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柳の下のどじょう

「留守番電話サービスです。合図の後にメッセージをどうぞ」

 電話がつながらない。学生の友である、携帯がつながらないのだ。

 苦戦しているのかな。電話にも出れないほど……。そうだとしたら詰んでるな。

 現在十時半、小腹がすき始めるこの時間帯。もうそろそろ、実力者ぐらいしか残っていない時間だった。

 俺は非常用にいつも持っている、飴ちゃん(チュパチュパチャップス)を舐め始める。

 甘さが身にしみ、そして、飴の糖分を頭に少しだけ回しながら考える。

 俺が今後生き残るために必要なのは、葵ちゃん。これは絶対条件だ。神楽と一緒に行動するという手もあるが、あいつは剣道部。絶対最後には戦うことになる。それにたぶんあいつは俺と葵ちゃんがタッグを組んでることを知ったら問答無用で攻撃するね。間違いない。

 さて、どうやって葵ちゃんと合流する? 携帯がつながるのを待つか? または、かかって来るのを待つか?

 それは少々分が悪そうだね。もしかしたら、携帯を落として無くしている可能性もある。

 あたりで派手に戦っている場所でも探していくか?

 それもどうだろう。彼女に挑もうという挑戦者たちに近づくだけでも嫌なんだが。それに暴れている相手が葵ちゃんと違ったら目も当てられないぜ。

 じゃあ、最後の手段で、学校の放送室で放送でもするか?

 一番馬鹿な方法だね。彼女が来るよりも先に、双鐘の方がやって来るよ。そのうえ、放送室は特別棟の四階の一番端の部屋だ、逃げようとすれば、四階からのダイブをしないといけない。そんな無茶はしばらくお預けにしたいもんだ。

 結局の所、歩きまわって派手に戦っている場所を遠くから確認しながら探すしかないね。じゃあ、とりあえず見晴らしのいい教室棟屋上でも行ってみるか。

 そう思い俺は、足を教室棟へと向けた。

 ここまで来ると、銃などを使う連中はいなくなったのか、銃声はほとんど聞こえてこなかった。

 射撃部なども積極的に乱戦に突入していたから、恐らく消耗も早かったのだろう。

 そして、教室棟の中に足を踏み入れる。中は酷かった。

 辺り一面のガラスは割れており、廊下には血が飛び散っていた。確実に派手なバトルがここで行われていた証拠である。

 やれやれ、どこが脱落したのかと、俺は廊下を見渡す。

 部活道の連中が戦ったのなら、そこいらにそいつらの痕跡が残っているはずである。

 そして、廊下の片隅に落ちていたのは、サッカーボールと野球ボールとバットだった。

 あいつら、校舎内で戦ってたのかよ! なんでそこだけインドアで決着つけたがるんだよ! お前ら普段あんだけグランドの使用権で揉めてんだからさ、グランドで戦えよ! ていうか、結局あいつら相討ちにでもなったのか、生き残りの気配すら感じねー。

 相討ちという部分が気にかかり、俺はもう少し、この場を探してみた。もしかしたらジョーカーにやられたのかもしれないと思ったのだ。

 ジョーカーならペンでも落ちていると思って少し詳しく、教室の中まで、歩いて行く。そこにあったのは薬莢と使用されていない手榴弾のようなものが落ちていた。

 射撃部にやられたのかな? というか今回の射撃部気合い入ってんな。いつもは人数がいても序盤であっさり消えて行くのに。だけど、閃光手榴弾のピンを抜き忘れて投げているところを見るとやっぱり、戦いなれはしていないのかねー。

 そう思いながら、閃光手榴弾をポケットにしまう、きっと役に立つだろうと確信めいた予感を感じながら。

 探索の終った俺は教室を出ようと振り返る、その時気配を感じた。

 一人ではなく集団だ。

 とりあえず廊下からは見えないように、教室の廊下側の壁に隠れ、姿勢を低くしておいた。

「お前何人やった?」

「三人」

「俺の勝ちだな。四人だ」

「負けたよ。俺はたったの二人だ」

「俺は、五人やったけどさ、全員ザコだぜ」

「お前はさ、たった二人って言うけど、そのうち一人は野球部キャプテンだろ。あいつ一応序列十八位だろ」

「まあね。でもあいつらしぶとかったな、おかげで生き残りが四人だけになっちまったよ」

「まあ、インドアでは俺達には勝てないってことだな」

「ちげーねー。アハハハ」

 とりあえず連中の馬鹿な会話を聞きながら、相手が四人しかいない事を知った。

 どうする、倒すか?

 ここで逃せば、また射撃部の連中で部隊を組むに違いない。なら、戦いの後の連中を叩いておいた方がいいだろう。

 俺は息をひそめてドアに潜む。

 本日初めての先制攻撃だな、そう思い、呼吸を整える。大丈夫、銃を使う奴が、四人程度なら大丈夫。

 それに俺には一年間の引きこもりの経験がある。インドアで俺に勝てると思うなよ!

 奴らの馬鹿な自慢話が俺の潜んでいるドアまで来た時、俺はドアを渾身の力で蹴り飛ばした。

「なっ!」

 ただ、ほんの少しタイミングがずれて、前方の二名しか巻き込めなかった。そのうえ、どうやら気絶もしてない。

 だから俺が飛びかかったのは、ドアを蹴り飛ばした時巻き込まれなかった二人の内の弱そうな男である。

 突然前方の二人がドアと共に吹っ飛んだことにビックリして、硬直した彼は簡単に俺の攻撃を許し、首筋に俺の一撃を受けてあっさり気絶した。どうやら、ドア攻撃に巻き込まれなかったもう一人の方が相方だったらしく、彼の首輪から警告音が鳴った。

 あと二人。

 だが、ドアに吹っ飛ばされた二人は、すぐに起き上がりこちらに銃を向けた。

 そのため、俺は気絶した奴を離さずそのまま彼らに話かけた。

「撃たない方がいいよ」

「はぁぁぁぁぁ?」

「ルール知ってると思うけど、気絶している人間に過剰な攻撃は失格行為になるんだよ」

「それがどうした。お前が気絶しているようには思えんぞ」

 駄目だこいつ馬鹿なタイプか。

 俺がため息をついたのを隙だと判断したのか、彼らは銃をこちらに向かって斉射してきた。

 ホントの馬鹿だ。

 俺は刀で彼らの弾丸を防がずに、気絶している彼らの仲間を盾にした。

 ドスドスと鈍い音が響く。そして、撃たれた痛みで、一瞬彼は目を覚まし、そしてまた連射された痛みで、気絶した。

 そして、彼らの首輪から警告音がなった。

「なっどうして!」

「あんたらの攻撃は、気絶した参加者への攻撃として受け取られたんだよ。だから俺が親切に撃つなって言ったのに。フレンドリーファイアで失格なんて笑えるね」

 まあ、狙いは確実に俺に向かっていて、俺が彼を盾にしないと弾は気絶していた奴に当たらなかったけど。

「卑怯だぞ」

 負けた彼らはまだ吠える。

「卑怯なんて言えば、あんたらは四人で俺は一人だぜ。それにルールを詳しく理解してない方が悪いんだよ」

 そういって、盾にした奴を廊下に寝かせ、俺は階段へ向かって歩き始める。

 我ながらこすい勝ち方だ。一時期は武道を真剣に習っていた人間としては本来なら恥ずべき勝ち方だとは思う。

 そりゃ、理想は正面堂々と戦いたいさ。

 でも理想と現実は違うんだ。俺は弱者、それが現実。

 ならありとあらゆる手を使ってでも勝たなくちゃいけないだろ。目標は同じように勝利なんだからさ。

 そう自分に言い聞かせ、俺は屋上へと続く階段をのぼっていく。

 他の階は見ないことにした。恐らくさっきの連中が教室棟の連中は倒してくれてると思うし、さっきの卑怯という言葉を少々引きずっていて安全確認についてないがしろになっていたのかも知れなかった。


 屋上への扉を開けると、最悪なことに、道着を着た兄妹が待ち構えていた。

「はあ、やっぱり、俺はツイてないのか」

 俺は天を仰ぎみて、つぶやく。

 目の前の連中は空手部最強の兄妹。唐草からくさ兄妹だった。俺が買った雑誌によれば、彼らは、妹が二年で序列二十九位、そして、兄は序列八位の実力者。

 現在の俺の勝率はゼロだった。二対一で来られたらどうすんのよ。どうしようもない。

 反語しか出てこないほどの、ピンチだ。

「いやいや、お主はツイているさ。我々と戦うことになって良かったな」

「どこがだよ! ていうか何でこんな場所に?」

「それはだな、仲間とはぐれて、いったん見晴らしの良い所に行こうとしてここに来たのだ」

 俺と一緒の理由か。

「それでどうして俺がツイてんだよ。序列八位さん」

「ふふ、普通はこういう時、二人がかりで戦うものだろう。だが、ワシは一対一の戦いしか、好まんのだ」

「なるほどね。二人いっぺんに相手はしなくてもいいんだ」

 だけど、それでもつらいね。

「お兄ちゃん。私にあの人譲ってよ。お兄ちゃんばっかり、序列の高い人と戦ってずるいよ。あの人の序列確か一位でしょ。それにあの人ならなんか序列と違って見ため的に、というか強くなさそうだし、譲ってよ」

「うーむ。どうするか。もともと、我が部は今回他の徒手空拳の部の連中に勝てればそれでよかったからの。他の部の残りは見当たらんし、もしお前が負けることになっても全然構わんのじゃが」

「負けるなんてひどいよ」

「すまんすまん」

 かなりいかついお寺の住職みたいな坊主頭の男が、かわいらしいショートカットの女の子の頭を撫でている。

 すごくシュールな光景です。もし、あのお兄ちゃんと呼ばれている男にサングラスがかかっていたら、俺はその場で百十番していたね。

「そうじゃの、お前さんはどっちがいい。女と戦いにくいというなら、ワシが相手になるが」

 そのセリフで俺はしばらく悩む。そして、決断する。

「お兄さんで。どうせ一対一でもあんまり勝てる気がしないから、それなら、序列の高い人と戦って負けたいしね」

「じゃそうじゃ、お前は、そこのフェンスに座って見とれ」

 そう言って妹さんをフェンスに追いやり、お兄さんは俺と真正面で向き合った。

 妹は口を膨らまして不満そうにしていたが、おとなしく兄の言うことを聞いていた。

「お前さん。あの天上葵を一発で倒したらしいの。ワシも彼女と戦ったことがあるからわかるんじゃが、あの子は相当強い。そんな彼女に勝つお前さんは、今はそんな弱そうなふりをしているが、無茶苦茶強いんじゃろ」

「一言、誤解がないように言っとくと、俺は弱いよ。葵ちゃんに勝ったのはまぐれ。というか、その時のこと覚えてないから、いまだに信じられないし」

「まあよい、戦えばわかる事ぞ」

「そうですね」

 刀を握る手に力が篭る。さあ、超強敵とのバトル再びだ。

「お前さん、刀は抜かんのか。抜いてもらってから初めて構わんぞ」

「お気づかいなく。刀身を見ることなく終わりますよ」

 そう言うとお兄さんは笑い始め、「了解した」といって拳をにぎり、ファイティングポーズをとった。

 先に動いたのは、向こうだった。

 まっすぐに右のストレートが俺の顔目がけて飛んでくる。俺はその攻撃の軌道に刀の柄を入りこませ強引に身体の外へずらす。

 その動作に合わせて、俺が右足の蹴りを横っ腹目がけて放つが、それを今度は相手がキャッチする。

 足をとられる、力は当然向こうが上、体勢が崩されて強烈な一撃をくらうイメージが頭に一瞬浮かぶ。だが、すぐさまイメージを消し去り、左手に握っている刀を地面に突き立て、第三の足とし、俺は左足で飛び上がり踵で相手のこめかみを狙って放つ。

 だが、その攻撃も相手は簡単にスウェーでかわす。ただ、右足は開放された。

 俺の攻撃で自分自身が、一回転しながら着地し、その瞬間に軸にしていた刀を今度は鞘を持つのではなく柄を持って、相手の顎を狙って、下から上へ振り上げる。しかし、相手も俺目がけ、拳を突きだしていた。

 共に顔を狙った攻撃はその途中でお互いに弾きあい、お互いにうしろに飛んで、距離をとる。

「大した一撃だな」

 先ほどの一撃が当たった、右手をさすりながらこちらに向かって声をかけてくる。

「ありがとうございます」

 息を整えながら相手を見る。そして、掴まれた、足に意識をやる。

 あいつの握力半端ねー。

 そう思わずにはいられないほど、足が痛かった。そのせいで動きが鈍くなるほどでは無かったが、蹴りはやめたほうがいいと頭が命令を下す。下手に足を潰されるほうがやばい、と。

 そうして、俺の攻撃の幅が狭まり、勝機がまた減ったのを知ってか知らずか、またしても相手の攻撃が飛んでくる。

 文字どうり飛んできた。空中に飛び上がり、手刀を俺の頭目がけて撃って来る。とびかかる巨体の空手チョップを俺は受ける気などなく、俺はもう一度うしろにさがる。

 だが、彼の攻撃はさらに勢いをます。今度は、足技で、まずは前蹴り、これは俺が刀で受けると同時にジャンプし衝撃を全て逃がす。そして、俺が着地する時に、相手は前蹴りを放った場所から回転しながら飛び込み、お手本にしたくなるような、回し蹴りをぶっ放す。

 だが、その程度の攻撃をガードできない俺ではない。もう一度刀で、彼の攻撃を止めようとした。けれども、それに失敗した。

 蹴りをまともに喰らわないということが、防御の成功というなら、俺は成功した。しかし、ダメージを受けないということを防御というのなら、完全に失敗した。

 彼の蹴りはジャストミートする必要なんてないのだ。刀でガードさせるだけで十分に効果を発した。

 そう、俺は彼の蹴りを止められずに吹っ飛んだのだ。

 壁に叩きつけられる。肉がつぶれる痛みが全身を襲う。一瞬意識が飛びかけるが、何とかこらえた。ただ、頭がクラクラしている。どうやらちょっとばかし、やばそうだ。

「やるね。こんなに痛い思いしたのは久しぶりだよ」

「少々身体が軽すぎるの。もう少し、体重をつける事を進めるぞ」

「はは、考えとくよ」

「足元がふらついておるの。どうする、ギブアップするか?」

「冗談。最後まであきらめないのが、俺のモットーですよ」

「いい心がけだな」

「ただ、一つだけ聞いていい。あんた気使えるの?」

「無論使えるが」

「なら、それで止めをつけてくれよ。波動拳でも覇王翔吼拳でもかめはめ波でも剛掌波でもいいからさ」

「どうしたんだ。最後まであきらめないでいるような奴のセリフとは到底思えないが?」

 訝しげにこちらを見ながら構えを崩さず話しかけてくる。

「負ける時はカッコよく負けたいんだよ。敵の必殺技でやられたならまだカッコがつくでしょ」

「なら、望みどうりに」

 そう言って、彼は片手を俺に向かって突き出す。

 次の瞬間彼の手に気がたまっていき、空気が吸い込まれていくような感覚を味わう。

 かといって自分はいまだに足がふらふらしており、どうも相手の攻撃をかわせそうもない。

 背水の陣だね。完全なる劣勢。……だからこそ、一発逆転が狙えるんだけどね。

 俺は真っすぐに立ち、刀を右手に持ちかえる。

 この場にいる全員が、空手兄妹の兄の技に集中している。

 ゆえに俺は小さく笑って、右手の刀を振り上げて放り投げる。

 無論相手は、彼の妹に向かって。

「えっ!?」

 兄の勝利を確信し、兄の技に集中していた彼女は、俺の不意打ちに面白いぐらいまともにくらった。投げられた刀は、回転しながら、彼女の頭を強打していき、彼女はその場で倒れた。

 ピーピーと彼女の兄の首輪から失格を告げる音が流れる。練り上げていた気が一瞬で離散し呆然としている兄は妹に対して一瞥し事態をようやく飲み込む、

「お前は!」

 鬼のような形相で彼はこちらに近づいてくる。

「なんだよ」

 相手の迫力にビビリながら後ずさりする。

「お前は、それでも男か! なんださっきの行動は! お前にプライドはないのか」

 大声でまくし立ててくる。

 やめてくれよ、目立つ行動はよ。敵が来ちゃうだろ。

「ないね。言ったろ最後まであきらめないのが俺のポリシー。最後まで、勝利することを考えたら、ああいう行動をとるしかなくなったんだよ」

 まあ、嘘だが。でも最初から俺は弱い方を倒すことしか考えていなかった。自分の実力なら、刀一本で本気で戦って勝てるのが序列五十位ぐらい。それもまあ結構厳しいんだが。だからこそ、確実に最後には勝てるように、待機している彼の妹の隙を常に探っていた。

「第一、卑怯な行動は弱者に許された武器だぜ。強者が武で優位に立つなら、卑怯とルールで戦うのが弱者だ。まあ大目に見てくれ」

「ワシはな、今さっきの戦いに、確実に興奮していた。ワシの攻撃を久々に真正面から受けて、ワシに向かって来る人間が最近いなかったからだ。ワシはお前は決して弱者とは思わん。胸を張って自分の武を誇っていいと思う。だから、こんな終わらせかたをされたのが残念だ」

 あーあ、勝手なこと言うよ。弱者の経験がない奴はさ。

「うるせーよ! なにが武を誇れだよ。負けりゃ意味ねーだろうが、俺みたいな弱者にとって、強者は弱者に何されても文句言えねーんだよ! そんなに正々堂々戦ってほしいのかよ、そうだろうな、正々堂々俺とあんたが戦ったらあんたは俺に絶対負けないもんな! 第一、お前ら強者が正々堂々なんて言葉を使うのはな、堂々と弱いものいじめがしたいからにすぎねーんだよ」

 俺が叫ぶ。久しぶりにキレちゃったみたいだ。

 相手は俺の言葉を聞くともう何も言わずに、気絶した自分の妹を抱きかかえてドアを開け下へ降りて行った。

 自分の力に誇りを持て? 馬鹿なこというなよ。だったらなんで俺は破門されてんだよ。堂々と戦え? 結局ただの負け惜しみだろうが、俺じゃないのに、俺の力をわかった風な口聞くなよ阿呆。

 どれだけ努力しても、限界が見えてる人間もいるんだよ。だったら、何してもいいだろうが。せいぜいルールに反しないこすい方法ぐらいとらせろよ。ああ、くそったれめ。

 俺は頭をかきむしりながら、刀を拾う。俺は現在序列上位を二人倒した。けれども、胸の内は全くすっきりせず。わけのわからない怒りのみが心に沸いた。

 とりあえず、頭がクラクラしているのが納まるまで、屋上で葵ちゃんを探しながら、ゆっくりした。非常食のハイベロチュウをなめながら。

 あんまり長居するのは良くないことはわかってはいたが、頭痛がとれないうちに行動する方が、危険だと思ったからだ。

 外を眺める。どうやら、グランドの方で派手な戦いをしているらしい。多くの人間が集まっていた。

 だが、どうやら葵ちゃんはいない。それから、隣の特別棟の教室を覗きこむ。

 一階にはいない。

 二階にもいない。

 三階にもどうやらいない。

 四階にも発見できず。

 ならどこなのか、俺は万遍無く辺りを見渡し、そして彼女をようやく発見した。部室棟に刀片手に、一人ずつ人を狩る人を発見した。どうやら部室に隠れている人間をジョーカーでもないのに倒しているらしい。

 怖い怖い。だけど今は頼もしいね。

 そして、俺も立ち上がり、屋上から去ろうとした。立ち上がった時、一瞬身体と頭に痛みがあったが、どうやら大丈夫そうだ。

 出口に近づき、ドアノブを握ろうとする、しかし、おかしなことにドアが勝手に開いた。

 あれこのドア自動ドアか?

 そんなことを思っていると。

「咲夜の奴どこにいちゃったんだよ」

 そう言って、恐らく俺と同じようにはぐれた人間を探しに来たのであろう男と出会った。

 ツイてない、そう思って、とりあえず相手との距離をとった。

 男は髪の毛をツンツンに尖がらせて、やけに長い学ランを着ていた。いわゆる高校デビューみたいな格好だった。

 ……誰だこいつ?

 まず始めに相手の顔をみて思ったことである。どうやら、昨日買った雑誌に載っている、序列百位までのランキングには入っていなさそうだった。

「うお、敵かよ。しかも、もしかしてアンタ神乃天下じゃね。まじかよ。序列一位におとといなった人っすよね」

 俺も有名になったもんだ。どうやら、相手は俺のことを知っているらしい。

「違うよ」

 とりあえず嘘をついておいた。うん。深い意味はない。

「間違えるわけないっすよ。あの五年ぶりの女子序列一位、更に言えば天武学園初めて女子で二年時の段階で序列一位になった神童である天上葵を一発で倒した、遅れてきた天才っすよね。新聞部の号外に学生証の写真で大きく載ってましたもん」

「えっ。学生証の写真使われてたの」

 まじかよ。ただでさえ、残念な顔なのに学生証の顔なんて残念度が五十パーセント増量されるだろ。ていうか、誰でも学生証の写真って手に入るのかよ。もうやってられんな。

「いやはや。最高の相手っすね。現在序列一位のあんたを倒せば、華々しいデビューが飾れるぜ」

「一つだけ聞いていいか。現在のお前の序列いくつよ」

「俺は現在千位です」

「何年生?」

「一年っす」

 ちなみに、一年でも序列の上位に入るやつはいる。一年の序列を決めるのは、入学式である。例年ボコボコの乱闘事件の中で、序列選考委員会が一年を含めた全校生徒の序列をとりあえず決める。そして、会長戦でほぼその一年間の序列が決まる。まあ廊下で毎日のように序列を賭けたバトルがあるが、変動は微々たるものである。

 そして、現在の学園序列最下位である彼、俺も学年では最下位だったが、学園全体の序列では最下位では無かったのに。

 俺はとりあえず負けはないと思った。

「じゃあ、もう質問はないっすか? ないならやりましょうぜ」

「もう一つ。名前は?」

神風かみかぜ なぎっす」

「神風が吹かないのか。悪い名前だな」

「ほっといてください」

 どうやら、そこには触れてはいけないらしかった。彼は少しいじけ始めた。

「いいすよね、先輩は、天下なんて名前かっこいいっす」

「はぁ~! どこがだよ」

「神乃天下なんてむっちゃかっこいいじゃないっすか!」

「この名前はな、神の治める天界の下にいる人。つまりただの人間を表すの」

「嘘だ!!」

 まあ、親に聞いたことないけど、天下なんて名前、そうでも思わないと名前負けしまくってるだろ。

「まあどうでもいいだろ。ほら一年生かかってこい」

「ラジャー!」

 手で来い来いとするとまっすぐに向かって、拳を振り上げて俺に向かってきた。

 おそい。

 さっきまでの空手兄妹(兄)のほうが、千倍ぐらい速いと思わせるほど、遅かった。まるで街のチンピラ程度の攻撃だった。

 俺は彼のパンチを受け止めようともせずカウンターで顔面めがけて蹴りを撃った。

 すると綺麗に顔面に攻撃入って、彼はパンチをやめて、後ろに下がった。顔を見ると鼻血が出ていた。

 もしかして、序列どうり無茶苦茶弱いのか?

 そう思えるほど彼のパンチにキレを感じず、反応も悪かった。

 だが、彼は鼻血をぬぐうとまた向かって来る。こんどはボクシングのように腕で顔をガードをしながら。

 彼は左手のジャブを二発放つが、全てかすりもせず俺が避けた。そして、左手が当たってもいないのに右での大ぶりのストレートが放たれる。俺はこの攻撃を一歩前に出ながらかわし、相手に背を向け、通り過ぎた凪の右手を掴み一本背負いをする。そして倒れた凪の顔面を思いっきり蹴りあげた。

 コンクリートに叩きつけ、顔面への蹴り。ほぼ完ぺきに決まった。本当ならもう動けそうもないはずだが……。

 彼は立った。どうやら、相当タフらしい。

 はは、正々堂々ね。

 俺は左手にもった刀を地面に置いた。

 自分より格下と戦ってわかった。お前ら自分が強くて、自分より弱い敵としか戦ったことないから正々堂々なんていうんだな。確かに自分の方が強いと思える相手だと、少しフェアプレーの精神がわかるね。

 じゃあ俺も武器も使わず正々堂々と戦ってやるよ。自分より大分格下だけどな。

 相手はふらふらしながら、こちらに向かって来る。また同じように、ただのパンチ。受ける必要もない。首の動きだけで、相手のパンチをかわし今度は、俺がボディーに三発打ち込む。そして、腹を押さえて苦しみながら頭を垂れる頭に追撃の一発。地面に膝をついて苦しむ彼の腹に止めのトゥーキックを入れて、彼が転がっていく。

 この学園に入って初めて、敵をボコボコにしていた。自分が強いんじゃないかという錯覚と弱者をいたぶる陶酔感を味わっていた。

 なるほどね。確かに気持ちはいいかもね。いじめが無くならない理由がよくわかる。

 でも彼はそれでも立ちあがった。口元から、血を流しながら、そしてせき込みながらこっちを見てきた。

 彼はボコボコにされていても目は死んでいなかった。それどころか信じられない一言を言う。

「もうそろそろ本気でいってもいいっすか?」

「へぇっ!?」

「だって最初から本気だと、先輩が活躍するシーンが無いだろうと思って、それと俺結構タフなんで、少々の攻撃なら大丈夫ですし」

 手加減ってまじかよ。そんなことして、なんの意味があんだよ。意味わかんねーよ。

「でも先輩って結構えげつない攻撃するんですね。もうちょっとで俺死んじゃいますよ。見た目から、気絶狙いで顎狙いの一発で終わらせるタイプのやさしい人だと思ってましたよ。なにかやな事でもありました?」

「うるさい!」

 相手の言葉に耐えきれず叫んだ。なんだよ。あの余裕。やっぱり自分の方が強いからあんなセリフがいえんのか? 何なんだよ。あー、むかつく。少しくらい俺をいい気分のままにしとけよ。

 今度は俺から仕掛けた。左手であいつの顔面狙ってぶん殴りに行く。

 だが、その攻撃は相手の右手の甲で弾かれ軌道がそれる。そして彼は拳を掌にして脇腹に当てる。

「我流、『春風』」

 彼が叫び足を地面にめり込ませるほど踏み込んだ。

 瞬間俺の体が宙に浮く。そして、弾丸が如くスピードで吹っ飛び、屋上のフェンスに叩きつけられ、フェンスが大きく軋んだ。

 フェンスのおかげで落下は防がれたが、自分の体の形にそってフェンスが大きくへこみ、その上、金網がところどころ破れていた。

 もしこれがフェンスでなくコンクリートの壁なら俺は木端微塵だったろう。俺は打ち込まれた脇腹を押さえながら思う。

 骨にひびでも入っているのか息をするだけで鋭い痛みが俺を襲う。やっちまったね。完全に後に響く怪我だ。

 ふらふらと足元がおぼつかない状態ではあったが何とか立ち上がり、目の前の凪を見る。彼は頭に手を当ててなにやら悔やんでいた。

「失敗した」

 はぁー! なんて言ったよあいつ。

「何が失敗したんだよ」

 脇腹を押さえながら俺が聞く、彼はこっちを向きながら説明してくれる。

「俺の技ですよ。ホントは俺の技は完璧に入ると、相手はその場でぶっ倒れるんですよ。逆に相手が飛ぶってことは、技の威力を完全に相手に伝えきれてないってこと何っすよ」

 まじかよ、俺がこんなに痛がってんのに、あれでカスあたりなのかよ。

 本当は良く考えればわかるはずである。会長戦に初参加である一年がこんな時間帯まで生き残ってるてこと自体、本人に実力がなければありえない出来事であると。

 けれど、俺は前の戦いのことを引きずっていて、相手の序列を聞いて、一年との戦いで優位に立っていた。これらのことが俺が気付かなければいけないことを全て忘れさせていたのだ。

 ふふ、そうだよね。まともに俺が戦って勝てる相手がこの学園にごろごろいるわけないよね。

「お前ってさ、どうして序列最下位なんだよ。いまの技の威力なら、いいとこ目指せるだろ?」

「それはっすね、俺入学式に遅刻して、俺が行った時には、乱闘が全て終了してたんすよ。そんで、最下位っすよ。でもっすね、この会長戦で優勝すれば、序列一位じゃないっすか、最下位から一位なんてインパクト十分じゃないっすか。だから一ヶ月間序列最下位のままでいたんすよ。そしたら、おととい、序列九百九十位の先輩が序列一位でしょ、なんか、インパクトは薄れちまった気がするんすよ」

「そいつはわるかったね」

 俺は再び拳を構える。刀が手元にほしいところだが、刀を手放したところと現在位置は離れすぎている。取りに行った瞬間狙われる。

 凪もこちらに近付いてくる。ゆっくりと、素手のままで、そして互いに己の拳が届く距離になる。

 凪はすでに手は掌の形になっている、どうやら本気らしい。そして俺はもう一発でもあいつの攻撃、たとえ、カスあたりだとしても耐えられるとは思えなかった。

 俺は先ほど攻撃をあっさりと流され、カウンターを喰らっているから、自分から動く気はなかった。ただ、拳を構えて相手の出方を見る。

 しかし、相手も手を出さない。互いに石になったように動きを止める。

 ただ、その間も俺は腹の痛みをしっかりと感じていた。自らが冷静に戦おうとすればするほど、痛みは思い出したように襲ってくる。

 息をつきながら、相手の出方をずっと待つ。額に痛みからか緊張からかわからないが汗が噴出し、それが地面にたれ始めた頃、痺れを切らした相手がようやく手をだした。

 掌底は今度は俺の顔を狙ってきた、だが、スピードは本気を出す前とあまり変らない。つまり割とあっさりと俺はかわせた。

 少々気が抜ける。かわしたあと、相手に反撃することを忘れるほど。攻撃をかわれた彼は連続で今度は腹に向かって掌底を繰り出す。ただし、今度はきっちりと対応する。その場で俺はしゃがみこみ彼の掌底をかわし、背を向けて彼の腕を捕まえもう一度一本背負いをする。

 ただし、こんどは地面に向かって投げるのではなく、すぐ後ろにある。俺が張り付いていたフェンスに向かって。

「ぐぎゃ」

 フェンスへ投げられることは予想していなかったのか、妙にマヌケな驚く声が発せられる。

 彼は上下逆さまに、頭が地面で、足が天に向かって、フェンスに張り付く。そして俺はすぐさまフェンスに向かって走りドロップキックを打ち込んだ。

 無論、凪に向かってではない、あいつはコンクリに叩きつけ蹴り飛ばしても踏みつけても平気だった、そんな男に俺のドロップキックが聞くとは思えない。俺が蹴ったのは、フェンスを支える、ポールだった。

 メキメキと不気味な音を立てて、フェンスをつなぐ金具が壊れる音がした。そして俺はもう一発フェンスを蹴る。すると完全にフェンスは壊れ、片方のフェンスが、空中に向かって宙ぶらりんになり、もう片方のポールでフェンスを必死に支えている。凪は空中に宙ぶらりんになったフェンスにぶら下がるだけの状態になった。

 両手でがっちりとフェンスを握る凪だが、屋上の目の前には俺がいた、こちらに飛び掛っても、彼を叩き落すぐらいは簡単にできる。フェンスを伝って助かろうとすれば、今も軋んだ音を立てている、フェンスを破壊すればいい。彼が四階から落ちても大丈夫なほどタフかどうかは知らないが、とりあえず目の前の恐怖は去る。

「ひぃぃー!!」

 彼は下をみておびえたような声を出す。どうやら彼も屋上から飛び降りても平気なわけではないらしい。

 さあ、最後通牒をつきつけようか。

「凪、ここから落ちたくなかったら、負けを宣言しろ。そしたら、俺が赤ん坊を抱き上げるように優しく助けてやるぞ」

「まだ、俺は負けてない」

 凪はおびえた表情を一瞬で改め、こちらに向かって戦意十分でほえる。

 俺は、フェンスを蹴った。当然フェンスがゆれ凪も再びおびえた表情になる。そして何より、フェンスを支えている金具が不気味な音をひびかせながら、徐々にフェンスを支えられなくなって、地面に向いて傾き始めていた。

「あんまり話す時間もお前を説得する時間もなさそうだ。さっさと選択しな、助けてもらいたいのか、死ぬかも知れない目に遭いたいのか」

 彼はしばらく黙り込む。そして、五秒ほど悩んで、出した答えは、

「負けは認めない。俺のパートナーも一生懸命戦ってんのに、俺が簡単にあきらめてたまるか。先輩、残念ながらあなたの望んだ結末にはならないよ」

 だった。

 いいね。その正義の味方みたいな、物語の主人公みたいな台詞。

 俺は大きく笑った。声をあげながら。

「いいね。かっこいいね。気にいったよ」

 そういって俺は壊れたフェンスにゆっくりと近付く、彼は覚悟を決めたのか、目をつぶった。

 俺はフェンスをゆっくりと校舎に向かって引き寄せた。

「えっ!?」

 落とされると思っていた彼は驚き大きく見開いた眼でこちらを見た。驚きと戸惑いがあった。

 そして、近付いたフェンスにぶら下がった凪に向かって手を差し伸べる。彼は戸惑いながらその手を握った。

「どうして?」

 再び屋上に立った彼は俺に聞いてくる。

「そうだな、お前と契約がしたくなった」

「なんすか。助けてもらっても仲間にはなんないっすよ」

「いや、会長戦の間は別にいい。あのな、凪、お前との戦いに俺が勝ったらお前俺の舎弟になれ、それとお前の技教えろ」

 面喰らったのか、凪は口をパクパクと動かしてはいるが、言葉を発していない。

「なんっすかそれ!」

 ようやくでた言葉は信じられないという台詞だった。まあそうだろうね。この学園って自分より序列低い人間全員が舎弟だしね。

「いやはや、俺がもし序列最底辺に戻っても、ずっとこき使える舎弟を一人くらいほしくてね」

「先輩馬鹿なんすか!?」

 まあそんなに突っ込んで聞いてくるなよ。単に屋上から突き落としてお前が死んだりするのが怖かったから助けただけなんだから。

 俺は凪と距離をとりながら離れ転がっている自分の刀を拾う。そして、柄のトリガーの部分に指を突っ込んでくるくると回す。

「まあさっきの話はこの場で俺がお前に勝ったらの話だから。嫌なら全力でかかって来いよ」

 そういうと、彼も構える。どうやら目は真剣、助けてもらったことなど、頭のどこかに飛ばしている。

 うん、それでいいよ。そのほうがやりやすいしね。

「なあ、これは推測なんだが、お前の技ってカウンター専門なんじゃないのか、というよりお前の攻撃のスピードが遅すぎるだけかも知れないが。たぶんお前の勝ちパターンは、相手からの攻撃を誘って、それを受け流してできた隙に、お前の技をぶち込むってやつだろ。ていうか、お前の攻撃のスピードがあの程度ならそうでもしないと当たらんだろ」

 刀をぶんぶん回しながら俺が喋る。隙を作って誘っているのだけれど彼からはまったく動かない。俺の言葉も難しい顔をしてだんまりを決め込んでいる。

 どうやら図星らしい。

 俺は刀を回すのをやめて、左手でしっかりと鞘を握り締めた。

「オーケー、心配するなよ。今度はこちらから攻撃するから、きっちりと反応して、俺に一撃を叩きこもうとしてみろよ、反応できたらな」

 そして、俺は全ての力を抜く、手の、足の、腹筋の、背筋の、首の、頭の。

 当然ながら脱力しきった体は立っていられず、気絶したかのように俺は倒れようとする。凪も慌てたような顔をしている。

 馬鹿。ちゃんと反撃しようとしないと終わるぞ。


 最速のパンチを出すときにもっとも不必要なのが、腕の『りきみ』である。筋肉というのは、事前に力をいれていては本来の力を出すことは不可能である。

 ゆえに『天剣』という無天流の最速の居合いはまず全身の力を抜くことから始まる。全身のありとあらゆる力を抜き、一瞬にそれらを順番に効率よく爆発させるのだ。

 相手よりも早く動き始め、相手よりも速く動き、相手よりも疾く攻撃する。ただはやさのみを追求した、攻撃それが『天剣』だった。


 眼前に地面が近付いたとき俺は、そこで初めて脚を動かす。事前にイメージしておいた、普段ならとても脚が付いてこないであろう自らの限界を超えた動きを。

 そして、凪との五メートルの間合いを一瞬、いや、刹那で詰める。

 地面を這うように迫った俺は体を起こしながら、刀の柄に右手をあて、トリガーを引きながら刀を抜く、刀のそりと鞘を十分に利用しながら、相手の顎を狙って俺はリラックスしていた右手を筋肉が引きちぎれるほど、疾く疾く。

 凪はその間時が止まったかのようにまったく動かない。というより、俺が速すぎて、ついて来れないのだが。

 刀は凪の抵抗を受けるわけでもなく、難なく彼の顎を横に薙いでいく。顎を正確に打ち抜かれればいくらタフなあいつでも倒れるだろう。

 彼の顎を正確に薙いだ刀を俺はすぐさま鞘に納める。

 カチンと刀を納める音とともに、時が元のスピードにもどったような感覚を味わいそして、ドサっという音を立てて凪が倒れた。

 どうやら戦いは俺の勝利らしい。まあ初見で天剣を止める奴なんていないと思っていたから、ある程度安心していたが……。

 俺は大きく息をつき、それと同時にわき腹の痛みを思い出す。

「舎弟になったからにはこき使ってやるよ」

 倒れている凪に、捨て台詞を履きながら、俺は屋上のドアを今度こそ出て行くために開ける。

 そして、そこには、かわいらしいツインテールの先ほどまで鬼ごっこをしていた、双鐘恋がいた

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