世界を救った女勇者はモテないが可愛い魔法使いに付きまとわれている
「勇者、おはよう」
「…………オハヨウ」
マジかこの女……今日で連続三百三十二日訪問記録達成だよ。
それでいて用件は「無い」んだよ。恐いよ最早。監視か何かか……?
◆ ◆
魔王を討伐したら、勇者だと祀り立てられた。
女性でこんなに強いのは奇跡だと持て囃された。
それも今は昔の話。
人間とは順応が早いもので、魔王が滅んで一年もしたら多くの町が平和ボケし始めた。
それはまあ、いい。平和なのはいいことだから。
ただ解せないのは、勇者への感謝も同時に薄れていっていること。
「おかしいだろ絶対……世界を救ったんだぞ……もっとモテていいはずだ……!」
大体、王様も王様だ。
”勇者を討伐した者には姫を褒美に出す”
なんて堂々と宣言していたけど、いや、王子は!? 女が討伐した時のことも考えといてくれよ!
昔から剣術が好きだったし、魔王討伐だって別にモテたくて始めたわけじゃないけど。
それでも英雄になった者とは思えぬ現状に、辟易してしまう日々。
「はぁ……眠い」
勇者の仕事は魔物を討伐することだった。
ほとんどの魔物がいなくなった今、やることは無いに等しい。
だから私は今日も部屋で惰眠を貪るのであった。
「おはよう」
そんな中、鍵をかけていなかった窓が遠慮がちに開かれた。
やって来たのは、黒い三つ編みがトレードマークの女の子。幼い印象ながらも整った顔立ちをしており、その格好も相まって、町を歩けばさぞ人目を惹くことだろう。
ローブから大きな帽子まで全てが真っ黒な衣装から分かるように、彼女は魔法使いだ。
私と一緒に魔王を討伐した、勇者パーティーの一人である。
「また来たんだ……」
うんざりした声になってしまったのは、この魔法使いは毎日のように家に訪れる厄介な客だから。
「えっと、今日は勇者に用があって……」
「なに」
「…………起きてるかの、確認」
がくっと、崩れ落ちそうになった。
なんなんだこいつ、一体何が目的なんだよ本当……。
「私はどうすれば男にモテるか考えるので忙しいんだけど……」
「またその話? ……相変わらずモテないの?」
「悲しいくらいにね」
「そっか……」
え、なにこいつ、微笑みやがった。
人のモテないって悩みを聞いて! 綺麗に笑ってんじゃねー!!
く……こんな失礼なのに、顔が良いからってモテてるのおかしい……。
「というか、こんなとこにいないで、魔法使いも誰かしら見つけてデートでもしてくればいいじゃん」
「私は……勇者と一緒にいる方が」
「ウェーイ、勇者、生きてるかぁ!?」
今度は勢いよく扉が開いて、馬鹿が入ってきた。
肩で切りそろえられた真っ赤な髪が特徴的なこの女は、私の幼馴染である。
「あんたまで勇者って呼ぶなよ」
「だって今じゃ”勇者”ってイメージが強すぎて……名前忘れちゃったし」
「おい!」
どれだけ白状なんだ、本当に幼馴染か。
ふと視線を感じたのでその方向を見ると、魔法使いと目が合った。けど、合った瞬間に素早く逸らされた。
「というか、あんたも何しに来たの」
「放っておくと誰とも喋らなさそうだから、話し相手になってあげに。ありがたく思って?」
いらなさ過ぎる配慮……確かに友達少ないし、話し相手もほぼいないけどさ。
二人とも追い出したい気持ちでいっぱいだったけど、せっかく来てくれたのにそこまで手荒なことは出来ない。
というわけで、適当にお茶とクッキーを出してあげた。
「おいしー!!」
単純な幼馴染は、食べ物を与えておけばとりあえずオッケー。
問題は……
「……」
さっきから無言で俯いてる魔法使いの方だよなぁ……。
彼女とはそこそこ長い間一緒に旅をして、序盤こそかなり仲が良い存在だった。
ただある時から明らかに距離を取られるようになって、最終的には向こうから話しかけて来ることはほぼ無い関係にまで悪化してしまった。
理由は全く分からない。
「魔法使いもさ、無理して来なくてもいいんだよ」
「む、無理してないよ」
「ほんとに? こいつみたいに、ぼっちな私を憐れんでるんじゃなくて?」
「憐れとか思ったこともないし……そもそも私も友達少ないし……」
悲しくなることを言わないでほしい。
いやー、あれなんだよね。勇者パーティーって戦闘面では優秀でも、コミュニケーション能力は低い人ばっかなんだ。
「でもあたし的にはラッキーだな。魔法使いちゃん可愛いし、お近づきになりたいと思ってたの」
「え……そ、そうですか……」
「よかったら友達にならない? おててスベスベで可愛いねぇ」
「ええと……」
「こら、あんまり困らせるな」
セクハラかましてた幼馴染の襟首を掴んで、無理やり引き離した。
多分首がしまって「ぐえ」とか言ってたけど気にしない。
「なによ、ケチ! ちょっとパーティー組んでたからって彼氏ヅラして!」
「どういう八つ当たりだよ……してないだろ」
「勇者もさ、魔法使いちゃんみたいにもっと優しく可愛くなったら? そんなだからモテないのよ」
なんだこいつ、ウザすぎる……。
「イラッとした。クッキーあげるからもう帰れよ」
持ち帰り用に包んだクッキーを手渡しつつ、しっしと追い払うような仕草をすると、幼馴染は不満げな顔をしながらもそれを受け取った。
そして立ち上がり、扉の方に歩いて行く。
「まぁちょっと様子見たかっただけだし。あ、お母さんから伝言、健康には気を付けてね☆」
「へいへい。おばさんによろしくね」
思いのほか素直に帰ってくれた幼馴染を見送った後、一息つく。
そんなだからモテない、ね……未だ恋人いない歴が年齢の私には刺さりまくっちゃったよ。
やっぱ人としての魅力がないのか……出来るのは魔王を倒すことだけ。
ま、とりあえずこれで後は魔法使いが帰ってくれれば、私はゆっくりふて寝が出来る。
そう思って顔を上げると、さっきまで椅子に座っていた魔法使いが立ち上がり、思ったより近くまで来ていた。
「あ、魔法使いも帰る?」
「……帰った方が良い?」
そりゃ、ねえ。
とはいえ、即答で「うん」って言うのはあまりに人でなしな気がする。
「そっちの意思に任せます」
「なら帰らない」
「……そうですか」
ほんと、一体何の用事があってこうも毎日訪問してくるのか、そろそろ教えて欲しいところだ。
そんな思いを込めて魔法使いの目をじっと見ると、しばらくして気が付いたらしい。驚いたように視線をさ迷わせた後、おずおずと顔ごと背けた。
んー、見つめ合うのすら嫌、ですか。
「魔法使いってさ、なんで私の家に来るの?」
「理由がないと来ちゃいけないの?」
「そりゃ普通はそうじゃない? 毎日理由もなく人の家に来る人なんていないでしょ」
「……り、理由はあるよ」
「なになに?」
ついにそれを聞けるのかと、急かすように問いかけてしまった。
すると魔法使いは何故か顔を赤くして俯き、私の方を見ては壁を見る、という謎の挙動を繰り返す。
「なに? そんなに言いにくいことなの?」
「ん、っと……私、よく告白されるの」
「あ?」
何故いきなり自慢?
魔王を倒したというアドバンテージがあってなおモテない私への嫌味ですか??
「あ、でも断ってるから大丈夫」
「何が大丈夫なの」
「……あの、フリー、だから」
「だからなに?」
何を言っているか分からないことが多い魔法使いだけど、今日はいつにも増して意味不明だ。
そして何故こんなにも照れた顔をしているのか。自分がモテている話がそんなに恥ずかしいのか。ならするな。
意味不明を通り越して最早イライラに到達しかけた時、魔法使いの手が遠慮がちに伸びて来て、私の手を握った。
「……本当になに?」
「す、すき」
「ススキ?」
「じゃなくて……好き、なの」
「好き? 誰が?」
「……」
じっと、こっちを見つめて来る魔法使い。
その瞳がやたら熱っぽくて、妙な予感がした。
「……え、私が?」
「うん」
「私、女だよ?」
「分かってるよ……。勇者、誰かと付き合いたいっていつも言ってるから。私とか、どうかなって」
「いやいやいや、魔法使いも女じゃん」
「お、女の子同士でも付き合っていいって、おばあちゃんが言ってたもん」
どんだけ心が広いおばあちゃんだよ……というか、おばあちゃんと何の話をしてるんだよ!
「でも私はちょっと難しいかなー……」
「……幼馴染の人が好きだから?」
「はぁ!? ないないないない! 気持ち悪いこと言わないでよ!」
あれはただの幼馴染であって、昔から一緒にいたから最早家族のようなものだ。というか、そもそもあいつも女じゃんか!
「な、なら私とお試しでもいいから付き合ってよ、本命が出来たらすぐに諦めるから」
「いや、それは……」
試したところで多分何も変わらないし。そんな関係、私にとっても魔法使いにとってもマイナスしかない。
「超絶頼りになる私に惚れるのは分かるけど、せっかく可愛いんだから他の人にしときなよ」
「や、やだ、勇者がいい」
「なんで……私、何かした? 強いから?」
「強いとか関係なくて……パーティーで浮いてた私に優しくしてくれたから」
それは単に私も浮いてたからなんだけどなー……それに魔法使いは浮いてたというより、見た目が良いから距離を置かれてたって感じだし。
「魔法使いに優しい人なんて探せばたくさんいるよ」
「でも私は勇者がいいの」
「いや、だから……」
私の言葉を遮るように抱きついてくる魔法使い。
良い匂いに一瞬ドキリとしたけど、その体はとても柔らかくて華奢で、当たり前だけど女の子って感じで、トキメキより癒しが勝る。
「……毎日来てごめん。ウザかったでしょ」
結構ね、とは流石に言えないよなぁ。
「最初は、単に心配だった。勇者、自分のことはいつも後回しだから」
「……あー」
なるほど、さっきの「起きてるかの確認」っていうのは本当だったわけだ。
……なんだよ、優しいのはそっちの方じゃん。
「……あ、あとちょっと幼馴染の人に嫉妬してたのも……私の勇者が、誰かに取られるのが嫌だったから」
おい、いつの間にあんたのものになったんだ。
……なんか、ここまで好かれてると悪い気がしなくなってきた。
今までは魔物との戦いばかりだったし、少しは人間関係っていうものに関心を向けるのもいいのかもしれない。
「まあ……暇つぶし程度になら」
小さな手を握ると、魔法使いの顔が分かりやすく赤く染まっていって、ちょっと面白い。いつもクールぶってるくせに。
これが恋なのかは、やっぱりまだよく分かんないけど。まあ気持ちなんてすぐに整理できるものでもないしね。
「……リリア、好きだよ」
あ、なんか久しぶりに「勇者」の肩書抜きで呼ばれた気がする。
「勇者様!」
バァンッと派手な音が鳴って、壊れそうな勢いで扉が開いた。
綺麗に締まりそうだったのに誰かと思えば、豪奢なドレスがよく似合う美少女――我が国のお姫様だった。
「ひ、姫? なんでこんなところに?」
「……勇者様、どうして一年も迎えに来てくれなかったんですか?」
「え? 何の話ですか?」
「魔王を討伐した者は私と結婚するとお父様から聞いているでしょう?」
「あ、はい……でもそれって男性の場合ですよね?」
「!!??」
攻撃でも受けたかのような顔をする姫。一国の姫がしちゃいけない顔な気がする。
「ひ、酷いです……!! 私、ずっとお城で待ってたのに……」
「え、ご、ごめんなさい……でも事情が分からないんです――け、ど?」
台詞の途中で抱きつかれ、頭に「?」が咲き乱れた。
なにこの展開、デジャヴか何か……?
「あ、あの、姫?」
「勇者様、私と一緒にお城に来てください。そして幸せな家庭を築きましょう。一生お城から出なくても数百の人間に囲まれて暮らしていけますよ」
やだ、想像しただけで息が詰まりそう……!
「だ、ダメです、勇者は私の故郷で私と一緒に暮らすんです……」
男にチヤホヤされたいと日々願っていたのに……何がどうしてこうなった?
腹が立つほど可愛い魔法使いも、眩いほどに美しい姫も、死ぬほど男にモテるのになんでわざわざ私を選ぶんだよ!!
魔王討伐から一年。
あんなにも与えられたいと切望していた「愛」が、こんなに重くて厄介なものだということを痛感した。
終わり
最後までお読み頂きありがとうございました!
まだ至らぬ点も多々あると思いますが、読んで頂けたこと感謝いたします。
今後いくつか短編を投稿予定です。
その中で特に反応の良かったものを連載として書いていけたらと考えています。
もし気に入った作品がありましたら、感想や評価などで教えていただけると嬉しいです!




