00// ……やっぱり最後は押しに負ける
「ワ――――――――――――――――――ア――――――――――――――――――ッ!!」
もはや定番になりつつある絶叫を上げ、シーツを払いのけ飛び起きる焔。
「ハアハア……ハア……夢?」
早鐘のように鼓動を刻む心臓を落ち着かせようと焔は周りを見渡す。
「俺の部屋か……なんて夢だ!」
両手で赤くなった顔を隠した焔は、見ていた夢の内容に自己嫌悪してしまう。
庚がアスクの魔力を探っている間に意識が薄れだし返事を返したところまでは憶えている、きっとその後は気絶してしまったに違いない。
(いくらレイリアに抱きしめられたまま気絶したからって、レイリアを押し倒す夢を見るなんてどうかしてる!)
夢のせいか、レイリアを抱きしめた感触が甦ってくる。
初めて女の子を抱きしめた。
柔らかい感触の中にほんのりと熱があって、力を入れてしまえば折れてしまうのではないかと思える華奢な身体、そんな身体で抱きしめ返してくるレイリアは微かに震えていた。
その姿にアスクに立ち向かった強さはなかった。
あったのはどこにでもいる普通の女の子としての姿。
悲しみに震え安堵に涙をこぼすレイリアの姿はどこか弱々しくて、切なくて、そんな彼女を護りたいと……本当に愛しいと思えた。
(……夢でよかった)
焔は頬が痛いくらい熱くなるのを感じていたが、レイリアを押し倒すという暴挙が夢だった事に安心して胸を撫で下ろ――
『夢ではないぞ、焔』
「はいっ!」
そうとした時、頭の中に響いたヴォルカニカの声に焔はビクッと肩を震わせる。
『何をそんなに驚いているのだ?』
「いや、頭の中に声が響くなんて体験したこと無かっ…………ごめん」
何気なく口にした言葉に焔は表情を暗くする、自分とレイリアを助けてくれた恩人であるヴォルカニカの事も憶えていなかった事に罪悪感を感じたのだ。
だが、ヴォルカニカはそんな焔を咎めることはなく逆に励ましの言葉をかける。
『案ずるな、それはお前がレイリア嬢を護ったという証でもある』
「……気を遣わせちゃったみたいだな」
『かまわん、そんなことより入ってくるぞ』
「入って? 誰が?」
ヴォルカニカの言ったとおり部屋のドアが開けられ、中に入ってきたのはいつもの顔ぶれだ。
「……おはよう」
と、レイリアが無表情で呟き――
「さてさて今度はどんな夢を見たのかしらー?」
と、響はニヤニヤして――
「母さん、からかわないの!」
と、庚は眉を寄せ――
「ふふ、今は良いんじゃない?」
と、ミルディが微笑する。
その見慣れてしまった風景に焔は額に手をあて大きくため息を吐くのだった。
――親子間のじゃれ合いも程々に、気を失っていた間の顛末を庚達から聞く焔。
「焔が気を失った後は前と同じだよ。母さんの《契約術》で傷を治してレイリアさんが看病……でも、一日しか経ってないから特に変わった事は無いかな」
「そっか……で、母さんの方は何か分かったのか?」
「残念だけど内通者の方は見つけられなかった。でも、あれだけ手痛くやられれば、しばらくは襲撃してくる事も無いでしょう。とりあえずは安心して良いと思うわー」
「とりあえず、ねぇ」
焔は疑うような視線を響に向けた、母のせいでは無いとは言え何度も死にかけているのだから当然の反応である。そんな我が子の疑いの眼差しに響は珍しく慌てる姿を見せる。
「だ、大丈夫よー。お母さんを信じなさい!」
「はいはい」
「焔ちゃ~ん」
焔にしてみれば、今回の〈ディパーチャー〉の襲撃に対して眼に見える戦果はアスクを退けた事だけ。できればもう一つくらいは自分達に有利な功績なり情報なり、欲しいところだ。
焔とレイリアを取り巻く状況は何一つ変わっていない。だが、テーブルを囲む五人の間には不思議と穏やかな雰囲気が流れていた。
「それで身体の方はもう良いの、焔君?」
「ああ、何ともないよ」
響の治療のお陰で傷は完治している。体力と魔力も、まだしばらく休めば万全になるだろう。
「治し残しは無いから安心して。ところで、ヴォルちゃんとは話せるかしら?」
「ヴォルちゃん?」
あまりにも親しみやすすぎる呼び名に焔は誰のことを言っているのか分からず首を傾げた、するとヴォルカニカが気恥ずかしさを誤魔化した声で焔の疑問に答える。
『……我の事だ。オーバーエンドの要領で魔力を高め剣をイメージしろ、そうすれば我も響殿達と言葉を交わす事が出来る』
(分かった)
焔はヴォルカニカの剣を脳裏に思い描き魔力を右手に集める、すぐに右手は紅い光に包まれその手に中に紅の大剣が姿を現す。下手に立て掛けることも出来ないので、テーブルの上に鎮座させられるヴォルカニカ。
『こうして話すのは久しぶりだな、響殿』
「そうねー。久しぶりにヴォルちゃんの声を聞いたけど相変わらず渋い声だわー」
自分が出した剣が突然喋ったというのに響に驚いた様子はない。響だけでなくここにいる全員が同じように落ち着いていた、焔はその様子で確信する。
「俺はレイリアとヴォルカニカの事を忘れたけど……みんなは憶えてたんだよな?」
「そういうことになるね。でも、僕達も焔の記憶を取り戻せないか頑張ったんだけど……」
焔は首を横に振る、庚達が悪いのではない。悪いのは――
「私のせいだから」
「レイリア?」
レイリアは焔の瞳をジッと見つめる、ヴォルカニカと契約した証である真紅の瞳を。
「焔は私を護るために大切な思い出を代償に……助けてくれたの」
「ヴォルカニカも同じような事言ってたな……それってどういう事なんだ?」
『それについては我から話そう』
ヴォルカニカは真相を知る者の一人として焔の失われた記憶の原因を語り始める。
『十年前、すでにお前はレイリア嬢を護る為に〈ディパーチャー〉と剣を交えていたのだ』
「俺が……十年前に?」
『正確にはこの場にいる全員が強襲を受け闘った』
ヴォルカニカは淡々とした口調で話を続ける。
彼が言うには激しい戦闘の中で、一緒に闘っていた響や庚達から自分とレイリアが分断され窮地に追い込まれたらしい。その際、刺客の一人が精神を消去する力をもった魔法具を使ってレイリアの心を消し去ろうとした。
『自我が無い状態になってしまえば添い遂げる契りも意味が無くなってしまうからな』
だが、それよりも早く自分が魔法具を破壊し〈ディパーチャー〉を退けたのだ……と。
「レイリアの事は分かったよ、でも……助ける為にレイリアとヴォルカニカの記憶を代償にしたってのは?」
「焔ちゃんに二人の記憶がないのはヴォルちゃんの次元体としての力の一つに、能力の一つに契約した人にとって一番大切な人との記憶を代償として捧げる事で使える力の全てを増幅する能力があるの。……幸せな記憶でも、辛い時の記憶でも良い。代償にする記憶が多ければ多い程その効力が増す、ね」
その力を使ったからこそこうして焔とレイリアは生きている。だが、同時に焔がレイリアとヴォルカニカの事を憶えていない最大の理由でもあった。
「それじゃ、俺はまたレイリアとの思い出を代償にしたってことなのか!?」
ヴォルカニカと再契約を交わしアスクを退けた時、自分はヴォルカニカの力を纏い闘った。なら、今回もレイリアと過ごした掛け替えのない時間を失った事になるのではないかと狼狽する焔。
『話をちゃんと聞け、もともと《契約術》と《魔装術》は魔力を代価に力を行使するものだという事は理解しているな』
「そ、そこは大丈夫だ」
ヴォルカニカと再契約する際に《魔装術》ができるのは次元体と同等の魔力を持っているからだと言われた事を思い出す焔、自分の持つ魔力をヴォルカニカに渡す事で自分自身の魔力で傷つく事はない。その差し出した魔力の変わりにヴォルカニカが力を貸してくれるのだから闘いに関しての不安要素は解決した事になる……のだが。
『刺客の一人と刃を交えた時、お前は幼いが故に我の力を完全には引き出す事が出来なかった。力を引き出せなかったお前は膨大な魔力で実力差を埋め、そのせいで魔力を殆ど使ってしまいレイリア嬢に行使された魔法具を破壊する為の力が残っていなかったのだ』
「それじゃ、その時に……」
『そうだ、魔法具を破壊しレイリア嬢を救う為には我らの記憶を代償にして力を補うしかなかった……苦渋の選択だったのだ』
答えを急ぐ焔にヴォルカニカはゆっくりと話を続ける。
『響殿も言ったであろう? 記憶を代償にして我の力を行使するのではない、行使した力の強化を可能にするとな。《魔装術》を使う度に記憶を失うのでは闘う事などできぬぞ』
「じゃ、じゃあ……アスクと闘った時、レイリアとの思い出は……」
『失ってはおらん。あの天魔人と刃を交えた時、お前は我の力を充分に引き出していた。今のお前であれば十年前のように記憶を失う事は無いだろう。しかし……』
「……ああ、分かってる」
ヴォルカニカが何を言いたいのか分かった焔は眼を瞑り一度だけ深呼吸をする、ヴォルカニカ達が話してくれたことが全て真実なのだと受け止めるために。
「大丈夫、焔?」
「焔君」
庚とミルディは焔に声をかけ、レイリアと響も焔を見つめる。自分達の話を聞いて焔が何を考えているのか手に取るように分かる……そんな表情だった。
「俺はレイリアの心を……護ることができなかったんだよな」
十年前、二人の記憶を代償にしてレイリアを助けた。
助けた、とは言ってもレイリアは心を失いかけた。そして今、二人で作ったはずの思い出を、交わしたはずの大切な約束を忘れて……レイリアを傷つけてしまった。今度はレイリアをアスクから〈ディパーチャー〉から護れたと思ったのに。
力を取り戻しても何も護れていない事に俯き歯を食いしばる焔。
「……それは、違う」
「えっ?」
レイリアは己の非力さに苦悩する焔の手を握り自分の胸に押し当てる、胸の鼓動とそこにある感情を焔に伝える為に。
「ちょっ! レイリア、何を!?」
「焔は私を助けてくれた。……公園で言った、焔との思い出がずっと私の心を照らしてくれた」
焔の手を握ったレイリアの手に力が込められる。
「焔は、心も護ってくれた」
焔は口を噤み眼から涙が零れるのを堪えた。
自分が聞きたかった言葉をレイリアの口から聞くことができた、自分が護りたいと思った少女の心からの言葉は焔の心を優しく包み込む。
「……だから、忘れなかった。大好きな焔のこと」
「っ!」
今度は別な意味で口を噤んだ焔。
家族とはいえ人前で堂々と告白されて動揺しない男はいないだろうまして――
「あの、レイリア」
「……何?」
「手を離してくれ、お願いしますからっ!!」
レイリアのふくよかな胸に触れていれば動揺するのは当たり前である。
さすがにこれ以上は耐えられそうにない、このままではまた鼻血をだして気絶という不名誉な実績を更に重ねてしまう。
焔の主張はもっともだった。
「ほんとに初心ねー、誰に似たのかしら?」
「いや、焔じゃなくてもああなると思うよ」
「……いいなぁ」
響はどこか嬉しそうに、庚は気まずそうに笑いミルディは何か呟き頬を朱くしながら焔とレイリアのやり取りに三者三様の答えを溢す。
「……?」
レイリアに至ってはいつも通り、自身の行動がどれだけ大胆な事なのか気にもとめずに焔の心を騒ぎ立てていた。
やっと解放された手に残る感触を忘れようと懸命に開き手と閉じ手を繰り返す焔。
(お願いだから少しは恥ずかしがって!?)
焔は茹であがった顔をレイリアから逸らしながらも安堵した。
響が自分をからかい、庚がそれを宥め、ミルディが羨ましそうにして……レイリアが嬉し恥ずかしハプニングを起こす。騒がしくも穏やかな、そんな安らぎを感じられる場所が目の前にある事に。
『胸を張れ、焔……これがお前の護ったものなのだ。お前が己の弱さに悩み悔やみながらも積み重ねてきた日々は、決して無駄ではなかったのだからな』
ヴォルカニカはレイリア達に聞こえないよう直接焔の意識に語りかける。
自分の無力さに悩み、苦悩しながらも誰かの助けになりたいと願い続けた日々も庚や響と共に重ねてきた努力も……今日に至るまでの全てがこの時のためにあったのだと。
(ああ、俺にも護れたんだ。大切な人を、大切な場所を……ありがとう、俺に護れる力をくれて)
『その力を振るったのは我ではなくお前だ……礼を言う必要はない』
焔の感謝にどこか照れたような声で答えるヴォルカニカ。
(それでもだよ、ありがとうな)
焔はもう一度ヴォルカニカに感謝の言葉を伝える、すると背後から響の声が一際大きく聞こえてきた。
「焔ちゃんがヴォルちゃんの力を取り戻したことだし、あの話を進めても大丈夫そうねー」
「……はい?」
響が何か含むように笑う、あの笑みを見せるときは何時だってとんでも無いことを言い出す時だ。
「結婚よ結婚!! プロポーズもしたんだから、次はガリアさん達のところにも挨拶に行かないとねー」
「ちょっと待てー!!」
テーブルの上に両手を叩き付け身を乗り出す焔。
「何で母さんがあの時の事を知ってるんだよ!?」
「何でって、ずっと見てたからに決まってるじゃない。この眼でしっかり、ばっちり、余すこと無く見てたんだからー」
「見てた? 今、見てたって言ったよこの人!?」
一緒に出かけた庚達が告白の事を知っているのは仕方ないとしても、あの場にいなかったはずの母親が何処にいたのかがわからない。しかし、一番の問題は余すこと無く見ていたという発言だ。それはつまり、公園での一部始終を全て見られた事になる。
「仕事してたんじゃないのか! ていうか隠れて見てたなら助けろよ!」
「いやー、孫の顔を見るのは早そうねー」
「人の話を聞けええぇぇ!!」
聞き捨てならない盗み見に焔は声を張り上げるも響は笑いを堪え、庚達に助けを求めても眼を逸らされてしまう……明らかに響が公園にいた事を知っていた様な反応だ
その話は今は置いておくとしても、結婚の話になれば自分が圧倒的に不利になる。レイリアと結婚したくないわけではない。しかし、それでも十五歳で結婚なんて人間社会ではできない話で――
「焔ちゃんはお婿さんだから大丈夫よー」
まるでこちらの心を見透かしているようだ、ここれが母親としての経験則というものなのだろうか。
「だから! 結婚はまだ早すぎるって……」
尚も悪あがきとしか思えない抵抗を見せる焔だったが、パジャマの袖を引っ張られている事に気づく。そちらに顔を向けてみるとレイリアが上目遣いで裾を軽く引っ張っていた。
「……私じゃ、嫌?」
「ふぐぅっ!」
何故、無表情にしか見えないレイリアの顔が悲しそうに見えるのだろうか……。
しばらく一緒に暮らしたからなのか、焔は胸に突き刺さる罪悪感に悶えながらレイリアの喜怒哀楽を的確に感じ取っていた。
「嫌……じゃない」
「……良かった」
自分の想いを焔に拒絶されたんではないと分かるとレイリアは躊躇することなく焔の胸に顔を埋めた、服越しでもわかるレイリアの柔らかな感触と甘い匂いが焔の焦りに拍車をかける。
「うんうん! 人間やっぱり素直が一番ねー」
「おめでとう、焔!」
「良かったね、レイリア!」
「……ありがとう」
焔とヴォルカニカを除く全員が、もう結婚式を挙げたかのように喜んでいた。
「あ……う……どうすれば良いんだよ、ヴォ――」
『お前達なら良き夫婦になろう、祝福するぞ』
(お前もかあ!)
相談する間もなく孤立してしまった焔は、もはや声も出せずに涙を流す。
自分とレイリアの結婚、その挙式までのカウントダウンはもう止められない、と焔はレイリア達の前で涙を溢していたが不思議と不安や不満は無かった。
本当に護りたいと、ずっと隣にいてほしいと思える少女と出会えた。レイリアを護れるのだと好きになって良いのだと分かった時、焔の心は軽くなっていた。
(……今なら変われるかもしれない、レイリアと一緒なら)
レイリアを護る為に失い、そして再び彼女のおかげで取り戻したヴォルカニカの力。
これから先に待ち受けるだろう苦難に立ち向かう為の力。その力を取り戻させてくれた彼女と一緒なら前を向ける。
何も出来ないと俯いていた自分を、力の無さを運命だと嘆いていた自分を変える事ができる。
(今すぐ変わる事ができなくても……せめて、レイリアが好きになってくれた自分を誇らなきゃな)
そう思えた時、焔の涙が止まる。涙が止まった後は本当に、本当に幸せそうな表情を浮かべていた。
その表情を見た響と庚、そしてミルディは嬉しそうに笑いあう。
誰もがその笑みに今回の襲撃騒動が漸く終わったと安堵した中で、レイリアは黙ったまま焔に顔を近づけていく。
それに気づいた焔は首を傾げた。
「レイリア? どうかし――」
――――チュッ
レイリアは何の前振りもなくただ自然に、こうすることが当然であるかのように、焔の唇に自分の唇を重ねた。時間としてはほんの一瞬、触れるだけの優しいくちづけを。
焔の眼には微かに潤んだ金と蒼の瞳で自分を見つめるレイリアの姿が映った。
「なっ、なっ……!」
焔は重ねられた唇の柔らかな感触と温もりが残る自分の唇を両手で隠し、絶叫を上げ掛ける。しかし、その声は出ること無く終わる。
「……ありがとう、私を選んでくれて」
「………………」
焔の声を消したのは小さく、本当に小さく微笑んだレイリアの笑顔だった。
感情を表に出す事ができなくなったはずの彼女が見せた笑顔は、『心』を失ってなどいない確かな証。十年前、幼かった焔がレイリアを護る事が出来ていたというなによりの証明。
(こんな風に……笑えるんだ)
自分の眼に映るのは、どれだけ時間がかかろうと見たいと願い求めたもの。
そんなレイリアの微笑みはとても魅力的だった。
彼女のの微笑に見とれてしまい、焔は唇を隠していた手を無意識に下げてしまう。
それをどういう解釈で受け取ったのか、レイリアは惚ける焔の頬を両手で優しく包み込み再び唇を重ねる。
「――んっ」
今度はすぐに離さず、焔への想いを伝える為にしっかりと。
「!?!?!?!?」
気が抜けていたところへのキスに焔は声を出すことも、やめさせることもできず身体を硬直させる。
(に、二回連続ってえぇぇ!?)
立て続けにレイリアに唇を奪われ眼をまわす焔。
顔の紅潮は一瞬で最高潮に達し、反論するまもなく気絶……手も足もでないとはまさにこの事である。
「うぅ~」
「……焔?」
「焔!?」
「焔君!!」
「しょうがない子ねー」
焔はレイリアに押し倒されるように横たわり、レイリアは焔の傍らで首を傾げ庚達は焔の初心っぷりに苦笑を浮かべる。
そんな日常になりつつある光景を見守りながらヴォルカニカは不甲斐ない姿を見せる自分の契約者に不満を溢す。呆れた様な、それでいて安心したような声で。
長きに渡り時を共にしてきた盟友に、これから先も幾多の闘いを共にするであろう戦友に。
『……やれやれ、締まらない奴だ』
今も昔も変わらず恋をし愛を育み、共に歩む少女を護り続けると誓った心優しき少年にそう呟いたのだった。