カフェオレ
泉川だった。
泉川はしゃがんで落とした袋を拾った。
中身は・・・。
焼きそばパンとコロッケパン。
「・・・・・」
無言で袋を拾う泉川と目が合った。
泉川は、俺の顔を覚えているようだ。
小さく頭を下げた。
正直な感想を述べよう。
嬉しい。
なんというか・・・
とりあえず嬉しい。
大きい目が、俺から視線を外した。
ちょっとショックだ。
泉川は自動販売機のボタンを押そうとした。
しかし。
急に動きがピタッと止まった。
俺は泉川の指先に目をやった。
そこは、カフェオレのボタンだった。
<売り切れ>
あ、ラス1だったんだ。
俺は手に持ったカフェオレを見た。
泉川は残念そうな顔をしていた。
なんだ?
良心が痛むぞ。
「あの・・・」
勇気を振り絞った。
泉川が俺を見る。
なんか照れるぞ。
「これ。
やるよ」
俺は泉川に向かって、カフェオレを投げた。
普通ならキャッチするだろう。
普通なら。
泉川は、細い腕を伸ばした。
ガゴン。
缶は鈍い音を立てて泉川の手をすり抜けた。
そのまま床に落ちた。
ゴロゴロゴロ・・・。
へこんだ。
ゴミ箱付近に落ちた。
汚ねぇ。
「「・・・・・・・」」
缶が転がる音と、沈黙がBGMのように聞こえた。
沈黙はBGMじゃないか。
「ま、いっか」
泉川は、はっとしたように腕を元に戻した。
そして、俺にペコペコ頭を下げた。
カワイイナ・・・。
俺は無言で自動販売機の前に立った。
泉川が一歩下がった。
下心とかじゃないよ!!
イヤ、普通怪しむか。
俺は1人で解説しながら、イチゴオレのボタンを押した。
2回。
落ちてきた缶の1つを手渡しで泉川にあげた。
小さな手で、イチゴオレを受け取ってくれた。
そして、顔を上げてー。
微笑んだ。
不覚にも、俺はその笑顔に見惚れてしまった。
可愛い・・・けど、スゴく綺麗だし、なんていうか・・・
儚い?
美しすぎる笑顔を見たとき、俺は一目惚れしてしまった。
気がした。
まだ真実を知らなかった。