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少年少女の結婚過程《ハイラート》  作者: 三月弥生
消えても変わらぬ証明を
25/25

        寄り添う資格(4)


「……どうしたの?」


 お湯の水面から昇る白い湯気が立ちこめる浴室の中、焔の目の前には小さなタオルを胸元に添えただけのレイリアがいた。しかし、すぐに身体を洗おうとシャワヘッドに手を伸ばし見えてはいけない部分を的確に隠していたタオルまでも手放す直前だった。


「ちょっ! なんっ!? いや、レイリアさん!?!?」


「何、焔?」


「わあぁぁぁぁっ! 待って、待って、待って、お願いだから!!」


「?」


 焔の懇願もむなしくレイリアはタオルを近くの手すりに掛け身体を洗い始める。だが、焔も負けてはおらず、タオルの下からレイリアの肢体がさらけ出されてしまう前に堅く目を瞑り背を向けて見せた。

 汚れを知らない雪のように白い肌、少しでも力を込めれば折れてしまいそうな細い腰、尚且つ胸から腰に掛けての艶めかしい曲線美。それを直視してしまえば焔は間違いなく湯船に沈むことになる。

 一度、レイリアの裸を見てしまった――見てはいけない部分は奇跡的に隠れていた――経験があったからこその迅速な対応。これには焔も納得の出来映え……とは言っても、彼女との同棲が始まって恐れていた事案がまた一つ起きてしまったことに違いは無い。

 この肌色全開下における予測可能回避不能脱出困難という危機的状況が。


「な、な、な、何で普通に入ってきてんの! 俺がまだ入ってるじゃん!?」


「明日の相談、それに……夫の背中を流すのは妻の役目」


「そうかもしれないけど今じゃなくても良く無くない!?」


「お風呂に入らないと背中流せない」


「だけど拙いから、それはもう色々と拙いから!」


「夫婦になるから問題ない」


(ああぁぁぁぁっ! これ説得しても駄目なやつうぅ!!)


 羞恥心からくる自己防衛にはしる焔だったが、レイリアの言う通り婚約を結ぶ二人の間にこの混浴を邪魔する物は何も無い。想い合い結ばれる運命にある男女、その関係も距離の詰め方も人それぞれ。焔とレイリアの場合、それが極端なだけと言うこと。


『これではもう先ほどの問いに答えられる状況では無くなったな、だがこれは僥倖。レイリア嬢との仲を深める為にも二人で話し合うと良い』


(ま、待ってくれヴォルカニカ! 今此処で一人にされたら――)


『当人同士で言葉を交わさねば分からぬ事もある、二人で導き出した答えであれば何よりも得がたい物のはず。励めよ、焔』


(ちょ、だから――)


 呼び止める間もなくヴォルカニカは身を潜めてしまう。

 だが、ヴォルカニカの言う通りなのも間違いない。此処で焔が抵抗したところで、レイリアは話し合うべき事実と素直な気持ちが詰まりに詰まった正論で論破していくだけ。しかし、そこで諦めないのも焔である。


(な、何とかしてここから逃げないと……こんな状況で話しても絶対碌な事にならない!)


 今までの経験から自分が向かえる事になるであろう情けない、もとい悲惨な結末を予期している焔は浴室からの脱出を決意する。


(視線は絶対にレイリアには向けられない。逃げるタイミングはレイリアが身体を濡らし終わった後、シャンプーをしてる最中ならそう簡単に俺を止めることは出来ない……落ち着け、落ち着け、心を静めろ、耳を研ぎ澄ませ!!)

 目蓋を閉じ唇を噛みしめる鬼気迫る姿は、自分を想ってくれる美少女との混浴という世の男達のユートピアを堪能する事を許されている物の姿には見えない。いったいどれだけ贅沢なことをしているのか焔は分かっていないのだろうが、このまま何もせず流されるままレイリアと一緒に居れば焔の命が脅かされるのも確か。

 これまでに無い集中力と気迫で研ぎ澄まされる焔の耳に届くシャワーの音、自分の直ぐ後ろに肌をさらけ出している異性が居る事実、それだけ思春期男子は桃色の想像をかき立てられるもの。

 それも誰の眼も留まってしまう少女の美しさにより磨きが掛かるとなれば情欲は一気に膨れ上がる物だと言うのに……邪な感情など一切抱かずに焔は耳を澄ませ、来たるべき脱出の時を逃さぬよう何時でも立ち上がれるよう気構える。

 そして、


「焔……身体、洗い終わった?」


 シャワーの音が止まり、シャカシャカと泡立つ音が聞こえる。レイリアが髪を洗う体制に入った事を知らせる焔に取っての待ち焦がれた福音。


(よし、今だっ!!)


 此処ぞとばかりに焔は頭に乗せていたタオルを腰に巻き付け立ち上がり、出口である扉に目を向け――ようとして絶句した。


「洗ってないなら、先に背中流す」


 身体を洗ったからこそ湯船に浸かっているのだが……そんな至極真っ当な答えを口にする事すら出来ない焔の眼に映ったのは、脱出のための活路ではなく水の滴が悉く流れ落ちていくハリある肌、それも柔らかな質感と曲線を描く胸の谷間。


「………………」


 殆ど眼前という近い距離だったお陰で胸の頂を見ることは回避されたが、焔の思考は完全にはじけ飛んでしまい身体は硬直してしまっていた。だが、自分が起こした致命的な間違いが何だったのかは理解していた。


『――焔……身体、洗い終わった?』


 そうレイリアが言った後、焔の耳に聞こえてきた泡立ちの音。アレはレイリアが髪の汚れを落とすために泡立てていたわけでは無かったのだ。アレは身体を洗うボディタオルに付けた石鹸を泡立てる音だったのだ。


「髪は?」


「……わす、れた……」


「なら、髪洗うから……座って」


「は……い」


 焔はなけなしの気力を振り絞りレイリアの胸の谷間から視線を上にそらす事に成功するも、その先には水の滴るレイリアの顔があった。額や頬を流れる滴に湯気で微かに濡れ浮かぶ色違いの瞳……ほのかに漂う色気を直視してしまい、焔はただ言われるがままに風呂椅子に腰掛ける。


「痛かったら言って……」 


 抵抗の意思すら残っていない焔の後ろではレイリアがシャンプー剤を手に取り、特に気にする事もなく焔の髪を立てた泡で包み込む。レイリアが浴室に突入してくる前に頭も身体も洗っていただけあって、泡立ちはとても良く首筋から背中に掛けて流れ床にまで広がる程だった。


「……気持ち良い?」


「……はいぃ」


 焔の頭を洗うレイリアの手つきは滑らかで途中で止まること無くリズミカルに動くも、焔の心臓もその倍の速度で血液を全身に送っている状態。湯船に浸かっていた時間は長くは無かったが既に焔の頭には血が上りすぎている、眼は視点が定まらず顔は赤い。


(考えろ、考えろ、何でも良いから考えるんだ。少しでもレイリアから意識を逸らさないと!)


 既に正常な判断ができていない焔は、飛びかけている意識を繋ぎ止めようと必死に炊事、洗濯、掃除にゴミ捨てと日々の和やかな事柄を考え続ける。

 だが――


「……あっ」

(ほああぁぁぁぁぁぁっ!?!?)


 そんな焔にトドメを刺すが如く、レイリアの小さな声と共に彼の背中が柔らかな感触によって包み込まれた。


「……泡で滑った」


 泡立ちすぎて浴室の床に広がる泡に膝を滑らせてしまい、焔の背中にもたれかかってしまうレイリア。しかし、そこはレイリア。生まれ持つ性格か、焔に想いを寄せる少女としての余裕か。何も身に付けていない状態で肌を寄せ合うという越えてはいけない一線に堂々と足を乗せている。何時越えてもおかしくない瀬戸際に立っているというのに状況に、わざとではない事を慌てること無く謝りながら作業に戻るレイリア。


(あ、ああ当たった! 当たったよぉ!! レイリアの身体が、レイリアの胸が俺の背中にぃ!?)


 当然、焔の方はレイリアの様に落ち着いていられる訳がない。

 必死に手繰り寄せていた焔の意識は運の悪いことに、同年代と比べても見事なレイリアの双丘の甘美な感触に激しく揺り動かされてしまう。普段の嬉し恥ずかしスキンシップもあり意外にも耐性が出来ていたのだろうが、今に限っては気絶できていた方が救いだったと言うのに。


(こ、これ以上は……本当に、もう……っ!)


 突如として背中を襲った柔らかな衝撃に耐える焔、たかだか数分のやり取りだったが至福と拷問の入り交じり数時間は経ったのではと錯覚させられ彼の精神は悲鳴を上げている。そんな焔の胸の内に気付くこと無くレイリアは焔の髪に付いている泡を洗い流し洗髪を終えた。


「……身体は洗った?」


「洗った! 身体は洗ったから大丈夫だ!!」


「そう……なら、あとは身体を温めるだけ」


「そうだな、レイリアはもうお湯に浸かった方が良いな。俺はもう――」


「駄目……まだ明日のこと話してない」


 がしっ、と浴室を出ようとした焔の右手を掴みぐいぐいと湯船に浸かるレイリア。力が強かった訳では無いのに、焔は有無も言えないまま二度目の湯船に身を沈める。


(うぅ、今無理に振り解いたりしてレイリアの身体に手があたったりしたら…………きっと俺はいろんな物をなくして終わる)


 理性が振り切れ襲いかかる、なんて事にはならず気絶一択。

男として情けない結果な上に、浴室で倒れてしまえばレイリアに介抱されるか、庚達に助けてもらうことになる。つまり気を失った上に裸を見られる事に他ならない。

 家族である響や庚に裸を見られたところで痛くもかゆくも無い。けれど、レイリアとミルディとなれば話は別だ。


(只でさえ情けない姿ばかり見られてるんだ、これ以上恥ずかしすぎて気絶するところを見られるわけには……でも、このままレイリアと一緒にお風呂もまずい……何とか気絶する前に出ないと!)


 身体を優しく包み込む温かなお湯と、一糸まとわぬレイリアが隣で同じ湯船に浸かっているという事実に顔が赤く茹で上がる焔。焔に逃げ道が有るとすれば一刻も早くレイリアと明日の模擬戦について答えをだし、この場から解放される他ない。

 焔は絶対にレイリアの方は向くまいと視線を唯一の脱出路に向け、羞恥と緊張に強ばった口を――


 ……ぽすっ


(……ぽすっ?)


 開く前に自分の左肩に何かが当たる、当たると言うより乗せられたと言った方が良いだろうか。それ以外にも上半身の左全面にもお湯では得られない温かでいて柔らかな質感が感じられる。


「気持ち、良いね……」


「そ……………………そだな」


 自分の肩に乗せられている物は何か、左上半身に当たっている物が何なのか理解した時、焔の頭の中にあった状況打開のための手順は一気に崩れ去ってしまった。


「……ふぅ」


 焔の左肩に乗るのはレイリアの頭、濡れた猫耳と髪からは同じ物を使ったとは思えない甘いシャンプーの香りが漂う。そして、これでもかと肌に訴えかけてくるのも柔和で滑らレイリアの肌の感触。

 肩と肩が触れ合い、華奢な身体を何の抵抗もなく無防備に預けられる。それは焔に取って至福で有りながら絶望的なまでに行動を制限する強固な鎖。上手く話を纏められたとしても、レイリアが湯船から上がろうとするまで何一つ出来ない状況が出来上がってしまった瞬間だった。


「…………焔は、何を怖がってるの?」


 けれど、レイリアの声に揶揄いも色めいた響きは無い。純粋に明日行われる自分との直接対決に思い悩む焔を気遣う優しさだけが篭もっていた。そんな彼女の声に茹で上がっていた焔の心が少しずつ落ち着きを取り戻す。


「私と戦うの、どうして怖がるの?」


 レイリアが掛ける言葉の一つ一つが、焔が彼女との戦いを忌避する心の葛藤を的確に付く。踏み出せない弱さを責めるのでは無く、優しく手を差し出しのべるように。


「レイリアを傷つけるのが怖い……今もこうしてるだけで傷つけてる」


 彼女との思い出を失った事はもう変えられない。

 だからこそレイリアも日々の生活の中で失った思い出ををもう一度紡ぎ直してくれている。方法が少し、いやかなり過激的になる事もある。嫌々していない事が救いだ……その反面が喪失した思い出への渇望だのでは、そう考えてしまうことが無ければ。


(俺の考えすぎなのかもしれない。だけど……そうだったら、苦しい……胸の奥が苦しくて、重くなって堪らない)


 何かしなくてはと思っても、失った思い出を取り戻す方法は無い。

 分からない、だったらまだ希望が持てた。取り戻せる可能性が少しでもあるのなら手を伸ばすことが出来る。這いつくばってでも前に進める、しがみ付いてでも手繰り寄せることが出来る。

 自分の弱さに嫌気がさしても、自分を鍛える事で止まらずに済んだ。がむしゃらに誰かの為に戦い方を学んで、魔力を無駄にせずにすむよう制御できるよう技術を磨いて……一歩どころか半歩。もしかしたらもっと小さな歩幅かも知れない前進だった事でも、確かに前に進めているのだと実感できた。

 でも、失ってしまったレイリアとの思い出は違う。


(レイリアは昔していたかもしれない事をもう一度する事で、こんな事があったって教えてくれる。表情は殆ど変わらないけど、本当に嬉しそうに話してくれる)


 だと言うのに、自分はそんな幸せな気持ちを共有できない。

 そんな事もあったなと気さくに返事を返すことも、笑う事も、泣く事も、怒る事も分かち合えない。レイリアが小さい頃の思い出全てを再体験させてくれる、その間はずっと彼女を一人きりにさせていると同じ。


(なのに、これ以上レイリアを傷つけるような事はしたくない。戦う事で俺達の婚約に向けられる不安や不満を解消できるかもしれなくても)


 散々、レイリアの心を傷つけておきながら身体にも傷をつけて残してしまうような事になったら……焔はレイリアに顔向けできず俯かせ微かにお湯に映りこむ自分の弱々しい紅い瞳に視線を落とす。


「ごめん……レイリアを傷つけてば――」

 そして、今にも泣き出しそうな声で胸の奥で引きずり続けた本心が溢れ出そうとした時、焔は左半身で感じていた柔らかな感触が今度は自分の頭全体を包み込んだ事に気付く。


「焔が私との思い出が消えてしまって悲しかった、寂しかった……だから傷ついたのかも知れない。でも、今は……それも大切な思い出になった」


「………………」


 焔の頭を包み込んだのはレイリアの胸と両腕、耳にはレイリアの規則正しい穏やかな心臓の鼓動が聞こえる。だからだろうか、今までに無い程に近く危険な密着度であるにも関わらず焔は顔を朱くすることも劣情をいだく事も無かった。

 静かに、されるがままに身を預け落ち着いてレイリアの次の言葉を待つ焔。


「思い出が無くなったのは、戻ってこないのは辛い……けど、それは焔も同じ。自分で自分を責めてる、傷つけてる……何も悪い事なんてしてないのに、私より傷ついてる」


 幼き日、〈ディパーチャー〉からレイリアを護るためにレイリアとヴォルカニカの記憶を失った。当時の焔に敵を打ち倒す為に残された方法、自分にとって一番大切な人との思い出と引換に力を得る……残酷な仕打ちだと分かっていても選ばざる終えない打開策。

 しかし同時に、焔がレイリアの事をどれだけ大切に思っていたのかを何よりも雄弁に語っている。


「焔が私に付ける傷は何時だって私を想ってくれてるものだって分かってる……だから、私を傷つける事を怖がらないで……私も同じだから」


「……ありがとう、レイリア」


 頭を包み込むレイリアの腕を優しく叩き解く焔。


「…………大丈夫?」


「大丈夫、だと思う」


 解放された事で鮮明に開かれた視界、その先で微かに眉尻を下げていたレイリアに焔は苦笑まじりの答えを返す。しかし、浮かべる苦笑いにさっきまでの重苦しさはなかった。


「俺はもう上がるよ、レイリアのおかげで気分転換出来たし」


「……そう」


 表情から陰りが消えた焔を見て安心したのか、腰にタオルを巻いて浴室を出ようとする焔を引き留める事はしなかった。


「気分転換のお礼にゼリー用意しておくから。風呂から上がったら食べてくれ、作り置きのやつだけど」


「……何味?」


「イチゴにオレンジ、後はブルーベリー。冷凍の方に入れて冷やしておくから俺の分も食べて良いからな、それじゃ」


「うん……また後で」


 風呂上がりに焔お手製のデザートが用意されていると知って、焔を送り出すレイリアの声が僅かに弾む。その声を聞いて彼も口元を緩めながら浴室を後にした焔は着替えを終え冷蔵庫を開き中に入っている三色のゼリーに手を伸ばす。


「凍らせるには時間が足りないけど、風呂上がりに食べる分には充分冷たくなるな」


 根本的な問題は何も変わっていないけれど、レイリアのお陰で大分胸が軽くなった。

 レイリアと戦う事に抵抗がなくなった訳じゃない、傷つける事が怖くなくなった訳でもない。けれど、自分の中で少しだけ傷つける事の意味が変わった気がする。

 傷つける事全部が悪い事じゃ無い、誰かを思って傷を残す……それは時に救いにもなる事なんだと知った。

 悲しくても、辛くても、その傷が掛け替えのない人からの物だったのなら弱気になった自分を奮い立たせる事が出来る思い出になる。同じ事を繰り返し後悔しない為に、いつの日か笑い合って話す事が出来るくらい強い絆を育む為の道しるべに。


「レイリアが教えてくれなかったらきっと分からないままだった……もっとちゃんとしたお礼をしなきゃな」


 いくらレイリアが喜んでくれているとは言え、悩みを解決してくれた謝礼としては見合わない。


「恥ずかしがってた感じじゃ無かったけど、裸の付き合いまでして……俺の、話を……」


 焔としてはレイリアに感謝の気持ちをしっかり伝えようと真摯に考えを巡らせただけだったが、それが拙かった。自分の言葉と共に焔の脳裏と身体に、桜色の記憶と感触がじわりじわりと容赦なく甦る。


「話を……聞いて、くれて……それで…………」


 形が変わるほど自分の背中に押しつけられた柔らかな胸の感触、左肩をくすぐった濡れながらも艶やかな髪の質感、沈んだ心を暖かく包み込むような優しい抱擁。


「……あ……あぁ……」


 濡れた純白の髪が湯船に広がり、虚ろげでいても潤む金と蒼の色違いの瞳。湯船に浸かり桜色に上気した頬、同じく上気した口元を飾る数本の純白髪……無意識に胸元から下を見ていなかったとは言え、湯船を共にしたレイリアの姿は濃艶の一言。


「――――――ブハッ!!」


 浴槽でのやり取りで邪な気持ちが沸かなかったのは事実。しかし、今焔の脳内を独占してしまった情報は言うまでも無く焔の限界を超えたもの……今まで堪えていた物があふれ出てしまったとしても責める者はいないだろう。


「……ふ、うふになるっていっても……混浴は………………無理ぃ…………」

 手にしていた感謝の品は見事なまでに朱く染まり、焔が崩れ落ちると同時に床へと放り出され無残な姿に。それでも床を鼻血まみれにして倒れ誰かしらに介抱される事が決まってしまった焔に比べれば……そんな心優しい気遣いがにじみ出ているようにも見えるのだった。





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