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リベンジ・オブ・ザ・ジョーカー

投稿してた小説の間が一個吹っ飛んでました。


スイマセンでした。

 俺は目の前にいる人物を認めたくなかった。よって、とりあえずドアノブを握り締めながらドアを閉めた。

 何で、あいつが目の前にいるんだ! 俺が屋上で長居しすぎたからか? そんなに、俺のことが嫌いなのか。そんなに俺を倒したいのかよ。勘弁してくれよ。

 涙目になりながら祈るが、程なくして、双鐘がドアを開けようとしてくる、何とかドアノブが回らないように俺は必死でドアノブを握り締める。

 まるで包丁を持った押し入り強盗でも来たみたいだ。

 そんな風に思いながら、一分、二分、三分、五分、十分、ドアの前で俺達は熾烈な攻防を繰り広げていた。力は基本的に俺のほうが強いため、彼女の侵入を拒むのは難しくない。けれど、いかんせん彼女はしつこかった。

 かわいらしい声とは正反対の罵倒をドアの向こう側にいる俺に向かって、叫んでいる。

 でもなんだろう、かわいい子に罵倒されるのってそれほど嫌じゃないような……

 バスン!

 そんな阿呆なことを考えたのが悪かったのか、俺の目の前をペンが通り過ぎていく。

 あれ、ドアは開いてないのになんでペンが?

 俺は恐る恐るドアを見る、ドアは見事にペンで貫通していた。

「ぎゃー!」

 一応言っておくがドアは鉄製である。彼女のペンはどうやら、鉄も貫くらしい。

 そして、ドアが恐ろしい勢いで穴だらけになっていく、俺はすぐさまドアから飛びのいた。

 どうやら、相手は包丁持った押し入り強盗じゃなくて、拳銃持った銀行強盗らしい。

 彼女はペンを投げまくり、ドアを人型にくりぬいた。そして、まるで映画のようにくりぬいた部分を蹴り倒し、彼女は威風堂々とツインテールをなびかせながら入場する。


 そんな彼女が最初にみた光景は、屋上で倒れている、先ほど倒された凪のズボンを必死で脱がせている俺の姿だった。

「何をやってるんです!!」

 戦いに負け気持ちよく天を仰いで気絶している凪のズボンを脱がしている俺に双鐘が問いかける。

「見てわからんか」

「わかるわけ無いです、というかわかりたくないです」

「いやはや、俺の行動の真意を知った時、お前はきっと驚くぞ」

「もういいです。さっきの仕返しもこめて死んでくださいです」

 彼女は指に挟んだペンを俺に向かって投げつける、今回は左右両方の手にペンを三本づつ握って六本を一斉に投げてきた。

 俺はやっとのことで脱がせたズボンを抱えて、その場から転がるようにして、ペンをかわす。

 かわされたペンは気絶していた凪の下半身に突き刺さった。

「オぅっ!」

 気絶していたはずの彼はその一撃で意識を取り戻し、その一撃で口から泡を吹いて、その一撃で何故か気持ちよさそうな表情をして再び気絶した。

 気絶した者への攻撃による失格は、どうやらジョーカーには当てはまらないらしい。ジョーカーの彼女も首輪をつけているが彼女の首輪は赤くは光っていない。

 すまん凪、お前を盾に使ったみたが、駄目だった。

 俺はとりあえずいつも握っている刀を自分のベルトに差した。代わりに両手にはまだ凪の暖かさが残るズボンを握っている。

 まあ、別に凪のズボンでなくてもいいんだけどな、目の前に敵が来てるのに、自分のズボン脱ぐのもなんか危ない人みたいで嫌じゃん。

「他人のズボンを脱がしてるひとも十分危ないです」

「あらそうなの。俺が小学生の頃なんかは他人のズボンを脱がせるのが日課だったからな」

「今の年齢を考えてください」

「天武学園三年生ですけど」

「じゃなくて、もう十八か十七ですよね」

「おっとこの世界で、年齢の話はするな、何のためにここまで高校生という表現を使わなかったか考えてみろ」

「意味がわからないです?」

「お前らは、これから、学生でありながらお酒を飲んだり、エッチな本を読んだり、タバコをすったりするかもしれん。そんなときに、役に立つのが、『この物語はフィクションであり、登場する地方、生徒、学園などは存在しません、また、登場人物は二十歳以上です』という裏技だ。だがこの技はな、実年齢とか中学生とか高校生とかいう、年齢を特定できてしまう呪文で使えなくなるんだよ。お前らが、安易に高校生です。なんて言ったら、非実在青少年なのに、お前らにいろいろできなくなるんだよ。頼む、お前は二十歳以上、せめて、一万十七歳と言ってくれ」

 俺の必死の台詞に戸惑って、双鐘はわけもわからずにうなずいた。

 チャンス。俺は彼女がうなづいた瞬間できた隙に先ほどの戦いで壊れたフェンスの方向へ向かって走る。幸い双鐘はペンを投げて追撃しようとしなかった。

 そして俺は、屋上からジャンプした。

「アイキャンフライ」

 前から一度は言ってみたかった台詞を言いながら。

「嘘!!」

 まさか屋上から飛ぶとは思っていなかったのだろう。双鐘の驚く声を聞きながら、俺は屋上から垂れ下がった射撃部が突入するために利用したロープにしがみついた。

 そう、この屋上にはロープがぶら下がっていた。言わずもがな、射撃部たちが会長戦開始直後に使用したロープである。そしてロープは屋上から三階の教室に飛び込むものと二階に向かって飛び込むものの二種類あり、俺は二階に飛び込むものをつかんでいた。

 俺はそのままロープに沿って二階の教室に飛び込んだ、着地した場所はガラスが転がっており、その上で俺は転んでしまっていた。

「痛ってえ」

 脇腹を含めた全身の痛みが転んだ瞬間広がった。俺は呼吸を整えながら痛みをひとまず忘却する。

「ああ完全に使えなくなった」

 俺はロープを使って降りるときに利用した、凪のズボンを見る。ロープを使って降りるときは手に手袋でもはめておかないと摩擦熱で手はずるずるになる。苦肉の策で凪のズボンを利用したわけだが……、使い心地は最悪だった。十分手は熱くなったし、そこそこの痛みも感じていた。

 そしてなにより、凪のズボンは摩擦熱でぼろぼろになっていた。履けないことはないが、「これを履いて何を隠したいんだ」ってくらい悲惨だった。

 ご愁傷様だ凪。お前はパンツ一丁で救護班に救助されて、パンツ一丁のまま今日を過ごさないといけない。

 あいつに始めに買いに行かせるものが決まったな。かっこいいパンツだな。

「そこは人に見られてもいいかっこいいパンツを選ぶより、普通にズボンをはかせてあげなさいです」

 後ろには軽快に着地している、双鐘の姿があり、その手には凪のものと思われる、上着があった。

 凪、かわいそうに上も脱がされたのか、救護班が勘違いしないといいが。

「そろそろ観念するのですね」

「凪お前の犠牲は無駄に終ったな」

「今すぐあなたの行動も無に帰るのです!」

 双鐘は手にペンを挟み、爪のように扱い俺に突き刺そうと、飛び込んで来た。

 俺はとっさに手に持った凪のズボンを投げつけ、教室を飛び出す。

「汚いのです!」

 投げつけたズボンは細切れにされ空中に散っていった。

 最後まで無駄になったな、凪のズボン。

 教室を飛び出し俺は廊下を駆ける。

 全速力で走っているが、双鐘も今回は本気で走っているらしく、すぐに追いつかれる。

「死になさいなのです!」

「ギャオース」

 俺は叫びながら彼女の攻撃をかわす、かわす、かわす。

 とりあえず、致命傷にはならないように、薄皮一枚のところでかわしまくっている。

 彼女の攻撃は、ペンを投げつけるものから、ペンを指で挟んで直接攻撃するものに変っていた。それが俺には幸いだった。瞬間的に三つのペンをかわすよりも、連続して振り下ろされる腕の一撃のほうが、俺にははるかに対処しやすい。

 とは思いつつも、さすがにジリ貧だ。こっちは手負いのうえ、勝機がない。まともに戦うのは勘弁してほしい。

「お逝きなさいなのです」

「断固辞退する」

 そう言って走った。痛めた脇腹はズキズキと俺の脳に痛みを訴えたが、おあいにく様、ここで立ち止まったほうが痛い目を見る。

 絶望的なマラソンを強いられたかに見えた俺だがギリギリでついにたどり着く、学園内において、唯一にして絶対の聖域に。

 俺は迷わず飛び込んだ、頭から、床を這いずり回った。

 そう、そこは、男子トイレだった。

 相手は華も恥らう女子校生(高じゃないよ、校だからね。ここテストにでるよ)が、汚い場所の筆頭である、男子トイレにおいそれと入れる訳が……

「行き止まりですね!」

 俺は逃げ切ったと思い膝に手をつき息をしていたが、目の前の声に気付き前を見る。

 確かに俺は男子トイレの中に入っていた。そして、双鐘も男子トイレの中にためらうことなく足を踏み入れていた。

 あっさり入っちゃったよ。どうなってんの?

「双鐘さん、あんた今どこにいるかわかってますか」

「男子トイレです」

「何で平気な顔して入ってきてるんですか」

「あなたの死ぬとこみたいからです」

「はい、良くできました」

 畜生め。どうやら、彼女は男子トイレに足を踏み入れることより、俺が生きているほうが不快らしい。くやしいのう、くやしいのう。

 まあ、逃げ道はちゃんとあるんですけどね。

 俺はベルトに挟んである、軍曹からの選別のリボルバーを抜いて、目の前のジョーカーに向かって三発ぶち込んだ。

 ガキン、カキン、ペキンと三射三様の音を出しながら、あっさりと銃弾ははじかれた。

「何のつもりです? こんなもの効くわけ無いです」

「そうだね」

 そう言って、今度は俺はトイレの窓に向かって走り、窓に銃弾を二発ぶち込む。そしてそのまま本日三度目のダイブを決行した。

 二階からのジャンプ、下はコンクリだった。けれど、膝と背骨で最大限まで衝撃を殺し、そして転がることで、無傷で着地をした。

 どうやら、俺はまだ気絶せずにすんだらしい。

 すぐさま俺は飛び降りた先の男子トイレを見る。窓から、双鐘が覗いている。そして、すぐさま彼女も窓に足をかけた。その姿をみて、俺は笑いがこみ上げる。

 おいおい馬鹿。やめとけよ。お前パンツ見えるよ。

 けれど、彼女は下に向かって飛んだ。



 どうやら彼女は俺と敵対すると冷静な判断ができないらしい。

 彼女が窓から飛んだのを確認すると俺は拳銃をベルトに差し、すぐさま刀を左手に持つと彼女の着地予定地点へと走っていく。

「えっ」

 彼女は驚く。逃げ一辺倒の俺が彼女に初めて彼女に向かって攻撃を仕掛けに突っ込んできたからだ。

 彼女は手にもったペンを向かってくる俺に投げようとする。ゆえに俺は大声で叫ぶ。

「みえた!!! ピンク」

 その声に彼女は俺に向かってペンを投げるのをやめスカートを抑える。

 余計なことを言うと、屋上からの落下でばっちり中身は見えていたので、ピンクは正解です。

 彼女が俺への迎撃をやめてできた隙をついて、俺は彼女の落下地点の裏へと回りこんだ。鞘を左手で握り、右手で柄を握り締める。

 狙うは一瞬、着地の瞬間である。

 彼女が俺に背を向けて着地したとき俺は抜刀し、彼女の首筋に全力で打ち込んだ。

 彼女の体は落下の衝撃を殺すため、ただの塊になっていた。普通なら攻撃を喰らえばその勢いを殺すために体が動き十の力の攻撃が五か六になるのだが、彼女はもうひとつの衝撃の処理をしているためこちらの十の力の攻撃が十の力で直撃した。完璧だった。

 まともに喰らった彼女は振り向くこと無く、そのままうつぶせに倒れた。

「グッナイ」

 なんとか、ジョーカーをやりすごすことに成功した、面倒なことからできるだけ遠ざかりながら戦いぬくという当初の計画は木っ端微塵になっていたが、なんとか俺は生き残ってる。

 俺は歩き出した。彼女を再び退けたと安心したら再び脇腹の痛みが強くなった。

 どうやら急がないとやばいらしい。俺の限界が見えてきそうだった。

 とりあえずは部室棟に行って、葵ちゃんと合流して休憩だ。そうじゃないと持たない。

 先ほど利用した銃を取り出して残弾数を確認し、何度数えても一発しかないことを嘆きながらポケットへと再びしまった。

 さっき無駄に撃つんじゃなかった。後悔しても遅いが、少し悔やまれる。何となく軍曹の無念を晴らしたくてダメもとで撃ってみたけど駄目だった。

 俺はちらりと後ろを振り返る。彼女は気絶していた。けれど、すぐさま治療を受けて復帰してくるだろう。もし気絶者への過剰攻撃のルールがなければ、復帰なんてできないようにしてやるのに。

 けれど、とりあえず葵ちゃんといれば、彼女も俺ばかりを過剰に攻撃することはないだろう。

 そう思い、俺は歩くスピードを速めようとしたその瞬間だった。

 ゾク、

 言葉にならない殺気と憎悪が混じった威圧感を感じ後ろを振り向く、けれどそこには誰もいない、双鐘が倒れているだけだった。

 とりあえず先ほど感じた威圧は勘違いではないと思い、俺は走って部室棟まで行こうと足を踏み出そうとした瞬間もう一度先ほどの真っ先に逃げ出したくなりそうな、威圧感を感じた。

 俺はこのとき、一目散に走って逃げ出せばよかった、けれど俺はその威圧感の正体を確かめようと振り返った。

 振り返った先にはやはり双鐘しかいない、だが正体はすぐにわかった。

 うつぶせに倒れている双鐘がホラー映画さながらの迫力でゆっくりと起き上がっていたのだ。

 まてまて、確かにあいつは気絶していたぞ、医療斑も到着してないのに復活とかありかよ。

 その上彼女は先ほどまでとは、比べものにならないくらいの、禍々しいオーラが漂っていた。たとえるなら悪鬼羅刹のようだった。

 いつものかわいらしい目はうつろで、ツインテールにしているリボンが解け、髪の毛が意思を持っているのか、蛇のようにうねうねと動き回っていた。

「コロス」

 ボソっと彼女が呟く、その言葉で見とれていた俺はその場からようやく逃げ出そうとする、だが彼女は許さなかった。

 彼女が取り出したのは巻尺。それを俺の脚目掛けて、投げつけた。

 きゅるきゅると巻尺は俺の脚に絡まり、俺はその場で転んだ。

「痛えー!」

 豪快に転がった俺は、起き上がろうとした。けれど立てなかった。巻尺はなおも絡みつき、それを双鐘が容赦なく引っ張りながらこちらに近付いていた。

 俺は双鐘の方へ向き直ると這いづり回りながら距離をとろうとしたが、相手が逃がすわけもなく、俺との距離をあっさりと詰めた。

「コロス」

 そしてもう一度おんなじことを言われた。彼女の手には、今度は定規が握られていた。双鐘はペンが弾丸のような武器になる、つまり定規がただの定規として扱われるとは到底思わない。

 十中八九、ナイフぐらいの威力にはなるんだろうな、まあ、こうなったら逃げられないし、やるだけやるか。

 王手の状態となって、ようやく俺は戦う決心をし、俺は腰に差してある刀を抜こうとした。けれど彼女はそれすら許さず、抜こうとした手を蹴り飛ばし、そのまま、腰に差してあった刀を器用に足で鞘ごと抜き取って、遠くに蹴り飛ばした。

「武士の魂をぞんざいに扱うなよ、俺の元宝物であり魂だぜ」

「お前のどこが武士なんですか! 卑怯で、変態で、自分でまともに戦うこともできない、唯一できるのは、人の裏をつくことだけです。お前なんかに刀なんか必要ないです」

 うわー、傷つくわ。そういうことって思ってても普通言わないでしょ。どうやら、復活した双鐘は、声が低くなるだけではなく、性格も悪くなるらしい。怖いね。まあ、もとからだったけどね。

 まあ、そんなわけで、俺は最後の武器である拳銃を腰から引き抜いて相手に向ける、距離は一メートル以内。この学園の上級者レベルでもまずかわせずに当たる距離だ。ただし、目の前の敵は序列二位、そのうえ、なんか普段より強そうである。

「無駄です、私に拳銃は効かないです」

「この距離だぜ、たとえお前でも試す価値はあると思うけど」

「そうですね、もし弾が二発以上あるなら試してもいいですけど、お前の銃、残り一発しか弾が入ってないです」

「いや、お前が気絶した間にリロードしてるぜ」

 もちろん嘘である。弾などはなから持ってない。

「嘘はもっとうまくつくのですね、お前がその銃を受け取ったとき、私もそこにいたですよ。もしお前が弾を保持しているならあそこでわざわざ銃をもらう必要なんてないです」

 あらあら、簡単に嘘を見抜かれてる。

「おいおい、あのあと俺が銃弾を手に入れたとかは考えないのかよ」

「射撃部の持ってる銃とお前の持っている銃は全然違うし、もし射撃部から銃弾を奪っているとしたら、一緒に銃も奪っているはずです、そんな六発しか撃てない拳銃なんて捨ててですね」

 その手があったな、射撃部の連中から銃を奪っておけばよかった。いまさらながらくだらないことを思いながら、俺は鉄槌に指をかけた。

「OK、答え合わせの時間といこう」

「そうですね、お前のたった一発の希望を弾いたあと、絶望に満ちた顔をたっぷりといたぶってあげるです」

「そりゃ楽しみだ」

 そういって、俺は寝転がりながら目の前にいる、双鐘の顔に向かって銃口を向ける。

 毎回思うが、こうしている瞬間に向こうが仕掛けてきたら俺何もできないままやられるのに、双鐘って馬鹿なんだね。同じミスは何度もするなよ。言ってやっただろ『相手が勝ち誇ったとき、すでにそいつは敗北している』って、やれると思った瞬間にやらないと大変な目に遭うぜ。こんなふうにな。

 カツーン。

 俺は、トリガーを引いた。けれど響いたのは銃声ではなく、鉄槌が空を打った音だった。

 双鐘は当然呆然とする。銃弾が飛び出すと思い、顔の辺りに定規を動かしていた。けれど、飛んでこない銃弾と鳴らない銃声に一瞬隙だらけになる。

 その瞬間に俺はもう一度トリガーを引いた。狙った場所は相手の腹だった。

 今度は本当に銃声が響き、弾は双鐘の腹にヒットする。弾の威力は金属バットで殴ったぐらいなので、ピンポイントで急所に当たらないと気絶はしないが十分痛いことはお墨付きである。

「ぐふ」

 おおよそかわいらしい体と顔からは似合わない声を出して、双鐘が腹を抱えて苦しんだ。

 なんてことはない、ただの子供だましの一手だったがどうやらうまくいった。さっき弾数を確認した時、最初の一発は俺がわざとリボルバーのシリンダーをひとつ横にずらしておいたのだ。一発しかない銃では、この学園の化物どもに対してあまり効果がないが、猫だましの効果でも与えられたら状況が変るかもしれないと思い、半ばやけくそ気味で使ったがこうもうまくいくとはね。

 俺は弾切れになった銃をすばやく捨てて仕上げに移る。

 俺はすばやく立ち上がると「ゴメン」と呟き。拳を握りこみ、生まれて初めて、グーパンチを、腹を抱えて苦しむ女の、顔面に、ぶち込んだ。

 バキっという気味の悪い音と感触が手に伝わる。恐らく相手の鼻の骨が折れたのだろう、けれどまだ彼女の首輪は赤く光らない。

 彼女は俺のパンチをくらって、ようやく俺から距離をとろうと、後ろに飛んだ。けれど、俺にとってここが最後のチャンスである。俺が簡単に距離をとらせるわけがない。やるなら徹底的に、今日の会長戦にはもう復帰できないほどにやってやる。

 彼女が後ろに飛ぶのにあわせて、俺も飛び込み、彼女が着地する直前に彼女の足を払う。当然着地できない双鐘は転んでしまった。

 そして、俺は脚を大きく自分の顔まで上げる。いわゆる踵落としという奴だ。的は当然、双鐘の顔面である。

「ひっ、ちょ、ちょっと待って、まいっ――」

 彼女が何か言おうとしたが俺に聞く気などないし、言わせる気もなかった。そして、そのまま踵落としを彼女の顔面に落とし、双鐘を完全に粉砕した。

 ジョーカーの首輪はそれでようやく赤く光った。


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