鷹と杉
「鷹と杉筆の跡」
~小説基礎作法編~
文芸部の同輩へ、後輩へ、未来の後輩へ、
そして荒野をめざす青年へ
はじめに
小説というものは、自由な発想と自由な言葉で紡がれるものですが、そこには「小説作法」というものが存在します。
小説作法は明確なルールではありませんが、読み手にとって読みやすくするものであり、小説としての体裁を整えるものであります。これらを理解して、よりよい作品づくりに役立てて下さい。
また始めに書いておきますが、これから書くことは、「現代的な観点から見た文章の書き方」です。
昔は使われていたが今はほぼ使われていないという書き方は、現代的な文章としては「作法として適さないもの」として扱っています。
文章も、時代によって変化していきます。
その点についても、各々言及していきます。
●まずはじめに、小説を執筆する上での基礎や注意点をまとめていきます。
◎字体について
現在の社会で最も一般的な字体は「明朝体」です。小説を含め、多くの紙媒体やパソコンで使用されているのでとても見やすいです。
ほかには「ゴジック体」もよく使われており、小説を書く際はこの二つの字体で書くのが基本となります。
なお、この文章は明朝体です。
◎改行のタイミング
改行はとても重要な要素です。多すぎても少なすぎても読みにくくなります。
つまるところ、改行をするタイミングは「読みやすくなるように改行する」という一点だけです。
こればっかりは教えようもないので、実際の小説などを参考にしてみるか、自分で読みやすいように考えて改行しましょう。
ちなみに、文芸部の原稿は二段組みなので、改行は多めにすると読みやすくなると思います。
参考
昔は今よりも改行は少ないです。というのも、元々改行は話のまとまりを示すものであったからです。先述したように、今の改行はそれに加えて読みやすさに重きを置いて考えているので、昔よりも改行は増えています。
◎句読点について
句読点、とりわけ読点は、付け方一つで読みやすさが一気に変わってしまいます。
もちろんこれも、少なすぎれば読みづらくなり、多すぎれば文章の流れが悪くなります。
読点の付け方に決まりはありませんが、次の二点に注目して付けてみましょう。
・主語の後ろにつける
例 印刷をすることは、とても忙しい。
・接続詞、接続助詞の後ろに付ける
例 しかし、そのマカロンには毒が入っているかもしれない。
例 テスト前ではあるが、なぜか文芸部の締め切りが迫っている。
・時、場合を表す修飾分の後
例 編集作業があるとき、副部長はすぐに帰る。
例 もし禁止用語を使いたいなら、血染めのバレンタインでお願いします。
この三点が基本です。
また、「間」をとるためにも使います。
重要なのは、読みやすくなることです。
他にもいろいろありますが、今回は割愛させていただきます。
◎振り仮名について
×現在の顧問は保苅先生です。
○現在の顧問は保苅先生です。
振り仮名の振り方については、使っているソフトによって変わるので、ぜひ調べてみてください。
また振り仮名を振るべき漢字についてはおおまかですが、以下の通りです。
・明らかに常用漢字外の漢字。読みが難しい漢字。
例……悼む、遊説、躊躇う、踵、些かなど
・一般的ではない人名、地名
例・・・・・鷺宮、羽生、斑鳩、新発田など
・造語や当て字、意図的に読ませるもの
例……潜在能力、原稿の(ド)提出締切など
◎「ら」抜き言葉について
何かと世間で問題になる「ら」抜き言葉。
「修学旅行のお土産を食べられる」
「修学旅行のお土産を食べれる」
言葉としては現在どちらでも通じますが、小説と言う形態上、絶対に前者で書きましょう。
●次に、小説を書く上で間違いやすい点について書いていきたいと思います。
◎三点リーダーについて
まず……三点リーダーにとは何かということですが、⇒の点々を三点リーダーと呼びます。
最近の小説ではしばしばみかける三点リーダーですが、その名の通り「一マスにつき三つの点」が入っています。
さらに、それを二マスくっつけ、……このように点六つで構成するのが基本です。
どんな状況でも三点リーダーは六つです。
例
……製本作業忘れていたんですか。
◎!や?について
これらは近年の小説ではよく使われる記号ですが、実は間違いやすいルールがあります。
文章中に!または?を使う際、後ろを一文字開けるというものです。
例
×「私が部長?お断りします!」
○「私が部長? お断りします!」
これを怠るだけで、文章が少し読みにくくなってしまいます。ただし、段落や会話文の最後にこれらが付くときは何もしなくても大丈夫です。
参考
記号は使い勝手がいいですが、使い過ぎは禁物です。適切に、適度な使用を心がけましょう。
◎会話文の句読点
「血染めのバレンタインがやってきます。」
「血染めのバレンタインがやってきます」
前者、後者ともに表記上問題はありませんが、現代の書籍ではほぼ後者で書かれています。
これについては、どちらを採用してもらっても構いません。
参考
日本語文法的には前者の表記が正しいです。
これは知っておきましょう。
しかし、この表現が使われているのは主に国語の教科書と古い小説、公文書などです。
また、古い小説でも編集の関係で後者の表記となっているものも多いです。
●最後に、鷹と杉二百六十六号及び、その前号であるリレー小説で散見された作法上の留意点について指摘していきます。
☆次の二つの文章の改行を比べてみましょう
□は改行を表しています。
例
□「もう新年ですよね」
見ると、発行された部誌はクリスマス号だった。
例
「もう新年ですよね」
□見ると、発行された部誌はクリスマス号だった。
前者の書き方は間違いではありませんが、現代において使われることはかなり少ないです。やはり後者が一般的なので、後者をお勧めします。
参考
前者の形が見られるのは昔の作品です。現代ではあまり使われませんし、現在学校での指導でも後者でほぼ統一されています。
☆ダッシュ(――)の使い方ですが、三点リーダーと同じく二マスで一セットが基本です――。
☆使ってももちろん構いませんが、「~」や「―」、「!?」はなるべく少なくしましょう。多用すると、文章としての見栄えが悪くなります。
☆数字は漢数字で表記するようにしましょう。
☆全角の文章に半角の文字は使わないようにしましょう。具体的に言うと、「!」や「?」を、
「!」や「?」という風に表現してはいけません。
ただし、英語の小文字はこの限りではありません。しかし英語自体、使用は控えた方が無難です。
☆基本的に、小説内では商標や商品名、会社名、実名などを出してはいけません。訴えられることはありませんが、著作権の問題に抵触します。
例、LINE、Ipod、ミズノ
ただし、広く普及しているものや全世代を通して知られているものはこの限りではありません。
例、ポッキー、宅急便、夏目漱石
しかし二者の境界は曖昧であり、基本的には一般的な語に置き換える、もしくは名前を少し変えたりして書きましょう。
結びに
「守破離」という言葉が日本にはあります。
この言葉の意味するところは、あらゆる文化において型を「守り」、それに熟達したうえで既存の型を「破り」、そして型から「離れて」いくということです。
これは小説も同じです。
奇をてらった表現や独特な表現よりもまず基本です。
大事なのは、読者が「読みやすい」と思えることです。どんなに内容が優れていようとも、文章一つでそれが台無しになってしまいます。
というより、文章も作品の一部です。
少し説教みたいになってしまいますが、「文章は物語を繋ぐ道具」ではありません。文章そのものが物語を紡ぐのです。これを忘れないでください。
稚拙な内容と文章でしたが、文芸部の皆様の一助となれたら幸いです。
なお、内容のミスに関しては全て私に責任があります。
執筆者 世梨
二〇一三年冬 執筆