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AnsweRer ~アンサラー~  作者: 著者不明
Answer-2 『反政府企業』
23/58

其の8



二時間後。


「HAHAHA! 誰も俺に追いつけない!」


俺は口座の金額を見て笑いが止まらなかった。


他のメンバーはこの数時間で一気に老けたように見える。


だがみちる先輩だけはいつものようににこにこしているが。


「おかしい……絶対おかしいわ……」


「なんで樹だけ良いマスばっかりに止まるんだよ……」


「これは裏がありそうニャ……」


「ですよね……。そうとしか考えられません……」


 なんだかひそひそと話し合ってるツンデレ、空気、ガーディアン、肉奴隷。


 ん~? 作戦会議か? フ……。無駄なことを……。なにせこの俺は……!


 ぎゅっと俺はポケットの中の装置を掴んでほくそ笑む。


 なにせこの俺はルーレットの出る数字を自在に操ることができるんだからな……!


「新谷くん」


 内心で大笑いしていると不意に先輩が呼んだ。


「なんですか、先輩?」


「ラブレター読んで頂きました?」


「ラ、ラブレター!?」


 俺はドガッと机に膝を打ち付けるほど勢いよく身を乗り出した。


「あらまあ。まだ読んで下さっていないんですね。新谷くんのポケットに入れたはずなんですが……」


 なんだとぉぉお!?


 俺はいそいそとポケットの中を探り始めた。あれでもないこれでもないと青い猫型ロボットのようにマイアイテムを外へ放り出していく。


 くっ、どこだ……! ラブレターどこだ!?


 だが不思議なことにすべてのポケットのものを出してみてもそれらしきものが見つからなかった。


「先輩、いったいどこに――」


 顔をあげ、思わず俺は『ゲッ』と言ってしまった。


 菊が例の装置を掴んでニヤニヤしているではないか!


「あれれ~? なんだろこれ~? 1~9までの数字が書いてあるよ~?」


 くっ! 菊のやつ! どこかの体は子供、頭脳は大人な探偵みたいにわざとらしい台詞を!!


 そこで俺はハッとなった。


 まさか……! みちる先輩これを狙っていた!? ラブレターはダウトだったとでもいうのか!?


 誰も気づかないほど叡智溢れる巧妙なトリックだ。さすがみちる先輩である。


 俺はみちる先輩の顔色を伺った。しかし、彼女はいつものようににこにこしている。


きっと彼女は孔明の生まれ変わりに違いない。


「くっ! みちる先輩……! おまえもか……!」


 今なら分かる。シーザー(カエサル)とは良い友達になれる!


「どうしたの菊?(ニヤニヤ)」


「なになに? 何か面白いものでも見つけた?(ニヤニヤ)」


 と菊に群がるビッチツンデレとビッチ空気。


 やばい。俺の直感が……本能が告げている! 今すぐ逃げろと……!


 動き出そうとしたまさにその刹那。後ろからガッと首に腕を回される。


「樹~遊んで欲しいニャ~。ごろごろ~(ニヤニヤ)」


 エリである。甘えるような猫なで声と打って変わってその腕は万力のような力が込められていた。


「なーお、なーお(ニヤニヤ)」


 俺の頬にすべすべのほっぺをすりつけてくるエリ。


「えぇい、離れろ! 貴様は発情期のメスネコか!」


 俺がそうしている間に菊はその装置を動かしてしまう。するとルーレットがピピピと動いて止まった。


「あれれ~? 押した数字のボタンと、ルーレットが同じ数字になったよ~?」


 ファーーック! コ○ンなんか嫌いだーッ!


「それじゃあゲームを再開しましょうか」


 にこにことみちる先輩が告げる。


 それは俺にとって死の宣告を意味していた。




◇◇◇




「1、2、3と。あらびっくりー。みんなと同じ資金プラスマスに止まっちゃったー。こんな偶然ってあるものねー(ニヤニヤ)」


「ぎゃああああああああああああああ!」




◇◇◇




「ほら~、早く『私は見られるのが嬉しい変態です』って言いながらストリップしてくださいよー、樹先輩~。ちゃんとPCで撮ってますから~(ニヤニヤ)」


「いやああああああああああああ!」




◇◇◇




「資金奪取カード発動! 樹の財産を奪い取れ!」


「やめてええええええええええええ!」




◇◇◇




「あっりゃー? 自分についた『制限』を好きな人に移せる、だって。じゃあ、そこのクズ」


「ニャァァァアアアァアアアァァァ!」




◇◇◇




 ちーん。


「もう誰も信じられないニャなのらごわすですぅ。もう誰も信じられないニャなのらごわすですぅ。もう誰も信じられないニャなのらごわすですぅ」


 俺はどこかのボクサーのように真っ白になって項垂れていた。ちなみにフリフリの赤いドレスに身を包み、顔には超ケバい化粧が塗りたくられている。


「ちょっとやり過ぎましたかね……。樹先輩壊れちゃいましたよ?」


「い、いつの間にか意味不明な語尾になってるわね、コイツ……」


 さすがに悪いと思ったのか、みな俺の灰になりかけの姿を見てポリポリと頬を掻いていた。


「アンタ、大丈夫? 生きてる~?」


 と水崎が近づいたまさにその瞬間!


 俺は水崎の手に持っていた例のイカサマ装置を取り上げた!


『!?』


 俺のその行動に全員が目を見開く!


「くっくっく……! バカな奴らだニャなのらごわすですぅ……! 俺はこの瞬間をずっと待っていたのだニャなのらごわすですぅ!」


「こいつ……! まだ諦めてなかったのね……!」と苦虫を噛み潰したような表情の水崎。


「まさに黒くて油っぽくてカサカサ動くアレみたいな生命力です……!」と嫌悪感を顕にする菊。


「それにしても語尾のせいで緊張感がまるで出ない……!」と廉人だけがツッコまなくていい所をツッコんでいた。


「フハハハハハ! こんなものこうしてくれるニャなのらごわすですぅ!」


 俺は持っていたイカサマ装置を口の中に放り込む。


 バリバリバリ!


「し、信じられないわ……! 機械を……食ってる……!」


「なんて執念なんだ、樹……!」


 皆がおぞましいものを見るように俺を見ているが気にしてられるか!


 ごくんと飲み込み、ニヤリと笑う俺を見てサササと全員が俺から距離を取った。


「見ろニャなのらごわすですぅ。俺は次のターンでゴールに届くのだニャなのらごわすですぅ。誰にも賞金は渡さないのだニャなのらごわすですぅ!!」


 やはり最初のイカサマで突っ走った分は大きく。俺のコマはゴール直前まで来ていたのだった。


 ちなみにマスコットキャラクターのジンくんは酔いつぶれてぐーすか寝ている。


「最後の悪あがきを……!」


「さあ正々堂々と勝負しようじゃないかニャなのらごわすですぅ!!」


「お前が言うなよ!」


「まだよ! ゴールまでは9マス! 小さい数字が連続で出れば私たちの勝機はまだあるわ!


 それにゴールの一つ前のマスを見て!」


 そこには『振り出しに戻る』というお決まりなマスが設置されていた。


「8が出れば樹はスタートへ逆戻りか!」


「お願い……! 8出てください!」


 バカな奴らだ。幸運の女神に愛されたこの俺の力を侮っていやがる。


「お前らに神を見せてやるニャなのらごわすですぅ!


 いでよ9ニャなのらごわすですぅ!」


 俺はルーレットを回した。そして――


『9!』


『えええええええ!?』


 全員が信じられないといった表情でルーレットを凝視した。


「クックックック……クハーッハッハッハッハッハ! それ見たことかニャなのらごわすですぅ! やはり神は俺を見放さなかったニャなのらごわすですぅ!」


「畜生……! なんて強運の持ち主よ、コイツ……!」


 嬉々としてゴールまでコマを進める俺。


「やったー! あがりー! 一等賞! 一位! 優勝―! こんなもん着てられるか、ゴルァ!」


 俺は赤いドレスをばさっと脱ぎ捨てた。


 それを見て悔しがる各々。


 だが――


「まだですよ、新谷くん」


 いきなりみちる先輩がそんなことを言い出した。


「へ? 何がですか?」


「トラップカード発動。このカードは対象の出目からマイナス1することができます」


「………………は?」


 室内がシーンと静かになる。


 今……先輩なんて言った?


 ぼくちんわかんなーい。


「マイナス1!?」


「ってことは……! 8だから……!」


「スタートに逆戻り!?」


 瞬間。弾けたように全員が爆笑し始めた。


「ギャハハハハハ! 先輩最ッ高ですよ! 樹、ざまあああ! くやしいのぅ、くやしいのぅ!」


「ひぃーっひっひっひ! 新谷……! 因果応報よ! きゃはははははは!」


「ぷくく……! もうだめ……! お腹が……!」


「やるわね、貴女」


 なんだか握手しあっているエリとみちる先輩。


 俺はこの日知った。


 神をも超える存在。


 それが川澄みちるという人物なのだと。


「うわああああああああああああああああん! 死んでやるニャなのらごわすですぅぅぅぅぅう!」


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