表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年少女の結婚過程《ハイラート》  作者: 三月弥生
消えても変わらぬ証明を
18/25

02-00  学友、来たる

令和二年七月二十八日。

『同族殺しは愚者である』三章完結しましたので、『少年少女の結婚課程』再開いたします!!

今回もsueさんから素敵で可愛らしいイラストを描いて頂きましたので、前回の投稿から凄く間が開いてしまいましたが、どうぞsueさんのイラストと一緒にお楽しみくださいませ(´д`)





挿絵(By みてみん)


 ――世界種族交流特別指定国『日本』暁日(キヨウビ)市第十七地区。


 白い雲がゆっくりと流れる春の陽気を淡く包む青い空のもと、『神月』と字が彫られた木製の表札が掛かる家の玄関先に、白い制服に身を包んだ一組の男女の姿があった。

 一人は少しくせのある淡い青髪の少年、もう一人は、少年とは反対の肩上で切りそろえられた赤い髪の少女。


「家に入る前に言うのも何だけどさ……焔のやつ大丈夫だよな、志保」


「それを確認する為に来たんじゃない。しっかりしてよね、武」


 不安そうに自分達の目的を口にしたのは、焔の数少ない友人である日向武。焔が羨む長身で体格もしっかりとしているが、彼の弱気な態度にもう一人の友人――城崎志保は腰に手を当てて溜め息を溢す。


「そうは言ってもな、もう二週間近く会ってないんだぜ? それに何の連絡もしないまま来ちまったし……」


「礼儀としては拙いけど、焔君やこの家の人達はそういうの気にしないわよ。それよりどうして学校を休んでるのかの方が気になるでしょ。『亜人』の子に抱きつかれて倒れた時、すぐに症状が出なかっただけで何かあったのかもしれないし」


「ああ、あの無口で無愛想な女の子な。その時後ろにいた俺でも支える間もなくぶっ倒れたからな」


 焔が学園を休んだ前日、多くの生徒達が登校する時間帯でそれは起きた。

 光稜学園の敷地内で見事なまでの花を咲かせた桜の下で、一人の見知らぬ亜人の少女が焔に抱きついた騒動。

 あの場にいた生徒や教師達全員が突然の出来事に息を呑み、気を失って倒れた焔を目撃したのだ。


「いやー、アレはさすがに驚いたぜ。まさか目の前で焔が猫耳美少女に抱きしめられるとは、まったく羨ま――けしからんな!」


「怒るフリをしても無駄よ。最後の方で欲に塗れた本音が只漏れだもの」


「な、何を言ってるんだ? お前は俺を女ったらしだとでも言いたいのか!?」


「えっ? そうとしか言えないでしょ、何言ってるの? 頭大丈夫? 病院行く?」


「………………」


 志保が浮かべる傷ましげな表情に演技めいた物はなかった。口にした言葉も心からのものだ……その事を理解してしまった武は自分で自分の傷口を広げるようなことはせず、無言で表札の下にあるインターホンのボタンを押す。


『はーい、どちら様ー?』


 武の言い知れぬ敗北感が篭もる指と遠い眼差しを受け止めるインターホンから上がったのは焔の母、響の陽気な声だった。


「たけ――」


『この声は武ちゃんね! はいはーい、今そっちに行くからちょっと待っててねー!』


「……お願いします」


 用件どころか名前を言い切る間もなく返事を返され、武は苦笑を浮かべ志保と一緒に玄関から離れ扉が開くのを待った。二人が扉から離れて程なく、ガチャリと音を立てて扉が開く。


「いらっしゃーい! って、志保ちゃんも一緒だったのねー!」


「こんにちわ、響さん」


「今日は二人揃ってどうしたのー?」


「いや、どうしたのって……」


 胸を張って友人と言える自分達が此処に来た理由を本当に分かっていない素振りを見せる響に対し、武は戸惑いつつも自分の鞄から厚さ二センチはある分厚い紙の束を取り出してみせる。


「これ、二週間近く休んでた分の課題なんですけど」


「わざわざ持ってきてくれたのねー、ありがとう。重かったでしょ?」


「これくらい何てことな――じゃなくて! そうじゃないでしょう!?」


「ん? 何が??」


「焔の事ですよ!」


「焔君、ここ最近休んでるじゃないですか」


「あっ、そう言われればそうだったわねー! でも大丈夫よ、病気では無いし怪我……とかでもないからー」


「「………………」」


 にこやかな笑みを浮かべながらも、声が途切れた響。一呼吸の間も無かったとは言え、確かにあった間が二人の胸に不安を過ぎらせた。


「じゃ、じゃあ何で焔は学校を休んだんですか?」


「それはねー、お婿さんに行くからよ」


「「…………はい?」」


 響の口から出た言葉の意味を理解出来なかったのか、武と志保は二人揃って眉を寄せる。


「だから、焔ちゃんはお婿さんになるのよ」


「お婿って……だいたい嫁と同じ意味の婿ですか?」


「そうよー」


「結婚する男女の、男性の方が相手の家に籍を入れる……あの婿ですか?」


「そうそう、その婿。焔ちゃん、許嫁の子と結婚することになったのー!」


 何処か上の空の二人の質問に響は頬を綻ばせ、嬉しそうに両手を合わせる。

 その一方で、


「「………………はい?」」


 武と志保は焔が休んで理由が想像すらしなかった物だった為に、やはりと言うべきか気の抜けた返事を返すのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ