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幼馴染

 幼馴染と言えば何を思い浮かべるであろうか。毎日寝起きの悪い主人公を起こしに健気に毎日迎えにくる女の子を思い浮かべるのだろうか。それとも、本当は主人公のことが好きなのに、思春期特有の男女の差を妙に意識してずっと主人公に本当の気持ちを伝えられず、つい意地っ張りな態度をとってしまうツンデレな女の子でも想像するのだろうか。それとも、甲子園へ連れて行ってとお願いする女の子でも想像するのだろうか。それとも、主人公にべったりで、いつも主人公と行動し、主人公が他の女の子と仲好くなると、空っぽの鍋でおたまを回してしまう女の子でも想像してしまうのだろうか。

 悪いが俺の世界では、まずはその幻想をぶち壊してもらおう。そんな幼馴染はこの世界には存在しない。あるのは残酷な結果のみである。幼馴染至上主義の人には深く謝っておこう。俺の幼馴染、いや、腐れ縁の"奴"は俺の、いや、みなさんの期待の全てを裏切っている。

 ……なぜなら、男だからだ。

「くたばれ神楽」

「どうして、顔を見合わせるなりそんなこと言うんだよ!」

「お前の存在がいけないんだ。もう、なんていうか『ここからいなくなれ』とか『お前は生きていてはいけない人間なんだ』って叫びたくなるんだよ」

「あぶないね、天ちゃん。精神が崩壊する可能性があるよ」

「大丈夫だ。俺はZは映画版しか知らないから」

「それより、なんでそんなに僕に向かって怒ってるんだよ」

「単純だ。お前が男だからだ。どんなに俺が頑張ってお前の事を中性的な何処か妖艶的なものを感じさせる整った顔。後ろから見た時思わず触れてしまいたくなる、美しい髪。みたいなことを思ってもお前は男なんだよ。どうして、幼馴染というある意味メインヒロイン的ポジションが女じゃなくて男なんだよ。誰が得するんだよ」

「えっ、一部の女の子じゃないの。いわゆるBL的な」

「そんな腐ったベーコンレタスいらんわ。それより、ボーイズラブというのは美少年と美少年が絡み合ってるものだ。俺は残念ながら、自分で言うのもなんだが残念な顔だ」

「大丈夫だよ。バラは相手を選ばない。ホイホイついてくればいいのさ!」

「お前みたいなひと嫌いだからいかねーよ!」

 くだらないことを言い争ってると更に危ない方向へ進んでしまう。ここらで切り上げよう。

 今話しをしているのが、俺の残念な幼馴染の弐宮にみや 神楽かぐら小柄で端整顔立ちをした万人が万人かわいくて綺麗だと言う容姿を持っている。一緒に街を歩いていると、十中八九、モデルのスカウトが来る。主に女性の。

 というか、一発で神楽を男だと見抜ける人間は少ない。まず男の髪とは思えないほど綺麗で肩にかかる位伸ばしており、顔も中性的でまず見分けがつかない、そのため、多くの人が髪の長さから女と判断して話しかけてくるのだ。俺も家は隣どうしだが、幼稚園は違っていたため、小学校に入るまで、女だと思っていた。

 そのうえ、神楽は女の子たちにファンクラブを作られるほどの人気ぶりである。毎日神楽は女の子から遠くから、または、近くから見守られているのだ。 

 そんなの隣に、序列の低い男が、さっきのような暴言を吐きながら話をするものだから俺はファンクラブの人間からものすごく嫌われていた。

 ちなみに男でも神楽のファンはいる。それも一人や二人ではなく、いっぱいだ。俺も何度も男から神楽に手紙を渡してくれと頼まれたし、なにより笑えたのが、バレンタインデーで男たちもチョコレートを贈って、段ボール一個分になったのだ。まあ、その後あいつの家に遊びに行った時に出されたチョコを俺は女の子からもらったものだと思って食べたのに、後からあいつが男から貰ったやつだと言った時はぶちギレたが。

 そして、何がすごいってこの男、序列七位になるほどの実力者なのだ。幼馴染だからもちろん彼の実力は知っているが、学園トップクラスである。

 顔と実力その二つをもって彼は学園の中でも有名だった。

 ここまで、散々な風に書いたが俺は神楽の事は嫌いではない。神楽には特にこの学園に来てからかなり守ってもらった。三年になって俺が序列最底辺なのに誰にもいびられないのは、神楽が隣にいてくれるからであった。

 けれど、今回の件では話が別だ!

「なあ、お前さ。俺が生徒会長様に絡まれてる時に刀渡したか?」

「お前なんて呼ばないでよ。神楽って呼んでよ」

「うるさい」

 問答無用で俺は神楽の脳天にチョップする。

 思いのほか痛かったのか、頭をかわいらしく抑え、上目づかいに俺を見てくる。

 ……かわいい。

 不覚にも阿呆な言葉が頭をよぎる。俺はぶんぶんと頭を振りながら神楽を問い詰める。

「渡したのか?」

「渡したよ」

「どうして、渡したんだよ。止めろよ」

「だって、着替えてる最中にいきなり、『武器貸せ』って教室に入って来るんだよ! そんなの黙って渡すしかないでしょ」

 いきなり泣きそうな表情になる。その瞬間周りの男女の冷たい視線が俺を刺した。

 どうやら、かわいいほうが正義というルールはこの世界でも適用されるらしい。

 耐えきれず俺は、神楽の頭を撫でながら

「ごめん。俺が悪かった」

 と謝る。するとすぐに笑顔になり、神楽は俺に飛びついてくる。

「じゃあ、次の会長戦が終わったら、一緒に遊びに行こうね」

 小動物が精一杯尻尾を振りながら甘えてくる姿を見ていたクラスメイトは、冷たい視線をやめ、羨ましさと憎しみがこもった視線を向けた。ちなみに、今現在の光景に羨ましさと憎しみをこめた視線を向けないのは、廊下でこちらを見ている一人の女子だけだった。

 その子は眼鏡をきちんとかけ直して、俺と神楽が抱き合ったシーンをわくわくした表情で凝視していた。

 神楽喜べ、どうやら、俺とお前でもBLは成立するらしい。

 あいまいに返事をし、神楽を引き離し、俺は今回の出来事をもう一度よく聞いてみた。

 結果、俺が会長に喧嘩を売って、俺一人が帰ってきてもう一度寝ていたから、会長を心配した人間が見に行ったら、会長が気を失って倒れていた。というものだった。

「僕も天ちゃんのことが気になって見に行ったんだよ。そして、丁度、天ちゃんが会長倒して帰って来たところでさ、僕に刀返して、もう一度眠りに行ったんだよ」

「ちょっと待てよ。眠りに行ったって、もしかして女子が着替えている中へか?」

「いや、女子の着替えは全員終了していて、みんなグランドで集合しにいっていたらしいよ」

「おい、じゃあ俺は女子の着替えに囲まれて眠っていたのか!」

「そうだね」

 かなり、貴重な体験をしている事を考えると、記憶が無いことが悔やまれて仕方ないがしょうがない。

 まあ事実関係がわかったところで、俺は成り行き上参加することになった会長戦についての情報を聞いた。

「それより、会長戦ってお前も出るんだよな」

「まあ、僕も剣道部だしね」

 天武学園にはたくさんの部活と同好会がある。それらのクラブ活動を行う人間にとって生徒会とは、とても魅力的なメリットがある。部費を自由に割り当てることができるのだ。そのため、部活をしている人間は毎年恐ろしい執念で生徒会長を目指すのだ。

 ちなみ俺が二年の時は天上葵が生徒会長をして、公平な部費の振り分けをしていたが、一年の時の柔道部から生徒会長になった人は部費を柔道部で一人占めし、学園に新たに柔道館を建設した。そのような恐ろしい使用も学園側は何も言わないのだから、放任主義ここに極めりだ。

「剣道部主将が、お前だっていうのが、いまだに信じられないよ」

「僕もね……。でも序列の高い奴が主将するのが伝統なんだって」

「まあ、いいんじゃねーの。みんな不満言ってないんだろ」

「うん。ただ、女の子にやたらと勝負を挑まれるんだけど」

「しかたない。可愛いものをいじめてみたいんだろ」

「あと、一部の男子の目がたまに怖いんだけど」

「もてる男の運命さだめだな」

 うん、俺もイケメンがいたらとりあえず殴っておきたいもん。

「いや、そんなんじゃなくて、着替えとかのときにやたらと身体とか触られるんだけど」

 うん。お前は、面と胴と小手と突きを警戒する以上にお尻に気をつけた方がいい。

「きっとお前の気にしすぎだと思うぞ」

 気休めを言って話を元に戻す。

「俺もたぶん会長戦にでることになるから。俺がピンチの時は助けてね」

「えっ。本当、誰と出るの。っていうかやっと本気の天ちゃんが見えるんだね。うれしい」

 目を輝かせている。こいつ、どうしてくれよう。

「全くもって俺は嬉しくないよ。女にはめられたんだよ」

 そういうと、神楽の顔が豹変する。

「えっ、女ってどういうこと」

「えっ、別にどうでもないよ」

「会長戦もしかして、女と出るの!?」

「いや、まだ……どうなるかわからねーし」

 なんか、神楽の顔が怖い。こういう時はあいまいな返事をしておいた方がいい。

「もし、会長戦に天ちゃんが出るなら僕は、天ちゃんを助けるよ。でもパートナーの事までは、知らないよ。ていうか僕がこの手で倒してあげるよ。天ちゃんのパートナーを」

 神楽の背中からなにやら黒いオーラが出る。ヤバいよね。これ。

 俺がビビっていると、ようやく教室に先生が来る。話をしていたらいつの間にか授業時間が二十分ほどオーバーしている。

「すまん、生徒諸君。昼休み寝過ごした。まあ、メロスも寝過ごしたせいで友達を助けに行くのがギリギリになったんだし許せ」

 どうでもいい言い訳を聞きながら授業を始める。

 だけど、隣の席の神楽の黒いオーラは消えていなかった。

 ps.男もやっぱり怖いです。


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