊の失踪、みちる先輩が研修を早めたことは関連性があったんだ!


菊のお父さんは遺伝子生命学を専攻していたという。テトラポッド社といえば遺伝子生命学の最先端をいく日本の未来、いや人類の未来を背負った大企業。異なことに先輩もまた遺伝子生命学を専攻していて、テトラポッド社の研究所で研修を受けている。


何か一つに繋がりかけている。


でもまだピースは足りていないし、穴ぼこだらけの推論であることは理解している。それでも私は確信に近い思いがあった。


この穴の空いたピース。


そのピースこそあのバカ――新谷樹なのだ。


 なのだが……これが分からない。


 なぜあいつまで一緒にいなくなる必要があったの?


 どこにも関係性が無いように思える。


 私は部室の席に座り、深く思考する。


 何かを見落としているの?


 普段の彼を思い返す。


『隠さなくても俺はちゃんと理解してるからな、水崎! 俺もお前のことを愛してる!』


 いつもへらへらと笑い、ひょうひょうとした態度の新谷。


『何してるツンデレ。早く脱げよ。それとも1ターン目でリタイアですかぁ~~?』


 そんな彼にどこもおかしい所なんて――


『実は俺、アンサラーなんだ』


「!?」


 ガタッ!


 私は思わず立ち上がっていた。


「あ、あ……!」


 驚きのあまり声が出ない。


 そんな……まさか……! 嘘でしょ!?


 だけど、もしそうなら話は繋がらないだろうか!?


 本当だったって言うの!?


 どう考えても繋がるはずの無い新谷。関わる理由があるとすればこれしか無い……!


 MSNに賊が侵入した事件も――


『たぶんその時間はアニメ見てた。ちなみに『マジカル☆きゅ~と!きづなちゃん』な』


 MSNはテトラポッド社の傘下企業! テトラポッド社へと繋がる布石! あの時から既にあいつは何かを探して動いていた!?


 怒りが沸々と湧き上がってくる。


 アンサラーの存在を否定していたのは自分がそうだから……! いないと思われていた方が仕事がやりやすいから……!?


 気がつくと私はPCを取り出し、コールをしていた。


 あの大嘘つき……!


 もちろん相手は決まっている。


『おかけになったイケメンは現在デート中です。発信音の後にデートの予約を行ってください。ぴー!』


 私はすぅーっと息を吸い込むと、PCに向かってありったけの気持ちをぶつけた。


「こぉんのっバカッ!! あんたアンサラーなんでしょ! よっくも今まで騙してたわね! 菊がテトラポッド社で何があったか教えなさい! 聞いてる!? 聞いてるんでしょ!? 電話に出なさいよ!」




◇◇◇




『ぎゃーぎゃー!』


 俺はPCを見つめたまま固まっていた。


 額から脂汗がたらたらと流れ落ちる。


「へぇ、やるじゃない彼女。一人で調べたのかしら」


 エリは俺のPCを見て肩をすくめる。


「あっちゃー。まさか、ここまで水崎が鋭いとは……」


 俺は頭を抱える。


「ふむ。そやつ、ナビゲーターとしての素質があるかもしれんな」とツバキが無責任なことを言っている。


「おいおい、冗談だろ。水崎がナビゲーターなんてやったら死人が出るっての」


「で、どうするのよ、彼女」


 ぴっぴと俺のPCを指差して問うエリ。


「どうしろって言うんだよ。そうです俺はアンサラーです。何かお困りですか、とでも訊いてみるか?」


「きっと桜咲さんの奪還を依頼されるわね」


 ニヤリと笑って言うエリのその言葉にくすくすと口元を隠して笑うシズルさん。


「うるへーよ。とにかく今は無視するしかない。どちらにしろ水崎一人じゃ何もできやしないさ」


 そうだ。俺たちに関わらないのが一番安全でいる方法だからな。


 みんな首を突っ込みたがる奴らだからな……。だからアンサラーなんていないって言ってやってたっつーのに……あのバカ……!




◇◇◇




 カツカツカツ。


 翌日、私はある場所へ向かって歩いていた。


 あれ以降、新谷からの連絡は無い。


 あの馬鹿のことだ。どうせ私一人じゃ何もできないとでも思っているんでしょうね。


 いいわよ。やってやろうじゃない。


 私一人で菊を助けだすんだから。


 カツッ。


 そして私は門の前に立った。


テトラポッド研究所。


そう書かれた門の前に。


「すいません」


私は門前に立っている警備員に笑顔で話しかけた。


「見学がしたいんですけど」


「ああ、悪いね。ここは関係者以外立ち入り禁止なんだ。見学できないんだよ」


そんなことはよく分かっている。今のは会話のジャブにすぎない。本題はここから。


「桜咲博士はここにいますか?」


「面会かい? 連絡は?」


「あ、いえアポは取ってないんですけど」


「それじゃあダメだよ」


「じゃあ――」と私はニヤリと意地悪く笑う。


「桜咲博士の娘さんが面会に来ませんでしたか?」


警備員の表情が柔らかいものから厳しいものに変わる。


「さあ。私はここの警備をしているだけだからね」


「行方不明になっているんですよ、彼女。ここにいるんじゃないですか? 桜咲菊は」


「何言ってるんだ君は! 帰りたまえ!」


私はちっと舌打ちをするとそそくさとその場を離れる。


あの反応。やっぱりだ。菊はここにきてるのは確かね。




◇◇◇




「諦めたみたいね」


「そりゃそうだろう。俺たちでさえどうやって警備の穴を突こうか悩んでるのに、水崎に抜けれるわきゃーねーって」


「それもそうね」


エリはミルクティに口をつけると再び望遠レンズを覗いた。


「ぶふぅううぅう!?」


といきなり盛大に口に含んだものを吹き出してしまう。


「うぎゃあ! きたねぇぞ、橘さん!」


「あの子! あんなところで何してるわけ!? ま、まさか……あの子……! 中に入る気!? バレたらただじゃすまないわよ……!」


エリは慌てて武装を掴む。


「お、おい! どこ行くんだ!?」


「中に入る前に止めるのよ! 見てみなさい!」


エリはそう叫んで俺に電子望遠鏡を投げてよこすとセーフハウスを飛び出した。


俺は疑問に思いながらも言われた通り望遠鏡を覘いてみる。


そして絶句した。


レンズから見えたのは水崎が鞄から鉤爪つきロープをとりだして、壁に投げている姿だった。


だがうまく鉤爪がひっかからないのか何度も何度も投げている。


「あのバカ……! なんてアナクロな潜入方法を選んだんだ……!」


 言った後で俺はツッコんでくれる相手がいないことに気づいた。


 パソコンに向かっているツバキたんに視線をやってみると、


「? なんだ?」


 視線に気づいたツバキたんは不思議そうに俺を見ていた。


 そしてツバキたんは自分の手に持っていたチョコ棒に視線をやると、再び俺を見て言った。


「これはやらんぞ」


「………………」

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