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声を聞かせて  作者: CACAONOVEL12
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プロローグ

「芽衣、声を聞かせて」


愛しい芽衣に、俺は囁いた。




尊敬していた。

誰よりも強く、優しかった。


それなのに・・・。


叔父さんは死んだ。

39歳の若さで。


理由は、飲酒運転という罪を犯してしまったから。

しかも、交通事故を起こしてしまった。

相手の一家は、即死だったそうだ。


叔父さんは、人を殺してしまった自分を激しく責めた。

そして・・・。


自殺してしまった。


なんでだよ・・・。


俺は葬式の後、もう話すことのできない叔父さんの写真を見ていた。


なんで死んだんだよ・・・。

逃げんなよ・・・。


「俺は・・・俺は・・・」


どうしたらいいんだ?


なあ・・・


叔父さん・・・。


*****


俺は、桜が満開の通学路を歩いている。

高校の入学式。

いろんな奴がいる。


親戚や両親に祝ってもらった。

だが、心からは喜べない。


叔父さんなら、きっと大騒ぎして無理してプレゼントを用意してくれたはずだ。

叔父さんなら、きっと誰よりも先に祝いの言葉をくれるはずだ。


叔父さんなら・・・。


だめだ・・・。

叔父さんに頼り過ぎている。


早すぎるよ、叔父さん。

なんでだよ、なんでなんだよ。


疑問と怒りがどんどん胸に溜まる。


「晃、おはよ」


中学の同級生・敦也が話しかけてきた。

うざい。


「あー・・・」

「なになに?まだ落ち込んでんの?」


ちくしょう。

馬鹿にしやがって。


「いー加減にしないと、叔父さんも成仏できねぇぞ」


敦也は俺の親友ともいえるほど、仲が良かった。

その目は同情しているように見えた。


「わかってる」


わかってる。

けれど、納得できない。


飲酒運転さえしなければ・・・。

一家が外出しなければ・・・。


だめだ・・・

被害者まで恨んじまう。


俺からしたら、叔父さんも十分被害者だと思う。

だが、世間の目は叔父さんを加害者として捉えている。


悔しい。

悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい。


ちくしょう。


「あ、そーいえば、」


校門を通りながら敦也が言いかけた、その瞬間。


運命とは突然やってくる。


1人の女子生徒とぶつかった。


ドンッ。


ゲッ!転ばしちまった。

女子生徒は声を漏らさずに転んだ。


「芽衣!大丈夫?!」


甲高い声が聞こえた。


メイ?

俺は目の前で転んでいる女子生徒を見た。

コイツか?


「ちょっとアンタ!」

「なに?」


怖い顔のさっきの女がいた。


「芽衣に謝りなさいよ!」


はあ?

ぶつかってきたの、そっちだろ。


「晃っ」

「ああ??」


敦也が耳打ちしてきた。


「この子めっちゃ可愛い」


俺は転んでるメイ、とかいう奴を再度見た。


確かに・・・。


肩につくくらいの髪をサラサラと靡かせている。

雪のように白い肌、その足に擦り傷ができている。

長い睫毛が上を向いている。


黒曜石のように黒い目が、俺を見上げた。


ヤバイ・・・。

超可愛い・・・。


芽衣、は無言で立ち上がった。


「あの、」


振り返った。


ご・め・ん・な・さ・い


声は聞こえなかった。

でも確かに、桜色の唇はそう言った。


「芽衣えらい!アンタも謝りなさいよ」


またキンキン女に睨まれた。


「まあまあ」


敦也が宥める。

キンキン女は自分に人差し指を向けた。


「藍川 琴音」


ん?

キンキン女の名前か?

今度はメイ、を指差して言った。


「泉川 芽衣」


泉川・・・。

確か、叔父さんが即死させちまった一家の苗字。

泉川という苗字に反応しちまう。


「覚えておきなさい!」


行こう、メイ。

そう合図したようだ。

2人は人ごみに紛れ込んだ。


「藍川も可愛いけど、泉川はお淑やか美女だなぁ♪」


敦也は女子の友達ができて、大いに嬉しそうだ。



それから俺達は、くそ面白くない話を聞かされていた。

いつまで続くんだよ・・・。


「新入生は、退場してください」


普通のアナウンスが神の声に聞こえる。

ありがたや~。


上級生に話しかけられたり、同級生にも声を掛けられた。

全部テキトーに流した。


「モテモテですなぁ、晃君」

「うざい」

「女子の声はなんであんなに、高いんだろうね~」


どうでもい・・・ん?

声。

泉川の声が無性に聞きたくなった。


どんな声なんだ?


新しいクラス。

新しい教室。

新しいクラスメイト。


全てがピカピカに見えた。


「柳瀬く~ん」


知らない女子に声を掛けられた。

うぜぇ。

軽く会釈した。

そしたらキャッキャッし始めた。

うざい。


「柳瀬」


聞き覚えのあるキンキン声。

同じクラスかよ。


「んだよ藍川」


振り返ると、藍川と泉川が立っていた。


藍川が何か言いかけた時


「おーい、席に着け」


センコーが来やがった。


「チッ」


藍川の舌打ちが聞こえた。

性格ワリーなコイツ。


言われるがままに、俺は席に着いた。

出席点検が始まる。


「村上」

「はーい」


うざい。

変な声出すな、敦也。


「柳瀬」

「はい」


だりぃ。

俺はハッとした。

出席点検・・・。

基本的に「はい」と強制的に言うことになる。

これなら泉川の声が聞ける。


「あいか、」

「はい」


センコー妨害してやがる。

態度でけぇな。


「泉川」


きた。

しかし、声が聞こえない。

泉川は手を挙げただけだった。


ちくしょう。


なんで喋らないんだ?

コイツ。






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