開幕
遠足前に眠れなくなる、なんてものとは、俺は無縁だった。寝過ぎて遅刻したことはあったが……。
だから、今日もぐっすり寝て起きたら、丁度いい時間だった。そう、六時に目覚ましをセットしてあったのに、俺が目を覚ましたのが八時十五分でも。
うん、いい時間じゃないか。ゆっくり、着替えて飯食って歯磨いて、歩いて行けば……九時十分。余裕でアウトじゃねーか!
俺は即行で着替え、トイレをして、朝食のパンを咥えて、刀を持って、靴を履いて全速力で駆けだして行った。
落ち着け天下。こういう時、焦ってる時ほど面倒なことがよく起きるんだ。走っていけば、二十分で着く。そうすれば八時五十分で十分OKだ。
この時の俺は、最強に冴えていた。角から飛び出てくるパンを咥えた美少女を華麗にかわすことで「ちょっと気をつけなさいよ」と主人公に絡んでくる勝気な美少女との出会いを絶ち切り、キョロキョロしている幼稚園の女の子がいると、近くにいる母親風の女性に「娘さん迷子になってますよ」と言って即行で解決することで、幼女と一緒に母親を探して「お兄ちゃんありがとう」といわれるイベントを回避し、後ろから来るひったくりを自分を追い越す前に裏拳で一発で気絶させ、犯人を追いかけまわすという出来事もキャンセルした。
その甲斐あってなんとか、予定どうりの時刻に到着した。
入口では首輪を配っている。
どうも最後の参加者らしき俺は、ひったくるように戦挙委員の奴から首輪をもらって、即座に装着し、葵ちゃんの教室へと移動する。
するとすでに教室は序列の上位者が、開始を今か今かと待っている。当然全員葵ちゃん狙いである。やはり、現在の序列一位でなくても、十分に獲物として魅力的らしい。
「遅いよ。もう」
葵ちゃんは俺をみるとほっとした顔をして、俺に言う。
すると教室にいる全員が驚いた顔をして、俺の方を見ている。
「まさか、天上のパートナーはあの男か」
「誰だあれ」
「この前、天上に勝った奴だよ」
「まじでか」
「強いのか」
「いや、不良にパシリにされてたぜ」
「そんな奴と何で?」
様々な言葉が行きかう。その隙に、俺達は窓側に進む。できるだけ敵を背にしなくてもすむようにしたかったのだ。
本人に丸聞こえの噂話はしばらく続いたが、校内放送が始まり全員が一瞬で静かになった。
「えー、はわわ。マイクテス、マイクテス。これより、学園長から生徒会長決定戦挙の開幕を宣言してもらいます。学園長どうぞ」
「えっ、これ、もうマイク入ってるの? ちょっとキミ、マイク渡す時はオフにしてから渡してくれないと困るよ」
緊張感ゼロの声が聞こえる。生徒全員がズッコケる。
「えー。みなさんにこれから、殺し合いをしてもらいます」
ありきたりなセリフをおちゃめな学園長が喋る。
ちょっとは自重してくれ、学園長。確かに首輪をしてるから、まんまみた目がそれだから、言いたくなる気持ちはわかるが。
アウトかセーフかで言えば、ファールだから。
「ごめんなさい。間違えました。ジジイちょっとはしゃいじゃった」
歳を考えろよ、爺さん。
「では、気を取り直して。これより、会長戦を始める。皆の物、今までの鍛錬で得た力を存分に振るえ。では、始め!!!」
その一言で、全員いきなり、表情を引き締める。そして、まずは隣にいるもの同士で潰しあわずに、目先の獲物である葵ちゃんに全力で襲いかかった。
俺はと言うと、葵ちゃんの後ろに隠れてやり過ごそうとする。当然、俺を狙って来る奴もいたが、攻撃そのものは大したことはなかったので、回避に専念し、葵ちゃんに全て任せた。
なんてことはない、集まっていた連中は大したことのない連中ばかりで、葵ちゃんが簡単に倒していく。近くの敵はそのまま刀を振るって倒し、気を使った攻撃をしてくる奴らには、一瞬のタメで練り上げた気を倍返しでぶつけて粉砕していく。昨日見た雑誌に載っている優勝候補たちが面白いぐらい簡単に失格になっていった。
正直、始まる前までの心配が馬鹿らしく思えるほどだった。
けれど、日頃の行いが悪いのか開始から五分もしない内に俺の考えは変わることになった。
ガシャーンと派手にガラスが砕け散る音が教室中に鳴り響き、敵がロープを使って外の窓を突きやぶりながら、教室へ入ってきた。敵は十数人、全員アサルトライフルを持っており、彼らの得物は一斉に火を噴いた。
窓際にいた俺は突入してきた射撃部連中に蹴っ飛ばされて、葵ちゃんのすぐ近くまで転がった。
動転する頭と心臓を落ち着かせ、立ち上がって現状把握に努める。
銃撃を行う彼らの背後にぶら下がっているロープを見ながら考える。どうやら敵は屋上からロープを利用し窓からの奇襲をかけてきたらしい。そして、目の前の連中が何部か、彼らの手に握られたアサルトライフルをみて理解する。
連中は、射撃部。この学園で唯一銃を中心に使った部活動である。
銃という、人類の開発した最強の兵器は、こと、この学園ではあまり重宝されなかった。この学園の人間は、銃撃されても武器などで割と簡単にかわせ、そのうえ、銃弾は有限である。つまり、リロードという戦いの中では致命的な隙がある。
さらに、この学園で使用できる銃弾は、実弾ではなく特殊ゴム弾である。当たり所が悪ければ気絶するほどの衝撃を与えられるが、武道の達人が簡単に急所に弾を当てさせるわけもなかった。
だが、集団戦になれば、そのうえ、きちんと訓練されていれば、話しは変わってくる。リロードの瞬間を他の人がカバーし、二人がかりで、撃破する。まさに、悪魔の戦法だった。
「天下くん大丈夫?」
「大丈夫じゃないです。どうにかして、逃げれない?」
葵ちゃんを囲んでいた連中は射撃部の斉射によって悲鳴を上げながら倒れていく。
周りに人がいっぱいいる内に何とかして状況を改善しないといけない。とりあえず脱出することを葵ちゃんに勧めた。
「OK。天下くん。逃がしてあげるから、しばらく頑張ってね」
彼女は俺の言葉を聞いて、頼もしい台詞を俺に向かって答える。だが、なんとなく、俺は嫌な予感しかしなかった。
「えっ、あの、どうやって!?」
「光になーれ」
そう言って彼女は、刀を振りかぶる。無論俺に向かって。
俺は事態が飲み込めず、彼女の四番バッター顔負けのフルスイングを俺は自分の刀で真正面で止める。だけど止まらない。
俺は窓に向かって豪快に、さながら場外ホームランのように吹っ飛んだ。
俺は窓から入ってきた射撃部を三人ほど巻き込んで、窓の外にはじきだされる。
ちょっと待てよ、確かに教室からは脱出できたけど、ここって三階じゃねーか!
水平に飛んでいた体はすぐさま重力に導かれ、俺は地面へと落下していく。
「死ぬー!」
俺は窓の向こうの彼女に怨嗟を込めてさけんだが、彼女は俺に手を振って「がんばって」って言うと、更にカオスな状態になった戦場で刀を振るいにいった。
消えゆく彼女の姿をみて、今日もう一度再会できるがどうか不安になりながら、地面に落ちた。
結論から言うと俺は、無傷で着地できました。一緒に巻き込まれてくれた三人が肉のクッションとなって、見事に着地できたのです。クッションとなった人間は着地の衝撃で、みんな気絶しており、あの絶望的な場所から俺は見事に無傷で脱出できたわけです。
そこまで考えて、あの人は俺をブッ飛ばしたわけじゃないよね?
俺は彼女の大胆な行動を思い返しながら俺は立ち上がってその場から逃げようとする。かなり目立つことをしたし、人が集まって来るかもしれない。
だけど、チャキという、銃を構える音が聞こえ、俺が振り向いた時、もうすでに十人ほどの人間が俺に向かって銃を向けていた。
「うごくなよ。手を挙げて、その場で負けを宣言しろ」
勘弁してくれ、開始早々どんだけついてないんだよ。教室から死を覚悟するダイブを見事成功させたのにごらんのありさまかよ。
大勢に囲まれながら、自分の運の悪さを呪う。
銃を構えた十人は迷彩服を着ており、リーダー格の男は軍帽をかぶっていた。
「お前らも、射撃部か?」
「いや、違うが」
「なら何部だよ? 俺は射撃部以外に銃を使う部活動を知らないぞ」
「なら、教えてやろう。私たちはサバイバルゲーム同好会だ」
「同好会!?」
「そうだ。それもかなりマイナーな。だが我々は、キミの存在をよく理解しているよ。序列一位の神乃天下くん」
やばい、手も足もでない状態で向こうは俺を倒す気満々である。
「キミを倒せば、我々の名前を上げることができる。我々も日陰ものの名前を返上できるのだ」
「へえ、俺にそんなに価値があったんだ。で、誰が俺を倒すんだ?」
「フン。キミを誰か個人が倒せば、功績が部ではなく、個人の物となるだろ。ゆえにキミは自分で負けを宣言するのだよ」
なるほど、個人の序列の順位が上がることより、部全体を評価されるほうがいいってことか。
「へえ、あんたは組織全体の事をきちんと考えてるんだね。手柄をよこどるのではなく、自分も含め分け与える。素晴らしい考え方だね。だけど、俺は、自分から負けは認めないよ」
「何!」
「だから、序列を上げたい奴が、進んで俺を撃てばいいよ」
俺は賭けに出る。まだ、この会長戦が序盤なればこその、賭けだった。
リーダーの男は悩んでいる。そう、この場で、誰かに俺を撃たしても、自分が俺を撃っても、この組織のこれからがギクシャクするのが目に見えている。序列一位を倒すという栄光は誰か一人しか手に入れられないのだから。
そのうえ、目の前にいる組織が射撃部のように、会長戦で後半まで生き残れるほど、強そうでも、よく訓練されているとも思わなかった。
恐らく今回の会長戦で一番の宝物を手に入れたけれど、彼らはその宝を扱い損ねているのだ。
ゆえに次の俺のたわごとを聞かざるを得なくなる。
「あんたらさ、正直な話、この会長戦最後まで勝てると思う?」
「それは……」
どうやら、馬鹿じゃない。自分たちの力をきちんと理解している。
「なら、あんたらは俺を撃つしかないね。それしか、今回の戦いで名を上げる功績はない」
「そのようだ」
男は、顎から手を話し、腰に下げているホルダーからリボルバー式の拳銃を取り出す。
ヤバい、煽りすぎて、覚悟を決め始めている。
でも、慌てるわけにはいかない。慌ててうえでの、口から出まかせだと思われたら一巻の終わりである。二巻に続かないね。
「だが、あんたらの名前を上げる機会は失っても、あんたらのサバイバルゲーム部全体の利益になる可能性があるとしたら」
俺はほんの少し声のボリュームを上げて話しだす。
「失格になると思って、口から出まかせを言い始めたか」
嘲笑しながら、リボルバーを俺に向ける。
「生徒会長の特権を知ってるよな」
「序列一位、部活動費などの運用権限などだな」
「俺と協力してくれたら、そうだな、しばらくの間この会長戦を一緒に戦ってくれたら、お前らの部費を三倍にしてやるよ。たしか、同好会もきちんと活動していれば、学校から資金を提供できるはずだな」
「そ、そうだが」
リーダー格の男の後ろにいる連中は、三倍というセリフに反応し、軽くうき足だっている。
リーダー格の男自身も軽く動揺している。
「もちろん、成り上がりの序列一位が、こんなこと言っても本当に生徒会長戦に最後まで、勝てるかどうか信じられないだろうから、もうひとつ、教えてやるよ。俺のパートナーは天上葵だ」
「本当か!」
食いつくように俺に聞いてくる。
俺は頷く。
「さあどうする。俺なんかを倒しても、この中の一人の学園生活での待遇が良くなるだけだが、みんなで俺に協力してくれれば、全員がハッピーになれるかもしれないぜ」
「この場で逃げるための方便ではないという証拠は? この戦いで勝ち抜ける、勝算はあるのか」
「証拠なんてない。だけど、逃げるためだけなら、普通あんたらに、協力しろ何て言わないと思うぜ。『逃がしてくれたら』って言うだけでいいんだから。 勝算についてはあまりない。あったら、開始早々、あんたらにつかまったりしないしね」
ここで、リーダー格の男が、嘲笑ではなく、普通に声を出し、腹を抱えて笑いはじめた。
「OK。神乃くん。キミのことが気にいった。キミに賭けてみよう」
そして、全員が銃をおろし、男が目の前まで近づき握手を求めた。
「鬼宮 心人だ。同好会のメンバーからは、軍曹と呼ばれている」
「よろしく、軍曹」
そうやって、今回の戦いで、俺はようやく待望の仲間を得た。まあ、実質会長戦が始まって、序盤の序盤のため、全く持って、気を緩めるわけにはいかないのだが。
とりあえず俺は、軍曹からこの場から、離れる事を提言した。ろくな戦闘も行っていない参加者と一箇所にとどまって隠れている人間に差し向けられる、ジョーカーが怖かったのである。
人数は増えたが、戦力が倍増しているわけでもない。多くの人間が火薬を使って撃つ銃が初めてらしく、そのうえ、戦いそのものが、苦手だという奴までいた。
どうして、この学校に来たんだよ……。
「天智学園と間違えました」
俺とおなじかよ!
彼らに、二人で一人の人間を効率よく倒せというアドバイスをおこない。校舎を目指し、歩いて行った。校舎を目指したことに深い意味はなかったが、物陰から攻撃できるように、外に比べれば物が多い校舎内を選んだ。
懸念事項は、校舎内部で訓練された射撃部と出会うと恐らく全滅、大人数で活動している部活動グループなどに出会うと、二人で一人を狙う作戦の成功率が下がるので、全滅する確率が高まるということだった。
不安を募らせて歩いていると、急にけたたましいエンジン音が聞こえた。
「ヤバい、総員植え込みのなかに行け」
軍曹の一言で全員が慌てて植え込みへと逃げ込む。
「一体何が始まるんです!」
事態をあまり理解していない、サバイバルゲーム同好会の新人が軍曹に聞く。
「大惨事だ」
軍曹の代わりに俺が答える。
今まで、会長戦はすぐにリタイアするだけの存在だったがこれだけは知っている。
爆音と共に、何十台ものバイクが、さっきまで俺達の通っていた道をすさまじい勢いで通り過ぎ、「ヒャッハー!」と叫びながらコーナーをドリフトしながら走り抜けていった。
「何あれ……」
恐らく今年入学したであろう連中は全員口をあんぐりとあけ、呆然としていた。
その暴走するバイクに驚いていたのではない、搭乗している人間にビックリしているのだ。ライダーは全員肩にとげパットをつけ、髪型をモヒカンにして世紀末ヨロシク、なカンジで走り抜けていったのだ。
ちょっとした仮装大賞である。
「あれは、二輪研究部だ。毎年会長戦で耐久レースをおこなって、誰が一年間部長をするか決めるんだよ」
「いや、それよりあの衣装……」
「あれは……わからん。きっと、二輪研究部は世紀末なんだよ」
バイク集団は新入生に天武学園でのカルチャーショックを与えた。ただ、エンジン音が聞こえたら、隠れればいいだけなので、俺達は簡単に彼らをやり過ごした。
ちなみに、一年生の時、俺は彼らに踏みつけられて、会長戦をリタイアした。その時のセリフが
「あいたたたたたたたたたたた…………(人生が)終わった……」
である。補足しておくと、たの数だけ身体の上をバイクが通過していきました。まじトラウマです。
そうした、いわば会長戦の名物を見物したのち、俺達は割れた窓から校舎内へ侵入した。それと同時に敵に出会う。
敵は二十メートルほど先の曲がり角から顔を出した。
格好はまるで新撰組のような目立つ紺色の羽織をしており、全員が腰に刀を差している。
「最悪だ」
そう軍曹がつぶやく、目の前にいる敵はこの学園内でも有名な武闘派集団「真剣組」だった。
この学園には、剣道部がある。しかし、普段の彼らは竹刀を使用し、剣道のルールにのっとりながら鍛えている。だが、普段から真剣を使用し、より実戦的な鍛錬を行う連中もいる。それが真剣組。部員十四人全員が序列五十位以内にランクインしており、リーダーは序列十位の化物級の実力である。
連中はこちらに気がつくと、まず一人が高速で一直線に飛び出してくる。そいつにビビった新人君が、手にもった銃を乱射する。
だが、ビビっている新人君の銃弾は当たらず、銃の反動で銃口が上を向いているのに、構え直しもせずにただひたすら、乱射する。
トリガーハッピー状態である。
恐怖におびえただひたすら、乱射する新人君だったが、以外に早く彼の恐怖は終わりを告げた。飛び込んできた男にあっさりと斬撃を打ち込まれ気絶させられたのだ。新人君は気絶して、ようやくトリガーを離し、あたりに静寂が漂った。
飛び込んできた男は、昨日読んだ雑誌に載っていた、序列十位の真剣組リーダーの「近藤 誠」だった。
次に近藤はこの中で唯一刀を持っている俺に目をつけ飛び込んできた。それと同時に真剣組の連中も雄たけびと共にこちらへ向かって来る。
俺は手に持った鞘に入ったままの刀で近藤の真一文字に振るった斬撃を受け止める。
「チッ」
近藤は小さな舌打ちをすると。彼は俺達の集団の背後に向かって飛び、俺達を挟撃できる場所に立つ。
久々の実践で俺も反応できるかどうか不安だったが、どうやら目は相手の動きについていっている。
序列十位相手の攻撃を受け止めれたことで、ほんの少しだけ、ブランクについては安心した。
「軍曹、こいつは俺が何とかするから、みんなで他の奴らを止めろ」
「止めろと言われても、普通に撃ってもあいつらには通用せんぞ」
「スモークを使え!」
俺の叫びで、ようやく同好会メンバー達は銃を撃ち始める。だが、銃弾を真剣組の連中はあっさりとはじき、またはかわしていた。だが、軍曹がスプレー缶のようなものを投げ込むと事態は一変する。
あたりに煙が立ち込め、ほんの十メートル先も見えなくなる。
「撃てー!」
そんな状況で軍曹が叫び、それと一緒に全員が銃を乱射する。
そう乱射でよかった。狙い何てつけなくてもいい。ここは、狭い廊下で逃げる場所はほとんど無く、中途半端にこちらに向かってきたため、来た道を戻るのも難しい。
そして、何より今まで簡単に行っていた、銃弾をはじくという行為が視界がゼロになったことによりできない。何にも見えない世界で彼らは、一方的にいたぶられることになる。
「グハ」
何にも見えない中で、苦しむ声が聞こえる。どうやら、見事に銃弾をくらっているようであった。
「貴様ら」
「どうした、早く来いよ。お仲間が全滅するぜ」
目の前の男は怒り、俺の方向を睨めつける。
ザコはなんとかなったが、こっちがまだか。
彼の首輪をみたが、警告音鳴っていない。どうやら、彼のパートナーはまだリタイアしていないらしい。
しゃあない。相手をしますか。
俺の挑発で彼はすぐさま動き、こちらへ攻撃してくる。
今度は上段からの振り下ろしだったが慌てず、左手で持った刀で相手の斬撃を斜めに受け流す。
そして、手首を返して、刀の柄で相手の顔面、眉間に目がけ打ち込むが、これは首をひねってかわされる。そして、受け流した刀を返して、もう一度攻撃してきた。
この攻撃は俺が後ろへ飛んでかわそうとした、だが、さすが序列十位、想像以上に速い攻撃をかわしきれず胴に受けた。
痛みはあったが、カス当たりで行動に支障はでなさそうだった。
だけど、さすがに一筋縄ではいかない。俺の一撃は確実に入ったと思ったのだが。
「なかなかやるみたいだな」
こちらに向かって声をかけてくる。
「そっちは、あんまり大したことなさそうだな。序列十位だから、身構えてたけど、全然勝てそうだ」
心のなかでは、序列十位の言葉はすごくうれしいのだが、いかんせん、相手に冷静に戦われるとこちらが不利である。がむしゃらに攻撃してもらうために、俺はわざと相手を挑発する。
「そうかい。なら、本気でやってやるよ」
けれど、俺の行動完全に裏目だった。目の前の彼は、さっきまでのスピードの三割ましでこちらに、攻撃してくる。
俺はカウンター狙いだったわけだが、とてもカウンターなどできるスピードではなく、後ろに飛ぶ。
そして、新人君の倒れている場所まで押しこまれる。そこまで行くと、仲間が銃を撃っている場所はすぐ背後だった。そのうえ建物の内部でスモークを使ったため廊下全体に広がり始めており、視界がかなり悪くなっていた。
ここで止めないとみんなやられて終わる。
そう思い、相手の攻撃を待つ。次で終わらせる決意を持って。
近藤はそのまま俺を押し切るるつもりらしく、すぐさま近付き上段から高速で振り下ろす一撃を放つ。
俺は刀を横に寝かせ、相手の攻撃を両手で止める。そして、近藤の顎目がけて足を振り上げる。
だが、相手はあっさりとバックステップで回避する。
「ありがとよ」
俺は小さな声で新人君に呟く。
今俺がしたのは、蹴りではなく、新人の銃の肩に架けるストラップを足に引っ掛け、蹴りあげることだった。
蹴りあげられた銃は、バックステップをした近藤の顎にジャストで当たる。
煙で視界が悪くなっているため、俺が足に銃を引っ掛けているのがわからなかったらしい。そして、俺は引っ掛けた銃を手元に引き寄せ、近藤との距離を一気に詰める。
互いに、刀など振うことなどできない距離。だけれども、俺には攻撃をいとも容易く行える。
「待て!」
近藤は叫ぶが俺が遠慮してやるわけもなく、相手の胴体に突きつけたアサルトライフルをぶっ放した。
俺はゼロ距離でアサルトライフルをぶっ放すという、えげつない行為を行った。
ライフルの銃声が十発ほど鳴り、続いて近藤の倒れる音が流れた。
俺は近藤の首輪をすぐに確認する。首輪は赤く光っており、どうやら勝利したようであった。
「窓を開けて、煙を外に出せ」
そう軍曹が命令し、みんなが窓を開けた。ちなみに現在煙のせいで、警報が鳴り、スプリンクラーが作動している状態であった。
しばらくすると、廊下には見るも無残な気絶をした、真剣組の面々がいた。中には、気絶していない奴もいたが、首輪は赤くなっており、警告音が鳴っていた。
「我々の勝利だ」
そう軍曹がいい、残った八人が歓喜の声を上げた。そして、軍曹が、新人君と新人君のパートナーに敬礼した。みんながそれに続いた。俺も敬礼した。
俺達は勝利した。けれども、無傷ではない。あえなく、部隊最初の犠牲者になった新人君に最大限の敬意を払った。特に俺は彼が残した銃のおかげで、勝利できたのだ。彼には言葉にできないほど感謝していた。
「すぐにここから離れよう」
敬礼を終えるとすぐさま、軍曹に提言する。
「俺達は派手にやり過ぎた。大きな戦いのあとには、絶対に残党狩りを狙う輩がいるし、人数も減った今何処か違う場所で落ち着いて体制を立て直した方がいい」
軍曹は頷き俺達はその場所を後にする。振り返ると戦挙管理委員と思われる連中が失格者を運んでいた。
こうして俺達は優勝候補をぶったおし、会長戦の次なるステージへと進んだ。
開始時刻から四十分、この時全体の参加者の半分が倒されていたが、会長戦そのものはまだまだ始まったばかりだった。