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潔癖症の俺は、どうしても彼女に触れたい  作者: 四条 葵 


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第1話 穏やかなる日常の変化は突然に


 ピピピピ……。

 スマホのアラームが鳴る。時刻は午前六時四十五分。


 藤沢 涼(ふじさわ りょう)はぱちりと目を開けると、すぐにその身を起こした。

 スマホのアラームを止め立ち上がり、窓辺に向かい思い切りカーテンを開ける。


「う……」


 すでに眩しいほどの光を身に纏った太陽が、涼に降り注ぐ。

 朝目が覚めたらカーテンを開け、朝陽を浴びる。そうすることによって体内時計は昼と夜を認識し、昼は活発に夜はゆったりとした身体の状態になるのだと、昔どこかのテレビで見たことがあった。

 カーテンを開けしばらく日光浴をし、朝だよ、と身体と脳に言い聞かせる。そうして改めて窓の外を見渡してみると、満開を過ぎた桜が桜吹雪となって宙を舞っていた。薄ピンク色の小さな桜の花びらが、気持ち良さそうに穏やかで温かな風に乗っている。



 四月ももう二週目が終わろうとしていた。


 高校二年生に進級した涼の生活は、特段変わることはなかった。

 部活にも委員会にも所属していないため、学年が上がったところで後輩はいない。

 新学期にクラス替えはあったものの、友人関係に変わりはなく、いつも一緒にいるのは幼馴染の二人だけだ。


 涼は洗面所に向かい、手早く洗顔と歯磨きを済ませると、高校の制服へと身を包む。

 朝食は涼の母親が準備してくれていたものを温めて食べた。白米に豆腐のお味噌汁、ほうれん草の胡麻和えに、焼き鮭と日本の朝食を代表するかのようなメニューだった。


「いただきます」


 涼は一人きりのダイニングで、朝食をつつく。

 涼の両親は共働きで、どちらも仕事が忙しい。朝早くに出て行き、夜遅くに帰ってくることが日常だった。

 寂しい、などと感じる年頃はとうに過ぎているので、涼も二人の負担にならないようできる限りの家事はしているつもりだ。それにこうして忙しいのにわざわざ朝食を作っておいてくれるのだ。両親からの愛情も、涼にはしっかりと伝わっていた。


「……ごちそうさまでした」


 涼は食器を流しに持っていき、水につける。

 再び洗面所に向かった涼は、歯を磨き、髪をセットする。紺色のブレザーに埃や皺がないかを確認した涼は、鏡の自分に向かって頷く。


 一軒家の自宅の戸締りをしっかり済ませ、自転車の前かごにスクール鞄を放り込んで、いざ走り出そうとすると、向かいの家の玄関扉がガチャリと音を立てて開いた。


 出てきたのは、涼と同じ高校のブレザーに身を包んだ女子生徒。


 そのスカート丈は膝上よりかなり短く、風が強く吹けばその中のものが見えてしまいそうな危うさがある。

 ブレザーを着こんでいてもはっきりとわかる胸の膨らみに、涼は視線を奪われそうになって、慌てて意識を自転車に戻した。


「涼! おはよう!」


 明るいミディアムヘアを揺らした女子は、涼に気が付いて元気よく手を振った。


(みお)、おはよう」


 桜坂 澪(さくらざか みお)。涼とは幼馴染で、涼の数少ない二人の友人のうちの一人だ。

 明るく元気を絵に描いたような女子で、涼と違って友人が多くクラスの人気者でもある。


「涼、一緒に学校行ってもいい?」

「電車じゃなくていいのか?」


 高校までは最寄駅から各駅停車の電車に乗って一駅なのだが、自転車通学の涼に対して、澪はいつも電車通学だった。


「うん!」

「乗せないぞ?」


 自転車をとんと叩きながら涼が言うと、澪は明るく笑う。


「乗らないよ~、自転車の二人乗りは禁止でしょ? 校則違反だしチェーンで繋がれちゃうもんね?」


 自転車の二人乗りが学校にバレようものなら、先生からお説教をくらい、自転車は一週間学校の駐輪場にチェーンで繋がれることになっている。今は道路交通法も厳しい。そんなリスクを冒してまで、美少女幼馴染との二人乗りで青春を味わおうとは到底思えなかった。


「それに涼はそもそもそういうのは難しいだろうし……。今日は早くに起きられたから、のんびり歩こうかなって思ってたの! だから一緒に行こ!」


 澪の言葉に、涼は少し困ったように眉を下げてから頷いた。


「そういうことなら一緒に行こうか」

「うん!」


 自転車を押す涼の隣で、澪は歩きながら大きく伸びをする。


「んー! 今日は気持ちいいね~! 春って感じ!」


 時折ふわっと風に乗ってやってくる桜の花びらを、澪は「よっ! ほっ!」と声を漏らしながら掴もうとする。しかし花びらはひらりと澪の手をかわし、また宙を舞っていく。


「お前は小学生か」


 澪のそんな様子を見て、涼はついそんなことを言ってしまった。

 澪は涼を振り返ると、少しむっとしたように頬を膨らませる。


「涼、知らないの?」

「何をだ?」

「落ちてくる桜の花びらを地面につく前にキャッチすると、恋が叶うんだよ?」

「は? 恋?」

「ジンクスだよ、ジンクス! 女の子の間では結構有名な話だよ」

「澪が作って流行らせたんじゃなくてか?」


 澪はその明るさから、友人が多い。澪がトレンドを作ったと言っても涼は信じるだろう。


「私、そんなことできないよー」


 澪はまた明るく笑う。穏やかな風でなびく髪を抑える澪の横顔は、それはそれはとても綺麗だった。


(澪って、こんなに綺麗だったっけ……?)


 生まれたときから一緒にいる幼馴染。ほぼ毎日顔を合わせている幼馴染を、涼は今日初めて綺麗だと思った。

 それは桜のせいなのか、春の穏やかな気候がそんな風に思わせたのか、涼にはわからない。

 派手な化粧はしていないが、それなりにナチュラルメイクがほどこされていて、唇もぷるぷるのつやつや。きっと肌の手入れにも気を遣っていて、見えないところでたくさん努力しているのだろう。


(……さっきの話からして、もしかしたら澪は好きなやつがいるのかもしれないな)


 涼は澪の横顔を一瞥する。

 もう高校生なのだから、好きな人がいてもおかしくはないだろう。いつまでも澪が自分の傍にいてくれるとうぬぼれているわけでもない。


(きっと澪は、いつか俺をおいて先に行ってしまうだろうな……)


 先に行く、とはどこに行くというのだろうか。ふと浮かんだ言葉を不思議に思いながら、涼は漠然と自身だけが取り残されるような気がしていた。


(澪はただ、俺が幼馴染だからという理由だけで一緒にいてくれているのだろう。……あの頃から動けずにいるのは、俺だけなんだから………)




– * – * – * – * – * – * – * – *

初めまして、四条葵と申します。

幼馴染ものの美少女ラブコメが好きです!

本作は幼馴染をメインとしたじれじれラブコメとなっています。

毎日更新予定でございますので、ちらっと覗いていただけたら嬉しいです!

よろしくお願いします✿




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