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AnsweRer ~アンサラー~  作者: 著者不明
Answer-2 『反政府企業』
24/58

其の9



 ロッジの二階にあるテラスからスキー場を眺めている時だった。


「一人で黄昏て何やってんだ」


「なんだ……廉人か……」


「残念だったな。可愛い女の子じゃなくて」


 肩をすくめて笑う廉人。なので俺はフォローを入れておくことにした。


「お前のドレス姿も可愛かったぞ」


「今すぐ忘れないと、ここから下に突き落とす」


 廉人は地から響くようなドス声で俺の頭を掴むとギリギリと力を込める。


 どうやらフォローにならなかったらしい。


 廉人の周りにゆらゆらと負のオーラが立ち昇っているのが見えた。


「すいません! 忘れました! 綺麗さっぱり忘れました!」


 どうして俺の周りにはこう攻撃的なヤツばかり集まるのか。


 俺の頭から手を離してため息を吐くと、廉人は手すりに背中を預けて空を見上げた。


「ほれ」


 逆の手に持っていた缶コーヒーを投げてよこしてくる。


「さんきゅ。缶コーヒーなんてどこに売ってたんだよ」


「ちょっと行った先に自販機があったぞ。散歩の帰りついでだ」


 暖かいコーヒーを喉に流し込むと口から白い息が漏れる。


「なあ」


「んー?」と俺は夜景を眺めながら生返事する。


「橘さん……お前とどういう関係だ?」


「失礼な。恋人同士以外に何に見えるってんだ」


「冗談はいい。あの人、政府の人なんだろ」


 廉人は空を見上げたまま、こくりとコーヒーを飲む。


「なんで?」


「何でも何も、お前に政府を馬鹿にされてすっげー怒ってたじゃないか。見てりゃすぐ分かるって」


 少しばかりはしゃぎ過ぎたか。気をつけないとな。


「政府の人らしいぞ」


 俺は頭の中で反省しながら、そう答えた。ここではぐらかしても意味の無いことだし、逆に怪しくなるだけだ。


「らしいって……」


 廉人は呆れたようにこちらを見た。


「色々あるんだよ、色々。いくらお前でもこれはなーいしょ」


 廉人は振り返ると、手すりに両腕を乗せる。


「色々……ね。ま、そうだよな。人に言えないようなことなんて誰しも持ってるもんだよな。


親しいが故に言えないことも、在る」


 それは一体、どっちのことを言っているのか……。


 廉人の眼は何を見つめているのか、俺には見当もつかなかった。ただライトで照らされたスキー場を見ていないのは確かだった。


 俺と廉人の口から白い吐息が闇の中に溶けていく。


「橘さんは今の政府をどう思ってるんだろうな」


 静寂を破って不意に廉人がそう呟いた。


「やけにシリアスモードだな」


「たまには経済研究部らしく、日本の未来を憂うのも悪くないだろ?」


 おどけた感じで廉人が言う。


「さあな。政府の支持率なんて底を這っている状態だし、今のままじゃまずいってことは分かってると思うけど。


 でもこれも時代の流れなのかも知れないな。所詮、俺らなんて時代の大きなうねりに巻き込まれるしかないのさ」


「そうだよな。結局、今のままじゃ何も変わらないんだよな、日本は……。


 それならいっそ――」


 めきょりと缶コーヒーを握りつぶす廉人。


「廉人……?」


「……………………」


 俺の呼びかけには応えず、廉人は黙ったまま白銀の風景を眺めていた。


 と、その時だった。


「ちょっとー! 男二人で何してんのよー!」


 水崎の声がして俺は下に目線をやる。すると玄関先には先輩や菊も集まって星を見ているご様子。


 俺はPCを取り出して時間を確認した。


 もうそろそろか。


 俺は残ったコーヒーを一気に流し込むと叫んだ。


「よぉし! 天体観測にいくぞおお!」


「はあ!?」


 下で驚いているツンデレ。


 隣で廉人も俺のいきなりの提案に驚いている。


「こっからちょっと山を登った先に広場があるらしいんだ! そこで見ようぜ!」


「あらまあ。いいですね」


 よし、先輩の許可も降りた。


「ほら、廉人いくぞ」


「はいはい」


 仕方が無いな、とでも言いたげに廉人は笑うのだった。




◇◇◇




「わあー! きれー!」


菊が満天の星空を見上げ、両の手の平を組み合わせ、乙女チックに眼をうるうるさせている。


「へぇー、こりゃ大したものね」


 水崎もこの星空には驚きを隠せないようだった。


 広場から見える星空は絶景の一言であった。都会ではライトアップのせいで見えないような星が、こんなにも大きく輝いて見えるとは俺も予想していなかった。


 みんな喜んでいるようなので嬉しい誤算である。


 俺はそんな女性陣を尻目に機材を組み立て始める。


「あら……。新谷くん、それは一体なんですか?」


「天体観測といえば望遠鏡! この冬の思い出に星空でも撮ろうかと思いまして」


 俺は組み立てた電子望遠鏡にPCを接続する。


「激写! 激写!」


そして俺は星空をパシャパシャと撮り始めた。




◇◇◇




樹たちが星空を眺めているだろう頃、私はロッジの広間でソファに寝転がっていた。


天体観測だなんて暢気なものね……。


私が天体観測についていかなかったのは樹の指示があったからだ。


詳しい内容は話さなかったが、今晩どうやらこのロッジで何かが起こるらしい……のだが、今のところは何ら起こる気配が無い。


おそらく例の企業を炙り出す何かなのだろうが……。


「大丈夫なんでしょうね……」


 私は窓から外の星空を眺めた。


 そこには私を飲み込んでしまいそうな星空が広がっている。


 と、その時だった。


 不意にちかちかと星が点滅した。


「?」


 私は不審に思い電子双眼鏡を取り出し、設定を『アウル・アイ』に変えてちらつく星を眺めてみる。


「!?」


 そして気づいた。


 星に被る巨大な影。


 普通の人間ならばまず気づくことはないだろう。


「あれは……軍事航空機!? どうしてこんなところに……!?」


 あいつの言うとおり企業を釣ったっていうの!? どうやって!?


 その航空機の最後尾に注目すると、そこから黒い人影が次々と投下されていた。


 ……くる! 考えるのは後ね……!


 私は自分の部屋へ駆け込むと荷物のジッパーを開き、銃を組み立て始めた。


 すぐに準備をしないと……! ここは戦場になるわ……!




◇◇◇




「あれ?」


不意に廉人が何かに気がついた。


「どうかしましたか?」


 先輩の問いに廉人は怪訝な顔で指をさした。


「いや、あれなんですけど……」


廉人が指さした方の空が何やら赤く染まっている。


おー。派手にやってるなー、あいつ。


「あれ~? 火事かな?」


菊はうーんと背伸びする。


「冬は空気が乾燥しますからねぇ」


あらあらとみちる先輩。


「ははは、ありゃ俺たちのロッジの方向だなー」


俺がそう言うと電子望遠鏡を覗いていた水崎が叫ぶ。


「てゆーかあれは私たちのロッジじゃないのよ!!」


『ええええええええええええ!?』




◇◇◇




「こんなもんね」


パチッパチパチッ!


ロッジが焼け木がはぜる音がする。そしてやたら焦げ臭い。眼が焼けるほどの強烈な赤がロッジから放たれていた。


「ちょっと……生きてる~? 急所は外したはずよ」


私は近場に倒れている黒いアーマーをつけた襲撃者を踏みつけた。全身を黒で覆われ、顔もヘルメットのような防弾メットをつけているのでどんな顔をしているかは分からない。


「ぐっ」


どうやらまだ息があったらしく男が呻く。


「お、おまえ……何者だ……!? 我が部隊が一人の女に壊滅などと……!」


「アンサラーよ。もっとも国家直属だからガーディアンと言った方が分かりやすいかしら」


「ガーディアンだと!? そんなまさか……ここまで嗅ぎつけていたのか!」


 なんだか勝手に一人で盛り上がってくれている。ちょうど良いのでそれに乗っからせて貰おう。


「そうよ。すべて知っているわ。


 “コード:A計画”のこともね」


「バカな……! どこで漏れたんだ……!」


「細部までは統制できなかったようね。それが大企業の落とし穴よ」


「くっ……!」


 悔しそうな様子の男。


「なーんてね。ところがどっこい。そんな馬鹿なことを考えてる企業がどこか知らなくてね。是非、教えて欲しいものね」


 言って私は男の額に銃を突きつける。


「……話すと思うか?」


「…………。残念ね」


 パチッ……! ドシャアァ……!


 炎に舐められロッジの一部が崩れる。


 男は静かに眼を閉じた。


 パンッ!


 夜の闇に乾いた銃声が木霊するのだった。

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