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青春スクエア ~綾崎翼の片思い~ 小学生編3

日曜日、翼は病院へと来ていた。

テストとノートを手にして。

今日は中々逢えない両親に学校であった事などを報告しようと考えていたのだ。

だが、やはり両親には逢えなかった。

いつもみんなからは言われる〝忙しいから逢えない〟

それでも翼はどうすれば両親と逢えるのか考える。

必死に考えるのだが――

七歳の知識では、両親と逢うための方法が思い付かない。

両親に逢えない事がわかり、翼は溜め息を吐き出して家へと帰ろうとすると。

「あれ……君はこの間の……」

声を掛けられ、翼は振り返る。

振り返ってみるとそこには。

白衣を着た男性が立っていた。

男性は優しく微笑み、翼の元へと来る。

その男性の顔に何処か見覚えがあった。

しかし、何処で逢ったのかが思い出せない。

男性の顔を見つめながら考えていると。

目の前にいる男性が誰なのか、思い出す事が出来た。

「ふじもりせんせぇ」

「覚えてくれてて良かった。今日はどうしたんだい?」

「お父さんとお母さんにあいにきたんだけど……あえなくて……」

「何かあったの?」

藤森先生が少し心配そうに聞いて来たのだが。

翼はポケットから持って来ていたテストを取り出し。

嬉しそうに笑い、返って来たテストを見せて言う。

「テストで100てんとったんだ!」

それを見た藤森先生は少し驚いた表情をしてみせた。

そしてテストの点を確認し、優しく微笑んで言ってくれる。

「すごいねぇ、めぐみ君。本当に百点満点だね」

「それからね、さんかん日にさくぶんかいたからそれも見てほしくて……。このさくぶんね、みんなからほめられたんだ!」

「その作文、僕が見てもいいかな?」

「うん、いいよ!」

そう言うと翼は嬉しそうに笑いながら作文を藤森先生へと手渡す。

その作文を藤森先生は受け取り、目を通していく。

最初の方は至って普通に読んでいたのだが。

読み進めていく内に、藤森先生の表情も変わっていった。

その姿を見て、翼は嬉しそうに口を開く。

「がっこうのせんせぇに見せると、しょうせつかになれるっていわれたんだ」

「……うん、確かにこれは小説家になれる才能があるね……」

「しょうせつかになれるっていわれてから、さいきんはほかにもかいてるんだ!」

「めぐみ君は賢いんだね」

「えへへ……」

照れながらも嬉しそうに翼は笑う。

そんな翼に藤森先生は読んだ作文を返す。

翼は作文を受け取ると、藤森先生は優しく言う。

「これはお父さんとお母さんに見せないといけないね」

「でもあえなくて……」

「他にはどんな話を書いてるの?」

「えっとね……。ネコがぼーけんするはなし!」

「じゃあその猫さんのお話を聞かせてくれるかな?」

「いいよ! えっとね、ネコはいろんなけしきを見たいと思ってぼーけんするんだ! そとのせかいはネコのしらないものばっかりがあって、ネコはむちゅーになってぼーけんして――」

藤森先生は翼の話を聞いてくれた。

翼の創り出す世界観に浸ってくれた。

――今まで、翼の話を聞いてくれる人はいなかった。

一応居るには居る。森さんが。

だが、このように翼の考えた話を聞いてくれる人は今まで居なかった。

森さんには、自分の考えた物語について話してはいないのだ。

森さんと話すのはクラスメイト達と話をしていた頃に、クラスメイト達と話した事や読んだ本の内容。

そんな話をしていたのだが、今ではクラスメイト達から話し掛けられないので読んだ本の内容しか話していない。

なのでこのようにして人に自分の考えた物語を話せる事が嬉しかった。

それから土日の午前は大抵藤森先生に逢いに行くようになった。

自分の考えた話を聞かせたり。

その時に自分が思った事を話したり。

そうやって翼は藤森先生と仲良くなっていった。

そんなある日の事。

帰りのホームルームが終わり、翼は図書室へ向かおうと思っていた。

ランドセルを手にして教室から出ようとし、自分の席から立ち上がった時。

ジョージが翼の前に立ちはだかった。

翼はジョージを躱して教室から出ようとするのだが。

ジョージはまたもや翼の前に立ちはだかる。

向こうから話掛けて来るのを待つのだが、一向に話し掛けては来ない。

それにジョージは行くてを阻むので、翼の方から話し掛ける事にした。

「ジョージ? どうしたの?」

「――おまえ、オレたちの事バカにしてるだろ」

「え……?」

「いっつもおまえ、オレたちの事みくだしてるんだろ! あたまがいいからって…」

「そんな事ないよ! ぼくは――」

ジョージは、冷たい眼差しで翼を見つめる。

いや、睨み付けていた。

その事にも驚いていたのだが――

何よりも、今目の前にいるジョージは翼の知っているジョージではないように感じられた。

どうしてだか、恐怖を感じた。

そして、ジョージは口を開く。

「おまえみたいなやつと友達だなんて思いたくもない」

ズキン。

ジョージの言葉が耳に届いた瞬間、胸に今までに感じた事のない痛みを感じた。

今までの痛みとは違う。

桁違いの痛みが。

それに、どうしてそんな事を言われるのかわからなかった。

ジョージはそれだけ言うと、教室から出て行ってしまった。

翼は考える。

今感じた痛みの理由を。

これはもしかして、傷付いたという事なのではないだろうか。

ならばどうして、ジョージは傷付けるような事を言って来たのだろうか。

――何か、ジョージを傷付けるような事をしてしまったのだろうか。

傷付ける所か、久しくジョージと話をしたのだから傷付けようがない。

別に、話をしなかったのは無視をしたわけではない。

寧ろ無視されていたのは翼の方だ。

それにジョージの言っていた言葉の意味がわからなかった。

ジョージの言った言葉の意味をずっと翼は考えていた。

本を読む時も、ずっと。

そのせいで読んだ本の内容が全く頭には入らなかった。

夕方になり、出海さんが家に来る時間となった。

出海さんと入れ替わりに森さんは帰ってしまい――

勉強が終わると出海さんは帰り、翼はまた勉強机に腰を下ろす。

そして、机から見える窓を見上げる。

窓を見上げながら、翼は鉛筆を手に取る。

しばらく空を見つめながら考え、翼は鉛筆を動かす。

〝空は不思議だ。夜になると昼の時とは違う姿を見せる。

今日の夜空は今まで見た事がないくらいにキレイだ。

これで丸い月があれば、完璧なのに――〟

そこまで書き、翼は手を止めた。

それから、少し考えてみる。

友情や絆について。

「――――」

少し考え、一度鉛筆を机に置いた。

翼は手を伸ばし、新しいノートに触れる。

まだ何も書かれていないノートを机の上に広げ――

再び鉛筆を手に取り、ノートに書いていく。

〝友達って、なんだろう。

クラスメイトとの違いってなんだろう。

友達は、何でも話し合える人の事。

クラスメイトは、同じクラスにいる人の事。

じゃあ、親友はどんな人の事を言う?

親友は、友達よりも上の存在。

誰よりも信頼出来る人の事――〟

そこまで書いたのだが。

やはり翼は手を止めた。

――このノートには、自分の考える理想を書こう。

そう思い、翼は再び鉛筆を動かし始める。

そうして、書いていく。

翼の想像する幸せな家族を。

本で見た家族を。

それからの翼は、空いた時間を見つけては自分の理想をノートに書いていった。

そして時々、病院へ行って藤森先生に自分の考えた物語を語る。

「この間のつづきなんだけどね――」

翼は自分の考える話を人に聞いてもらえる事が嬉しかった。

自分の思う事に共感してくれる時が一番嬉しさを感じた。

しかし、藤森先生と話していると時間は一瞬で過ぎ去ってしまう。

翼は、いつの間にか藤森先生の発する言葉が少し嫌になっていた。

「ごめんね、めぐみ君。もう行かなくちゃ。また今度続きを聞かせてね」

「あ――」

それだけ言い残すと、藤森先生は行ってしまった。

一人だけになり、翼の胸には何か冷たい痛みが。

それが何なのかわからない。

だが、藤森先生があの言葉を発さなければいいのにとは心の何処かで思っていた。

しかし、それを言う事は我が儘だ。

我が儘は、言ってはいけない。

そう思い翼は無意識に考える事も言う事も我慢していた。

我慢していたのだが、翼は胸の痛みについて考えながら家へと戻った。

この胸の痛みは、一体何だろうか。

先日ジョージの言葉を聞いた時の痛みとは、何処か違う。

こっちの痛みの方が強いように感じられる。

どうしてだか、切なくなるような。

これはそんな痛みだ。

そんな事を考えながら翼は家へと戻る。

ふと、右手首にしている腕時計を見るとあと数十分で出海さんが来る時間だった。

時間を確認すると、翼は走り出した。

――この腕時計は、森さんから貰った誕生日プレゼントだ。

誕生日当日、一緒に祝えなかったのでお詫びも予てくれたものだった。

翼はすぐにその腕時計を気に入り、その日からずっと身に付けている。

全力で走って家に戻るとすぐに勉強が始まった。

そして出海さんが帰る頃に森さんが入れ替わりに家へと来る。

その日、翼はそのような一日を過ごした。

それから月曜日になり。

翼はいつも通りに学校へ行き、過ごしていたのだが。

昼休みが終わり、図書室から自分の席に戻った時の事。

自分の席に座る時、自分の机の中から水が滴っている事に気付いた。

その事に驚きながらもすぐに翼は机を覗き込んで中を確認した。

それを見て、翼は更に驚いた。

机の中は水浸しとなっていたのだ。

更には、恐らく誰かが濡れたノートや教科書に触れたのであろう。

ノートや教科書が読めないほどにボロボロとなっていた。

だが、いつも持って来ていた自分の理想を綴っていたノートは奇跡的にも今日は持って来ていなかった。

なので、それだけでも助かった。

しかし、そのまま授業が始まってしまった。

教科書を拭いて使おうにも、字が全く読めない。

それでも必死にハンカチで机の中を拭いていたのだが。

「じゃあ今日は綾崎君に教科書を読んでもらおうかな」

担任に読み上げを指名された。

すると、クラスメイト全員が一斉に翼の方に視線を投げ掛けた。

そんなクラスメイト達の中で、教科書がないので読み上げが出来ないと思ったらしい人は――

隠れて笑っている姿が見えた。

誰もが読み上げは出来ないと思っていた。

だが、そんな事はなかった。

「読みます」

翼は教科書に書かれていた事を全て記憶していたのだ。

なので教科書無しで読み上げをしたのだが。

それを見た全員が驚いていた。

ジョージに至っては途中から翼の事を見なくなった。

――そのようにして、翼への虐めが始まったのだ。

しかし、翼は学校では反応をほとんど見せなかった。

確かに虐めを受ける度に悲しみを感じる。

みんなのして来る事に胸が痛む。

そうなのだが。

どうしてだか、虐めに耐えられるのだ。

それはきっと、まだそんなにクラスメイト達とは仲があまり良くないからだろう。

本当にただのクラスメイトだと思っているからだろう。

そのため――

ジョージからの虐めには流石に応えた。

最初は誰かに虐めに合っている事を相談しようと思ったのだが。

どうしても、誰かに相談する事が出来なかった。

森さん等、相談出来る人はいる。

いるのだが、相談する事は迷惑になると思ったからだ。

それに森さんに相談すると、真剣に虐めについて考えて対応してくれるだろうが。

心配は、掛けたくなかったのだ。

そのようにして、翼は悩みを一人で抱え込んでいた。

そんなある日の事。

出海さんが来る時間となった。

そうして出海さんと入れ替わるようにして、森さんは帰って行く。

出海さんとの勉強の時間になり、家に来るといつものように聞いて来る。

「翼君、勉強どこまで進んだ? 教科書とノートを見せて」

出海さんにそう言われ、翼は一瞬返答に困った。

どのようにして、説明すればいいのだろうか。

虐められていると悟られないように説明するには、どうすれば――

必死に考えて思い付いた答えは。

「――――なくし、ちゃったんです……」

「教科書を? それともノートを?」

出海さんの返答に、やはり困る。

それでも翼は必死に考えて誤魔化した。

「……りょうほう、です……」

「どうしたの? 何かあったの?」

「……なんでもないです」

翼がそう言っても出海さんは納得していなかった。

だが、出海さんは何も聞いて来なかった。

それで、翼は良かった。

そのまま出海さんは勉強する事にしたようで。

本日もいつもと変わらない一日を過ごした。

特に何事もなく、勉強を終えると出海さんは帰って行った。

広い家で一人きりになり、今日もまた翼は勉強机に腰を下ろす。

机の上にノートを広げると鉛筆を握り、自分の感情を書き記していく。

〝どうしてみんな、そんな事をするの?

ぼくはみんなに何かした?〟

そのようにして、自分の思った事。

感じた事を綴っていく。

悲しみを。

苦しみを。

人に話せない分。

人に話さない分。

その分、翼はノートに綴っていく。

その時。

ポタ、ポタポタ。

ノートに数滴、雫が落ちてきた。

翼は驚き、顔を上げてみる。

顔を上げると目の前には窓があるのだが、その窓に今日はカーテンは閉められていない。

閉められていない窓には翼の顔が映っていた。

窓ガラスに映っていた翼の姿は――

目から涙を流していた。

その事に気付き、すぐに服の袖で涙を拭った。

人に相談すれば良い事なのだが……。

周りの人達に迷惑を掛けたくない。

そう思うと何も言えなかった。

学校にいる時は虐められ。

家に帰ると勉強。

少しずつだが、翼は自分の居場所がなくなって来たように感じられた。

唯一自分の居場所を感じられるのは家に居る時。

――自分の部屋に居る時だ。

もう学校では自分の居場所は感じられない。

最近ではそのように思い始めた。

そんな、ある日曜日の事だった。

いつものように翼は病院へ行って藤森先生と話をしていた。

自分の考えた話を、藤森先生に語る。

いつもと変わらない。

そう思っていたのだが――

「それでね――」

「翼君」

「ん?」

「……もしかして、何かあった?」

「え……」

「だって翼君、悲しそうだから」

「……ぼくが、かなしそう……?」

「――何かあったの? 僕で良かったら相談に乗るよ?」

――驚いた。

初めて人に、相談に乗ると言われた。

驚くと同時にすごく嬉しかった。

そしていつの間にか――

自然と、口を開いていた。

「……学校で、イジメられてて……」

「虐め!?」

「うん……」

「だっ……大丈夫!?」

「物ばっかりにイタズラされてるからヘーキ」

「……辛いんじゃない?」

「……つらい……?」

「学校で、一人なんでしょう? きっと、家でも一人なんじゃないかな」

藤森先生の言葉に驚いた。

驚きながらも藤森先生の顔を見つめる。

「翼君、相談相手がいないなら僕がなるよ。辛い事や悲しい事、全部教えてごらん」

藤森先生は優しくそう言い――

翼の頭を撫でてくれた。

藤森先生が翼に触れた瞬間。

どうしてだか、涙が溢れ出してきた。

どうしてこんなに涙が出るのかわからなかった。

翼が泣き出してしまうと、藤森先生が人差し指で優しく涙を拭ってくれる。

そして、優しい声で言ってくれる。

「全部言ってごらん。楽になるよ」

そんな藤森先生の言葉に釣られるようにして。

翼は口を開いていた。

「――この間ね、おうちで一人になったときにおはなしかいてたんだ…」

「うん」

「そのおはなしはね、ぼくにあった事をかいてて…」

「うん」

「それをかいてたらね……なみだが出てきちゃって……」

「…うん」

「どうしてなみだが出るのかわからなくて……。一人になったときとか、一人でいるときとかね。このあたりがいたくなるんだ……」

そう言うと翼は胸の辺りに手を当てる。

それを見た藤森先生は少し悲しげな表情をしてみせて。

優しく口を開いた。

「――翼君、それはね。〝寂しい〟って言うんだよ」

「さみしい……?」

「そう。人はね、一人で居る〝孤独〟にはどうしても耐えられないんだ。だからみんな、人と一緒に居るんだよ。人は、一人じゃ何も出来ないんだ。二人だから出来る事もある。人はね、支え合って生きているんだよ。だから、僕が翼君を支えてあげるよ。支えるって言っても、相談に乗る事しか出来ないけど……」

「ううん、それだけでいいよ」

そう言うと翼は涙を拭って微笑んだ。

そんな翼の頭を藤森先生は撫でてくれてから。

「無理はしないでね」

そう言ってくれた。

藤森先生の言葉に翼は笑って――

「ありがとう、ふじもりせんせぇ」

そのようにして答えた。

その日、翼に相談者が出来た。

それと同時に翼の事を心配してくれる人も現れた。

その人の名は、藤森拓斗。

藤森先生が、翼の相談者となってくれた。

その事は翼にとって、とても嬉しい事だった。

初めての相談者だったからだ。

相談出来る人は、今まで森さんが居たが。

このような事を相談出来る人は、藤森先生が初めてだ。

初めて相談者が出来た、そんな翼は七歳の冬の事だった――









                                              ~To be continued~

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