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青春スクエア ~綾崎翼の片思い~ 小学生編10

時計の針が時を刻む音だけが耳に届く。

時折り、ボールペンで丸を付ける音や紙を捲る音も聞こえる。

今は嗄が作ったテストの採点中だ。

その時間、大抵翼は採点が終わるまでじっと嗄の方を見つめている。

そうでない時もあるが。

今日は嗄の方を見つめていた。

(今日は、どんな本をくれるんだろう? この間言ってた本かな……)

そんな事を考えながら嗄を見つめる。

すると、嗄が手を止めてボールペンを置いた。

「ん、今回も満点だねぇ。眼鏡にしてから調子良いねぇ」

「そう……ですか?」

「この調子の良さは見習いたいくらいだねぇ。ここまでパーフェクトは中々出来ないもの。流石の僕でもね」

採点し終わったテストを翼に差し出しながら嗄は苦笑混じりに呟いた。

返してもらったテストに軽く目を通し、少しだけそうかもしれないと思う。

最近は自分でもそう思うくらいに調子が良い。

やはり、眼鏡の効果もあるのだろう。

テーブルの上に出していた赤ペン等をペンケースに戻していた嗄が不意に口を開いた。

「いつもご褒美は本ばかりだけど、本当に良いの?」

「はい。大丈夫です」

「ん~、でもねぇ……」

何か不満なのか、それとも味気無さを感じているのか小さく唸っている。

別に翼は本だけで良い。

それに、そんなに我が儘は言えない。

あれも欲しい、これも欲しいなど――

子供のように物を強請るわけにはいかない。

嗄はあくまで家庭教師なのだから。

その時、嗄が思い付いたように自分の手をぽんと軽く叩き口を開いた。

「そうだぁ、翼君って映画好き?」

「映画――ですか?」

映画と口にしながらも、自分自身に問い掛けた。

正直な所、翼はテレビで放送されている映画などもロクに見ていない。

それ所か最後まで映画というものを見た事がないのだ。

たまにテレビを付けた時に途中からやっている映画を数分見て、すぐにテレビを切ってしまうからだ。

そのため、映画が好きなのか嫌いなのか自分自身でもわからない。

恐らく嫌いではないのだと思うが。

「――好き、だと思います……?」

疑問形で答えた翼など気にも止めず――

嗄はまるで花が咲くようにしてアイドルスマイルを振り撒いた。

「そっかぁ! なら良かったぁ。前に翼君に渡した本が映画化されて今度の土曜日に放映されるんだぁ。翼君も一緒に観ない?」

――前に渡された本。

どれだろうかと記憶を巡っていると、そういえば本屋で映画化の宣伝がされていた本の事を思い出す。

本の内容を思い出し、確かにあの作品は良かったと改めて思い直す。

それが映画化される。

それに、初めての映画館。

最初本屋で映画化の宣伝を見た時は何も感じなかった。

しかし今は――

「――観てみたいかも」

「でしょう? じゃあ今度の土曜日、一緒に映画を観に行こう! それが、今回のご褒美ね」

そう言うと、嗄は少しだけ上目遣いで人差し指を唇の前に立てて見せる。

本当に嗄がそんな仕草をすると様になる。

(映画、かぁ……)

初めての映画。

それは一体、どんなものなのだろうか。

考えただけで胸の鼓動が高鳴り、今日は眠れそうにない。

早く、土曜日が来れば良いのに。

そんな事を考えているのも束の間。

すぐに約束していた土曜日はやって来た。

その日は目覚まし時計の鳴る一時間前に目を覚ましてしまい、仕度をする時間に余裕が十分に出来た。

それ所か、逆に時間が余り過ぎてしまった。

何かをして待とうかと思い、本を手に取るが――

内容が全く持って頭に入らない。

なので本を読む事は諦めて、持って行くものの確認をする。

しかし、準備は既に出来ているので確認もすぐに終わってしまう。

その次は鏡の前に立ち、服装の確認をする。

前々からずっと考えてようやく決めた服装だ。今更変える必要もない。

髪型も、今日は寝癖が酷いわけではなく……。

寧ろ寝癖が良い具合にパーマが掛かったようになり、ブラシで髪を撫でただけとは思えない仕上がり。

――全ての準備が整い過ぎている。

それほどまで楽しみにしていた事が自分でもわかる。

確かに楽しみではあるのだが、我ながらに準備の出来過ぎだ。

少しだけ準備万端の自分に呆れる。

小さく溜め息を吐き出した時。

ピンポーンと、呼び鈴の鳴る音が耳に届いた。

一瞬呼び鈴の音に驚き、心臓が大きく脈打つ。

驚きながらも腕に付けている腕時計を見つめ、嗄が来ると言っていた時間より十分前だと言う事に気付く。

それでもすぐに翼は嗄だとわかった。

常に十分前行動をしている嗄。

まず、この時間帯に呼び鈴を鳴らす人物は一人しか居ない。

一階に降りて玄関の扉を開け放つ。

そこにはやはり、嗄の姿があった。

「おはよう、翼君。じゃあ、行こうか」

「は、はい…。おはようございます…」

緊張しながらもそう答え、翼は家から出る。

映画館へと向かう道すがら、嗄は前に観た映画の感想などを語ってくれた。

それを聞きながら、翼は今日の映画を心待ちにしていた。

 映画館へ着き、翼は目を見開いた。

映画館のチケット売り場、入場口から薄暗い上に――

大勢の人混みが目の前に広がっていたからだ。

今日は翼達が観る映画以外にも三つほど、初上映される映画があるからだろう。

その為、やたらと人が多いのだろう。

しかし嗄はそんな事気にも止めず、前売りチケット発券機まで行って今日観る映画のチケットを発券した。

嗄が翼に微笑み掛けると。

周りからは女性陣の黄色い声が上がる。

――以前、眼科へ行った時もそうなのだが。

嗄の容姿はまるで芸能人だ。

周りにテレビカメラがあっても可笑しくないほどの。

そのような容姿のため、もちろん女性陣の視線を独り占めする事が出来る。

だが、それを全く気にしないのが嗄の良い所だろう。

顔が良い事を鼻に掛けて歩かない所が、男性からの視線も集める理由なのだろう。

「じゃあ、ポップコーンと飲み物を買おうか。ポップコーンの味は何が良い?」

「なんでもいいです」

翼はそう答えるしかない。

ポップコーンと言うものを産まれて初めて食べるのだから。

「なら定番の塩味だね。僕はバター味も好きだけど、最近は塩バターに嵌ってるんだぁ」

嗄もまた、映画が楽しみなのか今日は随分と嬉しそうに語る。

そんな嗄を見て、翼の方も嬉しくなる。

……のは良いのだが。

どうにも、人が多過ぎる。

カウンターに並ぶ列を縫って歩く人の姿も見え。

その時、嗄の横を無理矢理通り抜けて来た男性が翼にぶつかって来た。

よろけて倒れそうになった所。

嗄の力強い手が翼の肩を掴み、引き寄せてくれた。

「危ないから、僕から離れないで」

そう言って嗄は自分の身体に翼の身体をくっ付ける。

(あ――)

――初めての、人の温もり。

初めて感じる、人の暖かさ。

嗄の体温は暖かく、どうしてだか安心する。

――トクン――

心臓が高鳴る音が聞こえた。

しかしそれは映画が楽しみでそうなるだけ。

――トクン――

ふと、嗄の方を見上げてみる。

嗄は翼の視線に気付かず、カウンターの方を真剣な顔をして見つめていた。

そんな嗄の横顔を見ると、心臓が大きく脈打つ。

胸の鼓動が速くなる。

それは、映画館というものが初めてだから。

全てはそのせいだと、翼は思い込む。

少ししてポップコーンと飲み物を買い終えると、丁度入場開始のアナウンスが流れた。

アナウンスが流れるとすぐに入場口の列に並んで映画の上映されるスクリーンへと誘導される。

上映される劇場スクリーンへ来て、嗄の指定していた座席に座る。

そこは最後列の真ん中だった。

一番映画を観るには最適な座席だ。

上映時間が近付くに連れて劇場内は人で埋め尽くされていく。

やがて、座席も全て人で埋まり照明が落とされる。

暗闇に包まれた次の瞬間。

スピーカーから爆音で映画の予告が流れた。

爆音に驚き、心臓がドクドクと早く脈打つ。

こんなにも大きな音を聞いた事がない。

最後まで映画を観れるのかと不安になったが――

本編が始まった瞬間、先程までとは雰囲気が一瞬で変わった。

美しい桜吹雪がスクリーンに映し出される。

流れる音楽も、物静かで心が安らぐメロディー。

『運命とは、実に残酷なもので。何の力もない――弱い、俺達人間は逆らえない』

そんな中、男性の声だけが劇場に響く。

先程までは不快だったスピーカーからの声が、今は心地良い。

映画とは、不思議なものだと思った。

産まれて初めての映画館。

初めて食べるポップコーン。

翼はポップコーンを口へと運びながら映画を観始めた。

原作は本を読んで知っている。

だが小説で見るのと、役者が演じる映画とでは雰囲気が異なっていた。

その事にも驚いた。

ここには、自分の知らない世界がある。

そう思えたからだ。

『それでも俺達は逆らった。最後まで、足掻いた。だって、そうだろ? お前の居ない世界なんて、考えられない――』

そんな男性の声がハッキリと聞こえると――

桜吹雪が晴れていき、一人の男性の姿が映し出される。

その男性は悲しげに桜を、空を見上げており。

目からは一筋の涙が。

そこで、作品名が大きくスクリーンに映される。

演出が良い。

そう思ったと同時に、翼はある違和感を感じた。

それは違和感にも似たようなもので、翼はある事に気付いた。

先程スクリーンに映し出された男性。

恐らく、主人公役の男性。

(さっきの人……何処かで見た事がある…?)

芸能人のように綺麗に整った顔立ち。

いや、彼はスクリーンの向こう側の人なので芸能人なのだが。

この顔、何処かで……。

いや、先程までずっと見ていたような――

その時、翼が手にしていたポップコーンに隣から嗄の手が伸びて来た。

それを見て、ようやく理解出来た。

(あの人、嗄さんと似てる……)

隣に居る嗄の顔をじっと見つめる。

スクリーンで照らし出される顔と。

スクリーンに映し出されている顔を交互に見つめる。

――やはり、似ている。

そう思いながらも、翼は映画を観る事にした。

嗄と似ている彼は映画に出ている役者の中で一番演技力があり、主人公を熱演していた。

時折り、原作には無かった台詞を言ったり等アドリブも入っている。

そんな彼の演技に魅入ってしまう。

映画を夢中になって見ながら無意識にポップコーンへと手を伸ばした時。

嗄の手と触れた。

どうやら嗄も映画に魅入って無意識に手を伸ばした様子だった。

嗄は翼に微笑み掛けて、スクリーンの方に目を向ける。

そんな嗄を見て、またも胸の鼓動が速くなったような気がした。




映画が終わり、最後に主題歌と共にスタッフロールが流れる。

主題歌を歌う人の歌声もまた、全てを魅了する歌声だ。

その歌声を聞きながら、少し前まで自分の書いていた小説の事を思い出す。

あのキャラクターの歌声も、このようなものなのかと少し考える。

スタッフロールが流れ始めても、誰一人として席を立とうとはしなかった。

みんな、スピーカーから流れる歌声に酔い痴れていた。

すると、翼はある名前に目を奪われた。

〝久遠千秋 東夜椿〟

〝ナレーション 東夜榎〟

〝主題歌『君の元へ…』作詞、作曲、歌 東夜柊〟

嗄の苗字が三回も出ていたのだ。

一瞬、どうなっているのか理解出来なかった。

スタッフロールも終わり、照明が照らされると座席から立ち上がって劇場から出て行く人の姿も見られる。

嗄も座席から立ち上がって翼の方を見る。

すると、周りから女性陣の黄色い声が再び上がった。

しかし、今回はいつもと違っていた。

「東夜様っ!?」

「えっ、嘘!?」

「本当に!?」

「サインしてください!」

そのように嗄に声を掛けて来る人も居た。

女性達が騒ぎ始めると、前の方の席の人達も嗄の方へ視線を向ける。

しかし、嗄もまた冷静に対応する。

「みなさん、落ち着いてください。僕はただの一般人です。彼等とは済む世界が違いますから。ただの他人の空似ですよ。それに、映画を観終わった後ですから似てると思うだけかもしれませんよ?」

嗄がそう言うと大抵の女性達が納得して劇場内から出て行った。

確かに、嗄の言う事も最もかもしれない。

けれど中には嗄の方を見て「もしかしてあいつ、東夜嗄か?」等と言う男性や女性の姿もあった。

その声は嗄にも聞こえたはずなのだが――

嗄は全く気にしていない様子だ。

「じゃあ、出ようか」

「あ、はい……」

一瞬、何が起こったのか理解出来なかった。

確かに嗄はあの主人公役の――東夜椿と似ている。

他人の空似と言ってしまえばそこまでだが。

一体、どういう事なのだろうか。

しばらくして、映画館から出てフードショップへと二人は来た。

上映後は丁度昼前だったので、近くにあった店へと入った。

運良く入れたのは良いのだが。

初めて来るフードショップ。

何を頼んで良いのかわからず、とりあえず嗄と同じものにした。

嗄が人目に付かない席へ座ったので、翼もそこに腰を下ろす。

すると嗄が申し訳なさそうに口を開いた。

「さっきはごめんね。驚いたでしょう?」

「え? あ、いえ……」

「とりあえず、翼君にだけは教えるね」

そう言うと嗄は先程映画館で買った映画のパンフレットを取り出した。

パンフレットを捲っていき、あるページを見せてくれる。

それは、キャストと主題歌を歌った人の写真とサイン付きファンメッセージのページだった。

そこに写っていたのは主人公を演じた東夜椿の他に二人おり――

その二人も、嗄と似ていた。

「――この人達、僕の兄なんだ」

「えぇっ!?」

思わず大きな声を出してしまったが。

人目に付かない席に座ったため、誰も翼達の方を見る人は居ない。

その事に安堵しながらも、翼は嗄の話を聞く。

「主人公を演じてたのが長男の椿兄さん。俳優をやってるんだ。この真ん中にいる人がナレーションをしてた次男の榎兄さん。声優をやってるんだ。そして、この人が主題歌を歌ってた柊兄さん。歌手をやってる。それで僕が末っ子の東夜嗄。みんな大抵東夜兄弟は三人だと思ってるけど、本当は四人なんだ」

「そう…だったんですか……」

嗄に兄弟が居る事は知っていた。

その兄弟と比べられて、落ち零れだと言われていた事も。

この兄弟と比べられるのは、辛かっただろうと思う。

あの演技力や歌唱力からすると、恐らく兄弟が桁外れに凄かったのだろう。

嗄も、落ち零れだと言われたくない一心で兄弟を超えようとしていたのではないだろうか。

翼はなんとなくそう思えた。

しかし、嗄の兄弟が芸能人でこんなにも有名だとは知らなかった。

そう思うと同時に兄弟が芸能人ならば嗄がそのような顔立ちなのも理解出来た。

「それとね。僕も一応有名って言ったら有名なんだ。ほら、さっき僕の名前言ってた人も居たでしょ」

嗄は小さく呟き、右手で頬杖をして左手でジュースを持つ。

それから、懐かしむようにして目を細めた。

「え……」

嗄は少しだけ目を閉じて、教えてくれる。

とんでもない事を、口にする。

「学力の一番高い大学があってね。その試験を一位で入ったんだけど……。結局行かなかったんだ。新入生代表だったんだけど、入学式所か大学にすら行ってない」

「――――」

嗄の頭の良さは知っていた。

自分の為にテストを作ってくれる時の、学力を合わせてくれたあのテスト。

あのテストを見た時から気付いてはいた。

自分よりも賢い事には気付いていた。

それを嗄が隠していた事にも。

なんとなく、全てが繋がったような気がした。

嗄は兄弟と並べるようになりたく、必死で頑張った。

そして一番上まで頑張って登り詰めた。

けれど、そこで何かあったのだろう。

そう思っても、翼は聞きはしない。

「そんな風にね、ちょっとばかり普通じゃないんだよ。僕の家庭はね。あ、でも兄さん達はみんな優しいんだよ」

明るく嗄はそう言うのだが――

今、嗄の放った言葉が耳から離れない。

あれは恐らく、嗄の本音だ。

嗄の本音を聞いた瞬間、嗄と自分を重ねてしまった。

いや、重ねるというよりも前々から感じていた事が当たっていた。

ずっと嗄からは自分と似たようなものを感じていた。

それが、当たっていた。

普通ではない家庭に育った。

――誰も助けてはくれなかった。

だが、嗄はそれを乗り越えた。

今の翼と違うのは、その辛い過去を乗り越えたという事だろう。

それでも、どうしてだか嗄も自分と同じで嬉しいと思った。

嗄には自分と同じ経験をした。

つまり、翼の事はわかると言う事になる。

今までずっと、自分を理解してくれる人は居なかった。

なので嬉しく感じたのだろう。

しかし、嗄は理解者と言うよりどちらかと言えば共感者のようにも感じられるが。

何はともあれ。

前より少しは嗄に近付く事が出来たと思えた。

 日が暮れ、辺り一面が朱色に染まる夕方。

嗄はいつものように家まで送ってくれた。

そして、いつもと変わらない笑みを残して帰ってしまう。

楽しい時間と言うものは本当に一瞬で過ぎ去ってしまうもの。

正直翼は、この家には帰りたくない。

この、一人で暮らしている家には。

それでも、翼はこの家に帰るしかない。

他に行く場所がないからだ。

ここにしか、帰るしかない。

翼は諦めて玄関の扉を開け、家の中へと足を踏み入れる。

玄関の鍵を閉めるといつもと同じように手洗いうがいを済ませてから、自室へと向かう。

自室へ戻り、勉強机の椅子に手を掛けて腰を下ろす。

勉強机に広げているのは、嗄から貰ったパンフレットだった。

翼は静かにパンフレットを見つめる。

嗄の兄弟が映っているページを。

見つめながら、少し考える。

自分は、誰かと比べられる事はない。

比べて来る両親とロクに話をしないからだろう。

その代わり、自分で自分を誰かと比べてしまう所があると自分でも思う。

翼が自分で比べている人物は恐らく――

嗄だ。

嗄のようになりたい。

出来れば、嗄と並べるくらいにはなりたい。

だが、そうなった時恐らく自分は医者になっているであろう。

良い中学校高校、大学へ進学して医者へなる。

そうしないと嗄と肩を並べて歩く事は出来ない。

自分でそう思っていた。

しばらく色々と考えながらパンフレットを見つめていたが、やがて一冊のノートを手に取る。

それは、嗄の事ばかりが書かれている日記だ。

日記に今日あった事を綴っていこうとしたのだが。

翼はある事に気が付いた。

驚きながらも、シャープペンシルではなく日記を手に取って一番最初のページから目を通していく。

〝一体何故、彼等はこんな事をして来るのだろうか――〟

〝嗄さんは微笑み、優しく言ってくれたのだ。「誕生日おめでとう翼君」〟

〝あの人は、どうしてこんな俺に優しくしてくれるのだろうか〟

〝嗄さんの想いは、何よりも優しいものだった……〟

――日記に書かれている事は、一つの物語になっていたのだ。

翼が小説を書くような文章で綴っていたからであろうが。

正直な所、もう物語は書けないと思っていた。

あれから、何度も書こうと試みた。

しかし、何一つ形に出来なかった。

0から何かを産み出す事は出来なかった。

しかし、それは違っていた。

文章は書ける。

楽しい、夢に向かって輝く物語は書けなくとも。

悲しみや苦しみ、寂しさを訴える文章は書ける。

そう思った瞬間、翼はまだ何も書かれていない真っ白なノートを取り出した。

書けるのならば。

自分にまだ、物語を描く力があるならば書きたい。

書きたくて堪らない。

物語を綴っていきたい――

自分というものを、描いていきたい。

そう思いながら翼はシャープペンシルを手に取り、物語を紡ぎ出していく。

〝――誰か、聞こえていますか?

僕の心の声が。

誰か、見えていますか?

僕の涙の色が。

――誰か、僕に気付いて。

僕がここに居る事を。

僕が泣いている事を。

誰か、僕に手を差し伸べて。

ここから、連れ出して。

希望の光を、僕に見せて――〟

その日、翼は数ヶ月ぶりに物語を書く事が出来た。

嗄のおかげで。

絶望の中から、希望の光を見つめる事が出来たのだ。

そんな、小学校四年生の事だった――









                                              ~To be continued~

書いてて思ったんですが。

來の話は青春もの。

李哉の話は初恋。

翼の話は初々しいと思いましたww

じゃあ嗄はどうなるのかしらw

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